いらっしゃいませ!
名前変更所
沖田の誘いを断り、私は斉藤を追いかけて寺田屋の近くまできていた。
アイツが休みの時は大体ここにいるってのを、他の奴らから聞いてたからな。
新選組の情報屋をしているが、斉藤のことはあまり知らない。
休みになれば寺田屋に戻ってしまうし、任務の時もあまり人と絡まない。
謎な、人物といえばいいか。
もちろん信頼はしてる。
だからこそ、もっと斉藤のことを知ってみたいという気持ちがあった。
「邪魔するぜ」
新選組の羽織は脱いできた。
ここらへんの人間は、あまり新選組を好きではないと聞いたことがあったからだ。
・・・・そもそも、好きなんて奴はいないのかもしれない。
新選組に声を上げて喜ぶのは、媚を売る夜の女か、新選組に憧れる侍か。
ぼーっとそんなことを考えていると、宿の2階から足音が聞こえてきた。
顔を上げれば、可愛らしい女性が私の方を見ている。
「お、お客さんですか?ちょっとお待ちになってくださいね」
焦ったような声が、また可愛らしい。
って何考えてるんだ私は。
「斉藤ってやつはここにいるか?」
「え?ええ・・・斉藤はんならそこの部屋に・・・」
「ん、お構いなく。ただ用事があって来ただけだから」
「そ、そうですか・・・?」
戸惑う女を無視して、指定された部屋の方へ向かう。
部屋の前に立つと、確かに人の気配を感じた。
さて、どうしてやるか。
いきなり殴ってやるのもよし。
驚かせてやるのも良し。
「・・・ま、一か八か」
部屋に勢い良く飛び込む予定だった私は、考えなおしてその案を捨てた。
襖にそっと手をかけ、中の様子を伺う。
音をさせないように襖を開いた先には、ひとつの布団が敷かれていた。
布団に大きな膨らみがある。あの中に斉藤がいるのだろう。
そのまま静かに部屋に侵入しても、布団の中身は動く気配をみせない。
完全に寝ていると判断した私は、静かに近づいて・・・。
「斉藤さん」
本当は飛び乗ってやるつもりだったが、そんなんじゃぬるいともっと悪趣味な仕返しをすることに決めた。
甘い声。
布団の中に、そっと忍びこむ。
中で静かに寝ていた斉藤の首元に手を添え、耳元に甘い息を吹きかける。
「ねぇ、起きてくださいな」
いやらしく背中を撫でると、起きたらしい斉藤がびくっと肩を動かした。
恐る恐る、といった具合に上半身を起こし、私の方を見る。
「・・・・」
「・・・・おはよ?」
満面の、笑み。
勝ちの笑みを浮かべて。
眠そうな目で私を見ていた斉藤は、私の笑みに顔を引き攣らせた。
「お、お前、なんでここに」
「え?なんでって・・・仕返しだよ、仕返し。まさか何もされないと思ってたのか?」
笑って返せば、更に斉藤の表情が引きつる。
それを見れただけで満足だったのだが、いつまでたっても表情を変えない斉藤に、さらなるイタズラ心が湧くのを感じた。
普段は冷静で、男らしい、男。
その斉藤がこんな表情をしてるんだ。からかいたくなるのが当たり前ってやつだろ?
「どうしたんだ?まさか、私相手に欲情したか?」
余裕を見せる表情で。
にんまりと笑った私の様子に、斉藤の表情が段々と焦りから苛立ちに変わっていく。
「いい度胸じゃねぇか・・・」
「おわっ!?」
にやにやとその様子を見ていた私を、斉藤が急に布団に押さえつけた。
両手を頭の上で掴まれ、反撃だとばかりに黒い笑みを浮かべた斉藤が私の首をなぞる。
くすぐったかったが、声を上げるまでもなく。
しばらく我慢してから、笑みを崩さず斉藤を見上げた。
「っは、これが仕返しか?」
「・・・・あんまり煽るんじゃねぇ」
「煽る?はっ、まさかお前、私を女として見てるのか?」
その言葉に、私の手を押さえつける斉藤の手が少しだけ動いたような気がした。
私はそれに気づかないふりをして、少しだけ手に力を込める。
抵抗のつもりだったが、斉藤の手はびくともしない。
思わず唾を飲み込んだ。
斉藤の目が、ずっと私だけをとらえている。
「・・・・さ、斉藤?」
「女として見てるのか、じゃないだろう。お前は女だ」
「・・・・うるせぇよ」
「他のやつがそう見なくても、俺はお前を女として見る。お前にはそれだけの魅力があるんだ」
魅力?
・・・ほんとこいつ、何言ってるんだ。
馬鹿にするように笑えば、斉藤の力が強まる。
「新選組でお前の正体を知ってる奴の中でも、俺と同じようにお前を意識してるやつはいる」
「は?んなわけ・・・」
「土方、沖田も。お前をそういう目で見てる」
「はいはい」
「いつだってお前のその嘘のない真っ直ぐな態度に・・・普通の女より魅力を感じてるやつがいるんだ。だからあんまりこういうことをするんじゃねぇ」
真剣な表情で言われても、私は何も答えられない。
ただ、私を押さえつける斉藤を、見つめることしか出来なかった。
土方が、沖田が、そして斉藤が。
私を・・・女としてみてる?
違う、ここまでがきっとこいつの仕返しだ。
息を吐いて調子を取り戻そうとする私に、斉藤が真剣な表情を消して笑う。
「分かってねぇみたいだな」
「当たり前だろ。信じられるか」
「じゃあ、分からせてやるよ」
逃げるまもなく斉藤の唇が近づいてきて、動けない私の首もとをくすぐった。
まるで噛み付かれているかのような感覚に、身体が震える。
抵抗はただ、空振って無駄になるだけ。
どれだけもがいても、彼はびくともしなかった。
変わりに、首元に痛みが走る。
思わず悲鳴に近い声を上げれば、斉藤が私から身体を離して、何故か少し気まずそうな表情を浮かべた。
「・・・っ」
「・・・斉藤・・・?」
「・・・俺はそこまで我慢強い男じゃないんだ。今は静かにしてろ」
「はぁ?」
声を掛ければ、顔を見られないように手で顔を覆う。
その反応がおかしくて、私は思わず吹き出した。
今の今まで、私のことを弄ぼうと意地悪い笑みを浮かべていたくせに。
「変なやつ」
不機嫌顔の斉藤を無視して、笑い続ける。
どうやら、私の中の斉藤の印象は訂正する必要があるようだ。
何を考えてるか掴めない、それでいて新選組にはどこか似合わない雰囲気のある男。
―――でもその中身は、からかいがいのある男で。
「んな顔するなよ。悪かったって」
「・・・・ちっ」
「うわー、舌打ちとかひでぇやつ。お詫びにおごってやるから、飲みにでもいこうぜ」
「・・・俺が満足するまで飲みに付き合ってくれるならいいぜ」
「・・・私の懐をちゃんと気にして飲んでくれるならな」
次の日、斉藤にがっつり酒を飲まれた私は、軽くなった懐に頭を悩ませながら屯所に入った。
せっかく色々報酬を貯めてたのに、あいつときたら・・・あんなに飲むなんて。
イライラしながら足を進めていると、土方が遠くで読み物を読んでいるのが見えた。
そういえば土方は昨日仕事だったっけ。どうだったのかな?
この様子じゃ、余裕だったっぽいのは確かだが。
「よう、土方」
「・・・・あぁ」
「昨日の任務、どうだった?」
「見れば分かるでしょう?」
思った通りの答えが返って来て、安心する。
だが、私の方に顔を上げた土方の反応は、私の思った通りの反応ではなかった。
私の方をじっと見て、そこから急に不機嫌になる。
読んでいた本を閉じたかと思えば、何故か刀に手を掛けながら私に尋ねた。
「昨日、あの後から誰に会ったんです?」
「へ?んー・・斉藤・・・ぐらいだとおもうけど」
「斉藤君ですか。なるほど」
「・・・・ど、どうしたんだ?」
「いえ、少し私は斉藤君とお話がありますので」
「・・・そ、そうか」
土方が、怖い。
そう思って逃げだそうとした私に、土方の冷たい声が掛かった。
「もちろん、貴方にもお話を聞かせてもらいますよ」
「え・・・」
「その首元の痕。・・・まぁまずは、斉藤君からですがね」
”女としてみている”
”土方も、沖田もだ”
土方の怒りの声に、脳裏をよぎったのは斉藤の言葉。
斉藤の無事を祈りつつ、私はそそくさと首元を隠す布を探しに部屋へと戻った。
――――数秒後、斉藤と土方の言い争いが響き始めたのは、言うまでもない。
不思議な男だと、そう思う感情が変わり始めるまで遠くはなく
(いつしか惹かれていくのだ、斉藤という男に)
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