いらっしゃいませ!
名前変更所
デートに誘えば武器屋を見に行って。
それから良さげなお酒が飲めそうなお店に入って、お酒を飲む。
そこに美味しい料理があれば、それはもうご機嫌。
「なに人のことじろじろ見てんだ?」
「んへへへ、なんでもない」
「気色悪ぃ笑い方しやがって・・・・」
一番じゃなくてもいいやって思えるこんな幸せな状況に、心底彼に惚れていることを思い知って悔しくなった私は、思いっきり酒を飲み干しながら誤魔化した。
きっと私は三番目
「ねぇ、あんた達のデートって何してるの?」
「武器屋行って、酒場行って、帰ってくる」
「・・・・・そんなことだとは思ったわ。あんたそれで満足なの?」
ナミから急に振られた恋バナ―――――というより心配か。
甲板で眠りこけている緑頭をビシッと指さしながら呆れ顔を浮かべるナミは、私の答えを聞いてやれやれと首を振った。
「しょうがないよ、ゾロだもん。一番が刀、二番目が酒、三番目が私かな!」
「あんたねぇ・・・楽しそうに言ってんじゃないわよ、まったく」
「でもさー、ゾロが刀も酒も捨てて女にうつつを抜かす・・・なんて想像できなくない?」
あの堅物が。なんて失礼な言葉を付け足せば、それもそうだけどと納得されてしまうゾロはさすがというべきか何というか。
言ってしまえば私も同じことに興味があるから問題ないのだ。
酒はあまり飲めないが、武器に関しては私も興味がある。手入れをするための道具やウソップが使えそうな道具を見つけるのに必要なものだと思っている。
「ま、私も楽しんでるから大丈夫だよ?」
「あんたも変わってるわね・・・そろそろ島につくから、準備しなさい」
「はーい!」
「ウッヒョー!!飯だ飯ぃ~~~!!!!」
島が見えてきたことで、ルフィ達が騒ぎ出す。
そんな騒ぎの中でもぐーぐー寝ているゾロは、肩を揺らしても起きそうにない。
「今回の島はだいぶ大きいな。こりゃ食材に期待ができそうだ」
「美味しいご飯楽しみにしてるね、サンジ」
「くろねこちゅわぁ~~~ん!!!期待しててね!くろねこちゃんのだぁーいすきなものフルコースにしちゃうよ~!!何なら俺とデートでもどうだい?」
「遠慮しとくよ、サンジの食材の買い出し邪魔しちゃうのもあれだし」
「んも~~!くろねこちゃんは優しいなぁ~~~!!」
目をハートにしたサンジが私の言葉で上陸の準備を高速でし始める。
慌ただしくなっていく船の中で、それでも寝ているゾロは本当にさすがだ。
一度寝たら中々起きないことを知っている私は、今日の船番予定だったウソップに声を掛ける。
「ウソップ、船番変わるよ」
「え?いいのか?でも・・・」
「でもほら、これ起きないし」
つんつんと緑頭を突く私を見て、ウソップが呆れ顔を浮かべた。
「ったく、ゾロもしょうがねぇなぁ。うっし、買い出しもあるし代わりに行ってくるぜ!」
「うん、お願い~!」
船から降りる準備を始めたウソップに続き、他の皆も島に向かって走り始める。
この旅の中で、買い出しや遊びが出来る島への滞在はとても貴重だ。賞金首だから中々長居出来ないということもあり、皆思い思いに島への滞在を楽しむ。
そんな貴重な時間を、こんな居眠り野郎に潰させるわけにもいかないと思う私の気持ちを汲んで、皆は特に遠慮することなく島へ降りだした。
「じゃあ、船番は任せるわね、双剣さん」
「ロビンも楽しんできてねー!」
「んじゃ頼んだぞー!!」
ナミと共にお店がある方向へ真っ直ぐ走り出すロビン。
食材屋に向かうであろうサンジ。
治療するために必要な道具を買い揃えてくると、小さな足で走り出したチョッパー。
もちろん船長は言うまでもなく飯と叫びながら走っていき、もう姿は見えなくなっていた。
フランキーの大きな姿はある程度遠くても見える。
騒がしい彼らを見送った私は、未だ寝ているゾロの隣に座った。
「良く寝るねぇ」
二人きりの船内。
この長旅で“二人きり“になることはほとんどないため、少しだけドキドキする。
顔を覗き込めば、綺麗な寝顔が目に入った。
近づいてもビクともしない。改めて皆がいなくなったことを確認した私は、そっと彼に顔を近づけた。ゾロのことだ。これだけ近づけば気配で気づいていそうだが、それでも動かない。
「起きてるんじゃないのー?切っちゃうぞ~?」
殺気がないから目が覚めないのだろうか。
「・・・・かっこいいなぁ」
幼なじみとして一緒だった頃は、あんなに子供だったのに。
いつの間にか私より大きくなって、逞しくなって、傷だらけになって。
ゾロの様子を伺いながら、そっと手を伸ばす。
彼が負った傷はすべて彼の強さの証。
腹筋を押すと硬い筋肉の感触がした。それでもまだ、寝息が聞こえる。
「しょうがない」
目覚めのキスでもしてやろうじゃないか、王子様―――じゃなくお姫様が?
私がお姫様って崩壊しそうなおとぎ話だなと思いながらゾロの懐に潜り込み、そのままそっと唇を重ねた。
「んぅ!?」
合わせるだけの口づけのつもりですぐに離れるつもりだった私は、それを待ってましたとばかりに動き出したゾロの手によって、後頭部を押さえつけられ、逃げ場を失った。出すつもりもなかった鼻を抜ける甘い声を漏らしながら、容赦なく唇を割って入ってくる舌に翻弄される。
「ん、んん・・・・っ」
「・・・・ようやく静かになったな」
「起きてたのか・・・」
「あぁ」
さらっと悪びれる様子もなく答えるゾロは、“わざと“寝過ごしたふりをしたのだろう。
その目的が何なのか。
聞くよりも先に知ることになる。
私の後頭部を押さえつけていた手がするりと体のラインを沿って下に滑り落ちた。
曲線を描いて腰を掴み、そのまま私を前に向かせてあぐらの上に乗せる。私を後ろから抱きしめている体勢になったゾロは、そのまま私の首元に顔を埋め始めた。
「ゾロ・・・?」
「クソコックに近づきすぎだ」
「ひぅ!?」
船に誰もいなくてよかったと思える瞬間だった。
首筋に甘い痛みが走るのと同時に、押さえられない声が響く。慌てて後ろを振り返れば、楽しそうに笑うゾロと目が合う。
「良い声出すじゃねェか」
「ばか、今の強さだと痕ついたんじゃないの!?」
「あ?当たり前だろ」
「なんでよー!常にパーカーかぶらなきゃいけなくなるじゃない!?」
「・・・・うるせェ。いいだろうが別に」
不機嫌そうな声が近づいてきて、また私の首筋を噛んだ。
まだ“そういうこと“をしたことがなかった私にとってゾロのこの行為は今日一番の意外性を孕んでいた。硬派な彼はそういうの興味が無いのかと思っていたのだ。欲がない、といえば嘘になるが、二の次三の次のものだと思っていた。
「わ、わたし、船番するからっ・・・お酒とか、買ってきてもいいんだよ・・・?」
「いらねェ」
「めずらし。それじゃあ、武器屋は・・・?ここ、なんか鍛冶屋もあるらし、んっ」
「うるせェ。それじゃあ残った意味ねーだろ」
残った、意味。
「・・・・もしかして、こうするために残ったの?」
返事の変わりにまた強く噛まれた。
たまに耳元に触れる息がくすぐったくて身を捩る私に気がついたのか、ゾロがわざと私の耳元に唇を寄せる。
「くろねこ」
「ッ、な、なに」
「言っただろ、俺の前だけでへらへらしてろって」
「別にへらへらしたつもりないんだけどなぁ」
「エロガッパにデート誘われてただろうが」
「それはもう私のせいじゃないよねー?」
文句を言いながらも大人しくゾロに身を委ねてみせる。
どうやら嫉妬しているらしい。私が良い刀を見つけた時とか、いい酒を持ってた時とか、そういうときに見せる「いいからよこせ!」という強引な雰囲気と同じものを感じる。
「そんなに怒らなくても、私はゾロのものなのに」
照れくさいことを口にしてみたが、思った以上に恥ずかしかった。
顔に熱が集まっていくのを感じながらそれに気づかないでほしいと願う。もちろん、無理な話なのは分かっているが。
「・・・・熱いぞ、体」
「うるさいな」
熱い体を冷やすことは許されない。
ゾロが私を強く抱きしめているせいだ。
「・・・・ね、本当にいいの?お酒とか・・・」
「いらねぇ」
「それなら、いいんだけど」
「お前がいればいい」
「・・・・・・もしかして、ナミとの会話も聞いてたの?」
これは、彼なりに私が三番目であることを否定してくれているのだろうか。
別に否定されなくても私は三番目でも良いんだけど。そんなことを言えばゾロの言葉を無駄にするような気がして、私は口を閉ざした。
「・・・・・」
抱きしめられたまま、空を眺める。
夕日が差し込みかけている船の上は、私達以外誰もいない。
「・・・・くろねこ」
「うん?」
低く、かすれた声が耳元を擽る。
「・・・・・なんでもねェ」
無言が心地良い。
私はこの時間が嫌いじゃない。ゾロが何も喋らなくても、剣を振っているだけでも、鍛錬に夢中でも、お酒ばっかりでも。そんなの、今更だ。子供の頃だって自由奔放でがむしゃらで剣に真っ直ぐだった。
それが大人になっただけで、何も変わらない。
私はそんなゾロを見てきた。知っていた。今だって。
「ゾロらしくて良いと思うんだけどな、私が三番目ってのも」
何も、その人の一番でなければ恋愛が成立しないわけではない。
特別と一番は違う。
時と場合によっては優先度は変わるし、私だってそうだ。
まぁさすがに、女として三番目と言われれば話は違うが。
ゾロの場合はそうではない。それが分かるからこそ気にならないのだ。
「それに私だって、ゾロが一番なわけではないし」
「・・・・あ?」
「いっ!いだっ!!また噛んだっ・・・!」
「何が一番なんだよ」
「えー?そりゃ・・・刀?」
私の刀は特別な名刀――――ではなく、妖刀。
私の気持ちを汲み取り、そして自分の意思を主張してくる。
そんな刀と友達になることで私は本当の力を得ることが出来る。この獲物を含めて私の力。
「あはは、もしかしてゾロが一番って言って欲しかった?」
ちょっとした意地悪のつもりでそう言いながらゾロの方を向くと、拗ねた表情のゾロと目が合った。
「・・・・・冗談だってば」
「・・・・・」
「鍛錬の時間以外は煩悩だらけでさ。ゾロとこういう風にしたいなーとか、ずっと思ってる」
人間とは身勝手なものだ。
完全に煩悩を捨て去ることはできない。守るためだと考えていた対象が好きだと、愛しているといえる対象になった時、私はゾロとそういう仲になりたいと考えるようになった。
触れたい。
キスしたい。
――――もっと、知りたい。
刀ばかりだった私にとってその感情はとても不思議なものだった。
人を大切に思う気持ちとはまた別な、どろりと流れ出る抑えきれない感情。
「鍛錬が足りねぇな」
「じゃあゾロには煩悩ないわけ?」
「あるに決まってんだろ」
「おいこら」
肘で小突く私に、ゾロの抱きしめる力が強くなる。
「“ある“って聞いて安心したぜ。もし“ない“って言われてたら俺は一生鍛錬するしか我慢する方法がなかったからな」
ゾロはそう言いながら私の腰から腕を外し、ゆるゆると体を触り始めた。
優しい触り方にいやらしさは感じなくともくすぐったさは感じる。腰を撫でる手が下に流れて足に触れる。それからまた腰に戻り、背中、肩に回って私の頬に手が伸びる。
「くすぐったい」
「・・・・・」
「・・・そ、そんな慎重に触んなくても、壊れないってば・・・」
「・・・そうか?」
私の言葉をきっかけに、触り方が少し変わった。
恐る恐る、触れるか触れないかの位置で滑っていた手が、ゾロの熱を移すように強く這い始める。
「ゾロも熱い」
「仕方ねぇだろ」
「はいはい、仕方ないですねー」
「・・・・馬鹿にしてんのか?」
「はいはい、照れちゃって可愛いですねー」
「あんま生意気言ってっとここで襲うぞ」
「はいはい、襲ってもい・・・・・」
照れ隠しに生意気なことを口にしていた私は、ゾロの口からでた衝撃的な発言に固まった。
「へぇ・・・いいんだな」
「いや!い、いいわけないっ!!」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど!」
「・・・くくっ、冗談だ。そんな真っ赤になって暴れる必要ないだろ、おもしれぇなぁ」
「~~~~ッ!」
からかわれた事に気づいたが、言い返せる言葉もない。
諦めた私はこの二人きりの時間を楽しむために羞恥心を捨てて思いっきり甘えてやることにした。全体重をゾロに預け、ウロウロしていたゾロの手を掴んで自らのお腹に回す。
「こうしてて」
「・・・・・」
熱が、上がる。
気づかないふりをして目を瞑る私の耳元で、ゾロがごくりと唾を飲んだ音が聞こえた。
「・・・・落ち着く」
「俺は落ち着かねぇよ」
「スケベ」
「・・・・いいだろうが別に」
吐き捨てるように言いながらも襲ってこない彼はやはり硬派だ。
襲ってくれてもいいのに、なんて言えばどうなるか分かっている。さすがにいつ誰が戻ってくるかも分からない船の上で、彼のぐらつく“かもしれない“理性に止めをさせる勇気はない。
変わりに、“機会があればいつでも“という証は残しておこう。
身長の低い私はゾロにすっぽりと包まれた状態でゾロの顔を見上げた。私の頭を見ていたらしいゾロと目があって、嬉しくなって、思わず笑う。
「なんだよ」
「これからも三番目に愛してね」
「あ?そこは一番目じゃねぇのか・・・」
「私はゾロが抱く剣への執着を誰よりも知ってるからなぁ。そんな執着と同じ熱量向けられたら私溶けちゃうし、三番目ぐらいがちょうどいいよ」
「せめて酒よりは上にしろよ」
「ゾロから酒取ったら死にそうだし・・・・」
「・・・・お前取っても死ぬかもしれねェだろ」
「えー??」
「それに俺は・・・・」
ゾロが真剣な瞳で何かを言いかけて、止まった。
首を傾げて続きを促せば、ふいと視線を逸しながら口を開く。
「・・・・俺は、一番じゃねぇと満足できねーぞ」
今日はゾロに対して意外という感情を強く抱く日らしい。
からかうにからかえない表情に、次は私がごくりと唾を飲み込んだ。
私だって、剣豪を目指す剣士。
刀が一番と答えたかったが、剣豪になる理由がゾロを守るためなのだから結局一番はゾロなのだろう。どんなに辛い時でも、死にかけたときでも、私は彼のことを考えてきた。
昔は幼なじみとして。
今は、恋人として。
「ゾロが一番だよ」
私が囁いた答えに、ゾロは満足そうに笑って口づけを落とした。
自分も一番だと口にしないところはゾロらしいと思いながら目を瞑る。
「・・・・今までも、これからも」
爽やかな風が幸せを運んで溶けていくのを感じながら、聞こえないように呟いた言葉をゾロはきっと聞き逃していないだろう。
きっと私は三番目
(それでも、満足!!)
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公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
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