いらっしゃいませ!
名前変更所
大吾さんに、一つ大きな仕事を頼みたいと言われ。
俺はいつも通り大吾さんの部屋をノックし、返事を待ってから扉を開けた。
「・・・峯か。早かったな」
「いえ・・・」
静かに挨拶を交わして、仕事の話をする。
これも、いつも通り。
そんな空間に俺は、見慣れない影を見つけて足を止めた。
見たことのない、小さな女。
黙っていれば少年に見えるであろうその女は、大吾さんの隣で馴れ馴れしく話をしている。
しばらく黙ってみていると、大吾さんが注意したのか女が喋るのをやめた。
女は俺と大吾さんを交互に見つめ、嫌そうな表情を浮かべる。
「おいおい、大吾。まさかこいつと組むのかよ?」
「あぁ、そうだ」
「・・・・大吾さん、その失礼な女は一体何者ですか?」
色々言いたかったことを一纏めにして尋ねると、大吾さんが俺に座るよう促した。
俺は促された通りソファに座る。
そして大吾さんは”失礼な女”を連れ、俺の前に深々と腰掛けた。
「まずは紹介だな。峯、こいつは情報屋、あけだ」
「よろしく。情報屋の鷹っていえば、まぁまぁ伝わるかもな」
”情報屋の鷹”
その名前は、裏社会の人間なら必ず聞いたことあるであろう有名な名前だった。
賽の花屋と同じ。伝説とつけられるほどの情報屋。
だが、今俺の目の前にいるのはただの女だ。
この女が、伝説の情報屋?
信じられないと首を振れば、女が苛立ちを露わにする。
「・・・・なぁ、大吾。やっぱこいつ腹立つ」
「あけ、お前はもっと落ち着け。峯・・・信じられないかもしれないが、こいつは確かに情報屋だ。俺がこの立場を背負う前から世話になってる」
「・・・そうでしたか」
信じてはいない。
だが、大吾さんや俺を目の前にしても一切怯えないその姿は、説得力のあるものだった。
・・・・まぁ、そんなことはどうだっていい。興味などない。
どうせ俺には関係のないこと。
そう思って話の続きを促す。
「・・・それで、大きな仕事というのは?」
「あぁ、実はな、今・・・沖縄リゾート開発の件で少しごたごたしてるのは知ってるだろう?」
「はい」
「少し、気になる点があってな。リゾート開発が本当に俺達だけの組に関わっている問題なのか調べてもらいたい」
「・・・・と、いうと?」
「俺は何があっても、あの土地の話には乗らない。だがこれだけ金の絡む話だ・・・・裏切り者や、他の組織が裏で何かしてくる可能性もある。それを探ってもらいたい」
「なるほど。・・・わかりました」
四代目の土地があるため、手を引いた”沖縄リゾート開発”の話。
だがその開発の話に関わる金は膨大な量だ。裏切りや、他の絡みが出ても可笑しくない。
大吾さんとしては、そのような危険な芽を潰しておきたいのだろう。
俺には断る理由もないとその仕事を引き受ける。
すると大吾さんの目が、俺から女へと移った。
そして、衝撃的な一言が放たれる。
「その仕事にあたって、あけに峯の補佐をしてもらうことになった」
間を置いて、俺の口から「は?」と間抜けが声が出た。
女は相変わらず不機嫌そうに俺のことを見ている。
「補佐などいりません」
「いや、最近のお前は頑張りすぎだ。あけの腕は俺が保証する」
「・・・・そういう問題では」
「峯?だっけ」
俺と大吾さんの会話の途中で、女が俺の目の前に乗り出してきた。
動揺を見せないように彼女のことを睨めば、女も満足そうな笑みで睨みを返す。
真っ直ぐな、瞳。
恐れることなく、俺を捉えた目。
「私じゃ不満だってのか?いい仕事はするぜ?・・・・たぶんだけど」
強気な表情をしているのに、尻すぼみな言葉。
そんな彼女の言葉に思わず笑ってしまった俺を、彼女は更に睨みつける。
「おいこら!聞いてんのかハゲ!」
「そんなに大声を出さなくても聞こえていますよ。・・・・まったく、落ち着きのない女だ」
「わるぅござんしたね。残念だが、そこら辺で媚び売ってるような女の補佐が欲しければ、大吾にチェンジしてもらってくれ」
「ほう。貴方は媚を売らないと?」
「売るわけねぇだろ。特にお前みたいなのには売りたくないね」
・・・面白い、女だ。
失礼な女から早くも変化を遂げた彼女の印象に、俺は深い溜息を吐いた。
めんどくさいことになりそうだ。
だが、それならそれで、彼女を利用し尽くせばいいだけの話。
俺は視線を大吾さんに戻すと、一回小さく頭を下げた。
「・・・・大吾さん自ら選んでくださった方なのであれば、お受けします」
「ちょっとうるさくてやんちゃだが、許してやってくれ」
「おい大吾!お前もお前で好き勝手言うな!」
「では、私はこれで・・・」
「あ、ちょっとまてよ!私も一緒に行くんだぞ!・・・っこら!!!!」
後ろで叫ぶ彼女を無視して歩き出す。
本当に、めんどくさいことになりそうだ、と。
どこか他人ごとのように思いながら。
彼女は何を言っても俺の側から離れなかった。
それはもちろん、仕事だからなのだが。
めんどくさくなって、「金を払うからこの仕事から降りろ」と言えば激怒し、「そんな回りくどい事言うならどこが悪いって直接言え!!」と殴られた。
少し慣れてきてからかえば、時々しおらしくなったりもする。
俺のことを自分のこと以上に気遣い、勝手に俺から仕事を奪う。
そして仕事は、何でもこなせるやつだった。
得意ではないといっていた資料関係も、すぐに覚えてミスをしなくなった。
かつ、適応力の高さ。
どんな時でも俺が望んでいるのが分かっているのか、すぐに俺の望んだ通りの働きをする。
よく人間を見ているんだろうな。さすがは情報屋なのだろうか。
でもそれ以上に気になったのは。
彼女の、裏表だった。
「んー・・・?これがこうなって?・・・」
目の前で資料と格闘する彼女を、じっと見つめる。
普通の人間には表と裏がある。この裏社会なら尚更のこと。
だが俺の前にいるこの女は、裏が見えなかった。
情報屋だから、隠すのがうまいのか?
だがそれにしては出来過ぎている。”裏”がなさ過ぎるのだ。
・・・少し、餌で釣ってみるのも手か。
俺は彼女に見えないように笑うと、一枚資料を取り上げた。
「君は本当によくやってくれている」
突然話し始めた俺を、あけは不思議そうに見つめる。
さぁ、見せろ。お前の裏を。必ず何か腹の中に持ってるはずだ。
信じねぇ。
何も無い人間、など。
「どうだ?一つ、俺の会社をもらってみないか?」
「・・・・へ?」
金じゃないと言うのなら。
もう一つ、人間が欲しがるもの。それは権力。
金と、権力。
俺はそれで上り詰めてきた。
そして上り詰めていく中で、見返りを求めず自分に近づいた者など大吾さんしかいない。
特に女には、そんな奴存在しなかった。
女は欲張りだ。権力のある男の女だということを見せびらかしたりする。
・・・まぁ、ただ、この女に限ってそれは無さそうだが。
「・・・・あの、言ってる意味がわかんねぇんだけど・・・・」
無言で彼女の出方を伺っていれば、あけは困ったように頭をかいた。
「分かるだろう?お前に会社を一つ譲ってやるといったんだ」
「んあ!?いらねーよそんなの!」
「・・・なに?社長になれるんだぞ?”権力”が手に入る」
「権力も金もいらねーよ、めんどくせーな。私はお前の補佐だ」
また、あの瞳。
真っ直ぐな瞳が、俺を貫く。
「・・・・大吾さんに命令されたからか?」
俺はその瞳に屈さず、質問を続けた。
俺の言葉に、あけの表情がコロコロと変わる。
「命令?んなわけないだろ?大吾と私は上下関係じゃねぇ。まぁ、頼まれたからってのはあるが、純粋にお前を手助けしたいからいる。それだけだ」
変わる表情に、裏が見えない。
まるで子供のような純粋さ。
でもそれは信じれない。信じたくない。
「なら、お前は何を望んで・・・・」
「あーもうほんとお前めんどくせーな!」
「な・・・」
「私はそういうなんか考えたりするの難しいから嫌いだ!もう好きにしてくれ・・・めんどくさい・・・・」
何度めんどくさいと言うつもりだこの女。
俺が真剣に考えているのが馬鹿みたいだ。
そのぐらい、彼女の表情は裏表なく、本当にめんどくさそうな表情を浮かべていた。
「・・・めんどくさいな」
分からない。
やはりこの世界には、お金や権力に囚われない”絆”があるのか。
いや、だが、この世界に入ってそんな人間を見たのはまだ大吾さんだけだ。
結局は金。結局は権力。
特に俺に近づいてくる女は全てそうだった。
・・・めんどくさい。
考えるのが、めんどくさい。
そこまで思わせるこの女は、さすがというべきなのだろうか。
「めんどくさいだろ?疲れねぇのか?誰も信用できねぇの」
「・・・・お前には関係ない」
「えー?ま、いっか。・・・・ってかその資料返してよ」
考え込んでいた俺の隙を突き、あけの手が俺から資料を奪った。
話し込んでいたにも関わらず資料はまとめ終わっており、奪われた資料ごと俺の目の前に纏まった資料が置かれる。
「はいおわり」
「・・・お前」
「ん?え、間違ってる?」
「いや・・・そうじゃないが」
誰も信じられない。
そんな俺の心が、少し、揺れたような気がした。
俺に近づいてくる女。
誰もが見え見えの媚を売り、金を強請り、身体を差し出す。
金さえつめば、なんだって手に入る。
金と権力。その全てで俺の思い通りになる。
―――その考えが今、崩れかけていた。
何なんだ、あの女は。
俺に媚を売ることもしない。金も受け取らない。
権力もめんどくさいと言い、興味を示さない。
そのくせに俺には付き纏い、うるさいぐらいに喚く。
そして俺の言うことなど一切聞かない。
「・・・・おい」
「ったくよー。本当にこんなところにいんのかよー?」
「・・・・おい」
「でも情報としては、今回のこいつらはリゾートとかには関係ねぇみたいなんだよな。ま、東城会の裏切りって面では正しいけど」
「・・・・おい」
「あだっ!?」
東城会の裏切り者。
これだけ大きな組織だ。裏切り者などたくさん出る。
それでも、その影響がでかいものになれば、始末しなければならないこともあるのだ。
今回その始末に来たのが俺だったのだが。
・・・正しくは、俺だけだったはずなのだが。
「ったいなー。なんで殴るんだよ!」
「俺の質問に答えろ。どうしてお前がここにいる」
「え?だってここカチコミするんでしょ?一人じゃ危ないじゃん」
「・・・・・誰もお前に来いとはいっていない」
「あぁ、言われてない。勝手に来た!」
たった数人の組。
東城会の情報を流そうとしていた、ちんけな組だ。
俺一人で十分だというのに、こいつは一切俺の話を聞いていない。
苛立ち任せにもう一度あけの後頭部を殴れば、涙目で声を上げた。
「いだいっ!!もー!来ちゃったもんはしょうがねぇだろ!」
「・・・・それで。事務所に全員いるのか?」
「うー・・・ん?あぁ、いるよ。ちゃんと見張っといたから」
仕事は、できている。
脳天気な表情にもう一発入れてやりたくなったが、手際の良さに免じて拳を引っ込めてやった。
だが、隣に立った俺の苛立ちを感じたのか、あけがヒクついた顔で俺を見上げる。
「や、やだなー・・怒らないで?」
「・・・・怒ってなどいない」
「うわぁ・・・嘘くせー・・・」
「なるほど、そんなに怒られたいのか?」
「あ、嘘です。なんでもないです。ほら、カチコミかけるんだから少しは集中しろよ!」
「・・・お前に言われたくない」
来てしまったものは仕方ない。
使えなかったらそれを理由に帰す気で、俺はターゲットの事務所へと乗り込んだ。
「邪魔するぞ」
「あ?テメぇなに勝手に・・・・って、お前は・・・っ!!」
事務所に入ると、俺を見るなり組の男が悲鳴を上げた。
少しは想像していたのだろうか。
まぁ、予告なしに幹部の人間が、やましいことをしている組に入るんだ。
この反応が、当然だろう。
思った通り、組の人間は全員、俺の姿を見て敵意をむき出しにした。
それぞれが武器を握り、俺とあけを取り囲む。
「ば、馬鹿なやつだな、たった二人でくるとは・・・」
「なるほど。その反応からして、情報は正しいようだな」
「ふん・・・!お前がこうやって何も言わずにきたということは、情報を掴んできたんだろう?だったらお前を生かして帰すわけにはいかねぇ!!」
俺を殺したところで、大吾さんにも情報が流れているというのに。
そんなことを言ってもこいつらが止まるとは思えない。
別に、止めるつもりもないが。
裏切りなど見慣れたことだ。・・・だから。
「さっさとやるぞ」
「ん?あいあい」
あけに合図を出すのと同時に、彼らも俺たちに向かって一斉に襲いかかる。
俺はあけのことなど気にもとめず、ただ一人一人と、自分に向かってくるやつを殴り倒した。
極道に入ってから、鍛えた拳。
俺よりも長く極道にいたであろう男たちが俺の拳に沈んでいくのを見て、少しだけ笑みが零れた。
感じる、歪んだ優越感。
ふと後ろが気になって振り返ってみれば、あけが複数の男相手に舞うように戦っていた。
「こ、この女・・・!」
「まだまだだねぇ・・・ちゃんと喧嘩してたのお前ら?」
「う・・・うるせぇ!!」
「おっと・・・そらっ!!!」
男の攻撃を受け流し、華麗に蹴り技を入れる。
自由奔放な戦い方・・・に見えるが、俺はその戦い方に違和感を覚えた。
自由に戦っている、ように見える。
でも実際は、彼女は限られたスペースの中でしか動いていなかった。
それはまるで、背中合わせに誰かと戦うのを予測していたかのような動き。
いや、違うのか?
誰かを守るための、動き?
「・・・・」
急に、あけのことが気になった。
あいつの背中に、今まで誰がいたのか。
なんのために強くなったのか。
一体何を考えて情報屋をしているのか。
棒立ちで彼女の姿を見ながらそんなことを考えていた俺に、鋭い声が掛かる。
「何、敵に、せぇむけて・・・ボケっとしとんじゃぁぁあ!!!」
「っ・・・・!?」
考え事をしていた一瞬。
俺は殴り倒した男が銃を向けているのに気づくのが遅れ、咄嗟の判断で防御の体勢を取った。
だから、嫌だったんだ。アイツが来るのは。
あの女は、俺の全てを乱す。壊していく。
アイツがいると、俺が狂う。
こんな奴に遅れをとるような、俺ではないのに。
「・・・・」
一発の銃声と共に、右脇腹に強烈な痛みが走った。
目の前の敵を捉えようと目を開けば、二発目を撃とうとする男と目が合う。
距離が、まだ少しある。
二発目も止められないと考えた俺は、その男と距離を詰めようとして、右からの衝撃に体勢を崩した。
「っ・・・!?」
直後、響いた銃声。
横からの衝撃に倒れてた俺は、慌てて体勢を立て直す。
立て直した俺の目に映ったのは、目を押さえてもがき苦しむ男と、左手を押さえているあけの姿だった。
あけの左手からは、赤い血が流れ出している。
静かになった部屋の中で、荒く息を吐くあけの声だけが響いた。
「っ・・・油断してんじゃねぇよ!」
「・・・・」
「・・・・ってまぁ、無事だったからいっか」
「・・・・余計なことだ。なぜ庇った」
「あー、はいはい。勝手にしました。わるぅござんしたー」
詫びれる様子も見えないあけの態度に苛立つ。
だが、俺も脇腹を撃たれているため、あけに構っている余裕などなかった。
貫通はしているようだが、痛みと血は止まらない。
それに気付いたあけは冷静に自分の服をちぎり、俺の腹部へと布を当てた。
引き換えに露わになる、あけの肌。
腹とはいえ、女だというのにこいつは。
「見えているぞ」
「腹ぐらいいいだろ別に。迷惑はかけてねぇ。お前の傷のほうがやばいんだから黙って治療されてろ」
あけがめんどくさそうに俺を睨む。
「今はお前の身体が一番だ。おとなしくしてろ」
自分だって怪我を負っているくせに。
しかも、俺を庇って。
本当に、分からない。
こいつは何を考えているんだ?
考えてる内に、目の前が暗くなる。
しまった。これ、は。
「・・・・・っ」
「・・・?峯?」
「・・・・」
「峯ッ!!くそ、出血が・・・っ。峯、しっかりしろ!!」
薄れていく景色の中で、あけの悲痛な叫びだけが俺の耳に響いた。
何もかも、この女のせいだ。
この女が俺を乱すから。
この、女、が――――。
目が覚めて、一番最初に感じたのはツンとした薬の匂いだった。
薄っすらと目を開けて周りを見渡せば、目に入ったのはむき出しになったコンクリートの壁。
でもそれは決して、高級感のあるものではなかった。
置かれているものも毒々しいものが多く、何かの研究室だろうか?と思えるほとだ。
だが、病院という感じでもない。
謎の色をした液体が揺れる瓶。
少しだけ生活感が漂うタオルや衣類。
誰かの、家?
「これは・・・・くっ」
ゆっくり起き上がると、腹部に鈍い痛みが走った。
手を当ててみれば、銃で撃たれたあとが綺麗に治療され、包帯で巻かれている。
・・・と、いうことは。
俺の疑問をかき消すかのように、良い匂いがしてくる。
匂いのした方を振り返ると、いつものスーツを脱いでシャツだけになったあけが何かを運んでくるところだった。
「あれ?やっと起きたのか」
「・・・・ここは」
「あー、私のアジト。私が許したやつしか入れない場所だから、安心しろ」
そう言いながら、あけは目の前の簡易テーブルにおかゆを置いた。
「1日寝てたから、力が出にくいと思うぜ。とりあえず食え」
俺はその言葉に頷くこともせず、ただ従う。
するとやたら素直な俺の反応に驚いたのか、あけが俺の額に手を当てた。
なんて失礼なやつだ。
だが、それよりも今は。
たくさん聞きたいことがありすぎて、その無礼も気にならなかった。
「・・・・熱はない。それよりも、どうやって俺をここに運んだ?」
「そら引きずって?まぁ私だってこういう職業がら、力はあるからな。持ってくるぐらいはどうってことない」
自慢気に腕を上げ、筋肉を見せるポーズを取る。
そんなあけに俺はやれやれと首を振ったが、その時に見えた腕の怪我に目を細めた。
俺の傷はだいぶしっかり治療されている。痛みも、少ない。
だが、あけが俺を庇った時に負った傷は左肩あたりだったため、自分で綺麗に治療出来なかったらしい。
俺の治療よりもかなり適当な包帯が巻かれている。
それを見て舌打ちしたい気分になったのは何故か、分からなかった。
「・・・・」
無言でおかゆを食べようとしていた手を止め、あけの手を掴む。
驚いたあけは抵抗しようとするが、痛みに負けたのかあっさり俺の方に倒れこんだ。
「ちょ、ちょっと!」
「・・・・」
「峯、何すん・・・」
本当にうるさい女だな。
乱雑に巻かれた包帯に触れれば、俺がしようとしたことを理解したのか、あけが静かになった。
そのほうが都合が良い。うるさいのはごめんだ。
「・・・・ありがと」
包帯を巻き終わると、あけが照れくさそうにお礼を言った。
―――その姿に、何故か少し、加虐心が煽られる。
今までこの女に、どれだけ俺が振り回されていたのだろう。
思い通りにならず、自由奔放にされ。
金も権力も興味を示さないまま俺に付き纏う。
そのくせ、媚を売る様子も見せずに。
「・・・ふ」
ここからは、俺の番だ。
「・・・?どうした?峯」
「あぁ・・・ちょっとな」
笑みが溢れるのを、抑えられない。
さぁ、俺に見せるんだ。
お前の目的を。お前の過去を。
聞いたところで答えるかはあけ次第だが、何故か俺は”断られる”と思わなかった。
「おい」
「んぁ?」
「・・・・お前の話を聞かせろ」
「は!?いきなりなんだよ?」
「お前は情報屋だといったな。なら、少なからず俺の過去も知ってるんだろう」
「・・・ま、まぁ、それは・・・・」
不思議な気持ちだ。
俺の過去を知られていても、嫌だとは思わなかった。
ただそれと引き換えに、彼女のことが聞ければ良いと。
・・・不思議だな。こんなに人に興味を持つなんて。
「だったらお前の話も聞かせろ」
「なるほどねぇ・・・でも情報屋ってのは秘密主義で・・・・って睨むなよ!こええよっ」
「別にいいんだぞ、秘密主義なら」
厭味ったらしく”秘密主義”の言葉を強調して言えば、あけは俺の読み通り降参のポーズを取った。
「そういう言い方に弱いっての、知っててやってんだろ。性格わりぃなー」
「・・・・」
「過去、ね。どんなことが聞きたいんだ?」
「お前がなぜ情報屋をしているか。今まで何をしていたのか、誰と共にいたのか」
「全部じゃん・・・なんだよお前。人には興味無さそうだったのに」
そう言いながらも、あけはゆっくりと話を始める。
そして俺は、この自由奔放な女の、抱えている過去を全て知った。
両親から虐待され、ヤクザに拾われてこの世界に入ったこと。
ずっと一人だった世界で、情報屋としての立場だけを信じて生きてきたこと。
そこを桐生という男と会い救われ、共に戦ってきたこと。
そのまま東城会専属として動くようになり、俺の補佐に。
「・・・・なるほど、な」
「ん。満足した?」
「・・・あぁ」
俺と同じような人生を歩んでいるようで、違う。
どんどん俺の心が、この女に引きこまれていくのを感じる。
不思議だ。
金でも権力でも得られないものを、この女は与えてくれているような気がした。
真っ直ぐ俺だけを見つめる瞳。
偽りのない、強い言葉。
見返りを求めない猪突猛進さ。
「・・・・まいったな」
俺らしからぬ言葉に、あけが首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「ただの情報屋の女、だと、思っていたのにな・・・・」
あけと出会って半年。
補佐としての仕事以上に俺にまとわりつき、俺の言うことを無視し、何を言っても屈せず媚を売ることもしない女。
今までにない、女。
最初はそれがうるさくて目障りだったはずなのに、今ではそれが
・・・・心地良いと感じていることに、気づく。
「・・・変な峯。とりあえず、飲み物持ってくるな。お前もまだ体調悪いんだから、無理すんなよ?」
おかゆに手を付けない俺を気遣ったのか、あけが飲み物を探しに立ち上がった。
俺はそれを見て――――
急に寂しさを感じ、「行くな」と言って手を握った。
謎の衝動に駆られ、背後から押し倒した。
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★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
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★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)