いらっしゃいませ!
名前変更所
外で会うあけは時々違う雰囲気を纏っている。
それは彼女の仕事のためだったり、または俺を護衛しやすくするためだったりと色々あるが、今日のはまた一段と違う雰囲気の変装だった。
普段は俺以外だと気づかないような格好とメイクをしてくるのに、今日のは知っている人がいればあけだと分かる格好だった。だがいつもとは違い、スーツではなく女性らしい格好をしていた。
肩出しの黒いフリルのトップスに、細身の足が分かるミニスカートとタイツ。
シンプルだがスーツではないということと彼女のスタイルの良さが活かされたその格好は随分と雰囲気が違うものに見える。
しかもいつもは苦手でつけていないピアスやネックレスといった控えめだがおしゃれなアクセサリーの数々も輝いていた。
「・・・・あけ?」
「ん?」
「どうしたんですか、その格好」
「・・・・気分」
あけは伏目がちにそう言うと、俺の手を優しく握った。
普段にはない行動に俺の心臓がざわつく。
人前で手を繋ぐのも、女性らしい格好をするのも、正直付き合って以来一度もないぐらいの行動だ。何かあったのは間違いないだろうが、探ろうにもあけの表情はいつもどおりだ。
「今日、どこいく?」
「ニューセレナに行きたいんでしょう?貴方が神室町で待ち合わせするときは、決まってあの場所に行きたがる」
「あそこは落ち着いて飲めるからね。・・・・じゃあ、いこう」
微笑んだあけは真っ直ぐニューセレナに向かって歩き出した。
歩幅を合わせて歩きながら俺は何も言えないでいた。
格好について話すのも、アクセサリーについて話すのも何故か出来ない。
ガラになく心臓がいつも以上にうるさい。
あぁ、俺もこんな純粋な感情を持っているのかと思わず苦笑が溢れた。
「やっほー!ママ」
「あら・・・え、あけちゃん・・・?」
ニューセレナの扉を開け、ママに挨拶をすれば俺と同じような反応が返ってきた。
驚きながらも次の瞬間には「やだもう可愛い!」とはしゃぎながらお酒を持ってくるのはさすがというべきか。
「ふふ、座って。貸し切りにしておくわね」
ママはそう言いながら俺たちにお酒を注ぐ。
俺たちが決まって飲む酒を、覚えてくれているらしい。こういった細かい気遣いにも感心する。
そしてそのお酒によって、更に雰囲気を変えたあけとの乾杯にごくりと喉がなった。
「乾杯」
「・・・あぁ」
こんなにも、彼女の横顔は美しかっただろうか。
あけは一口小さく酒を含むと、美味しいと軽く微笑んだ。
バーの幻想的な明かりに照らされ、右耳についたピアスが赤く輝く。
普段の彼女もとても可愛らしい。
他の女性とは違う、見た目にはない可愛らしさや強さが惹かれた魅力なので、普段の格好やガサツなところなどは気にしていなかった。
だが、いざ女性らしいところを見てしまうと、強く惹かれてしまうものだ。
「なぁ、峯」
「どうしました?」
「・・・・に、似合って、る?」
「えぇ、とても」
「本当に?」
「ふっ・・・俺が貴方に嘘を吐くとでも?」
俺の返事を聞くと、あけは照れくさそうに頬をかいた。
「大吾にさ、聞いたんだ。ドタバタしてて・・・聞く機会がないままだったから」
あけは持っていた鞄を開けると、俺の前に小さな箱を置いた。
それは有名なブランドの箱。
その小箱を促されるまま開けた俺は、小さなメッセージカードに「誕生日おめでとう」の文字を見つけて固まった。
そういえば、そうだったか。
最近誰にも祝われない誕生日だったからか、すっかり忘れていた。
「ハッピーバースデー!」
「誕生日おめでとう!」
更にママが勢いよく裏の扉から現れ、おしゃれなチョコケーキを運んできた。
二人は嬉しそうに笑い合いながら大成功!と喜んでいる。
「・・・・準備しててくれてたんですか」
「あぁ!ママと一緒にな!」
「今日のこの服も一生懸命選んだのよ、ね?」
「ちょっ、ちょっと、そういうことは言わなくていいっ」
なるほど、普段と違う格好もこのために。
俺はメッセージカードの裏にあったプレゼント本体を取り出し、ゆっくりと眺めた。
シンプルな黒革の高級なキーケースだ。
最近事務所が広がり、色んな鍵の整理がだるいとぼやいた記憶がある。
しかも俺が好きだと以前教えたブランドの最新作だ。こういうのに興味が無いふりをしてきちんと覚えてくれているあけに愛しさが増す。
「ありがとう、あけ。大切にする」
「よかった。こういうのやることないから、喜んでもらえるか心配だったんだよ」
「私は、あけちゃんが選ぶものなら何でも喜ぶと思うって言ったんだけどね?」
「フッ・・・ママの言う通りですね。俺は貴方が選ぶものなら何でも嬉しいですよ」
「う、うるさいな。・・・付き合って初めてなら少しぐらい気合入るだろっ」
俺のために選んでくれたプレゼント。
俺のための、着飾った姿。
何もかもが眩しく見えて、酒が進む。
用意されたケーキも、程よい甘さでとても食べやすいものだった。
幸せを噛み締めながら何度も酒を口に運ぶ。
こんなにもうまい酒を飲んだのは生まれて初めてかもしれないと思うほどに、その酒が美味しく感じられた。
「あ、そういえばさ、プレゼントになるかはわからないんだけど・・・もう1個渡したいものがあるんだ」
お互いにお酒が進んできて、そろそろ帰ろうかという頃。
あけは赤い頬でにっこりと笑った後、自分のポケットから鍵を取り出した。
「これは・・・?」
見たこと無い、不思議な鍵の形。
不思議そうにする俺の目の前にその鍵を差し出し、鍵についたチップのようなものを指差す。
「これ私のアジトの鍵。つまりは・・・家の鍵」
「・・・・・・」
あけは自分の家を持っていない。
このセレナの裏の路地に、隠された扉がある。そこから入れるアジトを寝床にしているのだ。
それを知ってはいたものの、情報屋の本拠地ということで俺はそこに口出しはしていなかった。特に最近は俺の家に暮らしてるも同然だったため、気にしたことがなかったのだ。
そのため正直このプレゼントには驚いていた。
つまりはあけが、全てにおいて俺を受け入れるという意味なのだから。
「・・・・」
「え、おい!?どした!?え、ちょっと!!??」
「あらあら」
「ママわりぃ!後でお代渡すから・・・・っ!」
「ふふっ・・・・大丈夫よ急がなくて。いつも多めにもらってるんだから」
俺はママが驚くのも、あけが止めるのも無視してあけを無理やり引っ張って店を出た。
そのまま足を踏み入れたことがないアジトへの鍵を開け、あけごと引きずり込む。
「ちょっと!いきなりどうしたん・・・・」
部屋の中には必要最低限のもの以外何もなかった。
あけがいうには情報屋としての情報も仕事道具も分散して拠点においているらしい。
一部は俺の家に、一部は事務所に、一部は東城会本部に、そして一部がここに。
簡素な部屋にあけらしさを感じて笑いながらも、理性がぐらぐらと揺れていた俺は寝室らしき部屋を見つけてあけを投げ捨てた。
ベッドの上で華麗に受け身を取って寝転がるあけは、酒も回ってか真っ赤な顔で俺を睨んでいる。
「いきなり、なんだよ」
「男に鍵を渡すなんて・・・・誘っているんだと思いまして、つい」
「っ・・・だからっていきなりこんな・・・」
「すみません。ですが我慢できそうにない」
こんな可愛らしいことをされて。
こんなに、愛おしいことをされて。
「プレゼント、もう一つもらってもいいですか?」
答えを聞く間もなくあけの上に覆いかぶさり、左手でネクタイを緩めていく。
「一応、何って聞いていいか?」
「言う必要ありますか?ここまで来て」
「私の勘違いだったら嫌だろ」
「・・・・なら」
俺はあけの両腕をベッドに押さえつけ、そこにネクタイを巻いた。
巻いたネクタイを可愛らしくリボン結びにして手を離せば、それを自分の前に持ってきたあけが呆れ顔で俺を睨んだ。
「お前・・・」
「これで分かりますね」
「わ、わかるけど・・・」
「では、改めていただけませんか?」
無言の圧力で言葉を促す。
あけは何度か縛られた手元と俺の顔を見た後、俺の意図に気づいたのか思いっきり嫌そうに顔を背けた。
「~~~っ、もう、色んなのあげただろ!」
「足りません」
「欲張り」
「・・・・あけ」
「ッ・・・・」
「あけ」
名前を呼ばれるのに、あけは弱い。
最近知ったことだが俺に惚れているというのが感じ取れて嬉しくなる。
何度か何も言わず名前だけ呼ぶと、観念したかのように縛られた手を俺の目の前にずいと突き出した。
「わ・・・・・・私が、プレゼント・・・・です」
「・・・・あぁ、まずいな。思ったよりくるものがありますね、これは」
「言ったんだから解いてくれ」
「もう少しそのままでお願いします」
「や、やだ!」
「プレゼントなら俺に解かれるのを待ってろ」
「ッ・・・・・分かったよもう!返品不可だからなっ」
顔を真っ赤にしながら叫ぶように言ったあけに、最後の理性が崩れる音がした。
「・・・・頼まれても返品なんてしねぇよ」
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