いらっしゃいませ!
名前変更所
「何を、やってるんです?」
怒気を込めた声で峯がそう呟く。
その声は事務所の奥で怪我だらけで転がっているあけに対して投げかけられていた。
「喧嘩した!」
「見ればわかりますが」
「そしたら思った以上に人が多かったのと、最近峯の邪魔する組の奴らだったからそのまま潰してきちゃった!」
「・・・・・馬鹿ですか?」
「えっへへ、呆れ顔もかっこいいねぇ峯」
「・・・・・・」
「いだだだだだだ!!!!」
自分の恋人であろうと容赦しない峯の鉄拳があけを襲う。
峯はぐりぐりとあけの頭を押さえつけた後、痛がるあけから消毒液と包帯を奪い取った。
そして無言で指図する。――――そこに座れ、と。
峯とあけが恋人になって数ヶ月。
恋人らしいことをするにはしているが、普段の会話はこのようなものばかりだ。
それが心地よいと感じてきている峯は苦笑を隠しながらも座ったあけの腕に乱暴に消毒液を塗っていく。
「あ、ちょっと!?もっと優しくっ・・・~~~っ」
「はぁ・・・優しくしてほしいならもう少し大人しくしたらどうだ」
「だって波多瀬組、ずっと峯の組のやつらにちょっかい出してた奴らでしょ。そんな奴らに、峯の女でいるよりいい思いさせてやるから来いとか言われたら殺したくならない?」
平然とそう言ってのけるあけは、笑顔で峯を見上げた。
だからといってこんなに傷だらけになることが許されるかといえばそうでもなく、峯は自分に許可なく傷ついたあけを怒る意味合いでわざと強く消毒液を押し付けた。
「だ~~~!!!いたいっ!!!」
「気持ちは分かるが俺の女だという自覚があるならそんなに傷ついてもらっては困るな」
「心配してくれるのー?えっへへへへ」
「・・・・・・・・」
「いひゃい、いひゃいよ!?」
何を言ってもへらへらしているあけに苛立ち、頬を思いっきり抓る。
「反省はしたのか?ん?」
「ひまひた!」
「聞こえんな」
「いひゃい~~!!ごめんなひゃい!・・・も、もう、しない」
「そう言ったのは何度目だろうな」
「だって・・・喧嘩売ってきたのあっちだし、峯のこと馬鹿にしてたから頭に血が昇っちゃった・・・ごめん。大吾にもちゃんと私の単独だって言っておくし・・・・」
頭に血が昇ったから組を潰すっていう発想にそもそも問題があると思わないのか。
とことん常識が通用しない破天荒ぶりにため息が出る。
「あは、呆れ顔もやっぱかっこいいね」
「無駄口叩いている暇があるならさっさと治療して仕事を手伝え」
「えー?峯が治療してくれてるじゃん!」
嬉しそうに笑うあけに、普通の説教はダメだと理解した峯は座るあけを押さえ込むように覆いかぶさった。
突然のことと傷の痛みでそのまま床に倒れ込むあけは、目前に晒された意地悪い笑みに顔をひくつかせる。
「嫌な予感がする!」
「そうか」
「あー!そうかとか言いながら服脱がさないで!!変態~~!!!」
「治療だ」
「そ、そんなところ怪我してない!!してないから!」
「見てみないと分からないな?」
そう言いながら悪戯にあけの胸元のボタンを外す。どれだけ騒いでも峯の力の前には意味もなく、胸元のボタンを外されたあけは首筋にかかる暖かい息に上げたくもない声を上げることになる。叫びながらも甘い声が漏れるのは、峯に刻まれたものが呼び起こされるから。
「っぁ・・・!おねが、待って・・・!せめて夜・・・!」
「フッ・・・“される“ことには問題ないんだな?」
「それは・・・・・」
このままだと本気で襲いかねないと判断した峯が、顔を真っ赤にして目を逸らすあけから体を離した。そして胸ポケットから鍵を取り出し、投げ渡す。
「今日は19時から会合だ、先に帰っててくれるか?」
「んー?待ってても良いんだよ?」
「・・・・夜にうろついたらまた喧嘩する可能性あるだろう」
「何その制御しきれないやばいペットみたいな扱い・・・・」
「心配してるという発想にならないのか?」
「え?あ、確かに。ありがと!」
素直なのは、良いところだ。
そう思いながら峯はテキパキと他の箇所の治療を施し、あけの頭を撫でた。
「何を、やってるんです?」
デジャヴな峯の発言が、峯の家に響く。
何故か明かりのついていない峯の寝室でうずくまっていたあけは、その声を背中から聞いてびくっと肩を跳ねさせた。
「あ、いやー、えっと・・・・」
「怪我してるんでしょう」
「全然!今日のお昼のならあるけど!」
「あまり私を馬鹿にしないほうが良いですよ。貴方についていた傷ぐらい覚えています」
「え、それはそれで怖い」
ドン引きという顔で見てくるあけの頭を一度小突き、怪我が増えた腕を掴む。
今日の昼にはついてなかったはずの傷だ。右腕に、大きな切り傷がついている。
ここには恐らく包帯を取りに来たのだろう。
「この傷は増えたものだな」
「まぁほら、えっと、喧嘩で増えたものじゃないから安心して!」
「・・・・本当か?」
「ほ、ほんと」
「・・・・・・」
「ほんとほんと!いやほら・・・・あの、慣れないことしたからなだけで・・・」
恥ずかしそうに笑うあけに、ふと気づいたことがあって顔を上げた。
暗くて気づかなかったが、なんだかいい香りがする。
リビングの方から――――これは、料理だろうか?
少し和風な料理の香りが鼻をくすぐるのを感じて、再度あけの傷に目を落とす。
「なるほど、包丁でやったのか」
「そそ」
「じゃあなんでこんな暗闇に隠れてるんだ・・・・」
「サプライズしようと思ったら、予想よりめっちゃ早く帰ってきちゃったから慌てて・・・」
「・・・・ったく、紛らわしい」
「ま、まぁ!傷は浅いし大丈夫!そんなことよりご飯食べよ!」
あけはそう言って立ち上がると、電気をつけながら峯をリビングへと案内した。
先程出来たばかりなのだろうか。
和食で色鮮やかな、健康的で食べやすそうな量の料理の数々。
会食の後というのを考慮した料理の構成に愛情を感じて峯は思わず微笑んだ。
「会食であんまり食べないタイプだったよね?だからおつまみ程度でちょっと作っておいたよ」
「あぁ、ありがとう。早速食べるか」
「お酒はいる?」
「そうだな・・・少し飲むか」
「じゃーん!実は良いお酒も用意してたんだー!」
あけが取り出した高級ウイスキーに目を細める。
「・・・俺のじゃないな」
「当たり前じゃん、買ってきたんだよ。頑張ってる峯にプレゼントね!」
「・・・そうか」
「おつかれさま!」
「あぁ」
あけといると自然と笑みが溢れる。
それはこいつが馬鹿らしいことばかりにするのが一つ。
もう一つは、こういう自然と気づかえるところが癒やしをくれる。
どんなに美しい女性でも、かわいい女性でも。
与えれば与えるだけ結局それに溺れて身勝手になっていった。
それに結局は“金“が目的で集まる女のほうが多かった。
特に、この世界はそうだ。
こういう馬鹿で、呆れさせてくれるぐらいの人間の方が心地いい。
「それで、あの後ちゃんと真っ直ぐ帰ったんだろうな」
「うん!買い物してすぐ帰ったよ」
「ならいい。お前は一人で出歩くとすぐに喧嘩するからな」
「私を何だと思ってるのさ。人を狂犬の兄さんみたいに・・・」
「ある意味似てるんじゃないか」
「ひど!全然嬉しくないよその褒め言葉!」
「ならすぐに喧嘩して怪我してくるのを何とかしたらどうなんだ?」
目を離せばすぐに誰かと喧嘩する。
別に彼女が喧嘩を売っているわけではないのだが、そういうのを惹きつける才能があるらしい。
そしてあけはそれを買ってしまう。
「やりたくてやってるわけじゃないんだけどなぁ・・・」
「まぁ、あけらしいといえばあけらしいが。後で昼の怪我の治療するぞ」
「え、もういいよ。大丈夫」
「・・・・・・・」
「うわなにその顔!!」
「信じるわけがないだろう。あの怪我がすぐに良くなるわけがない」
「いやでも消毒したし・・・・」
まるで子供の世話をしているようだと眉間に皺を寄せる。
それに気づいたあけが峯の額に手を伸ばし、皺を伸ばすように指でつついた。
「癖になっちゃうよ、難しい顔ばっかりしてると」
「誰がさせてるんだろうな」
「え・・・・わたし!?」
「お前以外誰がいるんだ」
「神田とかあのへん」
「・・・・・・それは、否定しない」
思わず互いに目を合わせ、笑い合う。
こんなくだらないことを言い合って、平和な食事をして。
――――俺は、ついに見つけたんだな。
幸せに浸りながら酒を飲んでいるとあけがテキパキと片付けを始めた。
手伝おうかと思い立ち上がる峯にあけはすぐ静止を掛ける。
「あ、峯はお酒飲んでて」
「いいのか?」
「任せといて。座っとかないと治療させないよ?」
「どういう脅しなんだそれは・・・・」
カウンター越しに見えるあけを見ながらお酒を飲み、お皿洗いが終わった頃を見計らってあけの腕を掴んだ。
「んー?」
「終わったか?」
「うん、おわった」
「じゃあ治療だな」
「え?あ、いや、だから大丈夫って・・・・うわぁあぁあ!!」
自分で脅しに使っておいて何なんだと言いたい気持ちを押さえ、逃げられないように抱きかかえてベッドに運ぶ。
ベッドにゆっくり下ろし、逃げようとするあけの上に覆いかぶさる。
確かに見た目上そこまで酷い怪我は無いが、こういう怪我は放っておくと痕が残ったりするものだ。
人の心配をよそに変態だの何だのと叫んでもがくあけに、峯は耳元で囁いた。
「じっとしなければ今すぐ襲うぞ」
「なっ・・・やっぱり変態じゃないか!」
「なるほど、襲ってほしいなら素直に言えばいいものを」
「おとなしくします!!!」
本気で襲いかかる素振りを見せ、耳を甘噛すると、真っ赤になりながらあけが大人しくなった。
大人しくなったあけの体を優しく持ち上げ、昼に見た傷の箇所を確かめていく。
足を主体として喧嘩する彼女はよく足に怪我をしている。
ミニスカートから覗くふとももに怪我を見つけた峯は、枕元にあった棚から包帯を取り出した。置いておいた消毒液をつけ、しっかりと巻いていく。そのまま腰も、お腹も。
「っ、ん」
脇腹に触れた瞬間、何か我慢するような甘い声が聞こえた。
あぁ、そういえばここが弱かったかと。お仕置きのつもりでそこをゆっくりと撫でれば、あけの足がもぞもぞと何かを我慢するように動き出した。
「ん、ぅ」
「・・・どうした?」
「・・・・え、いや、なんでもっ・・・・」
「そうか。痛かったら言うんだ、いいな?」
「い、痛くは、ない」
細い、腰。
喧嘩が得意な彼女なりに筋肉が綺麗についたお腹を確かめるように指を這わせれば、あけが慌てたように峯の肩を掴んだ。
「ちょ、ちょっと・・・・!」
さすがに気づいたのだろう。
峯が覆いかぶさっているせいで身も捩れないあけは、自分のお腹の近くに顔を寄せて意地悪く笑う峯を見て騒ぎ出した。
「~~~っ、わざとしてんでしょ!!」
「さぁ、なんのことだろうな」
「ッ、ひぅ!ね・・・っ、ちょっとまっ・・・・」
「夜なら、いいんだろ?」
「や、ぁ・・・!舐めるな馬鹿っ・・・!」
暴れても、意味はない。
「んん、も・・・っ!峯・・・」
甘い声が、名前を呼ぶ。
それに更に加虐心が煽られるのは、我ながら意地が悪いものだ。
「どうした?」
「どうした、じゃ、ないでしょっ・・・」
「手当をしているだけだが・・・何を期待してるんだ?」
「うそ、つけっ!」
彼女の得意の足を塞げば、抵抗力なんて皆無。
それを分かっていて峯は顔を上げ、あけの足を押さえ込むような体勢に変えた。
そのまま指を滑らせる。
お腹から、胸元へ。肝心な場所には触れないように焦らして、首筋へ。
峯の笑みに気づいたあけが悔しそうに唇を噛み、無言で顔を逸らす。
その表情が、煽るとも知らずに。
「み、みね、せめてシャワー・・・!」
「そう言って逃げ出したことがあるだろ、お前は」
「だって~!は、恥ずかしかったんだよ、あの時適当な下着だったし・・・っ」
「それなら俺が買った下着をつければいい」
「意味ないじゃん!見られちゃうじゃん!」
「・・・・ったく、雰囲気を壊すな」
「壊れていいよ!襲っていいなんて言ってな・・・・」
征服欲を煽る、いけない人だ。
甘い顔から普段の表情に戻った彼女をもう一度甘く染めるべく、峯はあけの首筋に顔を埋めた。すぅと香りを吸い込んで彼女を味わえば、恥ずかしさから固まったあけが震え声で最後の抵抗を始める。
「や、やめ、汗臭いから・・・・」
「いい香りがする」
「それなんか、変態ぽい」
「・・・・・」
「っあ!無言でさわっ・・・」
黙らせるために唇で塞ぐ。
容赦なく我が物顔で舌を滑り込ませると、びくびくとあけの体が震えた。
何も知らなかった彼女に教え込んだのは峯自身だ。
彼に教え込まれたあけに、逃げ場はない。
「は、う」
「大人しく食われろ」
「最初から、そのつもりだったくせに・・・・」
「分かってて家に来たんだろう?」
「・・・・そ、それは・・・その」
「ふっ・・・素直な反応だ。最初からそのぐらい素直ならいいのにな」
分かってて、抵抗するように仕向けているのもあるのだが。
それは言わないようにして峯はもう一度あけの唇を奪った。
次はもう、息も出来ないぐらいに、もっと――――。
「何を、やってるんです?」
日を跨いで3回目。
デジャヴな言葉に頭を抱えて呆れ顔をすれば、その言葉を言われた張本人は峯の上で笑っていた。
「おはよ!」
「・・・・答えになってないんですが」
「早く起きたから峯の寝顔を頂いちゃおうと思って!」
「・・・・・」
「あー!その呆れ顔もかっこいいよ!!」
早朝から人の上でスマホを構えて寝顔を撮影している人間に、他にどんな顔をすればよいのか。
相変わらず何を考えているか分からないあけに呆れながらも悪い気もせず、峯は寝起きの頭を覚醒させることを優先させた。
「えっへへ、寝顔もいっぱいもらっちゃった」
「そんなもの何に使うんです」
「そんなの決まってるじゃん、待受けとエネルギー充填用だよ。会えない時にこれで補充するの!」
「・・・・会えない時のほうが珍しくありませんか?」
「え?あー、確かにまぁ、仕事上一緒だから確かに・・・?いやでも、夜遅いときとか」
「たったそれだけ会えないだけで寂しいんですね、なるほど」
「うっ・・・・いや、ちが・・・・くもない・・・」
あぁ、素直な子は本当に可愛い。
そして馬鹿な子も、可愛い。
早朝に、まだ裸のままの男の上に、裸のままでまたがって無邪気に笑うなんて――――本当に。
「あけ」
「ん?」
「・・・・お前が悪いんだぞ」
腕を取って引き込んで。
そのままベッドに押さえ込めばさすがのあけも状況を理解する。
「う、うそだよね?」
「いや?」
「昨日何回したとおもってるの!」
「足りない」
「ぁ、ばか、お願いっ・・・待って!」
「待つわけないだろ。・・・大人しく食われるんだな」
この素直さもバカさも、他の男の前では出さないようにきっちりと教えなければ。
そう思いながら暴れるあけを押さえつけた峯は、楽しそうに笑いながらあけの胸に顔をうずめた。
どうしてあんなことをして襲われないと思うんです。
(さすがにその呆れ顔には、素敵!なんて言う余裕もなかった)
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