いらっしゃいませ!
名前変更所
「んだとこら!?」
「おいおい、お嬢ちゃん一人で俺たちのことやるっての~?」
「それより、俺たちといいことしようぜ、な?」
神室町は危険な街だということを、しばらく離れていたせいで忘れていたらしい。
ちょっとぶつかっただけだというのに喧嘩を売られ、言い返したらこれだ。
ニタニタと近づいてくるのは四人。
どれもクソガキって感じの奴らだ。そんな強くも見えない。
・・・だが、人数が多いのは厄介だ。
手ごわい的な意味ではない。時間的な意味でだけどな。
私はこれから、秋山・桐生・真島の兄さんの三人の所に行かなくちゃいけないんだ。
色々今起きてる事件の情報を仕入れたからって、呼び出したのは私だから。
早く行かなくちゃいけないってのに。
「おい、きいてんのかてめ・・・・」
「あ~~・・・急いでるんだよ。後にしてくれねぇ?」
「おいおい。俺たちが大人しくしてれば調子のっちゃって~」
「いいの?あぁそれとも、そういうプレイがお好みなの、お嬢ちゃん」
「・・・・・」
こういう奴らって話が通じねぇのか。
イライラが頂点に達した私は、彼らを無視して待ち合わせ場所である元セレナに向かおうと1歩踏み出した。
が、もちろん。それは邪魔される。
そんなことも想定済みだった私は、止めようと掴んできた男の腕を素早く捻り上げ、文句を言う暇もなく蹴とばした。
「がぁっ!?」
蹴とばされた男が、地面に無様な姿で転がる。
ものの数秒の出来事に周りの男達は反応出来なかったらしく、呆然とただその光景を見つめていた。
そして、数秒後。
目覚めた奴らから私に牙を剥く。
「な・・・なにしてんだこのアマァ!!」
「正当防衛だろ。掴まれたからどかしただけだ」
「殺されてぇのか!?」
「お前こそ、あんな風に転がりたいのか?無様に。こんな大人数の目の前で」
誰も助けに入らないだけで、私たちを見ている人間はたくさん居た。
そんな傍観者の目の前で盛大に転ばされたのだ。屈辱だっただろう。
だが、私にはそんなの関係ない。
こんな奴らにやられるほど、ヤワじゃねぇんだ。
「んのやろう・・・・痛い目みせてやる!!!」
私の言葉に怒り狂った一人が、何も考えず真っ直ぐ私へと走ってくる。
突き出された見え見えの拳を軽く受け流し、そのまま足を引っかけてやった。
もちろん、男は走ってきた勢いを止めることが出来ず、派手に転ぶ。
あーあ、だから言ったのに。馬鹿なやつ。
・・・・ってか本当にだるいな。
急いでるのに一人一人来られてもめんどくさい。
どうせ逃がしてくれねぇなら、いっぺんにやった方が早いんじゃねぇのか?
そうとなれば、もう。
「ここまできたら、もう喧嘩で良いだろ。お前らもさっさとこいよ」
私からの、挑発。
見事に乗った彼らは、全員で私の方に向かってきて―――――。
地面に転がる、静かな男達。
じとじととした暑さのせいか、喧嘩を終えた私の身体は汗に濡れていた。
ほんと、最悪だ。
今から桐生達のところに行くってのに、なんでこんなベトベトしたままで行かなくちゃいけないんだよ。
「う・・・」
「ったく・・・お前らが無駄に絡んでくるせいだろう・・・・がっ!」
「がふっ!?」
苛立ち紛れに転がっていた男の腹をもう1発蹴り、私は目的地へと歩き出した。
持っていたハンカチで額の汗を拭くが、全然おさまりそうにない。
それどころか、動き終わった身体に夏の日差しが襲う。
「あちぃー・・・溶けそうだぜ」
なるべく日影を歩きたいが、神室町じゃそうもいかない。
細い裏路地とかだったら建物の影があるかな、なんて考えつつ、私は道を選んで歩を進めた。
影に入ると、少し生ぬるくなった風が私を通り過ぎていく。
段々と離れていく声。やっと落ち着きのある空間に入れたと胸を撫で下ろした。
たとえ裏の世界に生きていようが、絡まれるのは好きじゃない。
というか、めんどう事は嫌いだ。今はそんなこと言ってられる立場じゃないが。
今だって、めんどう事を抱えてる連中のところに行くわけだし。
「やっとめんどう事が落ち着いたのに、呼び出しなんてなんなんだよお前ら」
ガン!と蹴り破る様にお店の扉を開ける。
あんな3人が揃ってるときに、お客さんなんていないだろうからな。
その私の考えの通り、呼び出した3人―――と、伊達さんだけのお店を見渡しながらカウンターへと進む。
「おー、遅いで、あけちゃん」
「・・・・お前酒の匂いがするじゃねぇか兄さん・・・・」
「悪いねぇ、あけちゃん。待ちきれなくて飲んじゃってさ」
「・・・・お前も飲んでるじゃねぇか秋山」
「まぁ、そんなところにいねぇで、こっちに座ったらどうだ?」
「桐生・・・悪いな、そうさせてもらうよ・・・・」
秋山と真島の兄さんが飲んでることに対してグッタリしていた私は、平然とした表情の桐生を見て、少し安心した。
こいつはやっぱりちゃんと待っててくれたのか、と。
酔っぱらったら絶対に全員話が長引く。というかまともに話せないだろう。
めんどうなことに巻き込まれるのはごめんだった私は、それに喜んだのに、なのに。
席に着いた瞬間、隣の桐生の表情を見て、私はひくっと顔を引き攣らせた。
「お前も飲むか?」
「飲んでんのかよお前も!!!」
私はツッコミ役か!?と、机を叩く。
だが、そんなのは酔っ払いには通用しなかった。
あっという間に雰囲気に流され、私の目の前にも酒が出される。
出際の良い、そしてこの状態の最後の頼みの綱であろう伊達さんを睨めば、苦笑いで首を振られた。
「諦めろ。大体お前を呼んだのも、ただの飲みのためだ」
「はぁ~~~?ったく、最初からそういえよ・・・なんかあったのかと思って飛ばしてきたのによ・・・・」
一人からの依頼はあっても、集団からの依頼というのはあまりない。
あの問題を良く起こす桐生。そして兄さん、秋山と来れば良い仕事ではないだろうと思って急いできたというのに。
それがただの飲み会だったとは。
呆れてものも言えない状態の私に、3人は容赦なく酒を促す。
「ほら、まぁ飲めや」
「あー、はいはい。飲む、飲むよ。分かったよ!いただきます」
「お、いいねぇあけちゃん。乾杯しようよほら」
「ん?あぁ・・・乾杯、秋山」
「なんや、ずるいやないかい!俺もや!」
「兄さんってばもう出来上がってるじゃんか・・・ほら、乾杯」
出来上がってテンションの高い秋山と兄さんのグラスに乾杯を交わし、さっそく酒に口を付けようとしたが、もう一人からの視線を感じて飲むのを止めた。
そして静かにグラスを揺らし、その視線の持ち主―――桐生とも乾杯を交わす。
桐生も無言でグラスを傾けたが、どうやら割と出来上がってるみたいだ。
顔が赤い上に、この桐生の視線。
滅多にみられない、静かに酔っぱらってるときの桐生の雰囲気。
「っあー・・・・美味しい」
口の中に広がるお酒を、味わうよりも先にごくりと飲み干す。
喉が渇いてしょうがなかった私にとって、お酒も水と変わりなかった。
こんな暑い日に、ひと暴れしたのだからしょうがない。
そんなことを思いながらお手拭で額の汗をぬぐうと、急に兄さんが私の方を向いてじーっと見つめてきた。
「・・・」
「・・・・?ど、どうした、兄さん」
大騒ぎしかけていた兄さんの、静かな視線。
なんだ?わ、私の顔に変な物でもついてるか?
「兄さん?」
飄々とした兄さんの、無言の視線に耐えられず首をかしげる。
酔っぱらったときの兄さんの騒ぎ方と、今の静かさを比べたら、疑問に思わない方がおかしい。
お酒を口に含み、まだ私を見続けている。
そしてやっと口を開いたかと思うと、席を立って秋山と桐生を押しのけ、私にぐいっと顔を近づけた。
・・・・綺麗な瞳が、鋭い瞳が、私を射抜く。
酔っぱらった他二人の静止の声も聴かず、兄さんは私の前髪を手に取り、口付けるようなそぶりを見せた。
「に、にいさん?」
「いやー、なんかあけちゃんが可愛くてのぉ。・・って思ったんや」
「は?」
「髪、汗に濡れとるやないか。いつにもましてそれが可愛いんや」
髪?
言われて前髪に触れると、確かに冷たい。
どうやら喧嘩で汗をかいた際、髪の毛が濡れたようだ。
でもそれで可愛いってどういうことなんだ?これ、可愛いか?
どっちかっていうと萎えるだろこれ。
完全に普通の女が、喧嘩で汗だくなんて、ありえねぇことだからな。
「あの、にいさん、それ可愛いっていうのはなんか・・・・」
「なんや?おかしいいうんか?」
「いやおかしいだろ」
「んなわけないやろ~~!なぁ、桐生ちゃん!!金貸しもそう思うやろ?な?」
こいつ、完全な酔っ払いだ。
酔っ払いならしょうがないと、軽く言葉を無視して酒を飲み進めようとした私に、更なる追い討ちが掛かった。
意見を求められた秋山と桐生も、私のほうをじっと見始めたからだ。
嫌な予感がして完全無視を決め込むも、突然の無言と視線に冷や汗が流れる。
助けを求めるように伊達さんの方を向けば、苦笑いでお酒を作りに行かれた。
――――あのやろうッ!!!
「・・・・」
なんで。
なんでこんなガタイの良い男3人の視線を浴びながら酒を飲まなくちゃいけないんだ。
そろそろブチ切れようかと酒を置いた瞬間、無言だった隣からポツンと声が漏れた。
「綺麗だ」
「・・・・・はっ?」
秋山の言葉に、思考が追いつかなくなる。
思わず変な声を出しながら振り返った私を、酔っ払い三人組が取り囲んだ。
「綺麗だよ、あけちゃん。うん、真島さんの言うとおりだ。可愛い。ほんとに可愛い」
「もう遠慮しねぇぞ。黙れ秋山気持ち悪い」
「今回ばかりは兄さんと秋山の意見に同意だな。いつもより色っぽいじゃねぇか、あけ」
「お前も黙れ桐生」
「やろ~?分かるやろ?」
「兄さんもちょっと黙って」
この三人にここまで暴言を吐けるのは私だけじゃないだろうか。
そんなことを考えながら三人をあしらうが、三人は収まるどころかヒートアップしていく。
静かに言っても無駄だということが分かった私は、その三人に容赦なく暴言を吐き始めた。
「あのな。綺麗とか可愛いはオシャレしてる女とかにいうものでだな。喧嘩終わりの汗かきに言うもんじゃねぇんだよ、分かる?」
「いやいやあけちゃん。あけちゃんはそれでも可愛いってことだよ。ね、真島さん」
「金貸し、お前とは気が合うようやのぉ!そういうこっちゃ!他の女にはない色気っちゅうもんがあるんや。それが今、バリバリ伝わってきとるで!」
「何かもう良く分からないから黙って酒飲んでくれねぇ?」
「まぁそう怒るなあけ。たまにはお前も自分自身に自信を持ったらどうだ?」
「・・・・」
イラだちを越え、更に身体が熱くなるのを感じた私は、大きなため息をついてお酒を一気に飲み干した。
飲み干したコップを伊達さんの方に突き出し、次のお酒を促す。
一瞬戸惑った伊達さんも、私の気迫に押されてか、何も言わずにお酒を入れ始めた。
そう、もうこれしかない。
私も酒にのまれるしかない。
じゃないとこいつらのテンションについていけねぇ!!
「おー、飲むやないか!いいのぉ!」
「うるさいな・・・・お前たちには付き合ってらんねぇ」
「なにそれ、はやりのツンデレってやつ?おじさん惚れなおしちゃうなぁ」
「秋山、殴るぞお前・・・」
「今日お前、何かあったのか?ちょっと怒りっぽいぞ」
「あのな桐生。誰がこうしてると思ってんだよ・・・・」
こいつらの相手をまともにしちゃいけない。
わかっているはずなのに、掛けられる言葉に反射的に反応してしまう。
「あけちゃん!俺にお酌してくれや!」
「いやだ!」
「なんでや?冷たいのぉ」
「だーもううるさい。静かに飲め!」
「騒ぐのが楽しいんだよ、あけちゃん。ほら、照れない照れない」
フッと吹きかけられるように秋山の声が響いた。
思わずびくりと肩を動かせば、楽しそうに笑う秋山の顔が目に入る。
そこで私は、酔いが回り始めたのもあり
何かがぷつりと切れるのを感じた。
「だぁーーーー!この酔っ払いども!!」
ガターン!と音を立てて立ち上がり、びしっと三人に指を突きつける。
その瞬間、急に立ち上がったせいか目の前がぐにゃりと歪み、私は持っていたお酒を自らかぶる形でその場に立ちすくんだ。
――――・・・。
ああ、もう。
「ひゅー!セクシーやであけちゃん!」
「煽ってないで拭いてあげろよ兄さん」
「大丈夫かい?ほら、これで拭くと良い」
私の怒りの原因である秋山が、てきぱきと濡れた私の服を拭いてくれた。
そんな秋山に、少し熱が覚めたのも束の間。
「あけちゃん」
「ん?」
「下着・・・黒なんだねぇ」
「―――死ね!!!!!!」
ニューセレナが使い物になるのか心配になるほど荒れた飲み会
(でも結局はみんな仲良く、次の日を迎えているんだ)
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