いらっしゃいませ!
名前変更所
矢の飛んで行く音。
弓のしなる音。
その全てが私を集中させ、時間を忘れさせる。
「・・・・っあれ、もうこんな時間か」
気づけば夕日も沈みかけていて。
他に矢の刺さる音も聞こえなくなっていた。
結構遅くなってしまっていたらしい。
集中すると、いつもこうだ。
「片づけなきゃ」
手早く道具を片付ける。
額から落ちてきた汗が、目に入ってきて痛い。
「ふー・・・」
ちゃっちゃと帰ってお風呂入りたいなぁ。
そんなことを思いながら出口の方を見ると、人影が目に入った。
あれ?まだ人が居たんだ。
せっかくだし一緒に帰ろうと急いで駆け寄る。
「あれ、ビーデル」
「あ・・・ゆえ先輩」
そこにいたのはビーデルだった。
ふと放課後のことを思い出した私は、首を傾げる。
「ビーデル、今日悟飯とデートじゃなかったっけ?」
「あ・・・そ、そうだったんですけど・・・」
「?どうしたの?」
ごそごそ。
ビーデルは話しながらもずっと鞄を探っていた。
その動きが気になって、迷った挙句その行動に触れる。
「何か無くしたとか?」
「っ・・・・」
あ、いきなりビンゴ?
私の言葉にビクッと肩を震わせたビーデルが、申し訳無さそうに出口の扉を見た。
「ごめんなさい、ゆえ先輩・・・私、部室の鍵無くしちゃって・・・」
「あぁー・・・そういえば今日当番だったっけ?」
「はい。それで、ゆえ先輩に引き継ごうと思って来たんですが・・・・」
なるほど、そこで無くしてるのに気づいたってわけか。
今にも泣きそうな顔をしているビーデルの頭を撫でる。
真面目な子だからこそ、悟飯を待たせてるのも辛いだろう。
うーん、どうするか。
悩んだ私はその場に荷物を下ろし、笑った。
「無くした場所の目星はついてる?」
「部室です!開けた時にはあったので・・・」
「オッケー。なら私が探しとくよ。ビーデルは悟飯のところ行ってあげな」
「え・・・!?だ、だめですよ!私が・・・!」
「独り身の私はこれからの時間フリーだもーん。・・・ってなわけで、この借りはアイスで許してあげるから、行ってきて?」
「・・・・ゆえ先輩・・・すみません、ありがとうございます!」
早く帰りたかったけど、たまには先輩なところも見せないとね。
そう自分に苦笑した私は、消しかけていた部室の電気をもう一度付け直した。
さて。
部室とはいえ、弓道場までついてるこの部屋はわりと広い。
どこから探すか・・・・。
「何をしているんですか貴方は」
「ん?およ、フリーザ先輩、どうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃないでしょう・・・今何時だと思っているんですか・・・・」
ビーデルと入れ替わるように入ってきたフリーザ先輩に言われ、時計を探す。
見つけた時計の針が刺す数字は、7時。
そういえばもう周りは暗い。
さっきまで明るいとか思ってたのにな。
「7時ですねー。もう暗くなっちゃいました」
「貴方の管理能力の無さが浮き彫りになりますね。今日は遅くても5時には出るようにと言われていたはずですが?」
「っそ、それはー・・・・まぁ、夢中になって忘れちゃったといいますか!」
「どうやら痛い目を見たいようですね?」
にっこりと笑うフリーザ先輩は、そう言いながら拳を固める。
あ、そうやってすぐ暴力する!
駄目ですよ、先輩ってば。
・・・・なーんていつもみたいな軽口は許されず。
一瞬で降り注いだ鉄拳に、ぐえっとカエルが潰れたような声を上げた。
「っだー!!痛いですよ、何するんですか!」
「貴方がへらへらしてるからでしょう。さっさと帰りますよ」
「帰るために今ここにるんですよ、待って下さい」
「・・・・何してるんですか貴方は」
電気をつけながら部室を中腰で歩く。
そんな私を見て、フリーザ先輩が深いため息を吐いた。
「ん?見ての通りですよ」
「私には貴方が地面を這いつくばっているようにしか見えないのですがね?」
「あー、鍵探してるんですよ、鍵。部室の鍵無くしちゃって」
「・・・・・・・はい?」
上を見ながら床を探れば、とびっきりの呆れ顔が飛び込んでくる。
「鍵を無くした?」
「あ、やめて、その殴りかかりそうなポーズやめて」
「殴られないうちに探しだすといいですよ。今度は手加減しませんからね」
「それってどのぐらい待ってくれるんです?」
「10秒ですかね」
「短っ!」
タイムリミットの無さに思わず手を掴んで抗議した。
「先輩も手伝ってくださいよ」
皆に恐れられているフリーザ先輩。
でも私の前では、ちょっとだけ違う。
その証拠に、フリーザは私の手を払うこと無く私を見下げた。
そして顔を近づけ、囁く。
「貴方がその態度を止めるなら考えてあげますよ」
「へ?」
「二人きりの時の約束をお忘れですか?」
「・・・・だってすぐ怒るから・・・・」
「貴方が間抜けな格好して、しかも遅くまでいるからでしょう?」
「怒らないでよ、フリーザ」
私達の約束。
それは、二人きりの時にはお互いに普段通りの態度をとること。
普段通りって何かって思われるかもしれない。
私達の普段通りっていうのは、恋人同士になることだ。
そう。
私達は、恋人同士だから。
「それで、どこで無くしたか目星はついているんですか?」
尻尾で器用に私の頬を撫でながら聞くフリーザ。
くすぐったさに身を捩りながら、うーんと唸る。
ここで、ビーデルが無くしたなんて言うのはもちろん駄目。
「一応、部室だと思うんだけど・・・・」
「・・・・しょうがないですね、鍵を見つけるまでは帰れませんよ?」
「フリーザも手伝ってくれるんでしょ?ありがとー」
にっこり。
笑いながらそう言えば、フリーザの表情が更に呆れを含んだ。
私の頬を撫でていた尻尾がびしっと私を叩いて。
それから私の荷物を乱暴に退かした。
「まったく・・・なんで私がこんなことを・・・」
「そう言いながら付き合ってくれるフリーザってば最高」
「まぁ・・・最近大会などで貴方との時間がありませんでしたからね・・・」
鍵を探す私の後ろをついてきて、フリーザが私の身体に触れていく。
探してくれるのを手伝ってるかと思いきや、私の後をついてくる彼がしてるのはそれだけ。
私の身体にふれて、何かを探すたび口付けて、集中できない。
「フリーザ」
「なんです?」
「その、くすぐったいんですけど?」
「我慢しなさい」
「え、なにそれ。そんなことするぐらいなら手伝ってよね」
「私は手伝うよりもこちらがいいんですよ」
優しい口調で人の集中力を奪ってくるからタチが悪い。
頑張って集中しようとフリーザの行為を無視していたが、棚のあたりを探そうと上に手を伸ばした瞬間に脇を撫でられ、悲鳴を上げた。
「ひゃっ!?ちょ、ちょっと!?何すんの!」
「別に何もしていませんが?少し触れただけでしょう」
「っ・・・変なところ触るな馬鹿」
「そんなことより早く探しなさい。でないとずっとこのままですよ・・・?」
ふっと耳に吹きかけられた息。
ぞくりと走る痺れに、変な声が上がりそうになる。
振り払おうにもフリーザの方が力が強くてそんなこと出来ない。
大人しくやられっぱなしになるしかないんだけども、それだと集中出来なくて。
「っ~~~~ちょっと!フリーザっ」
思わず振り返り、フリーザの手を掴んだ。
私が振り返ることを予測していたのか、フリーザはどこか楽しげに笑う。
「どうしたんです?」
「触ってないで手伝って」
「お断りです」
「へっ?んっ・・・・!?」
突然本気の力で引き寄せられた私は、抵抗する間もなく口づけを受けた。
しかも、触れるだけのキスじゃない。
油断した隙に舌が入ってきて、私の舌をもてあそぶ。
自然と上がる息。
静かな部室に響く、いやらしい音。
「っは・・・フリーザ・・・」
「・・・・」
かちゃり。
後ろ手で部室の鍵を閉めた音が聞こえて、身体が震える。
「フリーザ、な、なんで鍵しめて・・・」
「部室の鍵がないのなら、内側から閉めれば誰も入ってこれないでしょう?」
「い、いやだから、どうしてそんな・・・・」
「おやおや・・・ここまで来てわからないとは言わせませんよ」
私と同じぐらいの身長のフリーザに退路を塞がれて。
後ろには、壁。
まるで押さえ込まれるように腕を掴まれた私は、口づけを受けて何も出来なくなる。
フリーザが何をしようとしてるのかは分かる・・・けど。
「ストップ!こんなところでそんなっ・・・・」
「諦めなさい、どうせ私からは逃げられないんですから」
「だ・・・だめ。こんなところでするのは・・・」
「・・・・最近貴方に触れることすら叶わなかったんですよ。こんなに近くで、耐えられるわけがないでしょう?」
降り注ぐ口付け。
熱い身体が、私に密着する。
「部室の鍵が見つかるまで」
”私の好きにされなさい”
その言葉と同時に、また唇を塞がれて。
私はただフリーザの好きにされるのだ。
その後、実はフリーザが鍵を見つけていて、私はただ好きにされただけっていう話を知った。
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