Erdbeere ~苺~ 1.授業中こそ保健室 忍者ブログ
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2015年07月12日 (Sun)
ピコ夢/ピコ=理科の先生/連載ヒロインは学生/甘/※ヒロイン視点

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授業が始まる鐘が鳴る。
その時、私はもう教室になんて居ない。


何故って?

だって嫌いなの、勉強。

物音を立てずにするりと保健室に忍び込んで。
誰もいない一番奥のベッドに身体を横たえる。


「ふかふか。気持ちいい・・・」


授業中のベッドって中々に心地良い。

優越感に浸りながらカーテンを閉め、本格的に寝そべった。


眠気はほとんど無い。
だからここですることは、内緒で持ってきたマンガやゲームをすること。


「さて・・・昨日の夜、どこまでやったんだったかな」


手早く携帯ゲームを広げて電源をつける。

ゲームの音も楽しみたいから、ポケットに隠しておいたイヤホンを片耳だけつけた。


「あ、ここか。ちゃっちゃとクリアーしますか」


堂々としてる?でもね。
私達は人の気配とか気を読めるから問題ないのさ。


私はゲームをしながらも、きちんと扉の近くの気配を探ってる私。

サボり魔の私に隙は無い。


「さすがサボり魔のプロね」


自分自身を褒めながら。
手元のゲームに集中する。


「っよし・・・進んだ!次は・・・」


授業中のゲームほど楽しい物は無い。

そういえば、今の時間帯の授業ってなんだっけ。
一時間目からいろいろさぼってた私は、授業教科を見るために鞄を漁った。


一週間に一度見るか見ないかの、くしゃくしゃになった授業表。

今日の日付の授業をなぞれば、今の時間は・・・。


「理科、か。・・・・ま、いっか。どうせピッコロ先生だし」


彼は放置主義タイプの先生だ。
ちゃんとやるやつには教えるが、サボるやつは勝手に落ちてろってタイプの人。


だからサボっててもそこまでは問題ない先生の一人。

セル先生あたりだと、即効捕まえにくるから困るんだけど。


「さぁて・・・とっぅ、ひあぁあああ!?」


用の無くなった授業表をくしゃくしゃにして。

もう一度ゲームに戻ろうとした私は、音もなく自分からゲームを取り上げた存在に悲鳴を上げた。


「だ、だれだ!」
「見て分からんのか、クソガキが」
「ピ・・・ピッコロ先生!?え、いつのまに!?」
「フン・・・散々さぼってきやがって。貴様の行動パターンがわからないとでも思うのか?」
「そ、それはそうだとしても・・・気配感じなかったのに・・・・ッ!」
「貴様に見抜かれるほど、ヤワな鍛え方はしてないのでな」
「あぁああぁあ!!??」


そう言いながらバキッと音を立てて私のゲームを壊すピッコロ。
粉々になった機械が、ぱらぱらと保健室のベッドに降り注ぐ。


「な・・・何してくれるんだこの馬鹿!!」
「ほう?貴様、教師に向かっての口の聞き方までなってないな」
「知らないよ!わ、私のゲーム機・・・っ!」
「ざまぁないな」
「・・・・こんの馬鹿教師」
「口の聞き方に気をつけろ、ゆえ
「ハゲ」
「もう一度だけ言ってやる。口の聞き方に気をつけろ」


ピリリとした冷たい殺気。
でもこんなのに負けちゃ、サボり魔の名が廃る。


私は身長の高いピッコロを、ベッドに立って睨み上げた。

それでも全然、ピッコロの方が高い。


「っ・・・・弁償してくださいよ、先生」
「断る」
「なんでよ!」
「・・・・なら、今から俺が出す問題に全て答えられたらいいぞ」
「え、ほんと?確率がゼロより、0.1%の方がいいに決まってるでしょ?受けて立つ!!」
「お前な・・・・」


ピッコロが呆れ顔を浮かべる。

あれ、こんな表情もするんだ?って。
何故か視線が釘付けになった。


なんだろ、いっつも無表情でむすってしてるイメージだったんだけどな。

そんな表情もするんだね、先生。


「なら最初は・・・これだ」


白衣を揺らしながら、ゆっくりと私の顔の前に手を差し出す。

その手にポン!と音を立てて現れた、二つの瓶。


「どちらが塩酸、どちらかが硫酸だ。ここにあるものだけで見分ける方法を答えろ」
「ピッコロ先生の指をいれる」
「ほう?なら貴様の指で試してみるか」
「あぁああぁああやめてぇええ!!!」


透明な液体に指を入れられる前になんとか腕を振りほどいた。

な、なんてやつだ。
本気でやるつもりだったぞコイツ。


「くくっ・・・・どうした?クソガキ」
「なんてやつ・・・!もういいわよ、ゲーム諦めるから出てって」
「・・・・・口の聞き方に気をつけろと言ったはずだが?」
「生徒の指とかそうとするやつの言うことなんて、聞くわけ・・・・」


ぎしり。

ベッドが、嫌な音を立てて軋んだ。


何故か?
その答えは私の目の前にある。


「なんの、つもり?」


私に覆いかぶさるようにベッドに乗っているピッコロ。
この体勢が意味することなんて、どんな馬鹿でも分かるだろう。


「教師が何するつもり?」
「大人を馬鹿にするということが、どういうことか分かっていないようだからな・・・」
「っ・・・・」
「貴様は俺が担任だった時もそんな態度だった。この俺に、指導された回数も多い」
「だから、なに」
「少しは痛い目見たほうがいいんじゃないか?・・・・なぁ?」


にじり寄ってくるピッコロから後ずさって。

でも、壁はすぐそこ。
トンと音を立ててぶつかる背中。


思わず、冷や汗が流れる。


「あいにくこの時間では保健室には誰もこない。授業終了まであと20分もあるな」
「そ・・・それが、どうした!」


怖くて声が震えた。


でも、こんなのでびびるわけには。
こんなのでびびったら、こいつの思うがまま。


「強情だな」
「うっさいな」
「くくっ・・・」


にじり寄る彼を止められない。
目の前に近づいた彼の顔を見て、目を閉じる。

ぎゅっと瞑った目。


布の擦れる音と、頬に触れる感触だけが伝わってきて、じんわりと目頭が熱くなった。


「・・・・・」


泣くつもりなんて無かったけど、ここまで来ると身体が勝手に。
恐怖を、後悔を、感じて。


「・・・・・っ?」


何も、来ない。

どれだけ待っても、来るであろう感触は来なかった。


そっと目を開ければ私を見下げるピッコロの姿。


「フン・・・最初からそのぐらい弱々しくしとけばいいんだ、馬鹿者が」


ピッコロはそのまま何もせず、ベッドから身体を起こした。
何事も無かったかのようなその行為がむかついて、咄嗟にピッコロの白衣を引っ張る。


「っ!?何しやがる!?」
「先生は、好きでもない人にこういうことするように教育するんですか?」
「っ・・・・!」
「そういうの、さすがに酷いんじゃないの?」


次は私の番だ。

さぁ、困れ。
私がさっき流した涙の分まで謝ってもらうから。


でも私の言葉は、予想外の方向へと事を運んだ。


「・・・そう、だな」
「へ?」
「すまなかった」


い、いや、確かに謝って欲しかったんだけど。
そこまで申し訳無さそうにされると、なんか・・・拍子抜けっていうか。


満足した私はとりあえず笑って冗談であることを伝えた。


「嘘よ嘘。別に気にしてないよー?もちろん、さぼってた私が悪いですし」
「そうか・・・フッ。なら、今度からは俺の授業には出るんだな」
「しょーがない」


そう言いながら。
ちらりと見えたピッコロの表情に――――心臓が、跳ねる。


普通の人間じゃないピッコロ先生。

でもその表情はすごく男らしくて、さっきのことを思い出してドキドキした。


「・・・っ」


い、いや、ないよね?
教師に一目惚れなんて、そんな。

そんなことって。


「・・・ね、先生」
「なんだ?」
「もし次、先生の授業に出なかったら・・・どうする?」
「フッ・・・今度こそ泣いても止めんかもしれんぞ?」
「そっか」


なら、先生。


「じゃあ、またさぼっちゃおっかな」


さぼれば次はキスしてくれるんでしょ?


「何・・・?」
「ふふっ」


たったあの一瞬で。
私を魅了した先生が悪いんだよ。


「先生に追いかけてもらえるなら、さぼっちゃうから」


クスリと笑って、ピッコロに顔を近づける。

するとピッコロも不敵な笑みを浮かべながら私に顔を近づけた。


さっきよりも近い位置。
心臓が、壊れそうになる。


「ほう?つまりそれは、俺に追いかけられたいということか?・・・物好きだな」
「物好きでもなんとでも言って下さい。ま、とりあえずは・・・・」


格闘ゲームは卒業ね。


今日からは


「覚悟して下さい、先生?」


恋愛ゲームの、始まり。
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