いらっしゃいませ!
名前変更所
見渡す限りの青と緑。
不気味な色合いの星、といえばいいのだろうか。
正直、あまり村を襲ったりするのは好きじゃない。
一応過去に、自分たちの星がそうやって滅ぼされたわけだからね。
だから逃げる者には興味はない。
もちろん、ベジータに敵意を示したものに関しては別だが。
私はベジータと一緒に飛びながら、見慣れない風景を見つめ続けた。
時々スカウターを起動させて周りの気を確認するが、ナメック星人と思われる小さな気しか感じられなかった。
でもそのほとんどが、気を見つけるのと同時に消えていく。
スカウターの音声からして、フリーザ達がやっているみたいだけど。
「ん?」
しばらく飛んでいると、急にスカウターの音声がぷつりと途切れた。
故障かな?と飛ぶのを止めてスカウターをいじる。
それに気づいたベジータが、同じようにスカウターに手を這わせる。
「・・・なんだ。ヤケに静かだな」
「うんー。つけっぱなしにしてたんだけど、急に音が途絶えちゃって。故障じゃないのかな?」
ベジータのスカウターも音を拾っていないようだ。
どうやら故障ではないらしい。
地味に厄介だね、これ。
通信機能で盗聴できちゃうから、便利だったのに。
「んー・・・」
スカウターを外し、自らの気を消して、周りの気配を感じる。
風の音。僅かな気。音。その全てが一瞬で私の身体に伝わってくる。
その行動を見ていたベジータは、なぜか気に食わ無さそうに私を睨みつけた。
視線に気付き首を傾げるが、ベジータは何も言わない。
「どうしたの?」
「・・・なんでもない」
「なんでもないって感じじゃないけど。あ。なんか感じる」
追いかけっこしてるのかな?
強い気の気配が、すごいスピードで近くを通り過ぎて行く。
気を感じてからスカウターを覗けば、予想通りの数値がスカウターに表示された。
気の数は合計で3つ。
2つは知らない気だが、もう1つの気は・・・ドドリアのものだ。
「ベジータ、ドドリア単体で行動してるみたいだよ」
「言われなくても分かっている」
「あれ?ベジータもスカウターじゃなくても分かるの?」
「・・・・地球人や、お前を見ていれば分かる。貴様らに出来て、俺に出来んはずがない」
スカウターを着けていないのに返事をしたベジータを見て、私は苦笑する。
なるほど。
私達フィレット族は元々気を操る種族だから、スカウターなんていらないんだけど・・・サイヤ人とか、フリーザ達はあんまりそういうの得意じゃないらしい。
でもそれが、ベジータは気に食わなかったのだ。
あの気の強い、俺様ベジータだから。
私にできることが、敵にできる事が、自分に出来ないわけないってね。
「何ニヤニヤしてやがる」
「いだだだだ!!!!」
考えてニヤニヤしていたのがバレたらしく、ベジータにおもいっきりしっぽを踏まれた。
痛がってうずくまる私を無視して、近くで足を止めた気にスカウターを合わせるベジータを睨みつける。
「っ・・・しっぽ、踏むな、このハゲ・・・・」
「・・・もう一度踏んでやろうか?」
「や、やめてよ。ほら、ドドリア来るよ?」
指差す方向から、壮大な爆音とドドリアの膨れ上がる気が感じ取れた。
何かを追っていたのだろうか?
私達は静かに岩陰に隠れ、ドドリアが池の上から動き出すのをその場で待った。
岩が多いこの池で、一人だけのドドリア。
こんな美味しい絶好のチャンス、逃すわけがない。
「・・・・」
「・・・ふ、お前はここで待ってろ、面白いもの見せてやるぜ」
「へ?う、うん?」
苛立ちと、同時に見せた悪人顔。
うわー、この人。なんかやらかす気だ。
私もドドリアのこと嫌いだから、別にドドリアがどうなったっていいんだけどね。
私自身も悪人顔で、ベジータの様子を見守る。
するとベジータはドドリアが飛んでくるであろう池の、更に上の方に飛び上がって気を収めた。
一瞬で、全てが静まり返る。
気が済んだらしいドドリアが飛んでくるのを、私は下から見ていた。
上からも、ベジータが見ている。
いや・・・見ているだけじゃない。
「そぉら」
ドドリアが私の上空を飛んで行く瞬間、ベジータの意地悪い笑みが見えたような気がした。
何をするのかすぐに理解した私は、ゆっくりと岩陰から顔を出す。
その瞬間にベジータが勢い良くドドリアに近づき、池の中に突き飛ばした。
「ぬあぁ!?」
間抜けな声をだしながら、ドドリアが池の中に落ちていく。
満足気に私の隣に降りてきたベジータは、実に楽しそうな笑みを浮かべていた。
「あーあ、性格悪いなほんと」
「何か言ったか?」
「いーえー。なんにもー!」
池の中から、ドドリアがゆっくりと顔を上げる。
そして私達の姿を確認すると、殺気をむき出しにして睨みつけた。
そんなことをしても、ドドリアの戦闘力じゃベジータに・・・いや、私にすら勝てない。
ドドリア自身もそれに気付いているのか、酷くビクつきながら私達の方に近づいた。
「汚いマネしやがって・・・わかったぞ、お前ら、さっき地球人とつるんでやがるな!?俺をそんなに怒らせた・・・・」
言葉の途中で、ドドリアの手が止まる。
ベジータを指していた手が止まった先。
―――どうやら、スカウターを見ているようだ。
「・・・・お、大人しくそれをよこせば、今回は見逃してやるぞ。どうする?」
震えながら言われても、まったく怖さは感じないのだが。
「なるほどな。急に通信が途絶えたかと思えば、そういうことだったのか」
「スカウター、壊されちゃったの?」
ベジータがそっと私にアイコンタクトを取る。
スカウターに手を添える姿を見て、またも悪巧みを理解した私は、ベジータと一緒にスカウターを外した。
それを、ドドリアの目の前に見せつけるように差し出す。
「これからスカウターを取りに帰るとなるとだいぶ時間が掛かる。これが欲しかろう?」
彼らにとって、スカウターは相手の力や生命力、気を感じ取る大事な道具だ。
・・・まぁ、私には、いや・・・私達には必要ないモノ。
自慢気にスカウターを外す姿は、ちょっと面白い。
今までだったら外せないものだったのにさ。
「・・・・おい」
「ん?」
「何笑ってやがる。わからないとでも思ってるのか」
「・・・すみませんでしたー」
謝りながら、ドドリアがスカウターに手を伸ばした瞬間、スカウターを地面に落とした。
ベジータもスカウターを捨て、更に足でスカウターを踏みつけている。
「き、貴様・・・ッ!!!!」
ドドリアの怒りに歪んだ顔。
そんなドドリアの目の前で、ベジータは私のスカウターまで踏み潰した。
「俺達にはもう、必要ないものだ。残念だったな」
「貴様・・・っ!なんてことを・・・」
「それよりもどうした?こんなスカウターごときにうだうだ言ってないで、さっさとかかって来たらどうだ?許せないんだろう?」
1歩踏み出せば、ドドリアは1歩下がる。
びくびくしてるのが丸わかりだ。
まぁ、それもそうだろう。
奴らは一度、私達の力をスカウターで見ているはず。
そう、キュイとの戦闘の時に。
「さぁ、早くかかってこい」
ベジータの煽りに、ついにドドリアが拳を振り上げた。
だがその攻撃もまるで子供のような攻撃で。
バラバラに飛んでくる気。
まるで当てる気のない・・・いや、当てるつもりでもブレているのだ。
恐怖のあまりか。他の目的か。
「下手くそ」
一言そう言い放ち、ベジータはドドリアの後ろに回り込んだ。
そのまま、ドドリアの両腕を掴み、全体重を掛けて押さえつける。
あーあ。肩が変な方向に曲がり掛けてるよ、怖い怖い。
「どうした?もうこれで終わりか?」
「ま、まってくれ!!は、はなしてくれたら・・・お前の星、惑星ベジータの秘密を教えてやる・・・!!!」
腕が変な方向に曲がりかけているドドリアが叫ぶ。
叫ばれても、私に決定権はない。
ベジータがその話を聞く気があれば、離してもらえるだろうが。
私はただ、じっとベジータの様子を伺った。
「惑星ベジータの秘密だと・・・?」
「デタラメだとしても、私がちゃんと見はっとくよ?」
「フン・・・その必要はない。こいつに逃げられるほど俺様は甘くないぜ」
鼻を鳴らし、ベジータがドドリアから手を離す。
ドドリアは震えながら私達から距離を置き、戦意をまったく見せず宙に浮き始める。
「惑星ベジータは、隕石が落ちて滅んだんじゃない・・・・」
ドドリアが逃げようとしても無駄だ。
ベジータがどう考えてるかは知らないが、こいつらは私を、ベジータをこき使ってきた。
許すつもりは、ない。
話を聞くふりをしながら、私はドドリアの周辺に見えない気の力を張り巡らせた。
「惑星ベジータは・・・・フリーザ様の手によって滅ぼされたんだ」
「・・・・何?」
「数多くのサイヤ人たちが団結しだせば厄介になる・・・・それに、サイヤ人のほんの一部には、お前のように飛び抜けた戦士が生まれ、増え始めた」
サイヤ人は戦闘民族。
ベジータがどうかは知らないけど、それなりに才能あるものも生まれたんだろう。
現にベジータと戦ったらしいそのサイヤ人も、温厚だったわりに強かったみたいだし。
「力をつければ、いつまでも従順に従う種族ではないからな。フリーザ様はあの時点で手を打っておく必要があるとお考えになったのだ」
だから、滅ぼした。
・・・それに関しては、別になんとも思わなかった。
ベジータ星が滅んだ時に私が考えたのは、ベジータが無事で良かったってことだけだったから。
他のサイヤ人は、私を物珍しさで見たりするだけだった。
ベジータのように、種族も女も関係なく見てくれる人はあまり居なかった。
だからサイヤ人やベジータ星にそこまで未練はない。
ただそれは―――ベジータが決めること。
「だからフリーザ様自らが、サイヤ人もろとも星を消し去ったのだ」
「・・・・・」
得意気に喋るドドリアとは違い、ベジータは一言も言葉を発さない。
「だが、フリーザ様に感謝しろ、ベジータ。惑星ベジータの王子であったお前のその天才的な腕は使えそうだったから、わざわざお前が居ない時に狙ってくださったのだ」
煽るような、言葉。
それでもベジータは何も言わない。
ただ地面を見つめて、拳を震わせている。
その様子を見たドドリアは、高笑いしながら私の方を見た。
「お前の王子はどうやらショックで声が出ないようだぞ?」
ショック?
さぁ、どうだろうか。
私から見て、あのベジータがショックを受けているようには見えない。
どちらかというと・・・プライドを傷つけられた、怒りに震えてるように見えた。
ベジータって、そういう人だ。
私もベジータにつくようになって、慣れてきたけど。
すごく冷酷で、非情だと思う。本当に信用と信頼を預けた者以外には。
「・・・勘違いするなよ、ドドリア」
「ん?」
「俺は・・・星や仲間や親のことなど・・・どうでもいいのだ」
怒りに震える声が、逃げようとしていたドドリアを震え上がらせる。
「ただそうとも知らず、ガキのころから貴様らのいいように使われていた自分に・・・」
戦闘力が、気が、音を立てて上がり始めた。
ピリピリとした殺気をまとった気が、地面を震わせる。
「むかっ腹が、立つだけだ!!!!」
その言葉を聞き終えるのと同時に、ドドリアは一気に気を高めてその場から逃げ出した。
ベジータはそれを追う素振りも見せない。
それはそうだ。ベジータは私が張り巡らせている術を知っているから。
それに、きっと術も必要ない。
「・・・・はぁッ!!」
ドドリアが空中で私の術に引っかかって止まるのと、ベジータが高めた気を衝撃波として撃つのはほぼ同時だった。
見なくても分かる、ドドリアの結末。
激しい音と共に一つの気が消え、静かになった。
「フッ・・・フリーザは、サイヤ人の底知れぬ可能性を恐れていたんだ・・・・」
「・・・・確かに、ベジータってすごい戦闘力の上がり方するもんね」
「よく分かってるじゃないか。だが、お前にもその血が流れていることを忘れるなよ」
「そういえばそうだったっけ!」
「・・・・アホが」
満足そうに笑うベジータが、私に早く来いと言わんばかりの表情を浮かべているのを見て、私も
その後を着いて行く。
「ったく、乱暴な王子様だことー」
悪態を吐けば、容赦なく浴びせられる殺気。
思わずヒクッと顔を引き攣らせた私は、まるで子供のように口笛を吹いてごまかした。
ったく、なんでこんな乱暴男に仕えてるんだか。
そんなことをふと考えて、私は見えないように苦笑を浮かべた。
ただ王女として使われるだけだった昔。
ベジータに、部下として使われる今。
何も変わってないかもしれないけど、それでも。
なぜか着いてって、慕ってしまうんだからしょうがない。
「・・・何を笑ってやがる」
「あ、ばれた?」
「笑ってる暇があったら集中しやがれ」
「え?何に?」
ベジータに言われ、ピシッと姿勢を正す。
それを見たベジータが呆れたようにため息を吐き、ドドリアが死んだ辺りを指さした。
「ドドリアが妙なことを言っていたの、忘れたか?」
「なんだっけ」
「地球人がどうたらって言ってただろう」
「そう言えば、言ってたね。でもベジータから聞いた感じだと、こんなところまで来れる技術があるのかすら・・・・」
怪しい、と言いかけて。
冷静に気の探りを入れた私は、遠ざかっていく二つの気を見つけてその方向を向いた。
どうやらベジータも、それに気がついているらしい。
「まさか地球人ではないとおもうが・・・一応確かめておくか」
「はいはい。あんまり殺さないでね?」
「・・・・それは向こう次第だな。俺の邪魔をするやつは、たとえ雑魚でも消さねばならん」
冷たく言い放ちながら気の方向へと飛んでいったベジータを、私はしばらくその場で眺めていた。
ベジータのことは慕ってるけど、こういうところは少し苦手だ。
容赦なく誰でも殺してしまうような。
・・・私も、星の殲滅についていった時はそういうことをしたけど、苦痛だった。
でも、何も言えない。私にはベジータだけだから。
「って・・・待ってくれないし・・・待ってよー!!早いよー!!」
私はただベジータの後を追い、その気の感じられる方向を目指した。
だんだんと感じる違和感。それでも逆らえない感情
(一度入れ込んでしまった感情を、消すことは出来ないのだから)
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