いらっしゃいませ!
名前変更所
毎回このざまだ。
毎回毎回、こういう風になるんだよ。
桐生の傍にいると、ほんと、飽きないな。
そんな風に思えるだけ、私も情報屋としてではなく極道の世界の人間として―――慣れてしまっていたのかもしれない。
この、”私が危険な目に合う”という状況に。
「(だりぃーなー・・・・)」
私の目の前に映るのは、赤いスーツが目に痛い男。
玉城。玉城組の親だ。
琉道一家のお嬢である咲が攫われたとかの噂で。
それを探すのを手伝ってたら、何故か私も狙われていたらしく。
集団でボコにされ、捕えられて――――このザマ。
「(まさか掻っ攫う予定なんて思いもしねぇだろうが・・・・)」
ただ倒しに来るやつと、捕えに来る奴とではまたやり方が違う。
倒しに来る奴は容赦なく殴り掛かってくれるからやりやすいが、捕える方だと薬だのなんだのって小癪な手を使ってきやがるからな。
ま、そんなのにまんまと引っかかった私も悪いんだが。
嗅がされた薬のせいで頭がくらくらするのを我慢しながら、私は赤いスーツに目を細めた。
「(趣味わりぃやつ)」
無機質な、ソファとかぐらいしかない部屋の中。
目に入るのは赤いスーツと、探してた咲って女の子の怯え顔と、その母親らしい女の三人。
気絶してるふりして話を聞いてたところによると、どうやらこの咲の母親が咲をここに連れてきた犯人らしい。
なんか玉城とイチャイチャしてるし、玉城の女か?
でもなんか変なんだよ。
玉城の目が。おかしいんだ。
咲の母親を見てる目が、女を見る目じゃねぇ。
遊びの女としても、本命の女としても。
私は桐生が、女性にあんな目を向けるのを見たことが無い。
――――とすると。
考えられるのは、咲の母親の、“利用”
あの咲って子は琉道一家の弱みでもあるだろう。
だからこそ、玉城組がのし上がるために咲を欲しがるなんてこともありえるはず。
「(とりあえずこの状態どうすっかなぁ)」
捕えられた私は、咲の母親と玉城のせいで蚊帳の外。
お前が捕まえた癖に、私のことは完全無視。
私の目の前でイチャイチャイチャイチャ・・・・。
「うぜー」
思わず声を出してしまった私は、刺さった二人の視線を気にすることなくため息を吐いた。
咲の母親が、そんな私を見て舌打ちをする。
「・・・・・・あの女、どかしてよ」
「いいじゃねぇか、まぁ」
イラだつ母親を押しのけ、玉城がやっと私に歩み寄った。
どーするかな。ここで暴れて何かされちゃうのも困るし、だからといって静かにしてるのも私の性格的に無理な話だ。
そんなことを考えている内に、玉城が私の顎をぐっと上に持ち上げた。
無理やり上を向かされ、顔を近づけさせられ―――イラついて思わず顔を顰める。
「いい女じゃねぇか」
「・・・・さわんな」
「お前も咲と同じだ。大人しくしとけよ?」
「咲と、同じ・・・だと?」
母親に聞こえないように囁かれた言葉。
”咲と同じ”
その言葉に私は更に顔を顰める。
やっぱりこいつ。
ゲスだな。
イラつく。こういうやつは大嫌いだ。
「てめ「ちょっとぉ、そんな女より私でしょ?」」
私が怒りを爆発させる寸前、甘い母親の声が私の声を遮った。
甘い声を聴いた玉城がイラだちの色を見せながら、ゆっくりと母親の方に歩み寄り、愛しむふりで母親の腰を抱く。
ふり、だ。
私から見れば、そんなのが嘘だってすぐ分かる。
こいつ、やっぱり咲を利用するためだけに母親を利用してやがるんだ。
絶対に許さない。とりあえず今は余計なことをしないで、桐生が来るまで耐えるんだ・・・。
「ふふ」
「嫉妬するなよ、言っただろ?咲とお前と一緒に暮らすって・・・よ」
「じゃあ、あっちに行きましょう?」
「・・・・あぁ」
イチャイチャを目の前で聞かなくて済んだのは嬉しい。
だが、咲と私だけのこの空間も―――静かすぎて。
咲はイラだつ私を見て怯えてるし。
だからといって、子供を安心させてやるほど、今の私には余裕がない。
出来るのは、ただ、慰めを言ってやるだけ。
「安心しろ、な。咲」
「・・・・」
「・・・・・必ず、守ってやるから」
外に気配を感じる。
それでも私はお構いなしに、その気配に気づかないふりをして咲を慰め続けた。
気配は―――玉城は、そんな私に苛立ったのか、わざと音を立てて部屋に戻ってくる。
「おい」
「・・・・なんだよ」
「よくそんなに余裕でいられるな?あけちゃん。俺は確かにお前を利用するために攫ったが・・・・別に、お前が無傷である必要はねぇんだぜ?」
動けない私の顎を掴み、ニヤニヤと厭らしい笑みを見せつけてくる玉城。
めんどくさいと無反応でいれば、玉城の手が顎から下へ移り、私の胸・・・そして腰をゆっくり移動する。
普段、桐生にされる動き。
でも何も感じない。ドキドキも。
むしろ感じるのは嫌悪感。
こんなところで気付くなんてな。
私の身体が、心が、桐生に毒されているんだと。
するっと、私のベルトに玉城の手が伸びる。
目の前に居るのが桐生だったなら、きっとこの光景に私は―――
欲情、するんだろう。
「・・・・」
「そうやってられるのも今のうちだ、あけちゃんよぉ」
かちゃり。
ベルトが、冷たい音を立てて外される。
この音。
桐生に聞かされるこの音は、正直、私を狂わせる。
期待してしまうんだ。
はしたない女だとおもうだろ?
でも、仕方ないんだ。
心の底から愛した男のすることは、誰だってドキドキするだろ?
「ばっかみてぇ」
他の人のには、何一つ感じない。
むしろ――――
「虫唾が走る」
私に触れるつもりか?
私を陵辱するつもりか?
どれも、ごめんだ。
そんなことされるぐらいなら、舌を噛み切ってやる。
「女、てめぇ、今自分がどんな状況か分かって・・・・」
「私に触るな。私に触って良いのは」
“桐生だけだ”
私の記憶に残っているのは、そこから走った衝撃と怒りに震える声だけ。
私に手を出そうとしていたのだろうが、私に暴言を吐かれ、それよりも痛めつける方を優先したのだろう。
うっすらと目を開けた私の目に映る、傷だらけの自分の身体。
そしてやるせない表情で私を見つめる―――桐生の姿。
「き、りゅう・・・?」
「すまなかった・・・・遅くなったせいで、こんな・・・・」
周りを見渡せば、そこはいつも通りの光景だった。
あさがおのおじさんの部屋。いつも寝ている布団。
ただ違うのは、記憶が曖昧な私と・・・思った以上に傷だらけなこの身体だろうか。
どうやら、暴言を吐いたことで最悪の事態を防げたらしい。
良かった。あんな奴に触られるぐらいなら死んだ方がマシだったんだ。
「・・・よかった」
「何がよかった、だ。何もよくねぇだろうが」
「お前以外にベタベタ触られるより、痛い思いしたほうがマシ・・・」
言葉を遮るように抱きしめられる。
たった数時間感じなかっただけの桐生の温もりに、心が安らいでいくのを感じた。
そう、これが私の求めてたものだ。
これ以外はいらない。
「桐生・・・」
「・・・・バカが」
「そんな怒るなよー、な?こうやって桐生が助けてくれたんじゃねぇか・・・それでいいよ」
「・・・・・」
私はそれでいいのに。
桐生は不満げに私から身体を離し、私の頭にその大きな手を乗せた。
ずっしりと、重みを感じる。
そのままわしゃわしゃと撫でまわされ、私の髪の毛はあっという間にぐしゃぐしゃになった。
「・・・・」
「・・・・」
無言で、見つめ合う。
近づく吐息。頭から降りていく手。
ドキドキ、する。
数時間前に、玉城にもされたこの行動。
違うのは場所と人だけ。
それだけでも私の心は変わる。心臓が跳ねるのが分かる。
――――熱い。
はしたないと思われるだろうか。
じんわりと身体が熱を帯びるのを感じて、私はねだる様に桐生の手を握った。
「あけ・・・?」
降りていく手を、自分の口元に誘導して。
すり寄る様にその手に口づけをする。
桐生もそれに応えるかのように手を降ろしていった。
私の口づけを受けて、首筋をなぞり、形を確かめるように胸に触れる。
「っ・・・・」
自分から誘うようなマネしといてあれだけど。
今更ながら恥ずかしくなって、桐生から顔を背けた。
治療したばかりの身体。
さらけ出されたままの、身体。
私が恥ずかしがってるのを分かってか、桐生が私の顎をグイッと掴んだ。
「っあ・・・」
「お前が誘ったんだ。悪いが・・・今更とまれねぇ」
カチャリ。
耳を擽る金属音。
また、心臓が跳ねるのを感じる。
欲情する。
―――その、音に。
「・・・・っは」
「なんだ?・・・欲情してるのか?」
「うっ・・・せ」
「・・・・否定しないんだな」
「・・・・・うっせ」
その金属音は、冷たくて、どきどきする音
(これからの始まりを告げる、そんな音だから)
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