いらっしゃいませ!
名前変更所
綺麗な青空の下。
平凡な時間の中で、ぽつりと思ったことを呟く。
「なんか最近、修行がマンネリ化してきたよね」
少し離れた場所で瞑想しているピッコロは、聞こえているはずなのにぴくりとも動かない。
どうせくだらないこと言い始めたとか思ってるんでしょ。
私だって読めるよ、ピッコロの心ぐらい。
私の場合、付き合い長すぎて段々分かってきただけだけど。
「ちょっとおもしろい修行とか考えようよー」
黒い髪が風に揺れる。
ピッコロが結んでくれたポニーテールをいじりながら、私はただ独り事のように口を開いた。
「刺激好きなんでしょ?たまには刺激的なのもいいと思うんだけどー」
ちらり。
何度見てもピッコロは1ミリも動いていない。
くっ、ここまで頑固なやつなんて。
馬鹿、ハゲ、頑固者。
修行マニアの癖してこういう時だけ話を聞かないなんてなんて性格悪―――――。
「ぶふっ!?」
心の中で悪態を吐いてたら顔面に何かが飛んできた。
正体を見なくても、それが気弾なことは分かっていて。
なんとか目を開けた視界の先は、さっきとまったく変わっていなかった。
1ミリも動いてない・・・ように見えるピッコロ。
のどかな、青空。
「あんのやろ・・・・・」
私の心を読んで気弾を飛ばしてきたのなら、私の声は聞こえているんだろう。
なのにあえて無視するなんて、ほんとむかつく。
こうなったらずっと喋っててやる。
「ねーねー。面白い修行しよーよ」
「・・・・・」
「ベジータんところ、トランクスに顔面一発殴ることができたら遊園地つれていくってやったらしいよ。今度それで遊びにいくんだってさ」
「・・・・・・・・・」
「私達も、賭け勝負する?」
そこまで一人でしゃべり続けて。
ようやくピッコロの気配が動くのを感じた。
「・・・はぁ。そんなことをして何になる」
「えー?私達もそういうのすれば楽しそうじゃん?」
「何を賭けるんだ?」
「えー?ピッコロが私の顔面に一発でも入れたら何でもするとか?」
「・・・・なら、入れられなかったらどうなる?」
「んー。じゃあベジータ達みたいに遊園地とか連れてってもらおっかなー」
ニヤニヤしながら言えば、ピッコロが鼻で笑う。
「フン。いくらお前が俺より強くなったとはいえ、ナメられたものだな」
「きびしーい師匠さんに鍛えられてましたから」
「ほう?その成果を俺自身に見せてくれると?」
「そうそう」
「・・・・暇ついでに出た言葉だろうが、後悔させてやろう」
瞑想していたピッコロが立ち上がり、わりと真面目な雰囲気で私の方に歩み寄ってきた。
乱暴に投げ捨てたマントとターバンが重たい音を立てて神殿のタイルに落ちる。
あれ、これ。
思ったよりピッコロさんノリノリな感じで・・・。
「どうした?」
「あ、いや、じゃあ10分ぐらいで・・・」
「2時間だ」
「へっ!?」
「2時間の間、お前が本当に俺から攻撃を避け続けたら遊園地にでもどこでも連れてってやる」
「いや、2時間はちょっ・・・・」
「始めるぞ」
「話し聞いて!?」
「さっさと構えろ!」
「聞いて!???」
もちろん聞いてくれるはずもなく。
座っていた私に飛びかかってきたピッコロを、立ち上がりざまに蹴りあげた。
私の蹴りと、ピッコロの構えた手がぶつかる音。
いつもの修行よりも重々しいその音と痛みに、思わず飛び退る。
「っ・・・!!」
「お前だけが強くなったと思うなよ、ゆえ!!」
なんだろ。
マンネリ解消っていうか、ちょっとした遊び的なつもりで誘導したんだけど。
口元に笑みが浮かぶ。
私も元は戦闘好き。
血が、騒ぐ。
「いい表情になったな」
「誰かさんの弟子ですから」
「良い答えだ」
本当に嬉しそうな表情を浮かべられて、一瞬隙が生まれた。
でも、そこをピッコロが狙ってくることなんて分かりきったこと。
すぐに顔前に防御を構え、ピッコロの攻撃を受け流す。
「乙女の顔面にそんな全力で叩き込もうとする!?」
「お前が顔面に入れろと言ったんだろうが」
「少しは遠慮してくれてもいーじゃんかー!」
「・・・・・」
攻撃を受け流しながらも続けるくだらない会話。
その最中でピッコロが笑みを浮かべたかと思うと、手を止めて挑発するように手を動かした。
「フン。一発入れられる予定があるから怖いのか?なら正直にそう言え」
いらっ。
風に長い髪が揺れる。
その髪が私の表情を隠したが、確実に今の私はすごい顔をしていただろう。
私も師匠同様、乗せられやすいらしい。
「・・・んなわけないでしょ?2時間なんて余裕よ、よーゆー」
「ほう?なら、この勝負に文句ないな?」
「あるわけないわよ」
「いい度胸だ」
「そっちこそ」
まんまと乗せられた私は2時間なんて無茶な戦いを引き受けた。
もちろん、1時間後ぐらいに後悔するんだけど。
私の唯一の弱点は体力だって、このお師匠様から言われてたのを思い出した。
上手く体力を使う形で戦われた私は、魔法でやっとこさ戦ってるレベルなぐらいへろへろで。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
息を切らした私を追い詰めるように近づいてくるピッコロ。
魔法で出した銃を突きつけても、何の威嚇にもならない。
ただ静かに近づいてくる。
そんなピッコロの足元に銃を打ち込んだ私は、床に埋まった弾丸を魔法で操ってピッコロの腕を狙った。
「・・・はっ。そんな集中出来てない魔法が俺に通用すると思うか?」
操った弾丸はピッコロの腕に弾き飛ばされて消える。
ゆっくりと近づいてくる様はまさに大魔王。
っていうかその勝ちを確信した笑み、むかつく。
「の、やろー・・・・」
「さっさと降参した方が身のためだぞ?お前と連続で修行したのは1時間が最高だ・・・もう体力的に限界だろう?」
「っ・・・・」
認めたくないけど、ピッコロの言うとおりだ。
体力の少ない私は1時間前後でふらふらになる。
いや私だって分かってたけど!
でも、あんな挑発されたら・・・さ?
結局はしてやられた感じだ。
「は・・・っ」
「降参するならこれで終わらせてやってもいいぞ?」
片膝を着く私の目の前にかざされた手。
ぐいっとデコピンの形に作られたそれは、確実に私の額を狙っている。
諦め――――たふりをして、私は静かに顔を上げた。
荒い息を吐き、ニヤニヤ笑うピッコロを睨みつける。
「どうする?」
「っ・・・しょうがないな」
「ふ、なら・・・・」
「隙ありぃ!!」
「ぐっ!?」
諦めたふりをして。
最短距離まで近づいてきたピッコロの腹部に思いっきり重たい一発を沈めた。
うめき声を上げたピッコロがそのまま床に倒れる。
ま、確実に入ったし、さすがに立てないだろう。
「あれあれ、どうしたんですかね?ピッコロさーん?」
相手の作戦に乗ってやったんだから、だまし討ちしたって許されるでしょ?
ケラケラと笑えば、さっきとは真逆の体勢でピッコロから睨まれる。
汗だくなのが気持ち悪くて、私はピッコロから結んでもらった髪の毛を解いた。
「さすがのピッコロも私の全力の一撃には耐えられなかったかしら?」
「・・・・・」
「やだなー。そんな黙り込まないでよ」
気取ったわざとらしいセリフ。
それがピッコロの気に触ることを知っていて、言う私も私だ。
大魔王の妻だから、これぐらい言えないと成り立たないよね。
なんて思ってたらいきなり胸ぐらを掴まれた。
「うえっ!?」
「貴様こそ・・・隙だらけだ」
――――――!
唇に触れたぬくもり。
感じたのは痛みではなく、口付け。
「んっ・・・・!?」
慌てて抵抗しようとしても、入り込んでくる舌に全てを持っていかれる。
教えこまれた快楽が身体を襲う。
だ、だめ。
立ってられなくなってきた。
がくんと膝を崩し、ピッコロにもたれかかる。
騙し合い。
それもまた勝負の一つ。
「ピッコロ、アンタ全然ぴんぴんして・・・!」
「お前も騙したんだ、お互い様だな」
「っ・・・離してよ!」
「離すわけ無いだろう?まだ・・・勝負は終わってない」
「っあ!?」
神殿の床に押し倒された。
もうほとんど力が残ってない私は、ピッコロにされるがまま。
青空の下。
キスされて、ゆっくりと身体を撫でられて。
ダメだと抵抗したいのに。
触れてくる手が何故か嬉しくて、出来ない。
「っ・・・」
だ、だめ。違う。
今は勝負のことを考えなきゃダメじゃない。
このままじゃ確実に負けるし、こんなの。
・・・こんなの。
「ふっ・・・本当はこんな勝負、何の意味もないんだろう?」
頬に触れる手が、下に伸びていく。
「ただ俺にかまって欲しかった、それだけだろう?」
下に伸びた手が、私の服の中に入ってきた。
腰をなぞる動きがくすぐったくて、甘い吐息が漏れる。
「どうだ、ゆえ・・・・違うか?」
「・・・し、知らな・・・」
「正直に言わないならこのままだな・・・・」
焦らす動き。
口づけも、触れる動きも、全てがもどかしい。
その動きに誘われる。
もっと触って欲しいって、思ってしまう。
「・・・・ピッコロ」
「ほら・・・さっさと言え」
「違うって、言ったら・・・?」
「フッ・・・俺がお前のことに関して間違えたことがあったか?」
「・・・・な、なに、その余裕」
「なら言ってみろ。違うってな」
「・・・・っ」
何だその余裕。
悔しい。
悔しいけど、何故か否定出来ない。
”違う”っていうだけで勝つゲームが目の前にぶら下げられてるのに。
言えない。
「ッ・・・・違・・・」
「・・・・」
「・・・わ、ないです」
素直に認めた私の額に、こつんと落ちた優しい拳。
「俺の勝ちだ」
「・・・はいはい」
「賭けの条件、覚えてるよな?」
「好きにしてよ。どーせいつも好きにしてるんだからさ」
「あぁ、そのつもりだ」
ピッコロに姫抱きにされた私は、ただ黙ってその上にしがみついた。
”俺がお前のことに関して間違えたことがあったか?”
あんなセリフ、ずるいよ。
本人はさらっと言ってたけど、あんな恥ずかしいセリフ中々無い。
ある意味、愛してるなんかよりも強くて恥ずかしい言葉。
抵抗する気なんて無くした私はただピッコロのぬくもりを感じていた。
「ピッコロ」
「ん?」
「・・・・なんでも、ない」
「フッ・・・そうか」
何を言いたいかなんて分かってるくせに。
心の中、読んでさ。
悔しいけど、認めてあげるわ。
ピッコロは私を知り尽くしてるって。
「当たり前だ」
「・・・・・ずるい」
こんな不器用なやりとりこそ。
私達の、愛の証。
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