いらっしゃいませ!
名前変更所
「今日はこれで終わりだ」
「はーい」
トレーニング室に似つかわしくない声。
そして私とさほど変わりない小さな身体。
私を見つめる、純粋な目。
長く真っ直ぐな黒髪を揺らして私の目の前で汗を拭く彼女は、今残っている軍の中で一番の主力候補と言えるであろう。
なにせ。
この私と対等に戦えるのですから。
「ふぁう・・・」
だが、彼女にはいくつか問題があった。
一つ目は誰にでも懐っこいその優しさ。
強さに見合わない、甘さ。
二つ目は油断。
すぐに気を抜くんです。誰の前でも。
それが私の前だけではなく、信用出来ないような部下の目の前であっても。
ええ、分かっています。
何故こんなにイラつくのか。
この抱く感情が何なのか。
「ゆえさん」
「はいはい?」
「・・・その気の抜き方は、ここだけにしなさい。今の軍は私でも把握しきれてないですからね・・・・貴方をよく思ってない人もいるかもしれないんですよ」
強めに言い放つ。
その結果、どんな態度や言葉が返ってくるかも知ってる。
何故か?
何度言ったと思ってるんです?彼女に。
「んー?」
何故なら彼女を手の中に収めたいと思っている不届き者は、この私ですからね。
「まったく貴方は・・・」
他のものに手を出されては困るので、私が追い払っているんですよ。
そして注意をしているんですが。
彼女はまったく知らぬ顔でいつも通りの反応を返す。
「だいじょーぶだって!私フリーザの右腕だよ?」
本当に、馬鹿だ。
その心の底から嬉しそうな笑みに、他の者が魅力を感じるのもすぐだろう。
だから注意しているのだ。
いつもいつも。
なのに彼女は気づかない。
私の心配にも、私の心にも。
鈍感?
―――――いや。
おバカさん、ですかね。
「そういう問題じゃないんですよ。良いから言うことを聞きなさい」
「はーい!」
元気な返事を聞いたからといって、安心は出来ない。
ああいう時の彼女は、大体話を聞いてない時だ。
ほら、またそうやって。
熱いからといって戦闘着を脱いで、そんな薄着で居たらダメだと何度言ったら分かるんです?
「・・・・」
私をここまで翻弄するその態度。
鈍感なんてものでは、済ませれない。
だから貴方は馬鹿なんですよ。
教えても、伝えてもわからない、馬鹿。
そんな理解できないおバカさんには、どうしたらいいんでしょうね?
「言葉で分からないのなら、理解させてあげましょうか?」
「へ?―――――っ!」
一瞬で絡めとった彼女の手。
反応出来るとはいえ、さすがの彼女も私の動きにはついてこれず。
そのまま彼女を尻尾と壁で挟むようにして動きを封じた。
「さぁ、これで理解できたでしょう?貴方はいとも簡単に人の手に落ちる」
「フ、フリーザ、あの」
「なんです?」
「い・・・・いえ、いきなり、どうしたのかなーって」
いきなり?
彼女の言葉に苛立ちが増すのを感じた私は、尻尾に力を込めた。
ぐえっと何かが潰れるような声が響き、彼女がジタバタと暴れだす。
「っは、くるし!苦しいですフリーザ!!なんで・・・!?」
「なぜ?貴方が教えても理解できないゴミのような脳みその持ち主だからでしょう?」
「へっ!?」
「教えても理解できないようなやつには、これが一番早い」
増した苛立ちは止まらず、私はそのまま彼女を壁に叩きつけた。
痛みからか、動けぬままずるずると壁に寄りかかって崩れ落ちる彼女を見下げる。
それでも。
私を見る目は、あの純粋な目のまま。
疑うことも恐怖も映さず、ただまっすぐ私を見ている。
「ま、まって、フリーザ。教えるってなにを!?」
「貴方のそのバカさ加減ですよ」
「お・・・・教わった記憶ないんだけど!?」
「だから今教えてるんじゃないですか」
「こ、これが・・・・?ちょっと暴力的気味じゃないですかっ・・・!?」
抵抗を続ける彼女を、もう一度壁に叩きつけた。
そして顔を近づけて囁く。
あぁ、今の私は随分と悪い顔をしているんでしょうね?
怖がられても構いませんよ。
最初からこうしてしまえばよかったんです。
教えてもわからない奴には、身体に叩きこむべきだったんですね。
「フリーザ・・・・」
「貴方のような馬鹿に、普通に教えて理解できるんですか?」
「へっ?」
「今まで散々出来てないからこうやって教育しているんでしょう・・・・身体に」
「ぐっ、ぁ・・・っ」
「油断すると、私以外の人の目の前でそのような顔をすると・・・こういう目に遭う、とね」
支配欲。
彼女にだけ湧く、束縛心。
こんな感情を私に教えただけでも罪だというのに。
教えても理解できないような子には、私自ら教えて差し上げましょう。
「さぁ、私が満足するまでたっぷりと・・・教えこんであげますよ」
その心と、身体に、ね。
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