Erdbeere ~苺~ オール・イン! 忍者ブログ
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2022年05月02日 (Mon)
剣/ゴールド編/甘々/戦闘/ヒロイン視点/賭けてあげる、私の全部を!

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黄金の島、グラン・テゾーロ。

全てがゴージャスな島。その主体は大きなカジノだ。
誰もが夢を持ってこの黄金に包まれ、全てを賭けて勝負に出る。

欲望すらも眩しさにかき消す、華やかな島。
夢の国ともいえるその世界に入り込んだ私達を待ち受けるのは、天国か、それとも地獄か。


オール・イン!




バカラの案内でVIP待遇を受けながらカジノに入った私たちは、貸し出されたチップを元にゲームを楽しんでいた。勝てば何だって良いこの場所で、大金を使うのをビビっていては海賊やってられない。

―――――のは分かるが。

貸し出されたチップの金額を見てビビらないわけがない。

負ければ全てを失う、それが賭け事だ。戦闘ならまだしも、運に全てを賭けれるほど私は度胸のある人間じゃない。青と金の装飾で輝く高額なチップを両手に抱えていた私は、どのゲームをするか悩みながらカジノを歩いていた。その後ろを追いかけてきていたらしいゾロが、立ち止まる私の頭に肘を置いて笑う。


「なんだァ?ビビってんのか?」
「そりゃビビるでしょ、大金だよ?」


私も踊り子として船の生計を立てている身。お金の重さが分からない人間じゃない。こんな大金を賭けてもし負けでもしたら、と思うだけでどのゲームも選べなくなる。


「こんなもん、適当でいいだろ」
「おいおいちょっと!大金なの分かってる?」
「ハッ、だからこそだろ。ビビってたら増えもしねーよ」
「そこまで言うなら手本見せてよ、ゾロ」
「いいぜ?」


サングラスをクイと上げたゾロがにんまりと笑いながら私の手をつかむ。そのまま私を連れて行った先には、オーソドックスなルーレットゲームの台があった。


「これならルールも簡単だ」
「へー、当たる色を予想してベットすればいいの?」
「あぁ」


ディーラーが私達の方を確認してから回るルーレットに白い玉を放り込む。あんな一つの玉でこんなにお金が動くなんてと思いながら見守れば、テーブルに座っていた人たちが思い思いにチップを賭け始めた。しばらく目を瞑っていたゾロもそれに合わせてチップを机の上に並べる。


「黒の奇数だ」
「え、ちょっ・・・・!?それ持たされたチップ全部じゃないの!?」
「?あぁ、そうだが?」
「い、いきなり全部・・・!?」


戸惑う私を無視してルーレットは回り続ける。

玉が止まるまでの時間はやたら長く感じられた。
運命が決まる瞬間というのは、こんなにもドキドキするものなのか。
ごくりと唾を飲む私をからかうように笑ってみているゾロは、なんだか余裕の表情だ。こういった賭け事をするタイプではないと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。

段々と遅くなっていく回転。
普段見ている動きよりも断然遅い動きだというのに、何故か目で追うのが苦しくなって。

最後に見たのは、黒のポケットに玉が落ちていく瞬間。


「黒の11です!」
「・・・・な?」
「マジ・・・?」


たった一回の運命で、ゾロの賭けたチップが二倍になって返ってきた。

楽しそうにチップを手で回していたゾロは、再び躊躇すること無くチップを全て赤の偶数に賭けた。どうしてそんなに思い切りが良いのだろうか。聞く暇もなく再びポケットに落ちていく光景を私はただ眺めていた。ゾロの手持ちのチップが、更に二倍に増える。


「・・・センスあるね、ゾロ」
「だろ?ま、これだけありゃ問題ないだろ。ほら、お前もやってみろ」
「えー?」


渡されたチップを使うこと無くチップを積み重ねられた私は、仕方なく次の勝負に参加することにした。

くるくると回りだすルーレットを見ながら、なんとなく赤の奇数の予感がしてそこに手元の半分を賭ける。おいおい、全部いけよ?と煽ってくるクソマリモは無視だ無視。こちとらこういう勝負には弱いんだ。ビビリなのも認めざるをえないぐらいに。


「お、赤の奇数だぜ」


ほとんど目を瞑ってしまっていた私は、ゾロの声に目を開けた。
回っていた白い玉は確かに赤の奇数に入っている。


「ほ・・・ほんと?やった!」


たった一分ほどで増えたチップ。

こ、これは――――ギャンブル依存症という言葉があるのも頷ける。

謎の高揚感に包まれながらゾロを見ると、ゾロは既に立ち上がって私の方に手を差し出していた。どうやら次のゲームに移動したいらしい。増えたチップをカゴに入れ、未だ戸惑う私の手を取ったゾロはとても楽しそうだ。


「ほら、どんどん行こうぜ。せっかくのカジノデートだ」
「・・・・うん」


白いスーツに色付きサングラス。
このゴージャスなカジノに似合う装いになったゾロは、いつもよりかっこいい。

そんなゾロに“デート“と言われると意識してしまうのは、仕方がないことだと思う。
意識するなってほうが無理な話だ。
好きな人の、かっこいい装いなんて。


「?どうした、人の顔ジロジロ見やがって」
「え、い、いや、なんでも・・・・」
「・・・・何でもない?へェ・・・?」


顔が熱くなるのを感じながら誤魔化そうとする私に気づいたらしいゾロが、ぐいと顔を近づけてきた。この短時間でお腹いっぱいになるぐらい意地悪な笑みを見ている気がするが、きっと気のせいじゃない。

それを証拠に、囁かれる意地悪い言葉。


「そのわりには・・・顔、赤ぇぞ?」


その言葉に思わず手を強く握り返す。


「・・・うるさいな。ムカつくぐらいかっこいい奴め」
「怒りながら褒めんなよ。・・・それに、お前も綺麗だぜ」
「さらっと言うなそういうこと!お世辞だとしても恥ずかしいんだから!」
「は?お世辞なわけねェだろ。似合いすぎて他のやつに見せたくねーからお前をこっちに連れてきたんだよ。・・・・分かったなら、黙ってデートに付き合え能天気女」


怒りながら褒めるなと怒ったやつに、怒りながら褒められた。

褒め言葉はお世辞だと思ったのだが、有言実行とばかりにサンジやルフィたちがいる場所から離れたゲームに私を引きずっていこうとするところを見ると、本当らしい。


「こういうの、私には似合ってないと思うんだけどなぁ」


ゾロが褒めてくれた自分の姿を見下ろし、ため息を吐く。

白いチャイナドレス。
足を見せる深いスリット。
谷間を強調する胸元の窓。

どれもこれも、大人な女性をイメージさせるものだ。


「なんかほら、こういうのって大人な女性が着るイメージでさ。ロビンとか、それこそバカラさんが似合いそうな・・・・」
「俺が似合ってるっつってんだから似合ってるんだよ、分かったか?」
「そ、そう・・・?」
「・・・・どれだけ似合ってるか、体に教えられたくなきゃ黙ってろ」


―――――なんて、強引で、不器用な。

ストレートな言葉なのに素直さを感じさせない物言いにゾロらしさを感じながら、私は黙ってゾロの隣を歩くことにした。

ブラックジャック。
ポーカー、バカラ。
スロット。
闘技場に、このカジノ特有のゲームまで。

慣れてくるとチップを賭けることへの抵抗も減っていった。
平然と全てのチップを一分に満たない勝負につぎ込み、その結果を待つ時間の刺激を楽しむ。希望と絶望の差が大きければ大きいほど、病みつきになるのだろう。


「結構刺激的でいいかも」
「依存症にだけはなんなよ?」
「ゾロには言われたくないっての」


無駄口を叩きながら手元のコインを増やしていく。


「うへへ、ほっくほく!」
「おー、また当たりか」
「やったー!!これで何買おうかなー!!」
「なんか欲しい物でもあんのか?」
「うーん、ないなぁ」
「・・・・お前ほんと物欲ねーな」
「そりゃ・・・・」


刀とゾロ以外、特に何もいらない。
そう言いかけて口を閉ざす。


「?どうした?」
「な、なんでもなーい!それより、ちょっと休憩しない?」


慣れない空間と眩しさを最初は楽しんでいた私だったが、ふと我に返ればぐったりと体にくるものを感じた。増えたチップとゾロを交互に見つめ、あらかたやりたいゲームをやり終えたことを確認してからゾロに声をかける。


「ほら、あっちに休憩スペースあるよ!」
「あ?あぁ」


来た道を行ったことの無い道のように歩き出そうとするゾロを引っ張って、設置されていた休憩スペースのソファに勢いよく腰掛けた。ふわふわの座り心地が勢いを押し殺すのを感じて思わず目を輝かせてしまう。


「ふわっふわ!!」
「・・・そうかよ」
「んぎゃ!え、なに、急に子供扱い?」
「子供みてーな表情してんのが悪い」


乱暴ながらも優しく頭を撫でられる感覚に、吐き出したい文句も出てこなくなる。


「・・・・ずるい」
「んー?」
「あ、いたいた、ゾロー!くろねこー!」
「ッ!!」


私達を探しに来たらしい皆の声にゾロと私は一瞬で距離を取った。
別にヒミツにしている仲ではないが、さすがにイチャついてるところを見られても平気なほど恥ずかしさがないわけではない。とはいえ、一部のメンバーは私達がここで何をしていたのか分かっているらしく、ニヤニヤと楽しそうに私を見ていた。


「あんた達も大量みたいね?」
「ナミ達も。はい、これ私達の儲け!」
「あら・・・すごいわね。かなり勝ってるじゃない」
「さすがくろねこちゃん!どこぞのマリモ剣士とは違って黄金の女神にも愛されているらしい・・・・」
「あァ?ふざけんな、半分は俺が稼いだチップだ!!」
「なーにいってんだ!それも黄金の女神であるくろねこちゃんを一人で掻っ攫ってったからだろ!?本当なら俺とカジノデートしてもらうつもりだったのに・・・!」


机の上に並ぶチップは当初貸し出されたチップより倍以上に数が増えていた。
その金額の多さに瞳をベリーに変えて輝かせるナミは相変わらずだ。そしてその後ろで言い争いを始めたゾロとサンジも、相変わらず。

もちろん、カジノにはまだ来たばかり。

ここで終わるのもつまらないと、ナミはチップを数えながら次のゲームターゲットを見定めている。そんな私達に歩み寄ってきたバカラが「VIPルーム」でのゲームを進めてきた。それが罠だとは知らなかった私たちは、更に配当の高いゲームをすることが出来るというそのゲームを楽しむ気満々で案内についていった。


眠らない黄金の街は、これからがお楽しみ――――

――――の、はずだった。



◆◆◆



罠だと知っていれば、回避できただろうか。
このグラン・テゾーロでは騙されるほうが悪いと笑う男――――テゾーロ本人が黄金に染まっていくゾロを足に敷いて大声で笑っている。

ゾロを助けるために飛び出してしまった私も、右足が黄金に蝕まれ始めていた。どうやらテゾーロは黄金を操る能力を所持しているらしい。このVIPルームで罠に嵌められて借金を背負わされた私たちは、3億2千万が返せないならゾロの首で返してもらうと脅されてしまっていた。

元から、このつもりだったのか。
悔しさ紛れの罵倒すら、出て来ない。


「・・・・わかったわ、お金は返す。少しだけ待ってちょうだい」
「ふむ・・・・いいだろう。昼の12時まででどうだ?」
「短すぎる・・・!せめて、夜まで・・・・!」


テゾーロの言葉に動揺が広がる。

ラキラキの実の能力者に運を吸い取られてしまったルフィもサンジも、まともに動ける状態じゃない。ここで交渉決裂だと叫んで飛びかかっても、私やゾロと同じ運命を辿るだけだろう。この島に入った時点でこのテゾーロが操る金が体に染み込んでいるらしい私達に、この状態の打開策は交渉以外他に無かった。


「お願いよ!夜・・・夜の0時まで!」
「・・・借金がある身で交渉か?」


テゾーロが冷ややかな目でナミを見つめる。
その視線を遮る形で刀を持ち上げた私は、静かにその刀を地面に落とした。


「交渉材料があればいい?」
「・・・・ほう?」


刀の落ちる音と共にテゾーロの舐め回すような視線が私の体を這う。


「私は青薔薇のくろねこ。懸賞金はゾロと同じだけある。私を担保にして、夜の0時までの交渉を受けて欲しい。もし駄目だった場合は、アンタのエンターテイメントとやらに好きなだけ付き合ってあげるよ。私の首だってくれてやる」
「なっ・・・!?駄目だ、くろねこ・・・!」


チョッパーが止めに入ろうとするのを、私は視線だけで止めた。
どちらにせよ、黄金になりかけている体は自由に動かせない。この場から自由に逃げ出せない以上、私は足手まといだ。それなら、私に出来ることをするだけ。


「ふっ・・・はははは!!面白い!!いいねぇ!青薔薇のくろねこ。美しい踊り子。お前を殺してしまうのは惜しい・・・だが、そういう美しいものが散る時こそ盛り上がるってもんだ。いいだろう。交渉を受けてやる。そのかわり間に合わなかったらお前もショーの一つになると思えよ、くろねこ
「・・・・おっけ、それでいいよ」
くろねこ・・・・」
「皆を信じてるから。・・・・よろしくね、ナミ」
「・・・・っ」


ナミが頷くのを見届けながら、私はテゾーロの能力によって見知らぬ場所へと運ばれた。ゾロも一緒だったが、ゾロは一つも喋らなかった。敵がいる前で、口を開くつもりはないのだろう。

周りがよく見えない暗闇に運ばれたかと思うと、ゾロは綺麗な十字架の黄金に貼り付けられて刀と共に封じ込められた。それを見ていた私も同様に手足を黄金に変えられ、美しい花の黄金像の上に座らされる。

なんって悪趣味な。
そんな恨み言を込めた視線をテゾーロはあざ笑う。


「そこで明日の0時を楽しみに待ってろ」


テゾーロが部屋を出ていくと、部屋が静寂に包まれた。

状況が見えないほど暗いこの場所で、黄金になった私たちはぴくりとも動くことができない。このまま一眠りしてしまうのもいいかもしれないなんて思いつつ、先程から無言を貫くゾロの方をちらりと見る。


「・・・・・・・うわ、顔、こわ」
「誰のせいだと思ってンだ・・・・?」


視線の先のゾロは死ぬほど怖い顔をしていた。

その怖い表情の理由は分かる。
私までがこの状況に入り込んだからだ。

動くなと言われたにも関わらずゾロの安全を優先しようとした私はテゾーロの方に飛びかかり、見事に罠にかかった。冷静じゃなかったとはいえ、たしかに良くない状況だった。でも全て考えてみれば、原因は一つ。


「そりゃ、テゾーロのせい?」
「んあわけあるか!てめぇのせいだ!!!」
「なんで!?」
「てめぇ何考えてんだ!!お前はまだ逃げられただろうが!!」
「え、でも0時まで時間ないとさすがのナミ達でも作戦思いつかないよー?」
「そういう問題じゃ・・・!大体てめぇが処刑されたらどうするつもりだ!」
「それはこっちのセリフでもあるんですけどー!!??」


ゾロだって、処刑されて良いわけがない。

それにこの状況は逆に好都合だと思っていた。
私の刀は妖刀――――どんな形にでも姿を変え、いつどこでも私の傍に居続ける不思議な刀だ。それを取り上げることは出来ない。武器を持っていなくてもある程度戦える私が傍にいるほうが何かあったときに役立つというものだ。


「私がこっちにいたほうが、最悪もっと時間稼ぎ出来る可能性がある」
「だからってなぁ・・・!」
「心配性だなぁ、ゾロは。私のことも信じてくれるでしょ?」
「・・・・それとこれとは別だ」
「なんでぇ!」


本来なら殴り合いを始めるところだが、黄金になっている私たちは顔の圧だけで罵り合うことになる。


「うるせェなこの脳筋女が!俺一人なら何とかなったかもしれねぇのにわざわざ足手まといになりに来やがってッ!」
「ハァー!?今の状態だったら確実にアンタのほうが足手まといでしょうが!ってか一番真っ先に突っ込んで黄金になったくせにアンタのほうが脳筋だろ!!」
「テメェ・・・戻ったら覚えてろよ」
「それはこっちのセリフ!!」


いがみ合っても今出来ることは何もない。
虚しくなった私たちは睨み合いを止め、大きくため息を吐いた。


「・・・・ナミ達、大丈夫かな」
「心配なら残っときゃ良かっただろ」
「ゾロが心配だったからね」
「・・・・は?余計なお世話だ」
「ったく、素直にありがとうって言えばいいじゃん」
「一緒に捕まってんのにか?」
「寂しくないでしょ?」
「うるせーだけだろ」
「んだとこら!じゃあ寝るッ!!」


ふてくされた私はそのまま目を閉じる。

やられそうになるゾロを見て頭に血が上ったのは迂闊だった。それでも比較的冷静に判断したつもりだ。あの時刀を落とす“ふり“をして、刀だけはあのテゾーロの能力から遠ざけた。妖刀さえ自由なら、私はどこでも刃を取り出せる。

最悪、もし処刑になったら。

妖刀でゾロだけでも守れば良い。私が死ぬのはしょうがないとしても、それができれば何でも良かった。私にとってこっち側にくる必要があったのは、それだけのため。


「おい」
「・・・・・」
「おい、起きてるだろ」
「・・・・・」
「・・・・頼むから、無理だけはするな」
「・・・・」
「あ?寝てんのか?」
「・・・どうしよっかなぁ」
「起きてるじゃねーかッ!!」


知ってるくせに。
私がゾロの傍にいるのは、守るため。


「・・・・ねぇ、テゾーロ」
「あぁ?」


私が強くなったのも、彼を守るため。
大剣豪になるための敵以外の障害物から守るため。


「アンタに返さなきゃいけないのは3億2千万。それならどっちかの首だけでいいはず・・・・最後に、どちらの首を差し出すのか、賭けない?」
「ほう?それなら簡単にコイントスでどうだ?お前が上面を言い当てたらロロノア・ゾロの首を、お前が間違えれば・・・・お前の首を」
「おい・・・やめろ、ふざけんなッ!!このクソ馬鹿女!!やめろッ!!!」


私は、彼を守るための剣だ。


「コイントス、ね」
「不満か?」
「分かってるんでしょ?私やゾロほどの剣士が、そんなもの見破れないわけがない」
「・・・・はは、どうだろうなァ?」


ナミ達の作戦は失敗した。
黄金になっていく仲間を見ながら、私はテゾーロと睨み合う。


「さぁ、選べ」
「クソッ・・・!やめろ!!表だ表!!表って言えッ!!!!」
「うるさいなぁ、ゾロ。賭け事は全部を賭けてこそ楽しいんでしょ?」
「あァ!!??」
「私の人生、ゾロに全部賭けるよ――――裏、だ」


戸惑うことなく告げた私の前で投げられたコインが開かれる。
結果なんて見る必要もない。私やゾロにはコインがどの方向でどんなふうに回っているかなんて全部綺麗に見えていた。だから裏を選んだのは私の意思。


「あはははは!こりゃ傑作だ!!美しい愛だねぇ!?」
「くっ!?」


花の上に座っていた私が、ゾロの代わりに十字架に貼り付けられた。
十字架から落とされたゾロはそれでも黄金のまま、身動きが取れない状態で私を見上げている。


「そこで無様に転がって見てろ、ロロノア・ゾロ。お前の大事な大事な仲間の首が飛ぶところを、特等席で見せてやるさ」
「やめろ・・・・!」
「絶望に染まる表情を、よく見せてくれよ?・・・・やれ!」


黄金の斧が振りかざされる。
それでも私はゾロから目を離さなかった。そんな不安な顔をしなくても、私は大丈夫なのに。だけどまだネタバレには早すぎる。

最後の最後まで、楽しまなきゃ。


「ゴールド!スプラ――――ッシュ!」


これが、私の最高のエンターテイメント!



◆◆◆




「ねぇ、サンジ」
「どうしたんだい?くろねこちゃん」
「・・・・マリモの機嫌ってどうしたら治せると思う?」


グラン・テゾーロの件から数日。
あの時のナミ達の作戦は実は成功しており、あれから私たちは誰一人として欠けることなくあの島からの脱出に成功した。

―――――のだが。

ナミを信じて時間稼ぎを演じた私を、ゾロは許していなかった。


「まぁ、誰だって愛しのレディが自分のために命を捨てようとしたら怒るもんさ」
「でも・・・私がそう簡単にやられるわけないって分かってるはずなのにさー?」
「それでも・・・・だよ」


少しぐらい信じてくれてもいいじゃないかと思ってしまう私は、わがままだろうか?

私が妖刀を操れることはゾロが一番知っているはずだ。そして私が強いことも。
それなのに「ふざけたことしやがってこのクソ女!」と私に怒鳴りつけて以来、私と目も合わせようとしない。


「心配してんだよ、あいつなりに」
「むぅ・・・」
「俺だってもしくろねこちゃんに盾になられたら怒ってたさ。俺のためなんかにそんな愛しい愛しいお顔に傷をつけられたらたまったもんじゃねぇ。それは強い弱い抜きにして、そういうもんなんだよ男は」
「・・・・そっか。うーん、それじゃあどうすれば許してくれるかなぁ?」


理由は分かったが、結局治し方は分からなかった。
首を傾げて尋ねれば、サンジが少し不満そうに高級なワインを取り出す。


「このワインをあいつにやるのは癪だが・・・まぁ、くろねこちゃんの笑顔のためには安いもんか。まずキッカケづくりが必要だろ?アイツは単純脳筋マリモ野郎だから酒見せれば少しは一緒に居てくれるだろ。で、そこでだ」
「そこで・・・・?」
「男ってのは単純明快なんだぜくろねこちゃん。その可愛い顔で今みたいに上目遣いすれば間違いなし!!もう可愛すぎて襲っちゃいたくなった~~~ッ!」


キリッとしていたサンジの表情が一瞬で緩み、キス顔で私に近づいてきた。その顔を冷静に片手で受け止め、お礼にと額にキスを落とす。


「あんがと、サンジ」
「・・・・・・・・・・あざ、とい・・・・!」


鼻血を出しながら倒れ込むサンジを無視し、酒を片手に展望台へと飛んだ。

彼が展望台でトレーニングしているのは気配から分かっていた。
そして彼も、私が展望台に飛んできたことは気づいているだろう。
一瞬、気配が動揺するのが分かった。それでも出ていこうとしないのは、私が同じ空間にいることは許してくれるということだろうか。


「・・・・・入るね」


扉を開けて尋ねる。
返事は、ない。

トレーニングの邪魔をしないようにジムに入った私は、ゾロが素振りをするのを見ながらサンジにもらったワインを床に置いた。


「ね、ゾロ。ちょっとだけ飲まない?良いワイン掻っ攫ってきたんだ」


ちらり、と。視線だけがこちらに向けられるのを感じる。


「・・・・きちんと謝らせて欲しいんだ、お願い」
「・・・・・」


空気が凍りつきそうなほど冷たく感じる無言。

ゾロは静かに持っていたトレーニング道具を床に下ろすと、大げさなぐらい足音を立てて私の隣に腰掛けた。トレーニング中だったせいか、触れ合ってもいないのにゾロの体の熱を感じる。


「・・・・はい」
「おう」
「乾杯」


勢いよく傾けられるグラスを見ながら私は口を開く。この言葉は、飲む前に言わなければならないものだ。お酒に任せて良いものではないとわかっているからこそ、私は乾杯したグラスをすぐ床に置いた。


「あのときは、本当にごめん」
「・・・・」
「ゾロのこと守りたいとしか思ってなかった。・・・・ゾロがどう思うかも、私をどう心配するかも、考えないで」


―――――でも。


「それでも、あれが間違ってるとは思わない。私の剣は、守るための剣。ゾロを守るためなら私自身が刃になることだって覚悟してる」
「いい迷惑だ」
「知ってる。・・・・でも、許して欲しい」



私は器用じゃない。
もうあんなムチャはしないとか。
大人しく守られるとか、そんな嘘は吐けない。


「わがまますぎんだろ」
「・・・・ごめん」


ゾロの手が伸びてきて、強引に私を抱きしめる。


「お前を信用してないわけじゃねェ。お前の強さは俺が嫌というほど知ってる。・・・・だからこそだ。大事な女も守れないで、何が世界一の大剣豪を目指すだ」


その言葉は私のわがままに苛立っているというより、ゾロ自身に向けられているようだった。痛いほどに抱き寄せられる手が、少し震えている。感情の読み取れない表情を見上げる勇気もなく、私は床に置いたグラスを手に取って誤魔化した。


「お前のことは俺が守る」
「・・・・」
「だから・・・あー、無理は、控えろ」
「“すんな“ってのは通用しないってようやく分かった?」


無理をするなではなく控えろという言葉を選んだゾロは、私のことをよく分かったようだ。からかうように脇腹を肘でつけば、調子のんなという低い声と共に腕を取られて動きを封じられる。


くろねこ


あぁ、その声に弱いのも、よく分かっているようだ。


「癪だが、背中は任せてやるよ」
「・・・・へへ、ありがと」
「でもよ、それはそれ、これはこれだ。この前のグラン・テゾーロのことは忘れてねぇぞ」
「えぇ!?」
「あったりめぇだろ!どんだけ俺が心配したと思ってんだ!あァ!?」
「もー!ごめんってばー!!どうしたら許してくれるのさ」
「そうだなぁ・・・許してほしいか?」


酒を片手に意地悪く笑うゾロは楽しそうに私の顔を覗き込む。
嫌な予感しかしない表情だが、さすがにもう冷戦状態は勘弁だ。


「・・・・許して欲しい」
「おーおー、素直でいいこったな」
「で、どうすればいいの?」
「んー?そうだなァ・・・」


撫でる視線。
持ち上がる口の端。

その視線から逃れようとする私の顎を掴んで持ち上げるゾロは、それはもう楽しそうで。


「・・・・むかつく」
「許して欲しいやつの態度じゃねーなぁ?」
「うぐっ・・・・!こんの意地悪マリモ。何がお望みですかぁ?」
「ん」
「ん?」


ゾロがとんとんと唇を指さし、何かを求めるように笑う。


「お前からくれよ」
「・・・・・」


それが何を意味するか、分からないほど子供じゃない。
ごくりと喉を鳴らした私は膝をついてゾロの顔との距離を近づけた。近づけても目を閉じる様子がないゾロに、私は戸惑いがちに尋ねる。


「えっと、目、閉じていただけるとありがたいんですが・・・・」
「は?」
「は?って・・・」
「閉じるわけねーだろ」
「~~~~ッ!」


こうなったゾロに口で勝てるわけもない。
大人しくゾロに従うことにした私は、目を閉じてゾロの唇に自分の唇を押し当てた。このときも顔を見られていると思うと逃げ出したくてしょうがない。


「こ、これで、いいっ・・・?」
「あー?今のがお前の誠意か?」
「はぁ!?ちゃ、ちゃんとやったじゃん!?」
「まァ、お前の誠意がそんなもんならしょうがねぇよなぁ」
「くそっ・・・!」


もう一度。

次はさっきよりも長く口づけた。
それでもゾロは納得した顔をしない。

と、なると。


「ほんと、意地悪いな・・・・」
「心配掛けた分だと思え」


目を開けて、腕を組んで、あぐらで大きく待ち構えるゾロに羞恥心が増す。それを狙ってやっているのかもしれないが、悔しいったらありゃしない。


「ん・・・・」


唇を合わせ、数秒。


「ん、ぅ」


声を漏らすのは私だけ。
唇を割るように恐る恐る舌を伸ばせば、ゾロは静かに唇を開いた。燃えるように熱くなる体をなんとか震えないように保ちながら口づけを続ける。


「・・・・これで、いい?」
「足りねぇ」


息苦しくなって唇を離した私を、ゾロがそのまま押し倒す。

――――しかも、そのまま服に手をかけはじめた。

待て待て!?と声を上げる私の視線の先には入り口の扉がある。ゾロ専用に近いジムとはいえ、誰がこないともいえない。せめて鍵をと叫びかけた私の目に映ったのは、しっかりと鍵がかかった扉。


「鍵ならかけてあるから心配すんな」
「いつの間にだよッ!?」
「今」
「器用か・・・・ッ」


止まる気配のない手に、私は諦めて両手を上げる。


「全部、俺に賭けてくれるんだろ?つまり、全部俺がもらっても良いってことだよな」
「海賊らしいこと言ってくれるねぇ」
「海賊だからな」


最後まで素直になれない私を置き去りにして、猛獣は楽しげに牙を剥いた。






オール・イン!
(俺に全部賭けるっつっただろうが?諦めろ)

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(龍如/オール・海賊/剣豪)