いらっしゃいませ!
名前変更所
誰しもが、過去を持つ。
幸せな過去も、苦しい過去も。
だけどその“真実“を知る者は少ない。
海軍から賭けられた賞金だけが全てを語るわけではない。
それを知っているであろう目の前の男――――青キジから発せされる言葉に、くろねことロビンは顔を歪めた。
悪魔の子、ニコ・ロビン。
海軍改造兵器AX-00、くろねこ。
二人の過去の真実は彼女たちの胸の中だけに眠る。
「懸賞金の額は、何もそいつの強さを表すだけじゃない。そいつが政府に及ぼす危険度を示す数値でもある。だからこそお前は8歳という幼さで7900万という賞金になった。そうだろ?ニコ・ロビン」
そんな二人に容赦ない言葉を叩きつける青キジに、ルフィが冷たい視線を送った。
ニコ・ロビンの表情は、引き攣ったまま。
明らかに嫌な物言いを続ける青キジに誰しもが表情を険しくしていく。
「子供ながらに上手く生きてきたもんだ。裏切っては逃げ、取り入っては利用して・・・その尻の軽さで裏社会を生き延びてきたお前が、次に選んだのがこの一味というわけか」
「おい・・・・てめぇ、聞いてりゃ勘に触る言い方するじゃねぇか!!」
聞いているだけで胸糞が悪くなる表現を選んだ言葉。
明らかな侮辱にサンジが声を荒らげる。
青キジはそんな彼の態度を気にすること無く、まっすぐにロビンとくろねこだけを見つめた。
「くろねこもそうだ。誰でも構わず気に食わない組織を潰し、騙し、自分の盾にしてきた。そんな一匹狼のお前が今更仲間か?・・・・何が目的なんだろうな」
「口に気をつけろ。・・・・てめェにくろねこの何が分かる」
「ま、全部は知らないさ。だが、お前たちはいずれ後悔する。厄介な女二人を抱え込んだってな・・・・それを証拠に、今日までニコ・ロビン、くろねこが関わった組織は全て壊滅している。お前たちを除いてな・・・・」
幼いながらにして、生まれながらにして。
背負わなくてもよい宿命を背負うことになった二人。
生きる術すらなかったロビンは、組織の中を動き回り、政府から身を隠し、危険が迫ればその組織を捨てることで生き延びてきた。
逆に膨大な力を持ちすぎたくろねこは、海軍によってその全てを弄ばれた。
ただ生きていただけ。
ただ人より強く生まれただけ。
それなのに欲望に目をつけられ、売りさばかれ、体を改造され、家族を殺され、弄ばれた。
―――――心も、体も。
歩んできた道は違えど、彼女たちが背負ったものは同じ。
その力と賭けられた賞金故に信じれる存在を無くした。誰しもが彼女達の正体を知れば金と名誉のために飛びつく。そんな彼らを破滅させ、満足に安心して寝られない日々を送ってきた。
好きで、そうしてきたわけじゃない。
好きで、そうなったわけじゃない。
「やめろ!・・・・過去は過去だ!!!!」
「大事なのは、昔より今だろうが」
「今ロビンとくろねこは、おれたちの大事な仲間なんだぞ!」
過去を聞いて、こうやって怒ってくれる人たちだから信じることが出来た。
ついていこうと思えた。
ロビンとくろねこの思いは、一緒だった。
その安息を壊すような、踏みにじるような言い方を続ける青キジに、ロビンが殺気立つ。
「・・・・へぇ、上手く馴染んでるな」
「何が言いたいの!!・・・私を捕まえたいなら、そうすればいい!!」
叫びながら能力で青キジに手を生やしたロビンは、容赦なくその体をへし折ろうとした。
だが、青キジはヒエヒエの身の能力者。
ロギア系の存在を、中途半端な攻撃で殺すことは出来ない。
砕け散った氷の中から再度青キジが立ち上がるのを見ながら、くろねこは刀に手を添える。
「あらら・・・もう少し、利口だと思ってたんだけどなぁ」
「馬鹿っ・・・・!」
くろねこが飛びかかるよりも先に、ロビンを庇うようにゾロ、サンジ、ルフィが飛び出した。
慌てて止めようにも、もう遅い。
青キジに触れてしまった三人は、一瞬でその手や足を氷漬けにされてしまった。
冷たさと痛みで悶え苦しむ三人を前に、青キジは悠々とロビンの方に歩き出す。
「・・・・っ」
ロビンは、動かない。
「いい仲間に出会ったな。だが、お前はお前だ、ニコ・ロビン」
「ち、ちがう、わたし、は・・・・」
凍りついた青キジがロビンに抱きつこうとした瞬間、鋭い一閃がその間を引き裂いた。
余裕めいた動きをしていた青キジも、その攻撃には当たらないように身を躱す。
「・・・・本気、か」
「そりゃそうでしょ。仲間に手を出されて黙ってられると思う?」
「一匹狼が仲間を語るのかい?AX-00」
「アンタは私が、海軍の技術を得るだけ得て逃げ出した実験体とでも聞いてるんでしょ?・・・・かわいそうに。“真実“も知らないで女を貶す気分はどう?」
その言葉に、青キジの表情が大きく変わった。
挑発に対して歪んだわけじゃない。
くろねこの言葉に、どこか納得したような表情を見せたのだ。
「・・・・まぁ確かに、お前に関しちゃもっとも謎が大きい。でも同時に・・・・お前自身が兵器なことにも変わりない」
「ほんと身勝手だなぁ。・・・・“勝手にそうしたくせに“」
くろねこの出生を知る存在はほんの一握り。
それもそのはずだ。人身売買に携わり、実験のために子供を買ったなんて知られれば、どんな正義であろうとも反感を買うことになる。
青キジも、深くは知らないのだろう。
反応を伺うように目を細めたくろねこは、凍った三人とロビンを守って刀を構え直した。
「兵器を相手にしてみる?」
「・・・・・お前を相手にするのは、ちときつそうだなぁ・・・」
正義を掲げて行うことは、どんなに外道なことでも正義になるのか?
結果としてそれが正義に繋がれば、そのために犠牲になった存在は悪になるのか?
その問いかけに答える存在はいない。
「悪いが、お前は生捕りが前提だ」
「ッ・・・・?」
刀を構えて踏み込んだ瞬間、くろねこの体が右足から崩れ落ちた。
疑問と同時に目に入る、青キジの手元。
握られているリモコンに見に覚えがあったくろねこは、苦しげに舌打ちした。
海軍管理だったくろねこには、完全な支配ではないとはいえある程度の制御チップが組み込まれている。そのチップを動作させるための機械――――右足の感覚を奪われたくろねこは、力が入らない右足を下敷きにうずくまる。
「くろねこ!!」
後ろから悲痛なゾロの叫びが聞こえる。
それでもくろねこは、左足で膝立ちになり、ロビンの前に立ちはだかることを選んだ。
「ロビンは・・・・仲間だ」
「・・・・くろねこ、私は・・・・」
「ルフィも、皆も、大切な仲間だ」
「参ったな・・・連行する船がねぇから、お前を氷漬けにしちまうと後々面倒そうだが・・・・」
力が、入らない。
覇気すら纏えない。
「くろねこッ!ロビン!!逃げてぇッ!!!」
くろねこは氷漬けになる感触を味わいながら何とか最後の力で青キジの手元のリモコンを刀で打ち上げた。
青キジのしまった、という表情にしたり顔を浮かべて氷像になってやる。
それだけが、一矢報いた証拠だ。
◆◆◆
持ち前の治癒力で誰よりも早く回復したくろねこは、あの後ルフィ達に何があったのかを知った。
ルフィが一騎打ちに持ち込んだことで見逃してもらえたこと。
その代わり、ルフィが氷漬けになってしまったこと。
ルフィやロビンが回復するのを待つ間、無人島で食料確保をすることにしたくろねこは、遠い目で浜辺を歩く。
「・・・・・」
政府の上位権力者が相手になればなるほど、くろねこは不利になる。
くろねこを制御するための道具を持っているのは、その権力者達だからだ。
ルフィ達はどんどん大物になっていく。
もしその時、青キジのような存在を相手にすることになったら。
「足手まといになるのは、私・・・・か」
自由に動くようになった体を伸ばし、ゆっくりと刀を構える。
こればかりは、強くなることで乗り越えられる問題ではない。
自分一人で解決できることでもない。
―――――仲間。
仲間がいるからどうにかなるかもしれないという希望と、同時に襲いかかる不安。
“―――――仲間を巻き込むかもしれない“
「・・・・強くも、弱くもなった気がするなぁ」
仲間を守るために強くなった。
逆に、仲間がいるから、仲間のために弱くなった。
今までの仮初めの仲間とは違う。
いらなくなったから捨てる。弱いから潰す。盾にする。
どうせ私を裏切るのだから。私から裏切っても問題ない。
どれも、もう今は出来ない判断。
「おい」
ルフィ達を裏切るなんて出来ない。
「・・・・」
ルフィ達が、裏切るとも思えない。
「おい!」
「っう、わ!!!」
ぼーっと考え事をしていたくろねこは、後ろから掛けられた声に驚き、目の前の木に顔面から突っ込んだ。
あまりにも酷い音に、心配しながら近づいたゾロが手を差し伸べる。
「・・・・大丈夫か?」
「鼻なくなったかも・・・・」
「安心しろ、あるぜ。ウソップよりはねぇけどな」
冗談を言いながらくろねこを立ち上がらせたゾロは、そのままくろねこの手を引っ張った。
「ひでぇ顔してるぞ」
「そりゃ顔面から突っ込んだし・・・・」
「そういう意味じゃねェよ」
「・・・・知ってる」
気付けば、誰よりも理解しあっている関係。
お互いに軽口を叩いた後、歩き出す。
思い詰めた表情を浮かべるくろねこを引きずり出すのはいつもゾロだ。
迷い。悲しみ。恐怖。
剣士には不要な感情を、抱く時もある。
それを弱さと言って馬鹿にする関係じゃない。
大切な、存在だから。
「・・・・やるか?」
船から離れた反対側の海岸でゾロが刀を抜く。
「うん」
これが、彼らの解決方法。
迷い断ち切る一閃を、ぶつけ合うことが慰め。
ゆらりと体を揺らし、脱力した状態から構えに入るくろねこの太刀筋に、ほんの少しだけ揺らぎが見える。それを感じ取ったゾロは、驚きに一瞬反撃を忘れてしまった。
「・・・・・お前」
「・・・・・」
迷いが見える、太刀筋。
くろねこらしさを感じられない太刀筋の数々に、ゾロが呆れながら手を止める。
「・・・・しゃーねぇな、酒でどうだ?」
意地悪く笑ったゾロが、左手をヒラヒラさせて“よこせ“のポーズを取った。
突然何を言い出すのかと首を捻るくろねこに、ゾロはさも当然とばかりに言い放つ。
「その迷い、断ち切るのに付き合ってやるよ」
「・・・・意外」
「あ?」
「迷いは自分で断ち切れって言うタイプかと思った」
苦笑しながら強がったことを言うくろねこは、どこか嬉しそうに笑った。
「普通なら、な」
「普通じゃないんだ?」
「分かってんだろうが」
「えー?分かんないなぁ」
からかうくろねこにゾロが容赦なく刀を振り上げる。
その攻撃はからかいに対する冗談――――とはいえないスピードで、くろねこは慌てて刀を構え直すことになった。
「オラ、やるぞ」
「っ・・・たく、荒療治」
刀がぶつかる音が、響く。
何もかもを吹き飛ばすような綺麗な音が。
「もし私が政府に捕まって、洗脳されたらどうする?」
「助け出すに決まってんだろうが」
「・・・・どんなに危険でも?」
「関係ねぇ」
迷いがない回答に、心が揺れる。
「・・・・私が、敵に・・・・なっても?」
ぎらつく瞳が殺気立ち、くろねこの刀を強く捉えた。
「敵になったらてめェが誰のモンか思い出させてやるまでだ」
ゾロらしい、答え。
魔獣が牙を向いて、お前の主は誰かと教えこむように笑いかける。
あぁ、この男に捕まった時点で、私の運命は決まっていたんだ。
「言っとくが」
「っ――――!」
「何があっても逃げられると思うなよ、俺から」
殺気とは違う、ぞくりとした感覚。
何故だろうか。
本気で、逃げられないと思った。
まるで手綱を握られているような、そんな感覚。
「俺の刀を盗んだのが、お前の終わりだっつったろ?俺が死ぬまで、逃しゃしねェよ」
「・・・・死んでからも逃さないって顔してるけど」
「よく分かってんじゃねェか」
死ぬ時も、きっと、一緒。
恐ろしいほどの執着。
大剣豪への道を、噛みついて離さないゾロらしい言葉。
「・・・・分かったならとっととその気持ち悪ぃ太刀筋なおせ」
「ひど・・・・!」
踏み込んできたゾロの刀に、一閃。
先ほどとは違う強く綺麗な――――ゾロが惚れた太刀筋を披露したくろねこは、迷いなく笑っていた。信じよう。何があっても、彼は私を食い殺すまで追いかけてくれると。
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