いらっしゃいませ!
名前変更所
雷の能力者、エネル。
その足元に転がるゾロの体を見て、くろねこは一気に切り込んだ。
「ほう、お前も哀れな女だな」
「アンタが足蹴にしていい男じゃない――――退けろッ!!!」
ゾロを足踏みしていた足元を狙った刀は弾かれたが、代わりにゾロは解放された。
くろねこは急いでゾロを抱えると、エネルと距離を置くように後ずさる。
戦いに巻き込まれない位置にロビンとゾロを移動させ、それから刀を構え直すくろねこの表情は、驚くほど冷たい。
「くろねこ・・・よ、せ」
「ゾロは黙ってて」
目の前の雷を、真っ直ぐ睨みつける。
恐れすら抱いていない瞳の強さに、隠れて見ていたナミはごくりと唾を飲み込んだ。
雷を恐れない人間なんて、いない。
威力次第では一瞬で心臓は止まる。
それだけじゃない。痛みも、熱さも、想像できないものがある。
だからこそ人間は自然の雷を恐れる。
「死に急ぐなど、馬鹿なことを」
「アンタがね」
それを意図的に操る人間と戦うなんて、無茶だ。
「雷獣」
「同じ技は、食らわないッ!!!」
ゾロに放たれた、雷の猛獣。
くろねこは恐れずその猛獣に対して刀を振るい、雷を打ち消した。
その光景を見て、エネルは目を細める。
「ほう・・・・」
「行くよ・・・!!!」
迸る雷を切り裂く刃。
ぴりぴりと肌に違和感を残していく力を感じながら、くろねこは刀を振るい続ける。
中々に人間離れした戦いを繰り広げているが、お互いに未来が見えているような動きをしており、致命的な攻撃を与えられない時間が続く。
苛立ってもしょうがないと息を整えようにも、着地を狙うように撃ち込まれる雷に、段々と体に痺れが残っていくようになる。
「(見聞色の覇気・・・?)」
ロギア系に対抗する手段を持つくろねこでも、相手が雷ということと、マントラ――――つまりは見聞色の覇気に手こずる戦いを強いられていた。
相手の動きが読めたとしても、相手は雷。
自分よりも早い動きができる物体に対して、同じ読み合いをしたとしても勝てない。
――――相性が、悪い。
「先程までの威勢はどうした。所詮は虫ケラか?」
「・・・・・・」
煽られるな。
集中して、相手の心の声を聞け。
くろねこは研ぎ澄ました感覚の中、エネルの次の行動を読み取るため目を瞑った。
静かな風の音と共に雷が鳴る。
空に張り巡らされる黒い雲と共に、エネルの次の攻撃手を読み取ったくろねこは焦ったように後ろに刀を構えた。
「ごめん、ロビン、ゾロッ・・・!」
「っが!?」
衝撃波で後ろに寝ていたゾロとロビンを吹き飛ばしたくろねこは、ゴロゴロと鳴り響く嫌な音に対して自分の刀を突き上げた。
「エル・トール」
「っ――――――!!!!」
「そんなっ・・・!?くろねこーーー!!!!」
避雷針のように突き上げた刀に刺さる、雷。
くろねこが見たのは、ロビンとゾロを狙うエネルの攻撃だった。
わざとだって分かっていた。
それでも体は動いてしまうものだ。
「本当に哀れだな。その無駄な虫ケラを振り返らなければお前は生きていた」
本当に、そのとおりだ。
それでも。
「神様には分からないよ、“愛“なんて」
無駄口を開いた体にもう一撃。
鋭い雷が落ちる音を聞いて、くろねこは意識を飛ばした。
◆◆◆
空島から脱出してからも、くろねこは目を覚まさなかった。
あれから色んなことがあってエネルをぶっ飛ばしたという話もしたいのに、彼女の体はぴくりともしない。
全身の火傷はもう跡も残らないほどに綺麗に治っている。
さすがの治癒力だと思いながらも、目を覚まさなければ意味がないとゾロは大きな口を開けて欠伸を浮かべた。
「ゾロ、アンタさすがに寝ないと・・・代わるわよ?」
「いや、いい」
「・・・・そう。じゃあ御飯持ってこさせるわ」
「おう。くろねこの分も一応頼む」
目の前でくろねこがやられるのを見ていたゾロは、責任を感じているのか一睡もせずくろねこの看病を続けている。
誰が心配しても、大丈夫の一点張りでくろねこの看病を誰にも譲ろうとしない。
ナミに言われて御飯を運んできたサンジが、ゾロの隣にあるサイドテーブルに御飯を置いた。ゾロ用のスタミナがつく食事と、くろねこ用のおかゆだ。
「起きそうになきゃ食っちまってくれ」
「・・・・あぁ」
ゾロはサンジに見向きもせず、手慣れた様子でくろねこの右手を持ち上げた。
唯一、まだ傷が残っている箇所。
周りへの被害を留めるため、自らが避雷針となるために刀を突き上げた腕だ。
爛れた手のひらを保護していた包帯をほどき、消毒液をつけ、新しい包帯に変える。
不器用なゾロとは思えないほど丁寧な治療にサンジは「ほぅ」と感心のため息を漏らした。
いつもならからかう所だが、くろねこがああなっている以上は何も言えないと、サンジは大人しく部屋から退散する。
「・・・・俺は、弱い」
サンジがいなくなるのを待って、呟く。
正直に言えば、ゾロにはエネルとくろねこの戦いが目で追えてなかった。
意識が朦朧としていたのもある。だがそれは言い訳だ。
確実に、違う戦いをしていた。
その戦いに混ざる力すら、なかった。
「守れなかった」
抱え込んだ女を守れないで、何が大剣豪だ。
「・・・・クソッ!」
下手すればくろねこは死んでいた。
「もっと、もっと強く・・・!」
親友との約束を守るため。
共に進む仲間の道を切り開くため。
見つけた大切なものを守るため。
「とっとと起きて稽古つけやがれ」
恨み言を吐き捨て、起きないくろねこの唇に自らの唇を重ねる。
カサついた小さな唇を湿らせるように味わえば、くろねこの体がぴくりと跳ねた。
「っ、くろねこ・・・?」
「ん・・・・んふふ、もっと」
「おい、待て、馬鹿・・・!」
離れようとしたゾロの体をくろねこが引っ張る。
覆いかぶさるように倒れ込んだゾロは慌ててベッドから降りようとするが、それをくろねこが許さなかった。
「もう、いっかい」
「っ・・・・」
寝ぼけた瞳が見上げてくる。
我慢できるわけもなく、ベッドに押さえつけるように唇を貪った。
「ん」
漏れる甘い声。
触れる、舌。
舌を動かす度にぴくぴくと跳ねる体が愛おしくて、更に続ければ、覚醒してきたらしいくろねこがゾロの下でもがき出した。
「ん~~っ!!」
「っ、わりぃ」
「ちょっと!寝起き襲うなんて変態!」
「待てコラ!お前が強請ったんだろうが!」
え?ときょとん顔を見せるくろねこは、心配していたのが馬鹿らしくなるほどいつもと変わらない。
「・・・体、大丈夫か?」
「えーっと・・・・大丈夫?ってあー!そうだった!エネルは!?皆は!?」
「ルフィがぶっ倒した。皆は無事だ」
「さっすが!よかったよかった~!」
「あれからもう三日以上経ってるんだ。・・・それだけ、起きなかったんだぞお前」
くろねこは色々と思い出すようにゆっくりと自分の体を撫でた。
未だ覆いかぶさったままのゾロが見ていることも気にせず、服の中や腕を確認していく。
「結構な雷くらった気がするけど、治癒出来てるなら問題なさそうだね」
「・・・・問題ないわけ、あるか・・・」
ゾロが苦しげに呟くのを聞いて、くろねこが微笑む。
「皆が無事で良かった」
「・・・・・」
「そんな顔しないで。私は無事だったし、後に繋ぐ戦いをしただけ」
そう、ただ死を覚悟して戦ったわけじゃない。
あそこでゾロとロビンを生かすことで、後のルフィに繋ぐ可能性の方を考えただけのこと。
「それに・・・・ゾロを足蹴にしたのが、許せなかったから」
あの時の本気の殺気を、ゾロは忘れていない。
「・・・・ああなったのは、俺の責任だ」
「知ってる」
その瞳に宿る感情は、弱いことへの哀れみではない。
負けは自分の自己責任。分かっているからこその怒りと悔しさ。
「だから私がこうなったのも、私の責任」
「・・・・それは」
「ゾロ」
「・・・・・っ」
言い訳を許さないとばかりにくろねこからゾロに口づける。
「私も、強くなる。ゾロに追い越されないように」
「・・・・それぐらいのほうが、張り合いが合って良いな」
「言ったな?」
唇を離したくろねこに、ゾロがこつんと額をぶつけた。
「覚悟しとけよ?」
「こっちの台詞」
「ちょっとゾロー?くろねこの声聞こえたけど起き・・・・・」
扉を開ける音と共に、ナミが固まる。
「おう、起きたぞ」と普通に返事するつもりだったゾロは、自分の体勢を思い出して口を閉ざした。
ベッドの上に二人。
寝そべるくろねこの上に、ゾロが覆いかぶさっているこの状況に、言い訳など通用するわけもなく。
「ゾロ・・・アンタね・・・ついに怪我人を・・・・ッ!!!」
「いや、待てっ!?これはッ・・・・!」
「問答無用ッ!!!!!」
未来の大剣豪さえも黙らせる拳が振り下ろされるのを見ながら、くろねこはやれやれと苦笑した。自分が寝ぼけていたせいだっていうのは、またいつか機会があれば言っておこう。
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