いらっしゃいませ!
名前変更所
あれから、二年。
誰もが皆変化を遂げた中、変わらないものも多くある。
その変わらないものの一つである光景を甲板で見ていたナミは、暑苦しそうにため息を吐いた。
聞きたくもない木刀のぶつかり合う音に、カランと氷の溶ける音が混ざる。
「まーたくろねこちゃんを付き合わせてんのかアイツ・・・・」
「ほんと、変わらないわよねぇ」
「おまたせしましたナミさん、サンジお手製柑橘ジュースです」
ナミにお手製ジュースを運んできたサンジも、呆れ顔でその音の根源に目を向けた。
音の根源は言わずもがな、くろねことゾロだ。
二年前も毎日のように鍛錬をしていた二人だが、二年経っても二人は変わらなかった。
毎日のように甲板かトレーニング部屋に向かい、お互いに剣を交え、時間さえあれば鍛錬を行う。静かになったかと思えば寝ているか食っているかの二つ。
「あっちぃのに元気だなぁ・・・・くろねこちゃんのために栄養ドリンクでも作っとくか」
剣士とは皆ああなのかと疑いたくもなる日常光景。
真剣じゃないだけマシかと向ける視線の先で二人が構えているのは、ウソップとフランキーが作った特製の修行用木刀だ。
この木刀にはペイントが仕込んであり、ある一定の強さで相手の身体に触れるとペンキの跡を残すように設計されている。
これで木刀でもどこを斬られたのか、ひと目で分かるというわけだ。
「ッ・・・・!」
「チッ」
ペンキはまだ、お互いの服のどこにもついていない。
三刀を構えている方が有利に思えるこの戦いだが、手数はあっても当たらなければ意味がない。
ゾロの猛攻を綺麗に躱し、時にはその一刀でいなしているくろねこは、息を乱しているゾロとは違い余裕の表情で戦いを続けている。
「ゾロ」
「あァ?」
「たまには気分転換してみない?」
「・・・・ほぅ?」
いつも通りの変わらない修業に、飽き飽きしているのは意外にもナミ達だけではなかった。
突然の提案に目を細めたゾロが、刀を引いて少し距離をおく。
「で、何すんだ?」
「こっから先、ペンキを先につけた方の言うことを聞く。どうよ?」
「・・・・なんだそりゃ」
「賭けだよ賭け。・・・・あぁ、嫌だったらいいよぉ。この戦い、“ゾロは一度も私に勝ったことないもんねぇー?“」
けらけらと笑うくろねこの、分かりやすい煽り。
その煽りにぴくりと頬をヒクつかせたゾロが、刀を構え直して殺気立つ。
「てめェ言ったな・・・?」
二年間、くろねことゾロはミホークのところで修行を詰んだ。
同じ師を持ち、同じ環境で修行を続けた二人は、更にお互いのことを知った。
基本的に好戦的な二人は、お互いを良きライバルとして成長を続けている。
そしてこの煽り合いも、ある意味恒例行事だった。
「そろそろ一勝してくれないと面白くないしなぁ」
「てめぇまじでぶった斬るからな・・・?」
「やれるもんならどーぞ?でも、負けたら私の言う事聞いてもらうからね?」
「ッハ、言ってろ」
ゾロの顔つきが、一瞬にして変わる。
「後悔すんなよ?」
「そっちこそ」
激化した二人の勝負は暑さを吹き飛ばす風を生み出した。
これはこれでいいわねと呑気に呟くナミは、すっかり彼らの関係に毒されているのかもしれない。不器用ながらも、刺激的な勝負――――いや、恋愛的な駆け引きだとナミは笑う。
彼らを理解していない人たちから見れば、わりとただの命の取り合いに近いのだが。
「あー!またゾロ達あんなに・・・!ゾロはまだ前の怪我が治ってないんだぞ!」
「大丈夫よ、じゃれてるだけでしょう?」
「じゃれあってるのか?おれには本気で戦ってるようにしか見えないぞ・・・?」
戦いの音を聞いて駆けつけたチョッパーに、傍で本を読んでいたロビンが告げる。
目の前で繰り広げられているのは、殺気立ったゾロがかろうじて船を壊さないようにくろねこに斬りかかっている光景。木刀とはいえ、そんな勢いで斬れば折れるのではないか?というほどの本気の風切音にチョッパーはまた首を傾げた。
「本当に、じゃれあいなのか・・・?」
「あれが彼女の“甘え方“なのよ」
「ほんと。素直に構ってって言えないわよね、くろねこって」
「彼の方もだけれどね」
そんなことを言われているとも知らず、くろねことゾロは真剣に剣を打ち合っている。
ぶつかる木刀の音。
くろねこの目の前をぎりぎりで通り過ぎるそれは、彼女を捉えること無く空を切った。
煽る余裕すらない追撃に、くろねこは身体を翻しその攻撃を次々と避けていく。
「さっきから避けてばっかじゃねェか!」
「アンタの三刀をまともに受け続けてたら腕がなくなるでしょーが!!」
力強いゾロの攻撃を受け続ければ、くろねこに勝ち目はない。
それが分かっているからこそのくろねこの判断を上回る事ができないゾロは、攻撃が当たらない苛立ちにほんの少しだけ太刀筋を乱した。
その隙を、くろねこが逃がすはずもなく。
「っぐ!」
木刀同士が合わさる音とは違う鈍い音が響き、続いてゾロのうめき声がその後を追いかけた。
「右肘ヒットー!私の勝ちぃ!」
「クソっ・・・!」
ゾロの右肘についた赤いインク。
誤魔化すことの出来ない勝利の証にゾロは悔しげに座り込んだ。
「いけると思ったのによ・・・・」
「まだまだ、私だって成長してんだから簡単には負けないよ」
とはいえ、明らかに二年前より疲労度が違う。
もう少し長引いていたら体力が保たなかったかもしれないと息を吐きながら、くろねこはそっとゾロに耳打ちした。
「賭けは私の勝ち」
「・・・・何が望みだよ」
「不寝番、一緒にしない?」
「あァ?」
「今日、私当番なんだけど、暇だし・・・・」
寝ずに敵や船の進行方向を見る係である不寝番は、基本的に一人でやることが多い。
確かに暇なのは分かるが、その言葉を発するくろねこはいつも不寝番ではトレーニングをして楽しんでいた記憶がある。
今更何が暇なんだ、と言いそうになってゾロは口を紡いだ。
もしかして?と。期待を込めてくろねこの顔を覗き込めば、少し照れくさそうにくろねこが視線を逸らす。
「はーん、なるほどな」
「何さ」
「素直に誘えばいいじゃねェか、夜俺といてぇってよ」
「ッ・・・・」
真っ赤に染まる頬。
「いいぜ、“命令“だもんな」
「・・・・」
ゾロは、くろねこがこの言い方に弱いことを知っている。
予想通りくろねこは少しバツ悪そうな顔をすると、小さい声で呟いた。
「最近、一緒にいれなかったから」
戦いに巻き込まれる日々では、時折長く離れる時間もある。
素直に告げるくろねこに気を良くしたゾロは、意地悪く笑いながらくろねこの頬に手を伸ばした。
「・・・・それもそうだな。んじゃ、月見酒でもすっか。どーせ酒、用意してんだろ?」
「してる」
「だったらこんな回りくどいやり方しねぇで、最初から誘えよ」
「・・・・それゾロには言われたくない」
「んだとコラ」
頬に伸ばしていた手に力を込め、びよーんと伸ばす。
「いひゃい!!」
「なーんで俺には言われたくねぇんだ?あァ?」
「アンタが一番素直じゃないだろ!」
「っせェ」
「いだだだだあ!逆ギレ!!!!」
剣を放り投げ、正式にじゃれ合い始めた二人を見て、ナミとロビンは呆れ顔を浮かべた。
一戦目、右肘
(ほんと、素直じゃない二人)
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