いらっしゃいませ!
名前変更所
セルマックス。
名前の通り、その体も気も、気色悪いほどに大きく――――見るだけで足が竦む。
おそらく逃げ出したマゼンタが無理やり起動したのだろう。
目に見えて制御不可、と分かるそのセルは、叫びながらヘド博士を飲み込む光を放った。
ようやく平和になったと苦笑しながら事情を話していた時にこれだ。
フラグ回収もいい加減にして欲しいと苛立つ私の横で、ヘドをやられたガンマ達が怒りに燃え始める。
「ッ・・・・博士・・・!」
飛び込む彼らを止める事もできない。
止めたところで、こいつを野放しにしたら世界が滅ぶのは目に見えているからだ。
どんなに怖くても、ここで、こいつを倒さなければ。
「怖いのか?」
第二ラウンドの準備を始めていたピッコロが、口を閉ざした私を見てそう尋ねる。
「あたり、まえじゃん。私はあいつに・・・・」
負けた、ことがある。
蘇る記憶に汗ばんだ額は、誤魔化しようもない。
強がりすら言わない私に鼻を鳴らしたピッコロは、私の肩に優しく手を置いた。
「安心しろ。お前のことは絶対に守ってやる」
「・・・・さ、さっきは自分で守れって」
「気が向いたら守ってやるって言っただろう?気が向いたんだ」
意地悪い笑みに見下され、不覚にもときめいてしまう。
「守られたいんだろう?」
「・・・・うん。でも、私もピッコロを守りたい」
「ったく、お前は昔から変わらないな」
肩に置かれていた手が頭に登り、ぽんぽんと慰めるように叩いた。
「俺以外にやられるなよ」
「言うと思った」
気合を入れ直し、暴れ始めたセルマックスを睨みつける。
助っ人に来ていた人たちが無駄にならなくてよかった、という表現は不謹慎だが、心強い仲間が背にいるのは心地よかった。
18号にトランクスと悟天、それにクリリン。
今まで色んな危険を乗り越えた仲間と、ピッコロがいるなら、私も戦える。
「悟飯、仙豆だ」
「え?あ!あ、ちょ、わ、あ、あ!!」
「・・・・・」
戦いの前に仙豆を放り投げたピッコロだったが、変身を解いていた悟飯にはそれが小さすぎて見えなかったらしい。
仙豆を追いかけて奇妙なダンスを踊った悟飯は、最終的に仙豆を溝に落として叫び声を上げた。
「あぁ~~~~!!!?」
「何を落としてるんだ!!」
「す、すみません・・・!」
「もういい!仙豆無しで戦え!」
「しょうがないな・・・・ほら」
私は魔力を集中させると、傷ついた二人に自分の魔力を分け与えた。
治癒効果も働き、少し回復した二人が私の方を振り返る。
「ま、私は人質担当だったからね」
「ありがとうございます、ゆえさん!」
「よし・・・俺たちも行くぞ!!」
大暴れするセルマックスに戦いを挑んでいたガンマ達に合流し、私達も攻撃に参加することにした。一人の怪物として君臨しているセルマックスは、そのサイズからしても、攻撃を一撃食らうだけで殺されてしまいそうな威圧感がある。
だからこそ、数で攻めるしか無い。
「頭のてっぺんを狙え!そこが唯一の弱点だ!こんなこともあろうかと、博士はセルマックスに弱点を作っておいたんだ」
「頭を狙えって言ったって・・・!」
「頭を破壊したらすぐ離れろよ。周りを巻き込んで大爆発するように設計されてるからな!」
「なんて迷惑な設計なんだよ・・・・」
「細胞も残さないよう、木っ端微塵にするためさ」
ガンマ1号にセルマックスの弱点が頭にあることを知らされた私達は、頭を攻撃するために躍起になってセルマックスへと挑んだ。
「アァアァアア!!!」
「くっ、図体でかいくせに早・・・!」
「全然当たらないよトランクスくん~!」
「良いから撃て!撃ちまくれッ!!」
私達以上のスピードで動き回る巨体を捕らえるのは、中々に難しい。
迫力に押し負けそうになりながらもなんとか手数で押し返す。真正面から戦っていた私は、遠距離から気弾を撃つメンバーがセルを狙いやすいようにわざと狙われるような体勢を取った。
「来なよ!」
「ゥァ・・・アァアァァア!!!!」
「ッ・・・・!!」
震えていた手も、怖さも、勝負になれば全て吹き飛ぶ。
さすが、ピッコロの弟子だよね。自分でも褒めたくなっちゃう。
「なんだ、案外楽しそうだな」
「最近、ピッコロと戦ってばっかりで共闘ってのはなかった気がしてね」
「・・・・フン。それもそうか」
お互いに戦っていると、嫌でも癖が分かってくる。
相手にすると厄介なことでも、味方にすると心強い。
「しっかり引きつけろよ、ゆえ!」
「任せて!行くよ、悟飯!」
「はい!」
真正面を陣取り、相手の動きをこちらに向けることに成功した私達は、悟飯と連携してセルの意識をこちら側へ引き付け続けた。それを利用して何とかセルの動きを捉えたピッコロが、セルの頭上に回り込む。
「貰った――――!!!」
ピッコロの気弾が、セルの頭上で破裂した。
それは体勢が整っていなかったわけでも、力がこもっていなかったわけでもない。
今できる限りの力はこもっていたし、セルの頭上はがら空きだった。
それなのに、光が明けた後のセルの頭は、傷一つついていなかった。
戸惑うピッコロの下で、セルが大きく暴れだす。
「う、わ、無茶苦茶だぁ!」
「チッ、傷一つつかないとは・・・!」
「ピッコロさん!」
「俺は大丈夫だ。お前たちは自分の心配をしろ!!」
「ッ・・・・!」
暴れ出したセルは、更に手がつけられなくなりはじめていた。
無駄にでかい図体。
無駄に早い動き。
とどまることを知らない、溢れ出る気。
「っ、こんなのありかよ~~!!?」
セルの体から放たれるビームに追われ、逃げ込んできたトランクスが叫ぶ。
「・・・・もっと、更に強い気をぶつけないと無理みたいですね・・・」
「・・・・・・悟飯」
「・・・・はい」
悟飯と私は、目を合わせた。
次の作戦をどうするか。
言葉にしなくても私達は通じ合える。
そこに割り込んできたのは、意外にも2号だった。
「皆、よく聞いてくれ」
私は、その目が嫌いだった。
覚悟を決めた目。こういう状況でその目を見るのは、あまり好きじゃない。
「どこでもいい。遠くからセルマックスを攻撃してくれ」
「・・・・2号、まさか。駄目だ、それなら俺も!」
「駄目だ。君はヘド博士を助けてくれ」
「・・・・!ヘド博士、まだ、生きて・・・・!」
「まったく、詰めが甘いなぁ」
そのやり取りで嫌な目の意味を察した私は、2号に対して手を上げた。
「2号」
「うん?あぁ君は、ピッコロ大魔王の眷属・・・」
「私の名前は、ゆえ」
「おやおや、こんなところで自己紹介いただけるなんて」
「自己紹介ついでに、これ」
私は魔力を思いっきり込めた手を、2号の方へ突き出した。
大きな魔力の光が青色のリストバンドへと変化し、2号の腕に勝手に飛び込む。
「な、なんだこれ」
「お守り」
「・・・・へぇ。光栄だね。そんじゃ、このお守りの効果とやらがあれば――――また後で」
相変わらずな態度なまま、2号は思いっきり気の解放を始めた。
例え人造人間でも、限界値を越えた気の解放が意味するものは、嫌でも分かる。
「・・・・・」
その意味を十分に理解しているであろう18号が、私の隣に来て肩を掴んだ。
「大丈夫だよ、お守り渡したでしょ?」
「・・・・・あぁ」
「とりあえず私達は、彼のために援護しよう」
2号の覚悟を受け取り、私達はセルへの攻撃を再開した。
その場にセルを留めるための気弾を打ち付け、目くらましを食らわす。
その間にも気を最大限まで引き上げた2号が空高く舞い上がり、突撃の準備を始めていた。
彼の一撃を、無駄にしてはいけない。
「てやー!!」
「こっちだぞ、まぬけー!!」
「ウゥウウ・・・・!」
「ったく、真面目にやれ!」
まだまだ子供っぽい悟天とトランクスの攻撃に加え、私達も次々に気弾を放つ。
攻撃をしながら私の方に近づいてきたピッコロは、私を守るように背中を合わせた。
「お前、2号に何を渡したんだ?」
「・・・・お守り。ピッコロにも渡したことあったでしょ?」
ピッコロに渡したのは、赤いリストバンドだった。
ピッコロの命が危険に陥った時、私の魔力をすべて使って安全地帯に移動させる魔法をかけた、正真正銘のお守り。
―――――それに魔力の消費を取られてブゥにあっさりやられた、なんて言い訳は、今更言うつもりはない。
もちろん、今も内緒だ。
言えば怒られるから。
「懐かしいな」
「でしょ」
「それで?今回のお守りにはどういう力があるんだ?」
「んー。それは、ないしょ!」
それは星よりも綺麗で、眩しくて。
まるで命の灯のように美しく、強く。
「・・・・来た!皆、離れろ!!」
―――――落ちる。
「2号ッ・・・!」
2号の決死の一撃は、セルの左肩と腕を破壊して終わった。
頭上を撃ち抜けなかったせいか、思ったよりもセルはダメージを受けていないようだった。
それでも、動きが鈍ったのは確かな結果。
腕を失ったおかげで、先程よりも攻撃の練度が落ちている。
だが、同時にセルの怒りも買ったらしい。
焼け焦げた2号を踏みつけようとしたセルを見て、ピッコロがオレンジ色に輝きながら走り出す。
「ブルァアァ・・・・!!!!!」
「やめろーーーーーっ!!!!」
決死の覚悟で戦った彼は、もう仲間だ。
ピッコロが2号を庇うのを見ながら、私達も次の攻撃へと移行する。
「ぐ、ぬ・・・・!」
「ピッコロ!!」
あの異常なパワーの変身をしても、セルマックスの力を押しのけれるほどにはならないらしい。焦りつつ何とかピッコロが足元から出れるようにしようと、再度気弾の攻撃を開始する。
「ピッコロ!・・・でかく、なれよ」
「何?」
「お前、でかくなったことあっただろ!天下一武道会の時に!」
私達が攻撃している最中、ピッコロと一緒に足元に潜り込んだクリリンが、ピッコロに何かを助言しはじめた。それを聞いたピッコロが、ふと笑みを浮かべて気を解放し始める。
「はぁあぁあ・・・・!」
「う、ええぇ!?」
記憶にはあったけど、それを見るのは初めてだった。
セルと同じぐらいのサイズまで成長したピッコロが、セルを投げ飛ばし、その上に柱を突き立てる。
「は、ええ、ピッコロさん、でかくなれたんですね・・・!?」
「巨大ピッコロだ・・・・」
「も、もしかして、勝てるんじゃ!?」
「馬鹿を言うな。でかくなっただけで強くなったわけじゃない。・・・・・だが」
何かを思いついたらしいピッコロが、そのでかい体の中からごそごそとゴミ――――ではなく仙豆を取り出す。
「悟飯。仙豆だ」
「え!?食べてなかったんですか!?」
「・・・・作戦を思いついたんだ。俺がなんとかしてあいつを地面に倒す。お前はめいっぱい力を溜めて、あいつの頭を攻撃するんだ」
「っ・・・・で、でも」
「悟飯、よく聞け。お前はその気になれば、この地球にいる誰よりも強い。自分を信じて、全てを解放するんだ。・・・・・見せてくれ、本当の力を。その力で、地球を守るんだ!」
「・・・・はいッ!!」
なんだろう。
この二人を見ていて、すごく安心してしまうのは私だけだろうか。
「おい、ゆえ」
「あい」
「お前もそろそろ本気を出す時だろ」
「えぇー?・・・・分かった、分かった」
天使化するのは苦手だ、なんて文句を言える空気ではない。私は大きく息を吸い込み、吐き出しかけた文句をため息として吐き出した。
その力は、嫌でも“上“の奴らに知られてしまう。私が何か下手なことをすれば、私は粛清される。結局、逃れたはずのこの掟に怯えるしかなくなる。
私は悪魔だと言い張っても、もし彼らの目に入った私が“粛清対象“となれば。
私は、消される。
「(元々お父さんに問題児だって文句言われてたし、今更か・・・・)」
最近、ウィスや全王といったやばい奴らとの距離が近づきすぎて、必要以上に怯えてしまう自分がいる。彼らは私を見逃してくれたけど、それは全王にとってただ私が「面白い」存在であり、「悟空の友達」だったから。
「・・・・・・いくよ」
自分の殻を破り、天使化した私は杖を振りかぶって構えた。
「来るぞ!!・・・・がはっ!?」
「ッ、ったく、無茶苦茶なんだよ・・・・!」
悟飯の気が昂ぶっていくのが分かる。
その気が高まり切るまで、時間を稼ぎ、こいつを地面に寝かせる戦い。
他の皆も援護射撃をしてくれてはいるが、何一つセルには通用していない。
テレビの中だけで見るような大怪獣バトルを繰り広げるピッコロとセルを見ながら、私は何とか自分の力を下界に干渉しない程度に制御して杖を向けた。
「はぁっ!!!!」
「ウウゥウウウアァアア・・・!!」
「あれ、押さえすぎ?ぶふっ!?」
やはり、修行と違ってやりづらい。
「・・・・・」
2号に預けた私の魔力が、思ったよりも大きかったのも影響しているだろう。
天使化しても動きが鈍い私に気づいたピッコロが、苛ついた様子で私の名前を呼ぶ。
「ゆえッ!」
「ご、ごめんって。一応決まり事守らないとなぁって思ったりすると、調整が難しいんだってば・・・・!」
「それだけじゃないだろう。お前、動きが鈍いぞ。その姿でも修行をつけたほうがいいんじゃないのか!?」
「この状況で修行の話やめて~~~!!!」
鈍いのは悪魔のときの魔力の大半を2号に預けてしまったからだ。
でも、言い訳をしないと決めた私は、ピッコロと一緒にセルにぼこされながらも戦い続けた。体の大きなピッコロが視点を集め、先陣を切って戦うことになるのは分かる。―――――でも。
「ッ、ぐ、あっ!!!」
「ピッコロ!!無茶だ、私と交代しよう。引き付けて隙を作るから、その隙に・・・」
「うるさい。お前も黙って、援護してろ・・・・ここからが、本当の、戦いだ」
そう言いながらも、確実にピッコロの気は落ちてきていた。
大きなセルが何度も拳を打ち付ける。
ピッコロの肩に、腕に、腹に。
「ッ、くそ、こっちだ、馬鹿野郎!!」
「18号さんッ!!!」
援護に入った皆が、次々と撃ち落とされていく。
「んにゃろーー!!!俺たちの力、舐めるなよーーー!!」
「アァァア・・・・?」
「ぶふうーーー!?」
「ゴテンクスッ!」
18号も、ゴテンクスも、クリリンも、1号も、皆。
「どうにかして、あいつを、止めねば・・・っ」
「ピッコロ、食らいすぎだ!このままじゃ・・・・!」
ピッコロを庇うために前に出ようとした私を、鋭い気弾が追いかけてきた。それらを何とか避けながらこちらに気を引けるよう、気弾を打ち返す。
「こっちを見ろ、セルッ!!」
「・・・・・・・」
無言の圧。ゆっくりと振り向く、巨大な顔。
その隙を突いてピッコロがセルの右頬に拳を撃ち込んだ。
―――――が、しかし。まともに効いている様子はなく。
「が、ぁっ!?」
「ッピッコロ!」
反撃を食らったピッコロが、空へと打ち上げられた。
後を追うように何度も気弾がピッコロの体へと突き刺さり、通り抜けていく。痛々しく流れ落ちる血の雨を見ながら、私は震える手を睨みつけた。
何が、掟だ。
大切な人を守るぐらいなら、こんなもの。
その光景が怒りに触れたのは、私だけではなかったらしい。
「――――――!?」
ふと、懐かしい気の爆発を感じたかと思うと、倒れ込んだピッコロの後ろで見たことのない気の色が輝いていた。
白く、熱く。
燃えるように。
――――――まるで獣のように咆えた悟飯が見せた瞳の色は、赤。
それを見た私は、悟飯が見せる狂気を孕んだ笑みにぽつりと本音を零した。
「かっこ、いい」
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