いらっしゃいませ!
名前変更所
ナメック星。
その星に着いたとき、俺はすぐさまスカウターを表示させ、周りの気を探った。
ベリトアも警戒しながら、俺と同じようにスカウターで周りを探っている。
ごろごろと人の気配を感じるが、それは戦力にもならないただのゴミばかり。
一部飛びぬけた高さを持っているのは、フリーザがつれてきたザーボンやドドリアか。
他にも中途半端な数値を持ったやつらがいるようだが・・・誰だ?
探りを入れてみるか、と。
俺は無言でベリトアの腕を引っ張り、宙へ浮いた。
「おわっ、な、なに?」
「行くぞ、こっち側だ」
「はいはい了解」
ベリトアが俺の手から離れ、自分で宙に浮く。
それを確認した俺は、一気にスピードを上げて目的地へと向かった。
時々大丈夫か?と気になって後ろを見るが、ベリトアも俺のスピードについてきている。
・・・こいつも、やはりサイヤ人。俺と出会った頃とは比べ物にならないほどの実力だ。
そんなことを思いながら飛んでいると、急にベリトアが小さな声を上げて急停止した。
突然のことに、俺もスピードを緩めて尋ねる。
「どうした?」
「なんか後ろからついてきてるよ、ベジータ」
後ろ?
もう一度スカウターを起動しなおし、ベリトアが指差した方向に合わせる。
確かに、ナメック星人ではない戦闘力を持ったやつが近づいてきているな。
この気は・・・。
「キュイか」
「みたいだね。どーする?」
「どうするも何も、分かっているんだろう?」
「邪魔なやつは潰すってやつ?まったく血の気荒いなー!こわいこわい!」
そう言いながらも、俺が命令してないのに、戦いやすい広い場所で足を止めるお前は何なんだ?
俺もベリトアの隣で足を止め、スカウターの通信機能をONにする。
すると案の定、キュイの声が耳元で響いた。
「おいベジータ!!あの可愛い子ちゃんもいるのかい?」
煩い声だ。
耳障りだと言わんばかりに額に皺を寄せれば、隣にいたベリトアも渋い顔をする。
「聞こえているかベジータ。これで堂々と貴様を殺せる!!」
「・・・・笑わせるなキュイ。貴様にこの俺が殺せると思うのか?待っててやるから早くきやがれ」
「笑わせてるのはお前だろう?スカウターを良く見てみろ、戦闘力は俺の方が明らかに上回っているぜ!!」
スカウターを通して見る数値。
それは確かに、今の状態の俺よりは上だ。
だが俺は、地球での戦いで戦闘力のコントロールを身に着けた。
地球に住む奴らは、自分たちで気を感じ、そしてコントロールしていた。
ベリトアも元々気の扱いが得意な種族。俺と同じように、気のコントロールを目の前で見るだけで、ベリトアも戦闘力のコントロールを行うことが出来るようになっていた。
つまり。
キュイが見ている数値は、どちらも間違った戦闘力ということだ。
「・・・お、キュイの気が近いよ」
「やっと来たか。のろまめ」
キュイは俺たちの姿を見つけると、一気に降下して俺たちの横を通り過ぎた。
そのまま旋回し、一気に地面を叩きつける。
もちろん、そんな安っぽい手にやられるような俺じゃない。
ベリトアもつまんなさそうに攻撃を避け、ふわりと宙に浮いた。
地面を殴りつけた状態のまま、キュイが俺の方を睨む。
「やっとライバル同士、決着をつけるときが来たようだな」
「・・・・」
「だが、腕が落ちたなぁ。そんな戦闘力じゃ、貴様に勝ち目はない」
「・・・ふ」
「なにがおかしい、ベリトア」
キュイの言葉を聞き、ベリトアが我慢できないといった表情で吹き出した。
俺もやれやれと首を振り、キュイの前で拳を握る。
「ライバル同士だってさ、ベジータ。本当の力見せちゃった方が良いと思うよ」
「言われなくても分かっている。見せてやる」
「ほう?何をだ?逃げ足の速さでも見せてくれるのか?」
馬鹿にするキュイの言葉を無視して、俺はそっと気を解放した。
隣にいたベリトアも、それに合わせるようにして気を解放した。
お互いの戦闘力が、急激に膨れ上がっていくのを感じる。
ベリトアの戦闘力も、俺が思っていた以上の力になっていた。
ひそかに修行でもしていたのだろう。そんなことを思いながらキュイの方を見れば、キュイは額から汗を流していた。
「なんだその表情は?どうした、さっきまでの勢いは」
「ば、馬鹿な・・・元々お前と俺は互角のはず・・・それにそこの女は、戦闘力なんて・・・」
「まぬけめ。俺たちは絶えず戦ってきたんだ。フリーザのところでぬくぬくとしていた貴様といつまでも同じだと思うか!!」
まだ、膨れ上がる。
俺はこんなものじゃない。
目の前にいる苛立つ奴への怒りも含めて。
気を高め続けた状態で一歩キュイの方へ踏み出すと、キュイがびくつきながら手を前に出した。
「ま、まてよ、ベジータ。良い事思いついたぜ!俺も一緒にやらせてくれ!手伝ってやるよ」
嘘、だな。
隣にいるベリトアとキュイの瞳を見比べて、俺はすぐにそう判断した。
ベリトアが俺に向ける純粋な瞳は、嘘をついたことがない。
こんな奴など、信じられない。
それでもキュイは、俺に向かって嘘を吐き続ける。
「お、おれも、フリーザさ・・・フリーザの奴は気に入らなかったんだ」
「・・・・・」
「わ・・わ、悪い話じゃねぇだろ!?その戦闘力で俺と組めば、ザーボンとドドリアぐらいなんとかなると思うぜ・・・!?」
俺は歩みを止めず、まっすぐキュイに近づいた。
「くだらん嘘をべらべらと喋りやがって。とことんムカツクやろうだぜ」
「し、信じてくれよ、ベジータ・・・」
そう言いながら、キュイの右手がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。
近づいた俺を油断させて、何かするつもりか?
それとも、逃げるつもりか?
たくさんある中の色んな可能性を考えたところで、キュイが突然俺の後ろを覗き込んだ。
「あ、フリーザ様?」
「何!?」
「馬鹿め!!!」
不覚にも、キュイに気を取られていてフリーザに気付けなかったのか。
そう思って振り返った先には、何もなく。
強い苛立ちを感じた俺は、もう一度キュイの方を振り返り、キュイの右手から打ち出される強いエネルギーを――――かわした。
見える。
こんなものじゃ、俺を捉えることは出来ない。
戦闘力があがれば、スピードも上がる。
俺は自信満々に高笑いをしているキュイの後ろに近づくと、声を上げた。
「それで終わりか?・・・・甘いな」
「な、なに!?」
「お前とあろうものがこんな作戦とはな。ただお前は今の攻撃で・・・俺を怒らせただけだったということだ」
なめやがって。
イライラする気持ちを気に込め、一気に打ち出そうとしてやったところで、キュイの視線がベリトアの方に向いた。
「な、なぁ、そこの女」
「ん?わたし?」
「あぁ、お前も良い戦闘力してるじゃねぇか。いつまでもそんなプライド高いワガママ王子の言いなりか?」
俺の次は、ベリトアか。
今すぐにでも殺してやりたい気持ちを抑え、無駄な足掻きを最後まで見届けてやろうと俺はため息を吐く。
ベリトアは恐ろしいほど無表情で、声を掛けてきたキュイを見つめた。
俺にあるのは絶対的安心感。そして絶対的な自信。
こいつは俺を離れない。いつの間にか俺が、こいつが居るのが当たり前だと感じたように。
「・・・どういうこと?」
「お、お前の力なら、ベジータなんかすぐ抜けっちまう。俺と手を組めば、俺がお前に従ってやるよ!どうだ?もうお前はベジータなんかに従わなくても良―――」
バシンッ。
空気がはじけるような音が響いたかと思うと、キュイの足元に5つの穴が開いていた。
震えるキュイには目もくれず、ベリトアが冷たい気を放つ。
そして静かに震えるキュイを睨みつけると、俺には見せない表情で、俺には聞かせた事のない冷たい声で、キュイに手をかざした。
「そんなに私を怒らせたい?」
「な・・・・」
「アンタと組むぐらいなら死んだ方がマシ。私はベジータの傍に居たいの」
フン。バカみたいなこと言いやがって。
だがその言葉は不快さを与えることなく、俺が感じていたイライラを消した。
同時に感じる、満足感。
俺はベリトアに近づくと、キュイを指差してニヤリと笑った。
「情けなさ過ぎてやる気が失せたぜ。ベリトア、お前がやれ」
「お、おい、ベジータ。さすがに俺と女じゃ釣り合わねぇぜ?」
「・・・・ああ言ってるぜ?」
「わかったわかったー。私がやる」
「さっさとやれよ」
「・・・押し付けたくせに~・・・うう、睨むなって!やるから!!」
睨みを利かすと、表情を引き攣らせながらベリトアが前に出る。
そして一気に高まる気。最後だな、キュイも。
「馬鹿だなベジータ!!この俺を女なんかに任せたことを・・・・」
宙に余裕の表情で浮かんでいたキュイ。
その懐に、見えない速度で飛び込んだベリトア。
キュイは驚きの声を上げる暇もなく、腹にベリトアの拳を受けていた。
ばちばちとはじける気がキュイの腹を抉り、何かを腹の中に植え付ける。
―――ああ、あの技は。
「よいっしょっと」
「なんだ、もう終わりか?」
「うん。じゃあね、キュイ」
キュイの懐から一気に俺の方へ戻ってきたベリトアが、キュイを指差す。
するとキュイの腹の中に植え付けた気が爆発し、キュイは跡形もなく消え去った。
「汚ねぇ花火だ」
キュイがいなくなった方向を見ながら、呟く。
ベリトアは楽しそうに笑うと、放出した気をまた小さく収めた。
俺も目立たぬよう、気の力を最小限にする。
「さて・・・どうするよ、ベジータ」
「先ほどのフリーザ達の通信によれば、ドラゴンボールというのは7つ集めんと意味が無いらしい」
「ふーん・・・じゃあもういくつかは、フリーザが集めちゃってるのかな」
「だろうな。俺たちはそのうちの一つを手に入れておいて、隠す。そして隙をついて奴らのを奪い願いをかなえる―――どうだ?」
俺の悪人顔を映し出すベリトアの瞳が、楽しそうに輝いた。
「ベジータだけ?ずるいなー。私の願いは?」
「何だ?お前も不老不死になりたいのか」
「いいねそれ。これからもベジータと楽しめるんでしょ?」
無邪気な笑顔に、俺はやれやれと首を振る。
欲がないのかこいつは?まぁ、だからこそこいつが傍にいるのが面白いんだがな。
そうと決まれば、さっさと行動に移すか。
俺は無言でベリトアの尻尾を掴むと、行先を決めて宙へ浮いた。
ほら、さっさと行くぞ
(そういうのは口で言えよって、お前がそんな表情をしながら俺を見ているのを感じた)
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