いらっしゃいませ!
名前変更所
組同士のいざこざ。シノギ場所の取り合い。
白峯会に関してはシノギの取り合いはほとんどないが、組同士のいざこざは結構大きかった。
それはそうだ。所詮は錦山組の力を借りて成り上がったに近い組。
大吾と盃を交わしているとはいえ、深い事情を知らない奴らからシノギに苦労していないという点の逆恨みも込めて嫉妬の的になることはある。
それらを容赦なく叩き伏せるのか、金を握らせるのか。
そこは組の実力次第、だが。
人を集めきるまではどうしても武力面は難しくなる。
どう峯が強かろうが、数というものも絶対的な強さだ。
そんな馬鹿みたいな理由で弱小古参組が昇ってきたり、潰れていくのを何度も見た。
「あけ、さん・・・・」
「片瀬、私の後ろに」
「はい」
峯がまだ事務所に来る前の早朝。
事務所前で片瀬に襲いかかった奴らを間一髪止めたのは、組の立ち上げから峯の補佐についているあけだった。
ナイフや変な角材を持った男たちが8人。代紋は―――百舌組。
あぁ、そんなところあったなぁ。小さい武道派集団の組だったっけとあけは眠そうに考える。
震える片瀬を自分の後ろに隠し、めんどくさそうに大きなあくびを一つ。
それを挑発と捉えたのか、一番前に立ちナイフを持っていた男があけを睨みつけた。
「おい」
「ん?」
「お前、女相手には本気になれねぇってなめてんだろ?」
「いや、別に・・・どっちかっていうとまさかこんなおしゃんなオフィスまで来て襲撃するってのがびっくりしてるところ」
神室町ならまだしも、ここは港区の事務所だ。
わざわざここまでやってくるということは相当な恨みなのだろうとあけは目を細める。
「それで、一応聞くけど目的は?」
「あんたらを連れ去ることだ」
「あんた、ら?私も?」
「どっちかっていうとお前が本命だよ。知ってるぜ!?お前、峯の女なんだろ!?」
峯の女。
大吾に紹介されて補佐になって数ヶ月。
いつの間にか峯と結ばれていたという表現が正しい状況に頭をかく。
私みたいな女のどこがいいんだかと未だに思うが、峯の女ということがここまで広がっているということはある程度公認になっているんだろう。
手を出すなとわざと広めたのか、花屋あたりがこいつらに提供したのかは知らない。
どちらにせよ今この時点ではすごく面倒なことになっているということだけが分かる。
「峯の女かぁ・・・なんか響きいいなぁ、えっへへへ」
「おいこらニヤケてんじゃねぇよ!」
「えぇー?だってなんか嬉しいじゃん」
「お前頭ぶっ飛んでんのか!?」
峯自体はあまり、付き合いが深くなってもそういうのを直接的に出すタイプではなかった。
つまりは好きと言われたのは1回きり。俺の女だの何だのというタイプでもなく見えていたあけは意外なところで得た魅力的な響きに思わずニヤけてしまう。
それを見た男たちがやばいやつだの何だのと騒ぎ出すが、あけにはまったく聞こえていなかった。
「はっ・・・峯のクソガキが選ぶだけあって、中々やべぇ女なんじゃねぇの?」
「そんな褒めなくても・・・・」
「褒めてねぇよ!」
「まぁまぁ冗談はここまでにしてさ。それで私を連れ去ったとして何するの?いたぶる?それとも私を人質に峯でも呼んでボコボコにする?」
「全部に決まってんだろ!?・・・アンタ地味だけどスタイルはいいじゃねぇか?楽しませてくれんだろうなぁ?」
「うーん。そんなことしたら私が峯に殺されちゃうなぁ」
嫉妬深い峯のことを思い出し、身震いする。
「さてと・・・一応ここは峯の所有テナントなんだけど、ここで暴れると迷惑だから・・・表に出ない?」
「そういって逃げるつもりなんだろ?」
「えー・・・私ここ壊さないで戦う自信ないなぁ」
「では、こちらの部屋を使用してはいかがでしょう」
ぼやくあけに片瀬が自分の後方側にある扉を指差した。
そこは資材置き場となっており、貸していたテナントが全部消えた後の大きな一室だった。
資材といっても紙類があるだけなので確かに壊れるものも何もない。
「お、おいお前何冷静に・・・この女がどうなってもいいのか!?」
「あけさんがですか?・・・・」
最初こそ怯えていたものの、あけの後ろに隠れた片瀬は男に脅されても冷静だった。
男に言われたことばにいまいちピンと来ていない表情を浮かべ、あけに向かって首をかしげる。
「片瀬はこのまま私の後ろについてきて。それじゃあ、こっちで喧嘩しよ?」
「何だお前、この数で抵抗するってのか?」
「大人しくはいはいってついてこられても面白くないでしょ?」
ケラケラ笑って片瀬が案内した大きな部屋に男8人ごと連れ込んだ。
「よし、じゃあどうする?」
「どうするって・・・」
「連れていきたいならどーぞ!」
「ハッ・・・んだよただの時間稼ぎか。だったら最初から大人しく・・・」
ばちり。
冷たい音が響いたかと思うと、先頭切ってあけに掴みかかろうとしていた男の体が沈んだ。
後ろの男たちはその男が沈んだことでようやく状況を理解する。
あけの手に握られたスタンガン。
それをお腹に食らったであろう男はぴくぴくと泡を拭きながらその場で痙攣していた。
慌てて男たちが武器を握りしめ、やりやがったな!と声を上げてそれぞれあけに飛びかかっていく。
「このクソアマ―――がっ!?」
「うわっ、いたそー」
「舐めやがって・・・!!!」
「隙だらけだからやめたほうがいいよ、それ」
「ぐぁ!!?」
一人、また一人。
一斉に飛びかかってきた男たちが綺麗に積み重なっていく。
一人はドスを取られて右腕を刺されて悶絶し、一人は飛びかかった勢いを利用して足をかけられた後、倒れたその後ろ首に容赦なくスタンガンを当てられた。
流れるような動き。見た目からは想像の出来ないほど、容赦のない判断。
三人、四人と血だらけになっていく。彼女はそれでも気に留めること無く表情を崩さなかった。
逃げ惑うことなく真っ直ぐ彼らを捉える瞳に、まだ襲おうとしていなかった男は腰を抜かして倒れ込む。
「な、なんだこの女ッ・・・・・」
男から奪ったドスを容赦なく振り回し始めたあけに、更に怯える男たちは増えた。
結局地面に5人が倒れ込んだ後で、残り3人は戦意損失してその場に座り込んでいた。
「あれ?君たちはやらないの?」
「ッ・・・・」
「3人で一気にくれば勝てるかもしれないじゃん、ほら、やろうよ」
「い、いや、俺達は・・・・」
「・・・・何勘違いしてるのか知らないけど、私の前で峯を侮辱した時点で許さないからね?」
へらへらとしていたあけの表情が一変、冷たい表情へと変わる。
座り込んでいようがお構いなしに一歩ずつ距離を縮め始めたあけを見て、残っていた男たちは慌てて立ち上がった。
「峯のことクソガキとかいっちゃってさ」
「・・・・ほんとの、ことだろうがよ!ちょっと気に入られたからって好き勝手やりやがって」
「それって大吾のことも馬鹿にしてるの?」
「あ?」
「大吾が選んだ人だよ。・・・大吾のことも馬鹿にしてるってことだよね?」
かつんと冷たい床を叩く靴の音。
近づくその足音に男たちはごくりと唾を飲む。
「あけさん」
「あい?」
「・・・あまり暴れますと会長に怒られますよ」
「えー!?こいつら逃がせって?中途半端だと危ないと思うんだよなぁ・・・」
そう言いながらもまた一歩、近づく。
「思いっきり最後までやりあおうよ」
喧嘩好きの彼女の、笑み。
本当に心の底から楽しそうな笑みを浮かべる彼女に、彼らは気づいただろう。
“喧嘩を売ってはいけない相手だった“と。
「・・・・それで?」
静かになった部屋の中。
明らかに大惨事状態の部屋を見渡した峯は、冷たい表情であけを見下ろした。
だから言ったのにという涼しい表情の片瀬をちらちら見つつ、あけは冷や汗を流す。
あの後気持ちの昂りを抑えきれなかったあけは、結局全員を殴り倒していた。
しかも残りの3人が意外と抵抗してきたおかげで部屋は荒れ、あけも少し怪我を負っていた。
その直後で事務所に顔を出した峯に見つかり、今に至るというわけだ。
「貴方はどうやら私が言った言葉を何一つ覚えていないようですね」
「いや・・・えっと、あの」
「このようなことがあったときは時間を稼ぎ、私に連絡するように伝えたはずですが?」
「申し訳ありません、会長」
「いや、君はいい。どうせこいつが暴れたんだろう」
「・・・・・・いや、わたしも、一応は努力して・・・・」
「努力?その努力の結果がこいつらですか?」
「・・・・は、はい」
説教を食らうあけを横目に入ってきた組員が倒れていた男たちをテキパキと運び出していく。
使われた凶器もきちんと処理しているあたり、出来た組員達だ。
まぁ、そんなことを考えている暇も今は無い。
びくつきながらそろっと視線を上げれば峯の目は鋭いままだった。
「あけ」
「はい」
「まず、右手を出してください」
「お断りします」
「・・・・・」
握り込んだあけの右手には大きな傷があった。庇うように動いていたのを峯は見逃さなかったのだろう。峯が来た瞬間には怪我を追った箇所は隠すようにしたはずなのに、その動きすら読まれているのだから本当に恐ろしい。
あけの小さな抵抗に峯はただ無言で見下ろす。分かっているのだ。自分の威圧感に負けるのはあけであると。それでも何とか小さな抵抗として無言を貫いていると、峯が静かにあけの耳元に顔を寄せて囁いた。
「“今夜“がどうなってもよいのであればそのままでもいいですが?」
「ッ、み、みせます」
恋人同士の愛の行為も、体力おばけが意図的に追い詰めるような行為を進めればたまったもんじゃない。お仕置きと題して何度かそれを味わったことがあるあけは、自分自身もそれなりに体力おばけであるにも関わらず潰されるその行為に恐怖を覚えていた。
それを食らうぐらいなら素直に怒られるほうを選ぶ。
返り血8割、怪我2割の右手を差し出したあけは、ジロジロと見つめてくる峯の視線に苦笑いを零した。
「ほ、ほら、怪我自体は全然平気で、どっちかというと返り血っていうか・・・」
「・・・片瀬、午後のスケジュール確認と準備をしておいてもらえるか?」
「かしこまりました」
「え、それなら私も手伝・・・・」
「貴方はまず報告が先でしょう」
ピシャリと逃げ道を塞がれ、あけは再び姿勢を正す。
「入ってきたのは百舌組」
「それは代紋を見れば分かる」
「入ってくるなり私か片瀬を人質にして峯をボコりたい!って言ってきたから逆にボコってやった!」
「俺はそうなる前に連絡しろと言ったはずだが?」
「だからって大人しく人質になって時間稼いだらめんどくさいことならない?」
あ、一瞬それもそうって顔した。
どこまでも合理的な峯の反応に思わず笑いそうになったあけは、誤魔化すように咳払いをする。
「まぁまぁ、いいじゃん!無事だったんだし!」
「・・・・もう少し自分を大切にしたらどうなんだ」
「それ、峯が言う?」
「お前の場合はそれを楽しんでるだろう?」
「やだなぁ、楽しんでなんて。怖かったんだけどなぁ」
へらへらと笑いながら言うあけに説得力などなかった。
苛立った様子で舌打ちした峯は、強引にあけの腕を掴んだ。高そうなハンカチで血を拭うのを見てぎゃー!と悲鳴を上げるあけを無視して口を開く。
「約束しろ」
「え?何を?」
「俺に許可なく喧嘩をするな」
「えー、約束破ったらどうなる?針千本?」
「そんな非現実的なことするわけないだろ。もっと現実的なバツを考える」
「・・・・・・・」
この超合理的で恐ろしい人間から“現実的なバツ“と聞くと、嫌な予感しかしない。
ごくりと喉を鳴らしたあけは峯を説得するというよりも状況を緩和させる方向へとシフトさせることを選んだ。さすがに、一生喧嘩しないなんて約束は出来ない。仮にもあけは極道に仕える“鷹の情報屋“だ。
「あ、あの、それじゃあ、期間とか設定するのはどう?さすがに一生ってのは無理だよ?ほら、私だって極道者だし・・・・」
「・・・・・・それもそうか」
「びっくりするほど納得してない顔してる」
「当たり前だろ。自分の女が傷つくのを見て喜ぶ男がいると思うか?」
「峯ならそれが利益になるならわりと納得しそ・・・・っだ!!?」
容赦なく降り注いだ拳があけの頭を捉える。
「やはりお前の俺への印象を改めて聞き直す必要がありそうだな」
「ご、ごめ、冗談だから・・・・ね?」
「悪いと思うなら1ヶ月、約束を守って見せてください」
「1ヶ月!?」
思わず大声を上げる。無理もなかった。
あけの仕事には危険という危険がつきまとう。
その中で喧嘩をしないなんて、無理をしないなんて問題じゃなく難しい。喧嘩をふっかけないにしても難しい。あけは引きつった笑みで峯を見上げる。
「現実的に、厳しくない?」
「なぜだ?」
「え、私の仕事分かってて言ってる?」
「あぁ」
「・・・・・売られた喧嘩どうすればいいの?」
「俺を呼べば良い」
「暇人じゃないだろ!」
「だったら常に俺の傍で仕事をこなせばいい」
「えー!やだよ!同じ場所にとどまって仕事したら情報の鮮度が落ちちゃうもん」
ああ言えばこう言う状態のあけに峯の額の皺が深まった。それに気づいたあけが慌てて言葉を訂正しようとするが、もう遅い。
「なるほど。今すぐお仕置きの方が好みってことだな」
「あー!わかりました!!わかりましたぁ!1ヶ月ね!!責任持って守ってよ!?約束守れたら何でも言うこと聞くぐらいやってよね!?」
「えぇ、良いですよ。そのかわり、もし一度でも約束を破れば―――――」
自分の体を守るため、叫ぶように約束を取り付けたあけが、後悔するまでそう時間はかからなかった。
仕事で仕方なく喧嘩をしていると思っていた。
――――――のに、現実は違った。
前に桐生や大吾が喧嘩に飢えてるような話をしたときに、バカだと笑った自分を今なら殴れるかもしれない。そう思いながら天井を仰いだあけはハッキリ言うと喧嘩に飢えていた。
強い人が好きなのは、そういう自分の性癖から来ていたのか。
気づきたくもなかった自分の性癖と、今の仕事への自分の適正能力の高さに驚かされる。本日何度目かになるため息を吐いたあけは、目の前に転がる現実に冷や汗を流した。
「くっそ・・・あんな賭けしなきゃよかった・・・・」
“もし一度でも約束を破れば、その夜は死ぬと思ってくださいね“
にこやかに吐き捨てられたその言葉が何を意味するかぐらい分かる。
死ぬの意味が全然違う意味だということも。いや、ある意味本当に殺されるに近い。周りには紳士的に振る舞う峯が見せる、スイッチが入った後の行為はあけだけが知っている。
獣とも言い難い、その行為。
あんな抱き方をすれば金で買った女も逃げるだろう――――と口にしたことがあったが、“こういうことをしたくなったのは貴方が初めてです“と悪びれる様子もなく言われたことを思い出す。
頭が良く、何事も冷静。滅多なことじゃ狼狽えない。だからこそ冷静沈着に確実に相手を追い詰める。弱いところを知って、本当の嫌と、快楽がゆえの嫌を見抜いて、後者だった場合は絶対に止めない。力としても勝てないあけは、その流れに持ち込まれると本当に殺されかねないのだ。
「・・・・やってしまった」
目の前に転がる男たち。
言い訳をするのであれば、あけは努力をしなかったわけではなかった。
「やー、どうしよ」
努力はした。弱々しい女を演じ、峯との合流場所まで何とか逃げ切ろうとしたが、そう上手くはいかなかったのだ。複数人で絡んでくる男に、“弱々しい女は逃してやる“なんていう紳士的な発想はない。
彼氏がいるから、彼氏がもうくると何度も言い訳を繰り返すあけに対し、男たちは彼氏を侮辱する発言をした。そんな男より良い思いをさせてやる。そんな男より、楽しませてやる。普通の女性ならそれでも怖がって何も言わず、そんなのいらないと逃げる選択肢一択だっただろう。
だが、あけは違う。
気づけば男たちが全員地面に転がっていた。いや、本当に、無意識だった。
「・・・・あはは、煽りには弱いなぁ」
地面に横たわった男達は呻くばかりで立ち上がろうとしない。
せめて手を抜いてさっさと逃げ出せるようにすれば目立たなかっただろうかと後悔しながらも、代わりに自分がこの場から逃げ出すことに決めた。
野次馬の痛い視線を浴びながらどうにか身を隠し、時間を確認する。
峯との約束まではあと数分ある。息を整え、返り血がついた手はタオルで拭き取ればどうにかなるだろうと鞄からタオルを取り出して乱暴に拭き取った。
「ま、峯の組はここが拠点じゃないし、さすがにこんな場所でちょっとやらかしたぐらい・・・・」
「バレない、でしょうか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
あけの表情が、一瞬で歪んだ。
それはそうだ。待ち合わせの場所より全然離れた場所だというのに、何故か峯が目の前にいたのだから。
「どうしたんです?その血」
「・・・・・・こ、こけた」
「そうですか。では向こうで治療しましょうか?」
「あ、いや、うん、全然大丈夫」
「あけ」
「・・・・はい」
「諦めというのも大事だとは思いませんか?」
「・・・・・・・・・はい」
さすがに、外で大きく言い争う事はできない。
大人しく峯に従うことにしたあけは、峯に引っ張られるがまま近くにあった喫茶店に入った。スマートにソファ席を譲る紳士的態度にすら恐怖を覚えながらあけはゆっくり席に腰掛けた。
「何故貴方はあんなに喧嘩っ早いんです?」
「そんなことないよ。だいぶ我慢してた」
「最初の5分だけじゃないですか」
「・・・・見てたの?」
「えぇ。何かあったら困ると思いまして迎えにいこうかと思ったんですが・・・案の定、すでに絡まれてまして」
どうするのか見てみたかったと、峯は目を細めて笑う。
「・・・・・」
「?どうしました?」
「・・・・みてたなら、分かるでしょ」
「何がです?」
「どうして私が喧嘩っ早かったか!」
「いえ、分かりませんでした」
遠くから見ていたなら、会話までは聞こえてなかった可能性がある。
だがあけは目の前の峯の表情を見て確信していた。この男は一部始終を知った上で自分にそれを言わせようとしていると。
“峯のことを、バカにされたから“
喧嘩を見ていたのなら分かるはずだ。
私の彼氏がどんなやつかも知らないくせに!と大声を上げて殴ったのはあけだ。小さな声ならまだしも、この感じなら確実に聞いていたに違いない。
「・・・・・峯って結構、私には意地悪いよね?」
「好きな子ほどいじめたくなるっていうでしょう」
「その歳でぇ?」
「・・・・・・バカにする余裕があるなら、さっさと教えてくれませんか?どうして私との約束を破ってまで彼らを殴ったのか。きちんと言えたら罰はなしにして差し上げますよ」
「なにこの峯にしか得がない賭け」
「今更ですか?煽られて乗ったのは貴方自身だというのに」
手のひらでころころと転がされていたことに気づかないふりをしていたあけは、楽しそうに笑う峯を見て頭を抱えた。こいつ、なんて性格悪いんだ。
「・・・・・峯のことバカにされたからですー」
視線と空気に負け、あけは素直に呟いた。
その答えを聞いた峯は驚くほど穏やかな笑みを浮かべ、ニヤける口元を隠すように手を口元に運ぶ。その理由が分かるだけに、あけは怒れなくなって熱くなった顔を逸した。
峯は、目に見えない絆や愛に飢えている。
だから嬉しかったんだろう。あけが無条件に峯の侮辱に対して怒ったことが。
「別に言わせなくたって、知ってるくせに・・・・」
「知ってても言葉で言わせたくなるもんでしょう?」
「確かめたいってこと?」
「えぇ」
「・・・・不安、だった?」
同じ時間を過ごすときが増えれば増えるほど、素直な言葉は減っていく。
分かっていたのに口にしなかったことは良くないことだと、あけは頭を下げた。
「不安にさせてたなら、ごめん。その、むず痒くて中々・・・」
「・・・・フッ。どうして貴方はそういう変なところだけ素直なんでしょうね」
「変ってなんだ変って!」
「そんなに素直に言われたら、意地悪言えないじゃないですか?」
「十分言ってるでしょ!」
拗ねたように言うあけに、峯が嬉しそうに笑う。
「それは失礼しました」
「・・・・・」
「?どうしましたか?」
「・・・・そんな顔されたら、怒れないじゃんか・・・・ずる」
峯の笑みを見ながらあけは返り血のついた手を拭った。
それから手を伸ばし、机の上に置かれていた峯の手に自分の手を重ねる。メニューを見ようとしていた峯は重ねられたあけの手に気づき、メニューを広げる動きを止めた。
「・・・・私はいつだって、峯が一番だよ」
「・・・・あけ」
「だからせめて峯バカにされた時ぐらい殴っても良いことにしない?」
「まったく貴方は・・・・どちらにせよ、もう賭けは終わりでしょう?貴方の負けで」
「あ、それもそっか。いやーよかった!これからは喧嘩してもおっけー?」
「・・・・・」
バカ正直に嬉しがるあけに、峯が腕をつかんで一言囁く。
「怪我はしないと、約束できるのならいいですよ」
「・・・・約束する」
「ありがとうごございます。では、なにか食べましょうか?」
「?あれ?今日この後仕事の待ち合わせじゃなかった?」
「そんなのいくらでも後で調整すればいいでしょう。それよりも今は、貴方とのデートを楽しみたい」
真っ直ぐ告げられた言葉にあけは笑うと、これからも峯の好きにされるんだろうなぁと思いながらも、その恨みをぶつけるように喫茶店で一番高いパフェを指さした。どうせこんな金額じゃ、痛くも痒くもないんだろう。悔しいけれど、それすら心地よく感じているのは既に末期なのかもしれないとあけは笑みを苦笑に変えた。
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★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)