いらっしゃいませ!
名前変更所
あの戦いから数年。
平和な日々が続く中で、一つの大きなイベントが始まろうとしていた。
それはそう、世界の大金持ち――――ブルマの誕生日パーティだ。
あんまりこういうのが好きじゃないピッコロも、彼女のパーティには段々慣れ始めていた。
だって大金持ちなのに、誕生日パーティは身内しか呼ばないんだ。
パーティの出し物とか、景品とか、全部身内だけにしかやらない。
彼女曰く、そのほうが楽しいから・・・らしい。
「だからって朝早すぎる・・・・」
「お前が朝に弱すぎるだけだ」
「んなわけないでしょー。休みの日は昼前ぐらいまで寝るのが当たり前!」
「そんなルールはない」
「った!真顔で返すな!そして殴るなっ」
パーティ会場に入りつつ、ぶん殴られた私は涙目でピッコロを睨んだ。
言い争いながら入ってくる私達を見て、他の皆は慣れた表情を浮かべる。
なんだよその表情。
ああ、またかって感じの。
「相変わらずラブラブだなお前たちー」
「すっかり出来上がってるアンタに言われたくないっての、ヤムチャ」
パーティは始まって1分ってところのはずなのに、もうヤムチャは酔っ払っていた。
隣で飲んでいたらしい亀仙人も、ふらふらとした足取りで私の方に近づいてくる。
私の腕を掴んでいたピッコロの力が少し強まり、私を守るように前に出た。
「なんじゃピッコロ、そんなに警戒せんでもよかろう?」
「・・・どの口がそれを言うんだ」
「なぁに、わしゃただの老人だからのぉ・・・ほれっ」
「っ!!このっ・・・・!!」
ブルマのパーティ用に買った・・・というより魔法で出した黒いドレス。
いつもより少し短めなのだが、亀仙人はそれを器用にぴらっと捲った。
もちろん、それを私達が許すわけもなく。
一瞬で私とピッコロの拳が炸裂し、亀仙人が宙を舞った。
「何よアンタ達ー。来たんだったらまずは私に挨拶しなさいよねー」
騒ぎを聞きつけたのか、挨拶しに行こうと思っていたブルマが私達の方に歩いてくる。
もはや倒れてる亀仙人にはノータッチ。
慣れた、ものだ。
「誕生日おめでと、ブルマ!これ私達からプレゼント」
「あら、ありがとうね。アンタ達も楽しんでいきなさいよ!」
豪快に笑うブルマにプレゼントを手渡して。
私達はすぐ、立食会場にいる悟飯達のところに向かった。
こうやって皆が集まるのは1年ごとだ。
何だかんだ私達はさほど会うことはない。
ある意味この誕生日パーティは、再会の場所でもある。
「久しぶりだな、悟飯」
「お久しぶりですピッコロさん、ゆえさん」
「久しぶり!」
「わー!!お久しぶりですね!ピッコロさんにゆえさん!」
相変わらず元気そうな悟飯と、そのお嫁さんのビーデル。
二人共、仲良くやってるらしい。
その証拠にビーデルのお腹に宿る魂が見えた。
新しい、命の煌きだ。
まだとても小さい。
悟飯には言ってないのかな?
「ピッコロさん達も何か食べてきたらどうです?」
「そうだね。何か食べよっか、ピッコロ?」
「・・・俺はいい」
「じゃあ飲み物取ろうよ」
手を引っ張ってパーティ会場を連れ回す。
こういう時ぐらいしか、珍しいものとか新しい発見とか無いから。
ついついはしゃぎたくなってしまうのだ。
特に大金持ちブルマのパーティはひと味もふた味も違う。
見たこと無い飲み物に目を輝かせていた私は、ふと会場の端っこにある謎のものを見つけてピッコロの腕を引っ張った。
「ねぇ、ピッコロ」
「なんだ?」
「あれ何かな」
「ん?」
私が指さした先にあったのは、台の上に並べられたお人形と、そこから少し離れた場所においてある銃。
こんなところに本物の銃なんていう物騒なものがあるとは思えないが。
「あぁ、射的だな」
首を傾げていた私に、珍しくピッコロが答えを出した。
「しゃてき?」
「あの位置から人形を撃つゲームのようなものだ。祭りなどで良くあるらしい」
「そうなんだ・・・なんで知ってるの?私でも知らなかったのに・・・」
「お前よりは地球の知識に詳しいからな」
「す、すみませんね・・・下界の観察さぼって・・・・」
私達神殿の者の仕事は地球を見守ること。
メインはデンデがするんだけど、デンデだけじゃ悪いと私達も交互にやることにしたのだが。
下界の観察ってほんと・・・暇なのだ。私がやるときは大体寝てる。
その時は何も言われないが、ピッコロは私が居眠りしていることを知っていたのだろう。
「ね、あれ私にも出来る?」
「出来ると思うぞ?」
「よし、じゃあやってみようよ!勝負よピッコロ!」
「ほう?いつも魔法で銃を使っているお前は、俺に勝たないと恥だぞ」
ピッコロの言葉を無視して射的とやらに近づいた。
近づいて見てみると、意外と人形との距離があって驚く。
なるほど。これを撃つのか。
「ゲームのルールは?」
「通常のルールは景品としてほしいものを撃って落とすゲームだが・・・それでは勝負にならんだろう。いち早く全てを撃ち落とした方が勝ち、でどうだ?」
ピッコロの方を見れば、そこにも射的台があった。
並んでゲーム出来るなら確かにそっちの方が面白そうだ。
そう思って銃を構えた私達に、後ろから声が掛かる。
「なんだよお前ら子供みたいだな!俺が審判してやろーか?」
「あ、クリリン。18号、お久しぶり!」
「久し振りだね。アンタ達のことだ、やりすぎて壊すんじゃないよ?それは子供用のゲームなんだからね」
「わ、私を何だと思って・・・そんなの分かってるわよ・・・」
「・・・・・さっさと始めろクリリン」
「うわ!ピッコロは相変わらずこえぇな・・・よーし、んじゃ、いくぜー?」
クリリンと18号にからかわれたピッコロは、苛立ちをクリリンにぶつけた。
びびったクリリンが慌てて合図を出す。
「よーい、スタート!!」
合図が出されたと同時に引き金を引いた。
でも、目の前の人形はどれも倒れない。
「・・・あれ?」
隣を見れば、ゆっくりだが1つずつ確実に撃ち落としていくピッコロの姿。
そっか。
魔法の銃みたいに弾丸を操ったり出来ないもんね、勢い任せじゃ駄目か。
今更ながらのことに気づき、私もゆっくり銃を構える。
そしてもう一度――――引き金を引いた。
「・・・ゆえ、お前・・・案外下手くそなんだな」
「うぐっ」
あたって、ない。
恥ずかしさで手がぷるぷると震える。
ち、違うわよ。これは間違い。
逆に近すぎて狙いにくいってやつよ。
言い訳しながら、次こそ!と気合を入れて引き金を引く。
「頑張りなよ、ゆえ。たとえゲームでも勝たなきゃ意味がない」
「18号の応援なら頑張っちゃうから・・・!」
一度コツを掴めば順調だった。
ピッコロと開いた差も、すぐに埋まる。
最後には私がひとつ早めに倒して。
ラスト1個。これを倒せばピッコロに勝つ・・・ってところで、私はぞくりと身体が震えるのを感じて手を止めた。
「・・・・・」
感じる。
遠い、遠い場所で。
「・・・・・っ」
厄介なものが、目覚めた感覚。
「・・・・い、おい?ゆえ?」
「っ・・・あ・・・」
思わず、銃を落としかけた。
慌てて落ちかけたそれをキャッチし、台の上に置く。
「どうしたんだ?」
「アンタ、少し顔色が・・・」
「大丈夫大丈夫!ちょっと水飲んでくるね!」
せっかく遊んでたのに。
雰囲気を壊してしまったと感じた私は、いち早くその場から離れた。
水を取ってくる、っていうのは嘘で。
誰も居ない少し離れた場所に、佇む。
「・・・・どうしたんだ、ゆえ」
彼はついてくると思ってた。
後ろから聞こえたピッコロの声に振り返りもせず、私はさっき感じた感覚の方を見上げ続けた。
感じたのは強い力。
でもそれは、ピッコロたちには感じ取れない力。
そう、神様の目覚め。
あの厄介な神の。
「顔色が悪いぞ・・・?」
「・・・心配かけて、ごめん。でも大丈夫」
正確な位置は分からないけど。
確かに感じ取った。
「ゆえ・・・・」
ピッコロの声が私を誘導する。
いつもより優しい声。
それなのにどこか私を、咎めるような。
私はもう一度空を見上げ、ピッコロになら良いだろうと口を開いた。
「破壊神ビルスが目覚めた」
「・・・・何?」
あぁ、やっぱり。
神様と融合したピッコロの記憶には、その名前があるらしい。
「まぁ、さすがに地球からは遠いから・・・関係ないとは思うけど」
「・・・・そうか」
「目をつけられたら最後だよ?」
「っ・・・・・」
「って言ったけど、こんな場所に用は無いと思う」
破壊神ビルス。
気まぐれな破壊を行い、眠りにつく神様。
昔はよく衝突したものだ。
創造神から生まれた天使と、破壊の神。
衝突しないわけがないでしょ?
「・・・なら、そんな顔をするな」
「ありがと。大丈夫・・・厄介だなーって思ってただけだよ!」
「フン・・・・」
「っ・・・・」
頭をがしがし撫でられた。
痛いながらも優しい愛情に、自然と笑みが零れる。
ま、今はもう悪魔の私。
関係ないっちゃ無いしね。
「さ、パーティの続きにいこー!」
「おい!引っ張るな・・・!!」
今はこの時間を楽しむだけ。
私はピッコロのマントを引っ張って飲み物のある場所へと走った。
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