いらっしゃいませ!
名前変更所
彼と私は幼なじみだった。
もう一人いた大切な幼なじみを失ってから、私はゾロから離れた。
妖刀の本当の力を得るために。
そして残されたゾロを、何があっても守るために。
そんな彼と久しぶりに再会した時、私を見てなんて言ったと思う?
久しぶりだな?
キレイになったな?
―――――残念。
「ゾロ、紹介するぜ!こいつが俺の一番目の仲間、くろねこだ!」
「くろねこ?お前・・・が?」
「久しぶり」
「え?なんだ?お前ら知り合いだったのか!」
「おま・・・え・・・・」
「?」
間抜けな顔と、余計な一言。
「女、だったのか・・・?」
「ハァ?」
愛の代わりに剣をどうぞ
そんな衝撃的な再会から早数ヶ月。
ルフィは色んな仲間を集め、海賊としての旅を続けている。
海のど真ん中。
島も見えない、ど真ん中。
やれることなんて特に無い。
当番制で船を見守り、天気と航路を確認する。
平和であってほしい道のり。
でも、平和すぎてつまらない道のり。
甲板に顔を出した私は、暑苦しくトレーニングを続ける彼に声を掛ける。
「ゾロ」
「あァ?」
「暇」
「なら寝てろ。邪魔すんな」
「ひっどいなぁ。じゃあ鍛錬でもするか!みたいに言ってくれればいいのにぃ」
ケラケラと笑いながらそういえば、ゾロは気に食わなさそうに舌打ちした。
そんな彼が見つめる先には私の手に握られている木刀がある。
ちょうど5本。
ゾロの3本分と、私の2本分。
「じゃーん!前の島で作ってもらいました!!」
「わざわざ木刀なんか準備しなくても真剣でいいだろ」
「うっわ。こわ。もし私の顔に傷をつけたらどーすんの?責任とってくれる?」
「あァ?」
「あー、それとも私を斬れないって分かってるってこと?謙虚だねぇ」
「ぶった斬るぞテメェ」
震える拳で私から木刀を奪ったゾロが、意外と乗り気で刀を構える。
嫌がると思っていた私はその行動に驚きつつも、嬉しくなって思わず笑ってしまった。
私とゾロは幼なじみだ。
ゾロは昔、私に勝てなかった。
くいなにも、勝てなかった。だからこそ上に登るための努力は人一倍してきただろう。
「そこまで言うなら付き合ってやるよ。さっさと構えろ」
「は~い」
「・・・・やっぱテメェ一回ぶった斬る」
木刀同士がぶつかり合う音。
―――――懐かしい。
そう思いながらも、昔とは違う刀の打ち合いに私は思わず顔をしかめる。
成長した男の力で振るわれるそれは、思った以上に受け止めるだけで大変だった。
船の狭い空間ということもあり、得意の機動力や手数はあまり使えない。
まぁでも、こういうのも修行の一つだ。
苦手な場所で戦う力を身につける。苦手な戦い方で弱点を補う術を探す。
全部、必要なこと。
「ったー、手痺れそ~」
「ったりめぇだ。手加減なんかするか」
「こっちだって手加減望んでないからだいじょーぶ」
「ッ!」
いつもと握り心地が違う刀は慣れるまでに時間がかかる。
それはゾロも同じで、段々と慣れてきた私達の動きは普通の戦闘と同じ激しさになっていった。木刀とはいえ、当たれば骨が折れるレベルの攻撃力。びりびりと腕が痺れる感覚に笑みが浮かぶのも、また普段の戦闘と同じ。
しばらく刀を打ち合った後、ゾロの隙を見つけた私はそこに対して短刀の方の木刀を構えた。
それが誘うものだったとしても構わないと身を屈めて懐に飛び込めば、待ってましたとばかりにゾロの刀がこちらを向く。
「思った通りの動きするね」
「そりゃおめぇもだろ」
読み合いの読み合い。
予想通りのゾロの動きを私が読んで、それをゾロが読む。いたちごっこだ。
お互いの剣は一つもかすらない。
それはお互いが強いのもあるけど、お互いを知り尽くしているのもある。
昔から癖は変わらないものだ。
あんなにも離れていたのに、お互いのことが手にとるように分かる。
「なのに私が女ってのを知らなかったのは意外だなぁ」
「ぶっ」
「スキありー!」
「がっ!?」
彼が動揺する言葉を放って、0.1秒の戸惑いに木刀を差す。
思いっきり腹部に突き立てられた木刀に咳き込みながらも立て直したゾロは、本気の殺気を私に向けてきた。
「て・・めェ・・・!」
「あはは!!それで動揺するなんて“男“になったねぇゾロくん」
「俺より歳下の癖して生意気いってんじゃねェぞ!!」
「やだなぁ、歳下も何も関係ないでしょ?剣の世界には」
「あぁ・・・そうだな。テメェを見てるとそれを嫌でも感じる・・・ぜ!」
「うわっ!」
過去、女二人に負けていたという事実が殺気に変わっているのか、真剣を交えているのと変わらないぐらいのスピードに冷や汗が流れる。
やはり、男女の差ってのは厄介だ。
あんなにも修行を続けていたのに、妖刀の力がなければ押し負ける。
悔しさに唇を噛み、それでも技術で押し勝つために上手く刀を受け流す。
「なァ」
「んー?」
「お前今まで一体どこで何してたんだ?」
「えー?知りたい?」
「そりゃ、な。俺に何も言わず村を出たかと思えば名前も聞きやしねェし」
「逆にゾロは目立ってくれてたから合流しやすかったなぁ」
「・・・・・・」
ゾロは海賊狩りとして有名だった。
そのおかげで私は村から出ていってしまったゾロをすぐに見つけることが出来たし、離れていても情報が入ってきてある意味便利だった。
「あ、もしかして私に見つけてもらうためにわざと?」
「んなわけあるか!!!!」
からかう言葉に一閃。
鼻を掠めていった木刀に一瞬だけ息が止まる。
「あぶっ・・・!」
「ふざけたこと言ってねェでさっさと教えろ!」
「えー?どうしよっかなぁー?」
「言わねぇなら吐かせるぞてめェ」
「それもいいねぇ。私から一本取ったら何でも答えてあげるよ・・・って言ったら?」
「・・・・へェ?」
返事の代わりに風を切る音が迫るのを感じ、私は大きく後ろに飛び退いた。
先程まで腕にかかっていた力や痺れは本気じゃなかったのかと思えるスピードと力に、手加減しないと言いながらも手加減されていた事実を知る。
悔しいなぁと苦笑が漏れるその余裕すらも削り取る無言の攻撃。
これでこそ鍛錬だと燃える気持ちと、押され始めた足元にごくりと喉がなった。
「“なんでも“だからな?」
「え?あ、う、うん?」
「“なんでも“答えてくれるんだよな?じゃあわりィが本気で行くぜ――――!」
彼は知っている。
私の強さの一部が、妖刀から来ていることを。
木刀のような純粋な切り合いは本人同士の力が必要になる。
必然的に押されるのは分かっていたが、予想以上の劣勢に私は唇を噛んだ。
あぁ、いつの間にこんなにたくましくなったんだろう。
かっこよくなったなぁ。
呑気に考えた私の左腕をゾロの刀が容赦なく叩き落とした。痛みと衝撃で短刀が床に落ちる。
「ッ~~~!!いたぁ~~~!!!」
「へっ、油断してっからそうなんだよ」
「・・・・むかつく」
やられたらやり返す。
短刀を取るふりをしてしゃがんだ私に襲いかかる刀を弾き、その勢いを利用して地面に手をついた私は鋭く宙を蹴り上げた。逆立ち状態になった私の視界に、ゾロの木刀が落ちる瞬間が映る。
「てめっ・・・・!」
そこからはもう、本気の本気だった。
完全にスイッチが入った私たちは、使える場所を全部使って勝負を始めた。
使ってなかった足技も取り入れゾロとの力の差を何とか埋めながら食らいつく。
「あん時と変わらねェな!足グセの悪さも・・・!」
「足グセが悪いんじゃなくて足技なの!」
「どっちも一緒だろ」
「全然違うってのこのマリモ頭」
「んだとコラ!!!!」
サンジと同じ悪口を吐いてやれば一瞬にしてゾロのスピードが上がった。
もちろん、代わりに軌道が乱れる。剣の道は精神との戦いでもある。乱れた精神ではどんな強い刀でも切れなくなる―――――というのは、よくある剣士としての教え。
「もらった・・・!」
「残念だったなァ。それは予測済みだ」
乱れた軌道を狙った太刀筋はものの見事に読まれ、短刀を拾えず隙だらけになっていた左手をゾロに掴まれた。慌てて逃げ出そうにも、首元に木刀を突きつけられ、これは1本だよな?と言われればどうしようもない。
「・・・・くやしい」
「ま、獲物が違えばこんなもんだろ」
「うわ更にむかつく」
「慰めてんだよ。感謝しろよな」
「煽ってるようにしか聞こえない」
本音を告げると木刀が少し首に食い込んだ。レディに何すんだよと睨み上げれば身長差を感じて悔しくなった。昔は私のほうが大きかったのに。そう呟いた瞬間木刀がわざとらしく食い込んだ。こいつマジで容赦ないな。
「はいはい!ギブ!ギブ~!!」
「へっ、もう少し基本を鍛えるこったな」
「そうする」
「んじゃ、答えてくれるよな?」
「ワオ、思った以上に食いつきいいね。そんなに私に興味ある?」
鍛錬と刀と酒以外に興味を示さないと思っていたばかりに、私のことにここまで興味を持たれていると分かるとすこし照れてしまう。
「で、お前は村を出てから何してたんだ?」
「こ・・・・答えるから一旦放さない?」
「答えたら放してやるぜ?」
「もしかして信用ない?逃げないんだけどなー」
「よく分かってんじゃねェか」
手を後ろでに取り、刀を首元に突きつけている状態で聞いてくる彼には、何を言っても無駄そうだ。諦めた私は抵抗するのを止め、大人しく自分の過去を口にした。
何故、ゾロの元からいなくなったか。
「なんでいなくなった」
「・・・強くなりたくて」
幼なじみである彼女を失ったときから、私は真っ先に自分が強くなることを選んだ。強くなって剣豪を目指すゾロを守ろうと思ったのだ。
どんな道でも、必ず敵は現れる。
それが理不尽な敵でも、自然災害でも――――事故でも。
力があれば、そのどれからも守れる可能性がある。
「目的はなんだ?」
「・・・・・」
「ア?なんでそこで黙り込むんだよ」
「いや・・・なんか」
改めて思った。
残ったゾロをすべてから守れる力が欲しかったなんて言うの・・・・恥ずかしくない?
もう二度と大切な人を失う思いをしないためにっていう気持ちがあるにしても、こんな成長した異性に、真っ直ぐそんな素直なことを言えるほど私も純粋じゃない。
「えっと・・・・」
「なんだよ。約束だろ?約束守れねェってのか?あァ?」
「・・・・・・」
ちらり、と。
勘弁してくれという感情を込めてゾロを振り返って見上げてみる。
「・・・・」
「・・・・」
「そんな顔しても俺には無駄だぜ?」
「鬼畜か・・・!」
伝わったらしいが、ゾロは続きを言わせる気満々だった。
私を捕まえている手は緩まない上に楽しそうにニヤニヤと私を見下ろしている。
「性格・・・・悪くなったなぁ」
「元からこんなんだ」
「もっとピュアピュアボーイだった気がするんだけど・・・・」
「話、逸らすなよ」
言え、という圧を感じて私は仕方なく呟く。
「ゾロを、守るため」
「は?」
「もうあんな思いをしないために、どんなものからもゾロを守れるようになるため!はい!言いました!これで満足?」
大きな声を上げながらもう一度ゾロの方を見上げれば、ゾロは確実に動揺した表情を浮かべていた。そしてそれが少し苛立ちを含んだ表情になるまでそう時間は掛からなかった。
「・・・・ま、くろねこに守られる筋合いはねーな」
「・・・・知ってるよ。私がそうしたかっただけなんだから」
「お前は俺を守るより、守られてろ」
「・・・・・・」
緩んでいく腕から抜け出し、ゾロの方を見る。
正直、驚いた。
仲間だと信頼しているからこそ、自分の身は自分で守れと言われると思っていたからだ。
きっと私今、ゾロと同じ顔してる。
戸惑いと、それから苛立ちを孕んだ顔。
「それは、私が女だから?」
「・・・・いや、ちげぇ。つーかお前は質問していい立場じゃねーだろ?」
「んだとぉ?」
「質問が1個だとは言ってねーよな?」
「え・・・そんなに聞きたいことある?」
首を傾げる私にゾロが真剣な瞳を向ける。
「お前、男いんのかよ」
「男ぉ?いないよ、そんなの」
「・・・・・・」
なんでそんな事言うの?と疑問を返す前に、私の右手にゾロの視線が注がれていることに気づいた。その手には、言い方は悪いが明らかに安物の指輪が薬指についている。
「あぁ、これね!これは前の島で子供から買った玩具の指輪だよ」
「玩具?」
「そうそう、これを1000ベリーで買ってくれって。なんでも親の薬が必要なんだってさ」
雑に鉄をくり抜いただけの玩具の指輪。
明らかに1000ベリーするわけがないそれを指から外し、ゾロに投げ渡す。ゾロはそれをまじまじと見つめると、お人好しがと吐き捨てながら私にその指輪を投げ返した。
「騙されてんだろそれ」
「いいじゃんそれでも。女とはいえこんな刀ぶら下げてるやつから詐欺ろうとしたんだから、その度胸は買ってあげないと!」
「はぁ・・・そういうとこ、ほんと変わってねぇな」
村にいたときも良く騙されてはゾロに笑われていた。
くいなにも、なんでそんなことで優しさを見せるんだと怒られていた。
でも、私は別にお金に興味ない。
興味があるのは強さだけ。
人の心を揺さぶるような騙し方をしてきた人間に、そこまで切羽詰まっているなら騙されてやろうじゃないかと思っているだけで、決して本当に心から信じているわけじゃない。――――と説明しても、二人は信じてくれなかった。
今でも、ゾロは信じてくれないようだ。
「それで命を落としたらどうすんだ。今の立場じゃ、金じゃなく命を取られることだってあるんだぞ」
「大丈夫大丈夫。私、ちゃんと強いから」
「ったく!イラつくなてめぇは!!」
「ぎゃー!!?」
いきなり大声を上げたかと思うと、ゾロの手が私の頭をぐしゃぐしゃに撫で付けた。
「・・・・ま、男じゃないならいい」
「・・・・・?」
「なんでもねぇ。・・・・酒取ってくる」
「?いってらっしゃーい!」
離れ離れになった日々が嘘のように、私たちは毎日お互いを高め合い、そして背中を預けた。
「足引っ張んなよ」
「それはこっちのセリフ」
とても、とても幸せな日々だ。
いつ死ぬかもわからない海賊の仲間入りをしているというのに、私たちは本当に楽しんでいた。
◆◆◆
あの日から何度も何度もゾロと戦っているが、獲物がないときはどうしても負けてしまう。
それが悔しくて私は買い出しで島に立ち寄るときも、武器屋や修行が出来る場所を探して町を駆け回っていた。
今日の船のお留守番はサンジ。
サンジの代わりに食料調達をしているナミたちを見ながら、刀を研ぐための石を調達した私はホクホクとした気持ちで町を散策していた。
この世界は広い。
色んな島があって、色んな人がいて。
今回立ち寄った島は鉱山が豊かなおかげか、宝石や武器のお店がとても多かった。
「わ、あのピアスきれい」
ゾロがいつも着けているピアスに少し宝石を散らしたような綺麗なピアスが目に入り、思わず足を止める。値段は1万ベリー。さっき広場で踊って稼いだお金があるため、買えない値段ではないが、これからの旅を考えると無駄遣いもあまりできない。
「・・・・何もない日にプレゼントってのも変な話かな」
ショーケースの中で輝く緑色のピアスは、何度見ても彼のためにあると思えるような美しさだった。
頭の中でプレゼントをする理由を探しながらお店の中に入る。
店員に言ってピアスを出してもらうと、更にその眩しさに心が惹かれた。
このピアスを着けている彼がみたい。純粋にそう思った。
「・・・再会祝いってことでいいかな」
「素敵なお嬢さん」
「うーん・・・」
「素敵で美しいお嬢さん」
「へっ?あ、え?わ、わたし?」
ピアスに夢中だった私は、声をかけられていることに気づかず、肩を叩かれて慌てて振り返った。声を掛けてきたらしいスーツ姿の男が、私を見てキラキラを目を輝かせる。
「あぁ、やはり美しい」
「・・・・え、は?」
「素敵なお嬢さん。貴方に似合うアクセサリーをプレゼントさせてくれませんか?」
「えぇ?」
こういう時、ナミなら上手に扱って奢らせたりするんだろうけど。
あいにく私にはそういう物欲はない。
「い、いや、私旅してて、お礼も何も出来ないから・・・・」
「いいんです。この出会いに対してのプレゼントですよ。お礼は・・・そうですね、そのアクセサリーを貴方と選ぶお時間ということでいかがでしょう?」
「そんな価値、私には・・・・」
「私にはわかります。貴方の強さと美しさが。さぁ、こちらへ」
一瞬刀に手を添えかけたが、この男に戦意も戦力も感じない。
ただただ女たらしなだけかと苦笑しつつ、あまりにも強く断るのも失礼かと思い、好意を受け取ることにした。
きらびやかな宝石の中を歩く。
紳士的な男の誘い文句に誘われて、手元のプレゼント箱が増えていく。
最後にゾロへのプレゼントを自分で買って。
紳士的な男は本当に私にプレゼントするだけして帰っていった。
「・・・・荷物、増えたな・・・」
お酒も買って帰ろうと思ったのに。
「・・・・・・」
気づけば、ゾロのことばっかり考えていることに気が付いた。
まぁ、幼なじみだしね。
ずっと一緒に鍛えてたんだ。気になるってもんよ。
心の中で理由を作り出した私は、真っ直ぐ船に帰ることにした。
今日は各自、サンジ以外は外に泊まってくるはずだ。
皆が戻ってくるよりも前に荷物を置いて、もう一度酒を買ってこようとしていた私を、予想しない声が止める。
「よう、もう戻ってたのか」
「あれ・・・ゾロ?飲みにいったのかと思ってた!ただいま!」
笑顔で挨拶しながら甲板にある台にプレゼントを置くと、それを見たゾロが首を傾げた。
「なんだこれ」
「宝石」
「あ?買ったのか?」
「ううん。なんかよくわかんない人にもらった」
「ハァ?」
訳がわかないといった表情を浮かべ、ゾロが箱の一つを乱暴に開ける。
「ッい、お前コレ、数十万ベリーするやつじゃねぇのか・・・!?」
ゾロが手にした箱の中から出てきたのは、それはもうキラッキラに輝く宝石がはまった指輪だった。指輪はつけないといったのに、ナンパしてきた男が勝手に買ってきたのだ。
「んー?そんなに高いの?それならナミにあげちゃおうか」
「いいのか?」
「だって押し付けられただけだし」
「・・・・プレゼントされたんだろうが」
死ぬほど不機嫌を貼り付けたゾロが面白くなさそうに私を睨む。
「まぁそうなんだけど、私の目的はこれ」
乱暴に置いた荷物とは違い、自分のポケットからそっと取り出したのは小さな箱。
それをゾロの手にゆっくり乗せると、ゾロは言葉を促すように私を見つめてきた。
「・・・・再会祝いのプレゼント」
「俺にか?」
「うん。・・・・一目見た瞬間、ゾロに似合いそうだなぁって思ってさ。理由見つけて買ってきちゃった。私達、再会してから大騒ぎばっかりで全然“感動の再会“らしいことしてなかったっしょ?」
私の言葉を聞いたゾロは、渡した箱を意外にも丁寧に開いていった。
「・・・・ピアス、か?」
サイズ感も今着けているものとほぼ変わらないピアス。
違うのは宝石が散りばめられていることと、彼の髪の色に似た宝石が入っていること。
「そう!それなら邪魔にならないかなって!」
「・・・・・・」
ピアスを壊れないようにそっと手に取ったゾロは、それと私を見比べた後、何故か私にそのピアスをつきつけた。え?返すってこと!?と驚きでそれを見つめれば、ゾロは自分の左耳を指しながら命令する。
「ちげーよ。つけろ」
「えー?自分でつけなよ」
「鏡ねーんだよ。お前持ってんのか?」
「はいはい、つけますつけます」
乱暴な言い方に苛立ちつつも着けてくれる事実を喜んで受け止めることにした。
すっかり伸びた身長に届くように背伸びしながら耳に手を伸ばす。すると、セットだったもう一つのピアスを持ったゾロが同時に私の左耳を引っ張った。
「いだだだだ!?何!?」
「あ?俺は右耳にはつけねーからもう片方はお前でつけろ」
「え、ちょっと、私たぶん穴塞がっ・・・・いだーーー!!!!」
ぷつりと何かが貫通する感触と共に鋭い痛みが走る。
穴を開けていなかったわけではないが、ほぼ塞がりかけていた穴に無理やりピアスをつけたらしい。痛みに悶ながら何とかゾロのピアスをつけ終わった私は、自分の左耳についたピアスが揺れるのを感じながら痛みに肩を震わせた。
「乱暴者ッ!!」
「ちょっと塞がってただけだろ、大げさだな」
「痛いもんは痛いっての!」
「・・・・ハッ、それだけ騒げりゃ大丈夫だろ。似合ってるぜ」
ゾロの手が私のピアスに触れてから離れる。
「ゾロも似合ってる」
ゾロの耳元で光る4つめのピアスは、思ったより彼に似合っていた。
我ながら直感が良いとうんうん頷いていた私は、自分の耳たぶに触れながら顔に熱が集まっていくのを感じた。
いや、だって、いまこれ、私とゾロお揃いってことでしょ?
「・・・・?なんだよ」
「いや・・・なんかお揃いみたいで恥ずかしくない?」
私のショートヘアでは耳元は隠れないため、ゾロのピアスとお揃いだということはすぐに分かってしまう。
「なんかほら、付き合ってるみたいで。こういうのゾロ苦手だと思ってた」
率直な、感想。
硬派で不器用な彼はそういうものに興味がない――――とまでは言わないが、二の次だと思っていた。だからそういうのを勘違いされるような行為自体あまり好きな方ではないだろう。
まぁ、それすらも考えてなかった可能性もあるのだが。
年頃の男を馬鹿にするような発想でゾロに笑いかけた私は、ゾロの表情に吸い込まれた。
「・・・・え、な、なにその顔」
「いや・・・・・」
「ちょ、な、なに、本気で何・・・・?ど、どうした?」
真剣な瞳が近づいてくる。
―――――しかも、無言で。
「・・・・・」
「い、いや、一言も喋らないとかわりと卑怯じゃない?待って?一応ほら、私達成長した男と女なわけだし至近距離はまずいと思うんだよねー!?」
幼なじみとはいえ緊張するもんはする。
ごくりと喉を鳴らして一歩下がれば、それを追いかけるようにゾロが踏み込む。あっという間に船の端まで追い込まれた私は、両手を前に突っぱねて距離を取ろうとした、が。
「逃げんな」
「逃げるだろ!?」
「なんでだ」
「いや・・・理由はなんども言ってるだろ!分かれよ!!」
「それは俺を・・・幼なじみじゃなくて“男“として見てるってことか?」
「見てるとして何ー!?」
見ないほうが難しいだろ!と叫びそうになる私を、ゾロの腕が捉える。
「騒ぐな。・・・・クソコックに邪魔されたくねェ」
「だ、だったら、こんな、距離つめなくても」
ふとゾロの顔が見えなくなった。
抱きしめられていると気づいたのは数秒後。
全身を伝わる熱に燃えているのではないかと勘違いしてしまいそうになる。抱きしめ返せばいいのか、どうすればいいのか。判断がつかない私は行き場をさまよう手をふらふらと宙に浮かせた。
「・・・ゾロ?」
「どこの誰だか知らねェが、他のやつに貢がれてるのは気に食わねェ」
「・・・・なんで?別につけないし、換金用にナミとかにあげて・・・」
「でも目をつけられたのは同じだろ、その男に」
「????」
まるっきりゾロの言いたいことが理解できない。
つまり、なんだ。飴ちゃんあげるからおいでと言われる子供のような感じなのだろうか。知らない人についていきそうで怖いとか?
「・・・・こんなに苛つくとは思わなかった」
「?知らない人についてったりしないよ?」
「そういう意味じゃねェ。分かんねーのかてめーは」
「まったく」
笑いながら答えた私の耳元で、聞いたことのないゾロの声が響く。
「他の“男“に貢がれてンのが気に食わねぇって言ってんだよ」
「・・・・・・なんか、彼氏みたいなこと言うね?」
「あぁ」
「あぁって・・・・・」
ぐるぐるぐる。
思考がめぐりめぐって、戻ってくる。
「・・・・それつけてりゃ、変な虫はつかねーだろ」
今までの言葉を繋ぎ止めて、何とか考えをまとめた私はようやくゾロの腕に手を添えた。
「あ、の、それってつまり・・・・その、好きとかそういうやつ?」
「・・・・・・」
ゆっくりと顔を上げたゾロが真っ直ぐな視線で“聞かなくても分かるだろ’と訴えている。たしかに分かるけど。でもこういうのは言葉にして欲しいものだ。というより私がゾロを好きじゃない可能性を考えないのか、こいつは。
「・・・・ま、そういうことだ。それ、外すなよ」
「いやいや!ちょっと!全然言葉にしてないじゃん!つまりどういうこと!?」
「あァ?んなの、知りたきゃ――――」
――――俺に勝って聞き出せよ。
そう言って意地悪く笑う彼に、私は特訓を増やす決意を固めた。
◆◆◆
ぶつかる木刀の音。
荒い息と、吹き荒れる風に流れる汗。
あいつら、剣じゃないと会話できないのかしら?とナミの呆れる声が消えていくのを感じながら、私は地面に転がった木刀を悔しげ――――ではなく、楽しげに見つめた。
「っくそ・・・・!」
「私の勝ち」
ゾロの両手から離れた木刀は私の足元に転がっている。
誰がどう見ても、この勝負は私の勝ちだ。
文句も言わせない勝ち方に、表情を歪ませたゾロが拳を震わせながらその場にあぐらをかいた。
「潔くてよろしい。それじゃあ、このピアスの意味・・・・・教えてくれる?」
しゃがんで目線を合わせてわざとらしくピアスを揺らす。
あの時もらった緑のピアスはまだ私の耳元で輝いていた。ゾロの耳元でも。
最初それを見つけたナミやサンジは大騒ぎしたものだ。それでもぶっきらぼうに「お揃いなだけだろ」と言い放つゾロの真意を聞き出すため、鍛錬の時間を倍以上にした私を褒めたい。
「お前は昔から馬鹿正直で、騙されてるくせに笑って、許して、そのくせ馬鹿みたいに強くて――――ほんと馬鹿だと思ってた」
「急に罵倒始まった」
「再会して少しは成長してるかと思えば、なんっにも変わんねーじゃねーか。騙されて金払って、それなのにへらへらしやがって、俺を庇って怪我しても平気な顔しやがって」
「あれ・・・?これ説教・・・?」
「だがよ」
てっきり告白されるのかと期待していた私を襲う罵倒に、ゾロ自身が終止符を打つ。
「その楽しそうな顔を、俺以外に向けられると――――イラつくことに気づいたんだよ。特にあのクソコック。クソコックだけじゃねェ。お前は海賊だってのにすぐ町のやつらに好かれてプレゼントだのなんだのもらってきやがる」
それは私自身が踊り子としてルフィ達のお金を稼いでるからじゃないかな?なんて正論を入れる隙間もなさそうな苛立ちに私はごくりと唾を飲んだ。
「俺の前だけでへらへらしてりゃいいんだよ、お前は」
「・・・つまり?」
「あ?ここまで言えば分かるだろうが」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・好きだ」
私の無言に押されたゾロが、本当に小さく、波に攫われるような声で呟いた。
それに満足して立ち上がろうとした私を、真っ赤になったゾロが掴んで引き寄せる。
あぐらをかいている上に倒れ込むようになった私に逃げ場はなく、耳元で囁かれる声に背筋にぞわりとしたものが走り抜けた。
「返事、もらってねェぞ」
「・・・・意外」
「あ?」
「いや、なんか、私が好きな前提でピアスとかつけてたから、返事なんて聞かないのかと思ってた」
「・・・・・・」
無言の威圧を、返される。
「・・・・私も好きだよ」
「ッ・・・あー、やべェ」
「?え、ちょっ・・・・!」
太陽が見ている中、なんの物陰もない場所で。
力強く顎を掴まれたかと思うと、私の唇はゾロに奪われていた。
突然のことに抵抗するなんて発想も浮かばない。
熱い。
甘い?
分からない。
「・・・・・真っ赤だな」
「・・・そりゃ、ファーストキスなもんで・・・・」
何とか余裕を取り戻そうとする私に気付いてか、余裕を取り戻したゾロが笑う。
「次の勝負は覚悟しとけよ」
「え」
「色々聞き出してやる。お前のことを全部知るために」
聞けば普通に答えてあげるんだけど、と思いながらも、これが私達らしいのかもしれないと口を閉ざした。お互いにこうやって高めあっていこう。それが私達の仲だから。
「・・・・それじゃ、恋人としてよろしく?」
「・・・・おう」
愛の代わりに剣をどうぞ
(素直に口を開くには、勝負の勝ち負けも必要ってこと!)
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サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
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★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)