いらっしゃいませ!
名前変更所
空中で気が弾ける。
その姿を見るのは、彼らにとっては3回目ぐらいだろうか。
俺にとってはもう見慣れた姿。
当たり前だ。
俺の前でだけ見せる姿として、それは存在していたのだから。
「やっぱり、すげぇな・・・・」
ドラゴンボールを準備しながらポツリと呟く悟空の声が聞こえた。
ビルスと拳を交え始めたゆえの姿は、もういつもの姿じゃない。
長い青髪を揺らし、その瞳は鋭く敵だけを捉え、的確な攻撃を撃ちだす。
そう、次元の違う攻撃を。
「いでよ神龍、そして願いを叶え給え・・・!!」
戦いを見ながらも、耳を神龍の方へと傾ける。
これで超サイヤ人ゴッドが分からなければ、ゆえはあのまま戦い続けることになるだろう。
それを望んでいないのは分かっている。
だからこそ、俺は戦いを見守りながら神龍に願った。
頼む、神龍・・・今はお前だけが頼りだ。
《ドラゴンボール7つ揃えし者よ。願いを叶えてやろう》
「なー、神龍。超サイヤ人ゴッドって知ってるか?」
《・・・な、なんだいきなり。知っているが》
「ほんとか!?」
《質問が多いな・・・!!本当か?というのが願いか?》
「いや、違ぇ。もし本当なら連れてきてほしいんだ」
激しい戦いと。
どこか和やかなこの雰囲気と。
悟空の願いを聞いた神龍が、静かに首を横に振る。
《それは出来ない。存在しないからだ》
「へっ?でも知ってるって・・・・ビルス様が知りたがってんだよ、教えてくれねぇか?」
《ビ、ビルス様!?》
落ち着いた神龍の声が、聞いたことのないような声で引きつった。
神龍も神から作られた存在。
そして神を越えれない存在だ。
その記憶の中には、ビルスのこともきちんと存在しているんだろう。
「そいつらに超サイヤ人ゴッドのことを教えてあげなさい」
「頼んだ、神龍ー!」
《ル、ルシフェル様まで・・・!?》
戦いながらも俺達の方を向く余裕がある二人は、さすがというべきか。
二人の上位階級の神に言われて、神龍は明らかにいつもとは違うペースで話し始める。
《ス、超サイヤ人ゴッドとは・・・・》
超サイヤ人ゴッドとは。
正しき心を持った5人のサイヤ人が、もう一人の正しき心を持ったサイヤ人に光を注ぎ込み創りだした、一時的な――――”神”
昔、悪に溢れるサイヤ人の中で、それらを疑問に思ったサイヤ人達が創りだしたものらしい。
それが超サイヤ人ゴッド。
「正しき心を持った、サイヤ人・・・」
《答えてやったぞ。では、さらばだ・・・!》
神龍は逃げるように姿を消し、また7つのボールとして世界に弾け飛んだ。
神龍の話を聞いていた俺は、戦いを見ながらも鼻で笑う。
「正しき心を持ったサイヤ人か・・・無理だな?そんなサイヤ人は悟飯と悟天ぐらいだ」
俺の言葉に、ブルマがグイッと俺のマントを引っ張った。
「ちょっと!?ベジータはしょうがないとして、トランクスは正しき心を持ったサイヤ人でしょ!」
「フン。そんな年でガールフレンドがいるのは不純だ」
「はぁ!?なによそれ、じじ臭いわね!」
「そうだべピッコロさん!悟空も不純だっていうべか!?」
「大体それなら、元天使のゆえちゃんを妻に貰ってるアンタも不純でしょ!」
「うるさい!!俺は自分が純粋だとは言ってないッ!!」
こ、この女ども。
一つ言えば倍返しにしてきやがって・・・!
ウィスが見守る中、ビルスと戦うためにサイヤ人達が超サイヤ人ゴッドを作る準備を始める。
皆が手を取り合ってメインとなる悟空に光を注ぐ。
不満そうなベジータをブルマが窘めるのを見ながら、再び戦いの方へと視線を向けた。
「はっ・・・・はっ・・・」
「どうしたんだい?・・・まだそんなものじゃないだろう」
「こんなところで力を使いきったら、お楽しみの超サイヤ人ゴッドとは戦えなくなるけどー?」
「僕がそんなことで力を使い切るとでも?」
「知らないな。肩慣らしには十分でしょ」
「っ・・・なら、少し本気を出させてやるかな」
「やれるもんならやってみろ!」
拳がぶつかる音が、痛いほどに耳に響く。
奴らの戦いは俺達の次元とは明らかに違った。
なのにゆえはどこか舞うように戦っていて。
柄になくそれを、”美しい”と感じた。
「っがは・・・!!」
ビルスの拳がゆえの腹部を捉え、吹き飛ばした。
地面にぶつかるぎりぎり手前で踏みとどまったゆえの目が、苛立ちに光る。
ゆえは俺の方をチラリと見ると、その苛立った表情のままニヤリと笑った。
笑って、それから。
一瞬だった。
「なっ・・・・ぐあっ!?」
「お返しだこの猫野郎ッ!!」
見えない早さでビルスに飛び込んだゆえの攻撃。
一体何の攻撃で吹き飛んだのかすら理解できず、俺はただ呆然とその光景を見ていた。
吹き飛んだビルスは踏みとどまることも出来なかったのか、地面に転がっている。
その戦いをいつまでも見ていたいと思ってしまうのは、俺もまた戦闘馬鹿の一人なのだろうか。
「す、すごいですよ父さん!」
目の前の戦いが激しくなるのを見ながら、俺は後ろから聞こえた悟飯の声に振り向いた。
見れば、悟空が今まで以上の気を放ってその場に浮かんでいる。
皆が”超サイヤ人ゴッドだ!”と言って喜んでいるが・・・俺には、それが”違うもの”だということがすぐに分かった。
「これでオラも戦えるんか?」
「やめておけ、悟空」
「ピッコロ・・・」
「戦うだけ無駄だ。そんなのは神とは言えない」
表面上に現れた悟空の戦闘力。
確かに戦闘力だけ見れば相当なものだが、違う。
俺はそれを言葉にすることなくビルス達の方を見た。
見れば分かる。
あいつらの次元が違うことぐらい。
「ピッコロさんの言うとおり。表に戦闘力が出ている時点でまだまだですねぇ」
「ウィスさん・・・・」
落ち込む悟空に、ウィスがパフェを食べながら助言した。
「よーく思い出して下さい?5人のサイヤ人が、もう一人のサイヤ人に光を注ぐんですよ?必要なサイヤ人は合計・・・6人じゃありませんか?」
6人。
なるほど、なら失敗したのも頷ける。
頷けるが――――6人目のサイヤ人などいないぞ?
誰もが同じ考えに至り、6人目のサイヤ人を探し始める。
俺はそんな様子を見ながらまた二人の戦いに目を戻した。
「そんなに凝視しなくても、大丈夫ですよ?」
「うおっ!?」
突然掛けられ、思わず変な声が出る。
い、いつの間に後ろにいたんだ。
こいつら神とやらの気配は俺達に分からないからタチが悪い。
驚く俺をよそに、後ろに回っていたウィスが戦いを見ながら笑う。
「この戦い、勝敗は決まってますからね」
「何・・・?」
「あぁ、そんな不安な顔しないでください。勝つのはルシフェルですよ、ルシフェル」
「ゆえが・・・?」
ウィスの言葉にもう一度戦いを見るが、勝敗が決まっている戦いとは思えなかった。
二人の戦いはさっきから均衡を保っている。
ビルスがやられれば次にゆえがやられ、またやり返しての繰り返し。
お互いに同じ、もしくはどちらかが手加減している戦いなのだろうが。
「その手加減している方が、ゆえの方だということですよ」
俺の心を読んだウィスが楽しそうに言った。
「あの子は私達の世界の中でもかなり有名な”戦闘”天使ですからね」
「・・・だが、天使は天使だろう?破壊神に敵うことがありえるのか?」
「天使というイメージに捕らわれてはいけませんよ。悪魔という存在も、イメージとは違ったでしょう?」
「確かにな・・・・」
そうか。
ゆえは俺よりも長く、果てしない時を生きていているんだったな。
悪魔としての生は短くても。
天使としての生は、俺が知らない世界にある。
ゆえの事を俺以上に知っている人がいても、可笑しくない。
ただ少し――――悔しさを感じた。
「そろそろ息が上がってきたんじゃないの?」
「そういうビルスこそ、この後超サイヤ人ゴッドと戦う元気あんの?」
「まだまだ。僕は30%も出してないけど?」
「へぇ?私も30%だけどねー」
「ならもっと出せばいいだろう?」
「疲れるからやだ」
「まったく、君のお師匠さんはどんな鍛えかたしてるんだか」
ビルスの小馬鹿にしたような声が聞こえる。
次元の違う戦いの時点で俺はその言葉に怒りすら感じなかったが、真逆にゆえの表情は曇っていった。
「あらあら、ビルス様は挑発の仕方を覚えてしまったようですねぇ・・・」
「ん?」
ニヤニヤと笑うウィスの表情が俺を向く。
「ラブラブなんですねぇ、あなた達」
「なっ・・・・」
「ゆえさん、貴方のことを出されるとわりとすぐ挑発に乗ってしまうようですよ?」
二人の戦いが前より激しくなった。
どうやら、俺を馬鹿にしたビルスに対して、ゆえが少し本気になっているらしい。
拳がぶつかり合うだけで空気が震える。
押しつぶされてしまいそうなほどの力が、俺の身体にまとわりつくのを感じる。
「っそらぁ!!」
「ッ・・・だいぶ動きが良くなったじゃないか。それでこそ僕の求めてた力だ」
「そりゃどーも。これがさっきアンタが馬鹿にした・・・師匠に鍛えられた力だ!」
「ちょっと挑発しただけだろ?そんな本気になるなよな」
「そんの余裕の表情むかつくっ!」
激闘なのに。
地球をかけた戦いの一つだというのに。
何故かその戦いは、兄弟のじゃれあいのように見えた。
ゆえは分からないが確実にビルスはその戦いを楽しんでいる。
まるで、遊びのように。
「おや、そろそろ出来るようですね」
「・・・・・!?」
戦いに夢中になっていた俺は、後ろで走った光に目を見開いた。
なんだ、この気は?
気なのか?いや、分からない。
まるでゆえやビルスと同じような”雰囲気”がする。
「成功ですね」
クスリと笑うウィスの目の前で、悟空が青い光に包まれて新しい姿になっていた。
といっても変わったのは髪色ぐらいだろうか。
いつもは黒色の髪が、今は赤色に染まっている。
「成功?ほんとかぁ?オラ、神様になったんか?」
悟空が不思議そうに自分の身体を水面に映した。
まぁ、信じられないのも無理はないだろう。
誰もが同じような表情で悟空を見ていた。
そんな悟空に声を掛ける、楽しげな髪の姿が一人。
「ようやく出来上がったようだね?」
「ビルス様・・・オラ、神様になったらしいぜ」
「あぁ、まだ信じられてないようだな?来ると良い・・・すぐ分かる。お前が勝てたら地球を破壊しないでいてやるさ」
「本当か!?それじゃあ・・・・」
ん?
そういえば、ゆえは・・・・。
「っはー。やっとあっち行ってくれたわあの神様」
「ゆえ・・・お前、大丈夫なのか?」
悟空とビルスが戦いを始めようとする中。
今まで戦っていたはずのゆえの姿を見つけた俺は、すぐさま駆け寄った。
後ろで衝突音が聞こえ始めるが、気にせずゆえの身体をまじまじと見つめる。
あれだけ激しい戦いをしていたにも関わらず、ゆえは息一つ乱していない。
「平気平気。あんなのじゃれあいだから」
「・・・・ったく」
無邪気に笑うゆえの頭を乱暴に撫でる。
「ぶわっ!なにー?心配してくれたの?嬉しいなーっ」
「フンッ・・・貴様が無様な姿を見せないかは心配だった」
「失礼な」
「この俺の顔に泥を塗るような戦い方はやめてくれよ?」
からかうように言えば、ゆえの笑みが挑発的なものへと変わった。
白い翼を大きく広げ、戦いが激しくなっていくビルス達の方に視線を逸らす。
「誰に言ってんだか?私はピッコロの弟子ですよー?」
目の前で地球を賭けた戦いをしているというのに。
まったく、こいつは。
「それはお互い様じゃん。さ、ピッコロ。私達も二人の戦い見にいこ!」
「・・・・おい」
「ん?」
「戦いが終わったら、お前が天使だったころの話も聞かせろ」
「え、なんで?」
「・・・・なんとなくだ」
「ええー?なんとなく?しょーがないなぁ・・・」
お前のことを、俺以上に知っている奴がいるのは気に喰わないんだ。
――――という言葉を飲み込んで。
俺は静かにゆえの手を取った。
PR
この記事にコメントする
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)