いらっしゃいませ!
名前変更所
真っ直ぐ前を見て。
本日何度目かのため息を吐く。
目の前には傷だらけのベジータ。
修行のしすぎで馬鹿やらかしたこの姿。
気とか体力部分はだいぶ気の力で回復したはずなんだけど。
目の前のベジータは苦しそうにしたまま、目を覚まさない。
「ベジータ・・・」
おかしいな。
いつもならこのぐらいの回復で元気になるはずなのに。
不安に思いながらもベジータを見続ける。
ぴくりともしない彼の顔に、そっと触れてみた。
「暖かい」
なんだか、触れるのが久しぶりに感じる。
だって最近ずっと修行だったもん。
私も私で別なことしたりして、でもお互いにそういうの気にするタイプじゃないからどんどん時間がずれていって。
こうやって触れるのは久しぶりだ。
だからか、吸い込まれるように触れてしまう。
「ベジータ・・・・」
地球に来て少し柔らかくなったとはいえ、その厳しさやプライドはまだまだ山よりも高い。
そんな彼が唯一見せる、柔らかい表情。
頬に触れて。
そこからゆっくりと唇までなぞる。
いつも私に悪態を吐く唇まで来れば、自然と合わせたくなる唇。
「下品な女、だからね」
よく言われる言葉を呟いた私は、指を這わせた彼の唇に自らの唇を押し当てた。
少しガサついた感触。
触れるだけの、キス。
流れこんでくる、ベジータの香り。
安心するその香りを味わうように、唇を合わせ続ける。
「ん・・・・」
上がる熱に酔わされるのを感じた。
熱に酔ってしまう前に唇を離し、もう一度気を送り込もうとして気づく。
「ベジータ?」
気が揺らいだような気がしたんだけど。
気のせい、かな。
額に乗せていたタオルを濡らす。
乗せなおす時にその特徴的な髪をさらりと撫でた。
逆立ってるくせに柔らかい。
「ベジータ」
いつも衝突ばかりする私達。
でも分かってる。
感じてる。
歪んだ信頼でも、私達は認め合ってるってことを。
不器用なだけだってことを。
お互いに、知ってる。
「・・・・ベジータ」
だから寝てる時にだけ。
「愛してる」
言う。
囁く。
本当の、気持ちを。
ベジータにそっと抱きついて。
尻尾を腕に絡ませて、発情期の猫のように口付ける。
「ん」
もっと、欲しい。
もっとベジータを感じたい。
触れて、いたい。
「ベジー・・・」
「馬鹿かお前は」
「へっ!?」
いきなり目の前のベジータが目を開けて私を見た。
驚いた私をそのまま引き寄せ、ベッドに押し倒す。
薄暗い部屋の中。
ぼんやりと見える意地悪い笑みを浮かべたベジータ。
「お・・・・起きてたの・・・っ!?」
「てめぇなら気づいてただろうが」
「気づいてないよ・・・・」
「だから馬鹿だっていってるんだ」
「なんで!」
「油断するなと言っただろうが。たとえ俺の前でもな」
「戦闘馬鹿か」
「・・・・・」
「っだ!!」
無言で頭を殴られた。
私の上にまたがるベジータは、そのまま私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
この体勢、やばい。
久しぶりに触れるから、その、ドキドキして。
「っ・・・・」
「なんだ?いつもより大人しいな」
「うるさいな」
「ふっ・・・わかりやすい顔しやがって」
「んっ・・・!」
熱い。
ベジータからのキスは、私からするよりも熱くて溶けそう。
熱い視線が絡まる。
してやったり顔のベジータにいつもは怒りを感じるのに、今日はただただ煽られた。
「・・・・どうした?いつもみたいな口の悪いお前はどこ行った?」
「十分悪いと思うんだけど」
「そうだな・・・」
また、口付けられる。
「ん、ベジータ・・・・?」
「気に食わないが、今回の怪我は良かったかもしれねぇな」
「へ、なんで?」
「・・・・・黙れ」
「なんで!?」
「黙れ」
「むぐっ!」
次はキスなんて優しいものじゃなかった。
噛み付かれるように唇を吸われ、舌を絡め取られる。
もがこうとした手はベジータのごつごつとした手に押さえ付けられて。
動けない。
なのに、ドキドキする。
「馬鹿だな」
「っさいな。罵倒したり、キスしたり、どっちかにしてよ」
「どっちがいいんだ?」
「っ・・・・」
「どっちがいい」
聞かれるとは思わず、回答に詰まった。
そんな私を見て笑うベジータは、いつもより少し優しい。
馬鹿とか何とか。
もう罵倒は散々された気がするから、今日は素直に。
「・・・・キスで」
「くくっ・・・・」
ニヤリと笑ったベジータが私に顔を近づけてくる。
なんか、ベジータにしてやられた感じだけど。
これもこれで幸せだから、しょうがないなって諦めてた私の耳にとびこんできた、ありえない言葉。
「お前は単純で馬鹿で、可愛いな」
「・・・・・え?」
思わず目を見開いた。
その瞬間に塞がれる唇。
目が合ったままの口づけは、いつも以上に心臓が締め付けられた。
苦しい。
ベジータ、もう。
「どうした?」
笑って口づけを落とすだけのベジータに、私は完全敗北を認めて求めた。
「ベジータが、欲しい」
「・・・・いいのか?」
「どうなっても、いいから。ベジータになら、全部・・・・」
「もう、黙れ」
次は目を塞がれて口付けられた。
これが不器用な私達の、日常の一コマ。
幸せな、時間。
いつもベジータに翻弄される。
それもまた、幸せだと思う私は。
もう、末期なのかもしれない。
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