いらっしゃいませ!
名前変更所
授業が始まる鐘が鳴る。
その時、私はもう教室になんて居ない。
何故って?
だって嫌いなの、勉強。
物音を立てずにするりと保健室に忍び込んで。
誰もいない一番奥のベッドに身体を横たえる。
「ふかふか。気持ちいい・・・」
授業中のベッドって中々に心地良い。
優越感に浸りながらカーテンを閉め、本格的に寝そべった。
眠気はほとんど無い。
だからここですることは、内緒で持ってきたマンガやゲームをすること。
「さて・・・昨日の夜、どこまでやったんだったかな」
手早く携帯ゲームを広げて電源をつける。
ゲームの音も楽しみたいから、ポケットに隠しておいたイヤホンを片耳だけつけた。
「あ、ここか。ちゃっちゃとクリアーしますか」
堂々としてる?でもね。
私達は人の気配とか気を読めるから問題ないのさ。
私はゲームをしながらも、きちんと扉の近くの気配を探ってる私。
サボり魔の私に隙は無い。
「さすがサボり魔のプロね」
自分自身を褒めながら。
手元のゲームに集中する。
「っよし・・・進んだ!次は・・・」
授業中のゲームほど楽しい物は無い。
そういえば、今の時間帯の授業ってなんだっけ。
一時間目からいろいろさぼってた私は、授業教科を見るために鞄を漁った。
一週間に一度見るか見ないかの、くしゃくしゃになった授業表。
今日の日付の授業をなぞれば、今の時間は・・・。
「理科、か。・・・・ま、いっか。どうせピッコロ先生だし」
彼は放置主義タイプの先生だ。
ちゃんとやるやつには教えるが、サボるやつは勝手に落ちてろってタイプの人。
だからサボっててもそこまでは問題ない先生の一人。
セル先生あたりだと、即効捕まえにくるから困るんだけど。
「さぁて・・・とっぅ、ひあぁあああ!?」
用の無くなった授業表をくしゃくしゃにして。
もう一度ゲームに戻ろうとした私は、音もなく自分からゲームを取り上げた存在に悲鳴を上げた。
「だ、だれだ!」
「見て分からんのか、クソガキが」
「ピ・・・ピッコロ先生!?え、いつのまに!?」
「フン・・・散々さぼってきやがって。貴様の行動パターンがわからないとでも思うのか?」
「そ、それはそうだとしても・・・気配感じなかったのに・・・・ッ!」
「貴様に見抜かれるほど、ヤワな鍛え方はしてないのでな」
「あぁああぁあ!!??」
そう言いながらバキッと音を立てて私のゲームを壊すピッコロ。
粉々になった機械が、ぱらぱらと保健室のベッドに降り注ぐ。
「な・・・何してくれるんだこの馬鹿!!」
「ほう?貴様、教師に向かっての口の聞き方までなってないな」
「知らないよ!わ、私のゲーム機・・・っ!」
「ざまぁないな」
「・・・・こんの馬鹿教師」
「口の聞き方に気をつけろ、ゆえ」
「ハゲ」
「もう一度だけ言ってやる。口の聞き方に気をつけろ」
ピリリとした冷たい殺気。
でもこんなのに負けちゃ、サボり魔の名が廃る。
私は身長の高いピッコロを、ベッドに立って睨み上げた。
それでも全然、ピッコロの方が高い。
「っ・・・・弁償してくださいよ、先生」
「断る」
「なんでよ!」
「・・・・なら、今から俺が出す問題に全て答えられたらいいぞ」
「え、ほんと?確率がゼロより、0.1%の方がいいに決まってるでしょ?受けて立つ!!」
「お前な・・・・」
ピッコロが呆れ顔を浮かべる。
あれ、こんな表情もするんだ?って。
何故か視線が釘付けになった。
なんだろ、いっつも無表情でむすってしてるイメージだったんだけどな。
そんな表情もするんだね、先生。
「なら最初は・・・これだ」
白衣を揺らしながら、ゆっくりと私の顔の前に手を差し出す。
その手にポン!と音を立てて現れた、二つの瓶。
「どちらが塩酸、どちらかが硫酸だ。ここにあるものだけで見分ける方法を答えろ」
「ピッコロ先生の指をいれる」
「ほう?なら貴様の指で試してみるか」
「あぁああぁああやめてぇええ!!!」
透明な液体に指を入れられる前になんとか腕を振りほどいた。
な、なんてやつだ。
本気でやるつもりだったぞコイツ。
「くくっ・・・・どうした?クソガキ」
「なんてやつ・・・!もういいわよ、ゲーム諦めるから出てって」
「・・・・・口の聞き方に気をつけろと言ったはずだが?」
「生徒の指とかそうとするやつの言うことなんて、聞くわけ・・・・」
ぎしり。
ベッドが、嫌な音を立てて軋んだ。
何故か?
その答えは私の目の前にある。
「なんの、つもり?」
私に覆いかぶさるようにベッドに乗っているピッコロ。
この体勢が意味することなんて、どんな馬鹿でも分かるだろう。
「教師が何するつもり?」
「大人を馬鹿にするということが、どういうことか分かっていないようだからな・・・」
「っ・・・・」
「貴様は俺が担任だった時もそんな態度だった。この俺に、指導された回数も多い」
「だから、なに」
「少しは痛い目見たほうがいいんじゃないか?・・・・なぁ?」
にじり寄ってくるピッコロから後ずさって。
でも、壁はすぐそこ。
トンと音を立ててぶつかる背中。
思わず、冷や汗が流れる。
「あいにくこの時間では保健室には誰もこない。授業終了まであと20分もあるな」
「そ・・・それが、どうした!」
怖くて声が震えた。
でも、こんなのでびびるわけには。
こんなのでびびったら、こいつの思うがまま。
「強情だな」
「うっさいな」
「くくっ・・・」
にじり寄る彼を止められない。
目の前に近づいた彼の顔を見て、目を閉じる。
ぎゅっと瞑った目。
布の擦れる音と、頬に触れる感触だけが伝わってきて、じんわりと目頭が熱くなった。
「・・・・・」
泣くつもりなんて無かったけど、ここまで来ると身体が勝手に。
恐怖を、後悔を、感じて。
「・・・・・っ?」
何も、来ない。
どれだけ待っても、来るであろう感触は来なかった。
そっと目を開ければ私を見下げるピッコロの姿。
「フン・・・最初からそのぐらい弱々しくしとけばいいんだ、馬鹿者が」
ピッコロはそのまま何もせず、ベッドから身体を起こした。
何事も無かったかのようなその行為がむかついて、咄嗟にピッコロの白衣を引っ張る。
「っ!?何しやがる!?」
「先生は、好きでもない人にこういうことするように教育するんですか?」
「っ・・・・!」
「そういうの、さすがに酷いんじゃないの?」
次は私の番だ。
さぁ、困れ。
私がさっき流した涙の分まで謝ってもらうから。
でも私の言葉は、予想外の方向へと事を運んだ。
「・・・そう、だな」
「へ?」
「すまなかった」
い、いや、確かに謝って欲しかったんだけど。
そこまで申し訳無さそうにされると、なんか・・・拍子抜けっていうか。
満足した私はとりあえず笑って冗談であることを伝えた。
「嘘よ嘘。別に気にしてないよー?もちろん、さぼってた私が悪いですし」
「そうか・・・フッ。なら、今度からは俺の授業には出るんだな」
「しょーがない」
そう言いながら。
ちらりと見えたピッコロの表情に――――心臓が、跳ねる。
普通の人間じゃないピッコロ先生。
でもその表情はすごく男らしくて、さっきのことを思い出してドキドキした。
「・・・っ」
い、いや、ないよね?
教師に一目惚れなんて、そんな。
そんなことって。
「・・・ね、先生」
「なんだ?」
「もし次、先生の授業に出なかったら・・・どうする?」
「フッ・・・今度こそ泣いても止めんかもしれんぞ?」
「そっか」
なら、先生。
「じゃあ、またさぼっちゃおっかな」
さぼれば次はキスしてくれるんでしょ?
「何・・・?」
「ふふっ」
たったあの一瞬で。
私を魅了した先生が悪いんだよ。
「先生に追いかけてもらえるなら、さぼっちゃうから」
クスリと笑って、ピッコロに顔を近づける。
するとピッコロも不敵な笑みを浮かべながら私に顔を近づけた。
さっきよりも近い位置。
心臓が、壊れそうになる。
「ほう?つまりそれは、俺に追いかけられたいということか?・・・物好きだな」
「物好きでもなんとでも言って下さい。ま、とりあえずは・・・・」
格闘ゲームは卒業ね。
今日からは
「覚悟して下さい、先生?」
恋愛ゲームの、始まり。
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