Erdbeere ~苺~ 3.三戦目、腹部 忍者ブログ
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2022年06月19日 (Sun)

剣豪/ギャグ甘/R18あり/毎日船の上で繰り広げる、鍛錬話

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揺れる船内で、いつも通り響く木刀の音。

やれやれー!と目を輝かせながら応援しているルフィと、タバコをふかしながらくろねこを応援しているサンジの野次を聞きながら、くろねことゾロは今日も剣を合わせていた。


「今日の夜飯どうすっかなぁ・・・・」
「肉!!」
「へいへい、船長の要望は聞かなくても分かるぜまったく・・・・」


小気味好い木刀の音を聞けば、あぁもう夕方になるんだなと船の誰もが思う。
ある意味、時計に近い存在だ。


「っおら!!」
「よっと・・・!」


昨日の力での戦い方を止めたくろねこは、いつも通り自分の得意分野のスピードを活かして最低限の動きでゾロの剣をいなしていた。

その動きに翻弄されているゾロは、くろねこの動きが捉えられずに苛立ちを見せている。


「いやぁ、くろねこちゃんは相変わらず最高にかっこいいぜ・・・」
「ししし!ゾロも最近負けてねぇぞ!」
「あの脳筋クソマリモ相手にあれだけ戦えるんだ。くろねこちゃんは努力を怠らない素敵なレディだ~~~!」


サンジから飛んでくるハートの視線に気づいたくろねこが、サンジの方を振り返った。
そんな一瞬の行動でも隙を作らないくろねこは、後頭部を狙うゾロの剣を見向きもせずに受け止める。


くろねこちゅわぁ~~~ん!!そんなクソマリモみじん切りにしちまってくれぇ!」
「んだとこのクソコック!!みじん切りにするのは俺の方だ!!」
「あァ!?てめェくろねこちゃんに手ェ出したらおろすぞ!!!!」


無茶苦茶な物言いを無視し、ゾロは再びくろねこに剣を振り下ろした。
もちろん、その太刀筋が当たらないことは分かっている。

だからこそ、それだけでは終わらせないと技を連携させようとするゾロを見て、くろねこは大きく飛び退った。


「面白いもの、見せてあげる」
「あ?・・・お前、何を・・・」


低く構えた体勢から、するりと抜かれる刀。
構えからして居合かと、その動きを逃さないように意識を集中させれば、見覚えのある太刀筋がゾロの目の前の空を斬った。


「―――――七百二十煩悩鳳!」


一刀から放たれる、飛ぶ斬撃。

船を傷つけないように飛んでいった斬撃の風圧に、ゾロの足元が大きく揺らぐ。

それでも、この隙を突いてくるのは目に見えていることだ。
ゾロは何とかその斬撃を最小限の力で弾き飛ばすと、斬撃を目隠しのように利用して踏み込んできたくろねこに刀を合わせた。


「まだまだだな」
「んだとぉ!?」
「本物を見せてやるよ」
「え?・・・馬鹿っ、こっち側に撃ったら・・・・!」


仕返しとばかりにゾロが三刀を構えるのを見て、くろねこは慌てて後ろを確認する。

くろねこの後ろは船体だ。
船首を後ろにしているゾロと違って、ここで技を撃たれれば避けることは許されない。

それが目的かと気づいた時には遅かった。

ぎらりと光る瞳。
輝く太刀筋。
漂う強者の気配にくろねこの喉が鳴る。


「―――――千八十煩悩鳳ッ!!」


撃ち出された斬撃は、真っ直ぐ船体を撃ち抜く角度で放たれた。
くろねこの後ろで戦いを見ていたサンジ達は慌てること無くくろねこを見守る。

普通なら逃げるなり守ろうとするなりするだろ!と叫びたくなる気持ちを押さえ、くろねこは全力で斬撃を受け止めた。


「ッい・・・!」


手が痺れるほどに重い斬撃。

思わず離れそうになった刀を何とか握りしめ、くろねこは少しだけ覇気を解放した。

力で勝てない攻撃には、別な方法で勝つしか無い。
意地で力でやりあったところで、攻撃を受け止めることに失敗すれば巻き込まれるのは後ろの二人と船体だ。もちろん、彼らがただで巻き込まれるとは思っていないが――――それでも、彼らは自分を信頼して見守っている。それに応えるのに、無駄なプライドはいらない。


(つくづく、学ばせてもらうなぁ・・・ゾロには)


彼も強くなるためにプライドを捨てた。
でも、大事な部分は何も捨ててない。彼は彼のままだ。

プライドを捨てたからといって負けではない。
弱くなったわけではないということを彼は教えてくれている。


(私も、そうだ)


力で追いつけなくなっても。

生まれながらに持った力に助けられているとしても。


「・・・・っいける!」


努力した事実は、消えない。

木刀から放たれた斬撃とは思えない音が響き、斬撃が空に打ち上げられる。
それを荒い息を吐きながら見送ったくろねこは、後ろに被害がないことを確認してその息を安堵に変えた。


「ひゅ~!!やるぅ~!!!すげーぜ!くろねこ!!」
「ったく・・・クソマリモの野郎、くろねこちゃんになんて攻撃を・・・・そんな攻撃を受け流せるくろねこちゃんも素敵だぁ~~!」
「あんがと!」


二人にブイサインをしてゾロに向き直るくろねこの表情は、昨日より明るい。


「やっぱりお前はそういう顔の方が似合うぜ」
「・・・・どういう顔?」
「アホ面」
「アホ面・・・?」


ゾロの言葉にくろねこが殺気立つ。

素直じゃない言葉だということは分かっている。
分かっていても、むかつくものはむかつくのだ。

苛立ちを殺気に変えて、刀を構えたくろねこはゾロに一気に飛び込んだ。


「アホ面ってなんだアホ面って!!」
「その顔だよ、自覚ねェのか?」
「んのやろ・・・ちょっと見直したのに・・・!」
「へェ?何をどう見直してくれたんだ?」


先程の攻撃は確実に、昨日くろねこが口にした悔しさに対する“何か“を感じた。

無駄なプライドを持たずとも、自分の強さを活かせばいいという遠回しな慰め。
それにしては攻撃的すぎる慰めだが、彼らしいとも言える。

そしてそれを素直に口にしないところも、彼らしい。


「やっぱムカつくから言わない」
「素直じゃねェなァ」
「ゾロに言われたくないっての!!」


似た者同士、言い合いながら再び刀を合わせた。
そろそろ日が落ち始める船の上は、彼らの戦いの音さえなければ平和な海の上だ。

綺麗な夕日が海を輝かせ、船上に涼しい風をもたらす。

サンジとルフィがキッチンに入っていくのを見届けたくろねこは、もうそろそろ夜ご飯の時間だということに気が付いた。
戦いに決着をつけなければルフィに全部食べられてしまうと、急ぎ決着をつけるために猫のように体勢を低くしながら勢いよくゾロの懐に飛び込む。


「ッ・・・・!」


一瞬の、移動。

スピードを生かすくろねこの得意分野。


「追えなかった?」
「んなわけあるかっ・・・・!」


強がりを口にするゾロの腕を掴み、刀腕を封じる。
もちろん、ゾロの力に敵うわけがないため、その手は一瞬で振りほどかれた。

だが、それこそがくろねこの作戦。


「そい!」
「う、ぐっ!?」


振りほどかれる瞬間、くろねこの刀がゾロの腹部に思いっきりめり込んだ。


「けほっ・・・!」
「隙あり」
「て・・・んめ・・・!」


ほんの一秒の隙も逃さない。
腹部についたインクに目を落としたゾロは、気に食わなさそうにくろねこから離れた。


「チッ・・・・」
「今日は私の勝ちー!」
「ま、昨日は俺が勝ったから譲ってやるよ」
「うわむかつく・・・・」


剣を置き、強がるゾロに近づく。


「どうであれ、勝ちは勝ちだから一つお願い聞いてくれるよね?」
「・・・・あァ」
「やったー!んじゃ、早速!」
「早速・・・?」



◆◆◆




「いだだだだ!いだい!!ちょっとぉ!?」
「うるせェ、黙ってろ」
「お、お願いしたのに・・・」
「お願い通りやってるだろうが。文句あンのか?」
「ないです・・・・」


御飯も食べず、トレーニング室に二人。

お願いごとのためにくろねこの後ろに座り込むゾロは、お願いをされたとは思えないほど乱暴な手付きでくろねこの身体に包帯を巻いていた。


「いつからだ?」
「忘れた!」
「・・・・いつからだ?」
「いだだだだだぁ!!この前、賞金狩りに襲撃された時ですううう!」


基本的にくろねこは痛みに強い。
それはタフだという意味合いもあるが、一番強いのは彼女の体質だ。

海軍で改造を受けたという彼女は、誰よりも痛みに耐久があり、治癒力も高い。

そんな彼女がゾロにお願いするほどの怪我。
言われなくてもよほどのものだということが分かった。
そして目の前に晒された背中を見たゾロは、不機嫌を隠す様子もなく包帯を巻いている。


「お前の治癒力でここまで酷ェってことは、相当だったはずだ。なんですぐに言わねぇ」


爛れた、火傷の痕。

くろねこの発言が正しければ、先日夜に襲撃を受けた時の傷ということになる。
つまり、木刀での修行を始める前日の傷。

この傷であれだけ動けたことに対する感心と、怒り。

いくら耐久や治癒力が人間よりも上だからといって、無茶をすれば治るものも治らない。


「いやー・・・あはは!すぐ治ると思ってさ!」
「・・・・・・・」
「ッいぃいい~~~!!!!」


黙らせるようにわざと背中に手を当てる。
それから傷を隠すように包帯を巻き終わったゾロは、救急箱を持って立ち上がった。

座るくろねこの前に右手を差し出し、立ち上がるよう促す。


「チョッパーに見せるぞ」


その言葉にくろねこは首を横に振った。


「・・・・やだ」
「はァ?何餓鬼みたいなこと言ってやがる」
「・・・・チョッパーを庇う形で受けたやつなの。チョッパーに、言いたくない」
「・・・・・はぁ。ったく、てめーは・・・・」


考えてみればすぐに分かることだった。
くろねこほどの剣豪が、ただただ傷を負うわけがない。

大体くろねこが傷を負うのは、覇気を纏う暇もなく咄嗟に誰かを庇ったときだ。


「痛みは?」
「誰かさんが乱暴なことしなきゃ全然痛くない」
「・・・・ま、あれだけ動けんだ。本当なんだろうな」
「うん、大丈夫だよ。ただちょっとやっぱり背中は届かないからさー」


困ったように笑うくろねこは、未だ不機嫌そうなゾロに首を傾げる。


「どしたの?変な顔してる」
「・・・・こんなの、“お願い“にならねぇだろ。普通に頼みやがれ」
「お願いはそっちじゃなくて、これをチョッパーに黙っててほしいって方かな」
「・・・・・・」


ゾロに深く刻まれる眉間の皺。
皺を伸ばすように額に手を当てたくろねこは、そのままゾロの頬に口づけた。


「ッ・・・・!?」


突然の行動にゾロが目を見開く。


「いつもありがと、ゾロ」
「・・・・そういうのはこっちにするもんだろ、普通」


調子を取り戻したゾロが、照れくさそうに笑うくろねこを抱き寄せてキスをする。

最初は触れるだけ。
それから、逃さないように噛みついて。
慌てて逃げ出そうとしたくろねこの後頭部を鷲掴みにしたゾロは、わざとらしく音を立てながら震える舌を吸い上げた。


「んっ、んん!」


響く、甘い声。


「っ、ん、ぅ!」


抵抗なんて受け付けない。


「す、すとっ、ぷ・・・んっ、おねが・・・!」
「“お願い“はもう使い切ってんだろ?・・・・聞けねェな」
「っ・・・・」


立ち上がろうとしていたくろねこの足が震え、崩れ落ちる。
それを掬い上げてゆっくりとトレーニング室の椅子に座らせたゾロは、椅子に片膝を掛けて覆いかぶさるようにくろねこに押さえつけた。

体格も、身長も大きいゾロに覆いかぶされれば、逃げ道などない。


「この際しっかり教えこんでやるのもありか・・・」
「う・・・」
「何かあったら俺には報告する。守れるまで仕込んでやる」
「わか、分かった、分かった!!!」


ゾロの胸板を押さえつけ、くろねこは真っ赤な顔で叫ぶ。


「ごめんなさい!分かったー!!言う!ちゃんと言いますっ!!」
「・・・・・」
「うわなにその信用できないって顔!ほんとだって!ねぇ!?待っ・・・・」


無言のまま、器用に刀を抜いたゾロがトレーニング室の扉に向かって剣を振る。
その瞬間、がちゃんと音がして部屋の扉の鍵が落ちた。


「え、なんで鍵しめるの・・・?」
「・・・・・・」
「ゾロ・・・?ちょっと!?御飯!!せめて御飯食べてからっ・・・!」
「あのクソコックのことだ。てめーの分は残してるだろ」
「ゾロの分がなくなるでしょ!!」
くろねこの分貰う」
「えぇーー!!?んっぅ・・・!?」


叫びすら飲み込んで。

背中が痛くないように優しく、それでいて強引に牙を向くゾロを見て、くろねこはまだ消えていない自分の首筋の痕が増えることを察しながら目を閉じた。



三戦目、腹部
(いろんな意味で、強烈な一撃)

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