いらっしゃいませ!
名前変更所
街にはびこるゴロツキをぶっ飛ばして。
笑顔を振りまき、親切にして。
そうやって得たお金で懐を暖かくしたくろねこは、真剣な表情で港の船を見つめた。
船番の彼は、何が欲しいんだろうか。
戦いと酒以外に興味がなさそうな彼の好きなものを想像し、首を捻る。
「・・・ま、直接聞くのが早いか」
考えて数分。
サプライズなんてぽくない考えは一瞬で止めにしたくろねこは、大人しく本人に聞くことにして船へと向かった。
踊り踊らされて盛大にこける
近づく、ゾロの誕生日。
手元にたんまりと貯まったお金はくろねこの努力の賜物だ。
義賊であるくろねこは、町につくたび船の用事とは別に、義賊としての仕事もこなす。
人助けをしたり、賞金首を捕まえたり、その町の仕事を請け負ったり。
そうやって次の航海に有利な情報も掴んで帰ってくるくろねこは、ナミにとってロビンに継ぐ真面目な船員の一人だった。
そんな彼女が、船番であるゾロとチョッパーの前で大量のベリーを広げている。
じゃらじゃらと硬貨がぶつかる音に、ゾロが片目を開く。
「何してんだ?」
「おはよー。明日ゾロの誕生日でしょ?ばっちり稼いで来たんだけど、何か欲しい物ある?」
楽しそうにそう口にするくろねこの手元にあるベリーは、何がほしいと言われても対応出来るほどの量だ。
「あ?誕生日・・・・」
「忘れてたの?・・・これだけあれば刀も買えそうだけど、ゾロが今持ってる刀も結構な名刀だしなぁ。そうなるとやっぱりお酒?」
「酒はいつでも買ってくれてるだろ」
「不本意ながら」
酒好きの彼は、町に降りるたびくろねこと合流し、サンジが用意する以上の酒を買わせているため新鮮度が低いのは確かだった。
ごもっとも、と言いたくなるゾロの言葉にくろねこは再度首を捻る。
「えー、じゃあ何にしよ・・・・」
「何でもいいのか?」
その言葉に、くろねこはベリーからゾロへと視線を移した。
まるで何か欲しい物があると言いたげな様子だ。
「何でもいいよ?あ、この金額で買えないと困るけど・・・・」
金額見る?とベリーを掬って見せれば、ゾロは興味ないとばかりにくろねこを真っ直ぐ見つめた。
「お前」
「・・・?」
「お前、よこせよ」
私を、よこせ?
復唱するくろねこは、頭の中でその意味を考える。
デートしろって意味ならそんな風にわざわざ言わないはずだ。
というか、そんなことなら誕生日に頼む必要もない。
それに私が言ったのは“プレゼント“の話で。
私を、プレゼント?
もう一度、くろねこは復唱する。
そして意味に気づいたくろねこが顔を真っ赤にして掬ったベリーを落とせば、意味ありげに笑ったゾロが目を細めた。
「何でも、いいんだろ?」
ゾロは男だ。忘れていたわけじゃない。
それでも、鍛錬に勤しむ彼は今までそういうことを強請って来なかったため、忘れていた。
付き合ってから、キスはした。
嫉妬させてしまい噛まれたりしたことぐらいなら、ある。
でもそれ以上を強請られたことはない。
船旅という都合上、そういうことがし辛いからかもしれないが。
「・・・・ゾロがそういうこと興味あるの意外かも」
「別に興味があったわけじゃねェが、欲がないわけでもねぇ。特にお前に対してはな」
「そですか・・・・」
「嫌なら良いんだぜ」
「嫌じゃないです・・・・」
平然と言ってのけるゾロに頭を上げれなくなったくろねこは、とりあえずそれだけ返事を返した。
返事に対する反応は、ない。
しばらく無言が続き、どうしたのだろうかと顔を上げれば意味有りげな瞳と目が合った。
「・・・・何その顔」
「いや、お前のことだから怒って逃げ出すかと思ってたからよ」
からかうような瞳。
ゾロの言葉に顔の熱が上がったことを感じたくろねこは、逃げ出すようにベリーへと視線を落とした。
やたらベリーの質感が冷たく感じる。
これだけのベリーがあれば、この街の一番良いホテルを借りれるかもしれない。
自然と“そういう流れ“を想定した自分の考えに、くろねこは更に顔を真っ赤にする。
独りでに表情を変えるくろねこを見ていたゾロは、その反応に満足したように笑った。
「あんまり誕生日っつーのを意識したことなかったが、嬉しいもんだな」
「・・・・・そ、そう」
なんて、ずるいやつだ。
「ま、た、楽しみにしといて!酒も今から買ってくるよ!」
「おう」
起きて刀の手入れを始めたゾロを背に、くろねこは酒を求めて街に降りた。
◆◆◆
「宴だーーーーー!!!!」
誕生日パーティという名の宴。
街で仕入れた食料や酒で船を埋め尽くし、ゾロの誕生日を祝いながら大騒ぎする。
「ん~!!このお酒美味しいわ!さすがくろねこね」
「でしょ?」
「ゾロの誕生日だから奮発したんでしょ?知ってるわよ」
「っ・・・う、うるさいな」
お酒に頬を染めたナミがからかってくるのを聞きながら、くろねこはちびちびとお酒を喉に通していた。
美味しいお酒を買ってきたつもりだ。
お酒好きのゾロのために。
それなのに、ちびちびと通すお酒の味はまったく分からなかった。
頭の中はそれどころじゃないのだ。
「ゾロ!これおれからのプレゼントだ!!」
「ありがとよ、チョッパー」
「あ、おれもおれも!!!」
それぞれのメンバーが誕生日にとゾロにプレゼントを渡していく。
そんな中、動かないくろねこを見てナミが不思議そうに首を傾げた。
「あら?アンタ、プレゼントは?」
「え?あ、えっと」
―――――しまった。
物として渡すものを要求されなかったから、すっかり忘れていた。
皆の前で渡すものは用意しておくべきだったと思っても、もう遅い。
「あー・・・ほら、この、お酒だよ。結構高かったんだよ?」
「ふぅん・・・?」
上ずる声。
怪しんだナミがくろねこにぐいと顔を近づけ、そして囁く。
「“物“じゃないものあげるのねぇ?」
「ぶーーーーっ!」
どストライクな言葉に、くろねこが酒を吹き出した。
吹き出した酒をかぶったゾロが勢いよく立ち上がり、くろねこを睨みつける。
「てんめぇ!!クソ女!!何しやがる!!!」
「い、いや、私のせいじゃ!ナミが変なこと言うからッ!!」
「あらー?私は別に、なんにも言ってないわよぉ?」
「っ~~~~~!!!」
顔を真っ赤にしたくろねこが、言い返す言葉を無くして声にならない叫びを上げた。
酒塗れになったゾロを放置するわけにもいかず、ニマニマと笑い続けるナミをおいてタオルを取り出す。
「あちゃー、結構ばっちりかかっちゃったね」
「ったく・・・・」
「この街結構大きくてまだお店あいてるから、洋服とか買ってきなさいよ。どうせこいつらこのまま酔いつぶれるわよ?」
ナミの指差す先には、既に食い潰れて動けなくなっているルフィが転がっている。
このまま放っておけば主役がいなくても勝手に盛り上がり、勝手に潰れて眠るのは目に見えているが、抜けだす理由にはならないとゾロは首を振った。
「あ?別に乾かせばどうにかなるだろ」
「・・・アンタね。空気読みなさいよ、空気」
そう言いながら意地悪く笑うナミが、ゾロに耳打ちする。
「くろねこから、誕生日プレゼントもらうんでしょ?」
「ぶーーーーっ!!」
「ぎゃーーーーーーーー!!!」
再び、酒が舞う。
先程とは真逆にゾロからの酒を食らったくろねこは、怒ること無くため息を吐いた。
頬を膨らませ、私のせいじゃなかったでしょ?と言えば、ゾロが納得したようにナミを睨みつける。
「てめェまじで地獄に落ちるぞ・・・・」
怒声も慣れっこな様子のナミは、酒を煽りながらしっしと追いやるように手を払う。
「はいはい。さっさと行ってらっしゃい。ログたまるのは三日後だからごゆっくり~!」
「うるせぇ!」
ゾロは酒で濡れたくろねこの手を引っ張ると、ナミから逃げ出すように船を降りた。
この島の街は、まだ明るい。
繁華街もあるとても大きな街は、船から降りて少し歩いた二人を騒音の中に誘い込んだ。
「賑やかだね」
「・・・あぁ」
お互いに酒に濡れた不思議な状態で街を歩く。
ゾロが前を歩くのをやめても、くろねこは何かを決めたように足を進めていた。
賑やかな屋台が集う場所を抜けて。
怪しげなネオンが輝く裏路地も抜けて。
その先にあるのは、高級なホテルが立ち並ぶホテル街。
どこもいやらしさを感じるホテルはなく、下品な人間もいない。
自然に指を絡めたくろねこは、後からついてくるゾロに振り返らず告げる。
「お酒気持ち悪いから、シャワー浴びよう」
「・・・・おう」
都合の良い、理由。
「直感でいい?」
「あァ」
直感という名の、リサーチ済みホテル。
どんな高級ホテルにも及ばない綺羅びやかなフロント。
くろねこは臆することなく受付へと進み、ナミが見れば叫ぶような金額を前払いで払った。
渡された鍵の番号は最上階。
さすがのゾロも足を止める。
「お、おい、お前こんなホテルの最上階って・・・・」
「直感、信じてくれるんでしょ?」
場違いな格好のゾロをエレベーターに押し込み、最上階へと登る。
エレベーターの中で、くろねこは一言も喋らなかった。
酒か、汗かも分からない水滴が不快だ。
不快なのに、手を離せない。
気付けば最上階についていて、くろねこが静かに部屋の鍵をあけた。
「・・・・思った以上に豪華」
「こりゃすげぇな。ここまでデカいベッドなんて初めて見たぜ」
「高級ワインも置いてあるみたいだよ」
「へぇ?そりゃいいな」
さっきまでの緊張を吹き飛ばす部屋の光景に、くろねことゾロは顔を見合わせて笑った。
それから順番に部屋を巡って、綺麗なバスルームへとたどり着く。
「よし、それじゃあまずお風呂入っちゃおう」
「そうだな。酒が気持ち悪ぃ」
「洋服ここに入れといて。洗濯できるのついてるみたいだから、あとで洗って乾かしちゃえば明日には着れるはず」
「・・・・くろねこ」
そのままバスルームを立ち去ろうとするくろねこを、ゾロが呼び止めた。
「うん?」
「お前も気持ち悪いだろ」
「?うん、まぁ・・・」
「一緒に、入るか?」
がたんと音を立てて、くろねこの手元からカゴが落ちる。
落ちたカゴはくろねこの動揺を表す勢いで転がり、ゾロの足元で止まった。
ゾロはそれを拾い上げること無く真っ直ぐにくろねこを見つめる。
「・・・・・あー、いや、嫌なら・・・」
「・・・・さ、先、入ってて。後から行く」
「おう」
素っ気なく答えたゾロが背後で服を脱ぐ音を聞きながら、くろねこは穴が開くぐらいドアを睨みつけた。
本当に良かったのか?
風呂場だぞ?明るいんだぞ?
勢いで嫌じゃないと言ったことを後悔しつつも、後ろでシャワーの音が響き始めたことに気づいて覚悟を決めたくろねこは、そっと自分の服に手をかけた。
「・・・・」
恥ずかしいというより、あまり見られたくない。
明るい場所に晒される傷だらけの肌。
「お、お邪魔します」
静かに扉を開くと、ゾロはシャワーを止めて湯船にお湯を入れていた。
色々あるぞ?とくろねこの方を振り返るゾロの手には、可愛らしい入浴剤が握られている。
「どれか入れるか?」
「んー、あんまり詳しくないんだよね」
「んじゃ適当で良いだろ」
めんどくさいと言わんばかりに入浴剤を投げ入れたゾロは、湯船に入ることなくくろねこに向き直った。
「おら、こっちこい」
有無を言わさない手招き。
くろねこは俯きながら黙って従い、シャワーを持ったゾロの前に立った。
「流すぜ」
「ん」
これなら、ゾロに見られるのは背中だけだ。
湯気が濃いのも相まって、視界が悪い。
シャワーの心地よい音と共に、羞恥が少しずつ和らいでいく。
乱暴に流されるシャワーに目を閉じる。
酒を流すだけだ。これ以上は何もないだろうと終わるのを待っていたくろねこは、シャワーの音が消えるのと同時に顔を上げて後悔した。
「ッ・・・!?」
―――――鏡が、ある。
その事実に気づいてしばらく固まったくろねこは、鏡越しにゾロと目が合って慌てて前を隠そうとした。
「っちょっと!気づいてたなら言ってよ!?」
「気づいてたから言わなかったんだろうが」
「変態かっ!!」
「・・・・今更だな」
「っ、ちょっと!!!」
後ろ手に拘束される腕。
前を隠すための両手を絡め取られたくろねこは、鏡越しにゾロを睨むことしか出来ない。
「ゾロ・・・!」
「どうせ見るんだからいいだろ」
「ひ、ぁ!」
首筋を、噛まれる。
思わず出た声を押さえる手段すらないくろねこを、ゾロはゆっくりと弄ぶ。
首筋から、耳元へ。
熱くなった吐息をふぅと吹き込めば、くろねこの体が大きく跳ねる。
「ぁ、ゾロ、待って・・・・」
「散々待った」
ゾロにとって、そういう欲求は二の次だった。
―――――今までは、の話だが。
寝ると食うさえ満たされれば、あとは鍛錬だけでいい。
強くなるための日常。
目指す者は、最強の剣豪。ただそれだけ。
それを崩したのは、くろねこという存在だった。
「分かってねぇだろうけどな、お前は。・・・・これでも、我慢してたんだ俺は」
誰にでも好かれて、誰にでも笑顔で。
そんな彼女に対して好意を抱くのは、ゾロだけではなかった。
色んな男に好かれる彼女を見るたび壊したくなった。
こいつは俺のだと噛みついてぐちゃぐちゃにして。
自分にしか知らない表情を、独占するために教え込んでやりたかった。
この欲求がどれだけ恐ろしいものか。
どれだけ、止められないものか。
「プレゼント、なんだろ?」
「・・・・そう、だけど」
「なら好きにさせろ」
「でもっ、その、せめてベッド!」
「あ?・・・なんでだ」
「は・・・・初めてぐらいベッドで落ち着いてさせてよっ!?」
真っ赤になって叫ぶくろねこに、思わず口元がニヤけるのを感じる。
「初めて、か」
「何!文句ある!?」
「あるわけねェだろ。・・・・むしろ、良いのか?そんなのをプレゼントしちまって」
「・・・・別に。ゾロになら、いい」
ぷつり、と。
理性の糸が完全に切れる音がした。
「ま、俺も初めてだ、安心しろ」
「え、ちょっと!どこいくの!?」
ゾロは勢いよくくろねこを抱えると、そのまま部屋へと歩き出した。
部屋が濡れてしまうだとか、お風呂場が開けっ放しだとか、そんな叫びすら意味をなさない。
「ベッドが良いんだろ?」
「それはそうだけど!湯船せっかく入れたのに・・・!」
「んなもん後で入れば良いだろ。良いから黙ってろ」
「えぇ・・・!?」
据わった瞳にそう威圧されれば、さすがのくろねこも抵抗出来なかった。
乱暴にベッドに降ろされ、もがく暇もなくゾロに覆いかぶさられる。
ベッドが濡れてしまうと最後の文句はいとも簡単に噛みつかれて飲み込まれた。
唇ごと食べてしまうような、噛みつくような口づけ。
息をする暇すら与えない。
口を開けばするりと舌をねじ込まれ、対応出来ないくろねこはその感触に翻弄される。
触れ合う舌。
時折吸われ、噛まれ。
頭がぼーっとする感覚。
震える手で、何とかゾロの腕を掴んだくろねこは、潤んだ瞳でゾロを見上げた。
「っん、ぁ・・・息、できな・・・・」
苦しげに吐き出される息。
「んんっ」
それすらも独占するために噛みつく。
抵抗するように押し返そうとしてくる手を掴み、ベッドに押さえつければ、くろねこはもうなすがまま。
「・・・・っ」
こういう時に、なんと声を掛ければいいか分からない。
分からないから無言で見つめ合う。
見つめ合っていた視線を下にずらし、呼吸で上下する柔らかな膨らみに手を這わせた。
やわやわと手のひらに収まる柔らかな感触。
力を込めたら壊してしまいそうで、少し怖くなる。
「ん、ぅ」
ゾロの指が膨らみの頂点をかすめると、くろねこが足をくねらせた。
なんとなく、あぁこれが良いんだと感覚を掴む。
初めての行為でも、戦闘において相手の反応を伺うという能力は役立つようだ。
興奮の中に埋もれてしまいそうな神経を研ぎ澄ませ、ゾロはその大きな手をくろねこの全身に這わせていった。味わうように胸全体を撫で、時折頂点を強く刺激し、反応を見ながらお腹につーと指を下ろす。
「っ、ぁ、は・・・・!」
漏れる甘い吐息に、熱が上がった。
わざと傷跡をなぞってみれば、くろねこが耐えるように目を瞑る。
「嫌か?」
「・・・・だって、綺麗じゃない」
「お前の生きてきた証だろ。・・・・余計なこと、考えんな」
「そっちが聞いたくせに!?っえ、あ・・・!?」
見つめ合うのをやめて、ゾロはくろねこの肌に舌を這わせ始めた。
胸元から舌へ。
お腹の周りにある傷跡を丁寧に舐め取っていく。
確かに普通の女性からすれば、傷だらけの体かもしれない。
でも、そんなこと関係ない。
これはくろねこが歩んできた証。生きてきた証。
どんなに辛いことが合っても前を向いて、剣士らしく、その強さを突き詰めて進んだ証。
「足」
「ん・・・っ?」
「足、開けよ」
もぞもぞと閉じられていた足に手をかけ、あえて命令する。
その意地悪い瞳に気づいたくろねこが、涙目のままゾロを睨みつけた。
「な、なんで、させるの」
「されるがままってのも嫌だろ?」
「・・・・そういうの、意地悪っていうんだよ」
「俺が優しいって思ってたのか?・・・・いいから、早くしろ」
それは、征服欲を満たすため。
見たこと無いくろねこの表情を、見るため。
普段の力なら抵抗出来るはずのくろねこが、ゾロの下で好き勝手に弄ばれている。
その事実が更にゾロを興奮させる。
「ッ、う、あんま、見ないで」
観念したらしいくろねこが、両腕で顔を隠しながら足を広げた。
足の根本にある傷跡をなぞりながら独特な香りが漂い始めているそこに指を這わせると、ぐちゃりと厭らしい音が響く。
独りよがりではないという事実と、感じてくれているという事実。
指に蜜を絡ませながら、膨らんだ蕾をぐいと押さえつければ、今までにない声が部屋に響いた。
「や、やだ、そこいやっ・・・!」
そんな可愛らしく震えた訴えを無視して、何度も何度も蕾を刺激する。
「あぁあ、っや、ひぁ、んんっ」
「気持ちよさそうだな」
「っう、うるさ、ン、はっ、ぁ・・・・!」
微かな抵抗の意味はない。
ゾロの指を濡らす蜜は、嘘をつけないのだから。
「ぁ、や、あぁっ、だめ、ゾロっ・・・・」
「ん?」
「おねが、止めてっ、や・・・!!」
先程より切羽詰まった声に、一旦指の動きを弱める。
身体中を震わせていたくろねこは刺激が止まったことに安堵したのか、落ちる涙も気にせず大きく息を吸い込んだ。
「大丈夫か?」
「っ、なんか、おかしくなりそうだった・・・・」
――――あぁ、もしかして。
「いきそうだったのか?」
「・・・・わかん、ない」
「ま、何事も経験だろ?」
「え、や、もう少し待っ・・・・!」
その微かな余裕さえも全部絡め取って、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。
「あぁぁっ、は、ぁっ、んぅ、っ~~~」
声にならない声。
何かが駆け上がってくる感覚から逃れようとしているのか、くろねこが足を突っ張る。
閉じようとする足の間に自分の身体を差し込み、少し跡がつきそうなぐらいふくらはぎを掴んだゾロは、容赦なく指の動きを早めた。
「や、また、さっきの・・・!あ、あ、や、おねが、ゾロっ、おねがいぃっ」
「俺は意地悪だからな?諦めろ」
「は、ぁ、だめっ、なんかっ・・・・ひ、あぁあぁっ―――!」
聞いたことのない、甘い声。
びくっと大きくくろねこの身体が跳ねる。
労るように指を止めてふくらはぎを撫でるゾロに、くろねこの虚ろな瞳が向けられた。
「っぁ、う・・・なに、これ・・・?」
「ッハ、お前、煽ってんのか?――――いったんだよ、気持ちよかっただろ?」
「こん、なの・・・おかしくなる、むり・・・・!」
「へぇ?そんじゃ、もう少し続けねぇとな」
もう一度、とばかりに指を動かし始めれば、くろねこが強めに抵抗する。
「あぁ、あっ!待って、もう少しだけでも休憩をっ・・・!」
「くろねこ」
「っ・・・・」
「諦めろ、な?」
清々しいほどの、笑顔。
これだけ興奮させておいて、待ったを掛けるほうが無粋というものだ。
熱に浮かされ、既に止まるという理性を失っていたゾロは、その行為を強引に進めた。
一度いったからか、くろねこの反応は先程よりも大きい。
逃げるようにもがく身体を押さえ込んで。
もう一度あの可愛い反応を見るために、何度も何度も指を動かす。
時折動きを変えれば、面白いようにそれに対して反応を見せる身体が跳ねた。
「ッあ――――!あ、やっ、また、ひあぁぁっ」
「・・・っ、おら、我慢するな」
「んんっ、あぁあ、あ、ン、だめ、も・・・っ、あぁッ」
自分の指一つで、くろねこの身体がぐったりと崩れ落ちる。
本当に最高だ。
こんなの、我慢出来るわけがない。
「・・・・わりぃ」
「はっ・・・ぁ・・・え・・・?んんっ!」
未だ痙攣を続ける身体を押さえこみながら、蜜溢れる場所に指を差し込んだ。
かなりきついそこにゾロは思わず指を止める。
「っ、いたく、ねぇか?」
「ぁ・・・だい、じょうぶ」
今すぐそこに突き入れて無茶苦茶にしたいという熱と、そこの狭さを見比べて、ゾロは何とか落ち着くために大きく息を吸い込んだ。
「痛くねェようにする・・・つもりだ」
止めていた指を奥へと進め、広げるように優しくかき回す。
本当に入るのか?という不安と、今すぐに挿れたいという矛盾と戦いながらゾロはくろねこを見つめた。
「ぅ、あ、ゾロ・・・・」
「・・・・やべェな」
今まで興味がなかった分の反動だろうか。
「ここまで余裕なくなるモンなのかよ、怖ェな」
「な、に・・・?」
「こっちの話だ」
「んっ、ぁ、あぁぁっ」
「今すぐ無理やりされたくなきゃ、少し・・・黙ってろ」
余裕なくそう囁いたゾロは、自身の昂ぶった熱を分からせるためにくろねこのふくらはぎにその熱を押し付けた。
「っ・・・・」
気を抜けば壊してしまいそうな感情の中、くろねこの中を解していく。
もっと反応を見るためにあいている指を蕾に当てれば、強がりすら口に出来なくなったくろねこが首を大きく振った。
「あ、あぁぁっ、ぅ、ひ、ァ」
言葉にされなくても、面白いほど中が“いいところ“を教えてくれる。
「っ、あ、ぁ!」
「・・・・・ここだな」
中に入れる指を増やし、様子を伺うようにゆっくりと押し上げていた指がある一点を掠めた瞬間、中が面白いほどゾロの指を締め付けた。
「ッ――――ぁ!!!」
その一点と、蕾を同時に刺激すると、面白いほどあっという間にくろねこが果てる。
果てた後も容赦なく指を動かし続けた。
もっと、知らない声を聞かせて欲しい。
もっと、壊れてしまえ。
「や、ぁ、もう、おねがっ・・・・」
「くろねこ・・・」
「っ・・・・」
名前を呼ぶだけで指を締め付ける力が強くなる。
「・・・・素直だな、案外」
「な、にっ・・・?」
「なんでもねぇよ」
余裕のないくろねこに優しく口づけを落とす。
くろねこはそれをくすぐったそうに受け止めると、震える手をゾロの手に伸ばした。
「ゾロ」
「ん?」
「もう、だい・・・じょうぶ」
さすがに、それが何を意味するかぐらいは分かる。
「・・・・まだ、痛ぇと思うぞ」
「大丈夫」
「けどよ・・・・」
無茶苦茶にしたい感情はあるが、泣かせたいわけではない。
戸惑うような感情の中、くろねこは起き上がってゾロに唇を重ねた。
そのまま、真っ赤な顔でにっこりとはにかむ。
「早く、欲しい」
なかったものに近い理性を引きちぎる声。
「――――どうなっても、知らねェぞ」
重ねられた唇に噛みつきながらくろねこを押し倒したゾロは、厭らしく笑った。
◆◆◆
幸せな痛みというのは、どんな痛みよりも甘い。
ようやく慣れてきた身体が快楽を受け入れ始めた頃、くろねこは獣のように自分を揺さぶるゾロを呆けた顔で見つめていた。
流れ落ちる汗すらも、愛おしくて。
息が詰まるような快楽で、どうにでもよくなっていく。
「っぁ、あっ、ん・・・!あぁっ、ッ~~~~!」
「・・・・は、痛み、なくなってきたみたいだな」
「わかって、るなら・・・!ちょっと、止まって・・・!」
「やなこった」
既に何度か熱を吐き出したはずのゾロの熱は、それでもまだ硬さを保ち続けてくろねこの中に埋まっていた。
止まってと訴えても、ゾロは腰を止めようとしない。
くろねこが良い反応を見せる場所を集中的に突き上げ、抵抗すら出来ないほどぐずぐずになったくろねこが快楽に溺れるのをゆっくりと楽しむ。
「っぅ、あ、また・・・っ」
「いきそうか?」
「ちが、ぅ」
「・・・へぇ?じゃあもちっと強めに動いても大丈夫だな」
「ばかっ、だめ・・・・!」
「あ?大丈夫なんだろ?」
「大丈夫、とは、言ってなっ・・・・ぁ、やっ、あぁあっ、ン!」
緩やかだった動きが強くなり、くろねこがあっという間に身体をのけぞらせた。
どう言い訳しても達したことが分かる反応にゾロは意地悪く笑う。
「も、もう、いいでしょ・・・?」
「まだ満足してねェ」
「これ以上やられたら、私・・・」
「そう言われるとやりたくなるだろ?」
「ッほんと、性格悪い・・・!!!」
どんなに悲鳴を上げても、くろねこが普通の女とは違うことをゾロはよく知っている。
これだけの行為で体力が尽きるわけがない。
もちろん、お互いに。
「・・・もう少し、付き合えよ」
「やだ!限界なん・・・あっ、ひぅ!っちょっと!人がっ・・・・!」
「文句言う暇あんならできるだろうが」
「この獣ッ・・・・!」
「おうおう、なんとでも言え。俺を獣にしたのはてめェだ、きっちり責任取れよ」
「このっ・・・!」
生意気な言い方をするゾロを震える手で突き飛ばしたくろねこが、バランスを崩したゾロをベッドに組み敷いた。
「ったく!少しは遠慮しろっ!!!」
「悪いが俺はわんこじゃねェんだ」
「あのねぇ・・・!」
文句を言うくろねこの腰を押さえ、有無を言わさず熱を沈めさせる。
「ッぁ、あぅ!?」
「っは・・・あ、やべぇ、こっちのほうが奥まで入るな・・・・」
「・・・・ほんと、むか、つく・・・・!」
やりたいようにやるゾロも。
やりたいようにされている、自分も。
「嫌なら今みたいに逃げ出せばいいだろ?」
「ッ・・・・・」
それが出来るのにしないのはお前だと、細められたゾロの瞳が意地悪く告げる。
「嫌じゃ・・・ねぇんだろッ」
「あ、ぁぁっ、ン、はっ、ぁ・・・!」
「ここ、だろ・・・・?」
「ひ、ぅっ!」
くろねこが上に乗ったことにより、更に奥に当たるようになった熱にくろねこの表情が変わった。さっきよりも必死に快楽から逃げ出そうとする表情がゾロの加虐心を煽る。
「どうした?」
「ッ~~~~~」
ゾロの声は聞こえていないらしい。
くろねこは懇願するようにゾロの手を掴み、力強く首を横に振った。
「ごめ、この体勢むりっ・・・」
「あ?なんでだよ」
「いい、から・・・下ろして・・・!」
「お前から乗ってきたんだろうが」
「そうだけどっ!っあ!動かないで・・・」
「そう言われると動きたくなるって言ってんだろ?」
乱れた声。
煽る表情。
これを楽しむな、なんて無理な話だ。
逃げられないように何度も突き上げ、我慢しきれなかった声を味わう。
「んっ、ぁ、やっ、ン!」
「くろねこ・・・」
「ぁ、ゾロ、ゾロっ・・・!」
「・・・・好きだ」
「ッ、ぁ――――!」
「っは、マジで、素直なヤツ・・・・」
普段もそのぐらい、素直なら良いのにな。
そう意地悪く囁いた言葉すらかき消して、夜は続いていく。
◆◆◆
清々しいほどに寝坊した朝――――ではなく、昼。
身体を起こすことすら出来ない腰の激痛に、短いうめき声を漏らしたのはくろねこだった。
「(嘘でしょ・・・・)」
どんな厳しい修行をしても耐えれていた身体が上げる悲鳴。
初めてのことにくろねこは戸惑いながらゆっくりと身体を起こす。
「起きたか?」
「・・・・・ん」
「声、枯れてるな・・・ほらよ」
投げ渡される水を素直に受け取り、文句すら言えない口に流し込んだ。
それを見届けたゾロが、静かにベッドサイドに腰掛け、くろねこの頭を撫でる。
「わりぃ、本気で無茶させた」
「・・・・・自覚あり?」
「色々とぶっ飛んじまった自覚はある」
「正直、死ぬかと思った」
行為の後半はもう覚えていない。
何とかベッドから抜け出したくろねこは、太ももにびっしりついた歯型に気づいて絶句する。
「ぎゃー!なにこれ!?」
「あァ?・・・・お前が目立つところは駄目っつーからそこにしたんだ」
「だ、だからってこんなに・・・・」
「すぐに消えたら意味ねェだろ」
悪びれる様子もないゾロにため息を吐き、くろねこはもう一度ベッドに横たわった。
「風呂、いいのか?」
「身体痛いからもう少し休む・・・・」
「・・・・・」
「・・・・ちょっと待て。今聞いてた?人が身体痛いから寝るって言ってるのに覆いかぶさるやつがある???」
ぎしりと軋むベッド。
気配が自分の上に乗っかっていることに気づいたくろねこは目を開ける。
覆いかぶさるゾロは、昨日と同じ表情をしていた。
まるで獲物を狙うような。――――いや、実際そうなのだろう。
「ゾロ」
「・・・・駄目か?」
「駄目って言ったら止まる?」
「・・・・・・・・」
止まる気の無い瞳が、ぎらりと光る。
一度手綱を手放した獣はそう簡単に止まるものでは無いらしい。
覚えてしまった味を、満たされるまで食い尽くす。
自分が獲物として捕らえられていることを自覚しているくろねこは、苦笑しながらゾロに手を伸ばした。
「・・・・良いのか?」
「止まる気なかったくせに良く言う!」
「お前が悪い」
「なんで!」
「・・・・こんなの味わっちまったら、欲しくなるのは当たり前だろうが・・・・」
低く、ぞわりとする声で囁かれれば、反射的に強がりを口にしてしまう。
「鍛錬が足りないんじゃない?」
目を細めて笑ったくろねこに、ゾロは意外にも素直にそうかもなと頷いた。
「でもよ、おめーもだろ?」
「なんでよ?」
「たった一晩で腰立たなくなるなんて鍛錬不足だろうが?」
「アンタの化け物の体力と比べんな!」
苛ついたようにゾロの頬を引っ張るその手を絡め取って、ベッドに縫い付ける。
本格的に身動きが取れなくなったくろねこは、早くなっていく鼓動の音に観念して目を閉じた。
踊り踊らされて盛大にこける
(実はもっと欲しかったなんて、そんな素直な言葉は言えなかった)
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