いらっしゃいませ!
名前変更所
地獄。
罪人の身体に終わらない痛みを与え、裁く場所。
孫悟飯に殺された私は、このつまらない地獄という世界に落とされた。
まぁ、まさか天国に行けるなどとは思っていないさ。
だがこの世界は退屈で――――私を苛つかせる。
私を取り仕切ろうとする鬼どもの弱さ。
同じように悪人として落ちてきた奴らの弱さ。
「・・・・つまらん」
そう、弱い。
弱すぎる。
強さを求め、完璧を求め過ごしてきた私にとって。
ここの苦痛は痛みなんかではなく。
この”退屈さ”だ。
「チッ・・・・」
何度見渡しても変わらない光景に思わず舌打ちが漏れる。
罰せられるべき?
そんなの知った事か。
強い者と戦いたい。
ただそれだけが私の欲を満たす。
「・・・・ん?」
私はふと、足を止めた。
いつも通りの血の池の傍。
だが、明らかに何かが違う。
「・・・誰の、気だ?」
誰もが持っている”気”や”気配”
それはここ地獄でも存在する。
今私が感じたのは、明らかに今まで感じたことのない気だった。
さほど強くはないが・・・それでも、いつもとは違う気を感じたのは素晴らしいことだ。
「暇つぶしになるといいがな」
どんな相手だろうと構わない。
この私の、暇つぶしになるのなら。
「さっきから気配かくしてなんのつもり?」
姿を現す前に。
影から私に呼びかける声が聞こえた。
バレていたか。
少しは期待できるか?と振り返った先に見えた、女の影。
「・・・これはこれは、こんなところにこのようなお嬢さんがいるとは」
「紳士ぶるな。アンタが極悪人だってことは知ってるから」
女は腰まで伸びた長い黒髪を揺らしながら笑った。
掴んだら折れてしまいそうな腕。
それなのにどこか強さを感じる鋭い瞳。
どちらにせよ、私が望んだような強い存在では無いようだ。
「さっさと血の池に入ってくれる?」
「悪いが、それはお嬢さんの頼みでも聞けないな」
「っさいエセ紳士。さっさと入れ」
「中々威勢がいいな、お嬢さん」
たとえ女といえど、そこまで言われる筋合いは感じない。
少し脅してやろうと伸ばした手は、冷たく弾かれた。
「血の池に沈んで私の前から消えて」
どんなに完璧な人間であっても、その言葉に苛立ちを感じない奴がいるだろうか。
さすがに限界を感じた私は素早く女の手を掴んだ。
ギリギリと力を込め、力で脅す。
だが彼女はビクともしない。
「私の事脅すつもり?」
「さぁな?そう思われたくはないのだが、出来ればその口の悪さを治していただきたいものだ」
「このぐらい悪く無いとアンタ達とは渡り合えないからね」
そう言うと彼女は私の腕を力で引き剥がした。
その思わぬ力に思わず手を離す。
なんて、力だ。
一瞬本気で力を込めたのに、意味が無かった。
何者だ?
彼女こそ、この地獄で私を癒やす存在に・・・。
「それじゃ、血の池素直に入りなよ」
「待て」
「なに」
「お前の、名前は」
「罪人に教えるわけ無いでしょ、んじゃねー」
やっと、見つけた。
「・・・くくっ、逃がさんぞ」
私の、最高の”玩具”だ。
それから数日に渡り、私は彼女を追い続けた。
気配を一度覚えたら最後。
私は毎日彼女がいる場所を探り当て、彼女が来るのに合わせてそこに行くようにした。
何故彼女を追うか。
簡単なことだ。
全ては私の乾きを潤すため。
彼女はこの地獄で一番私を癒やす存在に近いだろう。
「何度来たって同じ。私はアンタとは戦わないし、名前も教えないわ」
長い黒髪を揺らして。
今日もまた、私の方すら向かない。
最初のうちはただ戦うことだけを望んで彼女の元へ通っていた。
だが最近は少し違う。
「なら、名前だけでも教えてくれ。そうすれば私も戦うことは諦めよう」
そう、乾きを癒やすのは彼女の存在自身。
もはや戦いでは、なくなっていた。
もちろん彼女と拳を交えたいことには変わりない。
だがそれよりも先に彼女が知りたいのだ。
名前を。
正体を。
知りたい。
「そんな約束、信じれると思う?」
「何故信じない?」
「地獄に居る人のことなんか信じるわけないでしょ」
「・・・なら、それはお前も同じことだろう」
「残念。私はアンタ達の監視役。鬼と立場は変わらないわけ。罪人と一緒にしないで?」
冷たい態度。
これでもまだマシになった方だ。
はじめの頃は私が近づくだけでここから姿を消していたからな。
私も毒されているのかもしれないが、こうやって話をしてくれるようになっただけでもマシなのだ・・・彼女は。
「なんで私に執着するのさ」
珍しく今日は彼女から話題が振られた。
心底ダルそうな声で聞かれたことは気にせず、答える。
「何故だかは分からない」
「なにそれ」
「最初はただ乾きを潤すためにお前を追っていた・・・だが、今は違う」
「今はなんなの?」
相変わらず私の方を見ることをしない。
そんな彼女の後ろにピッタリとくっついた私は、その黒髪に手を伸ばした。
いつもならこの時点で逃げられるが。
――――今日は、逃げられなかった。
手が彼女の黒髪を掬う。
その瞬間、謎の高揚感が私の胸を満たした。
「お前を知りたいだけだ」
「また始まった。そんなので紳士ぶるつもり?」
「違う、本気だ・・・お前なら知っているんだろう?たとえ私が女相手でも、自分の楽しみのためなら殺すことを」
「知ってる」
「・・・なら、私の言葉が本気だということも」
「それとこれとは別でしょ?どーせ、今のアンタじゃ私には勝てないし」
「・・・・・」
勝てない、か。
その言葉にもソソられるが・・・今は。
今はそんなものが欲しいんじゃない。
「なんだって私なのさ。たくさんいるじゃない、女なんて」
この地獄には世界の罪人の全てが集まる。
罪人が男だけとは限らない。
もちろん、女の罪人もたくさんいた。
だが、そんなものには惹かれない。
何も思わなかった。
「関係ないな。他の女には興味などない」
「なにそれ、自惚れるわね」
「あぁ、別に構わない。お前にそう思われるならな」
「紳士度もそこまでいけば呆れるわ・・・」
彼女の呆れ顔がチラリと見えた。
それは特別美しいわけでもないのにどこか惹かれるものがあり。
私はただそれを見つめていた。
見られていることに気づいた彼女が目をそらそうとするが、私はそれを許さない。
「っ・・・・」
「もっと、見せてくれ」
何が私をこんなに惹きよせる?
何故こんなにも、惹かれるのだ?
分からないまま、彼女の顎を掴んで私の方を向かせ続けた。
彼女は少し気まずそうに私から目を逸し、ため息を吐く。
「人造人間なのに、私よりも人間らしいんじゃない?」
クスッと笑った彼女に心が揺らいだ。
この感情を、あのサイヤ人共から作られた私が知らないはずがない。
ああ、知っているさ。
この感情の厄介さも全て。
ただその感情を、人造人間が抱けるのか。
完全に無から作られた私が、抱けるのか。
――――分からない。
だが、伝えなければならない。
「あくまで計算上の話だが」
「ん?」
「私はお前が好きなようだ」
「・・・・は?」
まるで他人ごとのような言葉。
それに違和感を感じたのか、彼女が首を傾げる。
「何、計算上の話って」
「私は人造人間だ。・・・たとえそんな感情を持っている奴らの細胞から作られているとしても、その感情を私自身が抱けるのかは定かじゃない」
「・・・・」
「だから計算上の話だと言ったのだ。たとえ計算上の話でも、私はお前にこの感情を伝えたかった」
何を言っているのだろうか、私は。
無茶苦茶な感情だ。
ただ私はこの乾きを潤すためだけに彼女を追いかけたはずなのに。
今ではただ彼女が欲しくて求めている。
私は。
「・・・・・・ゆえ」
「・・・・何?」
「私の名前。ちゃんと覚えてね」
よく見ると、彼女の顔が少し赤くなっていた。
その表情に今までのどんな戦いよりも強い高揚感を覚え――――笑う。
「これも計算上の話だが」
顔を逸そうとする彼女を抱き寄せ。
その長い黒髪を、指に絡める。
指に絡めた毛先に口付ければ、彼女が・・・ゆえが、ぴくりと震えた。
「これは脈ありだと思っても構わないのかな?」
精一杯紳士を気取った言葉。
彼女の返事は、いつものように冷たかった。
「好きにすれば、セル」
どうやら私の計算は、正しいようだ。
久しく呼ばれていなかった自分の名前を聞いて、私は彼女を抱きしめ続けた。
抵抗しなくなった、彼女の身体を。
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