いらっしゃいませ!
名前変更所
峯が組に復帰してからというもの補佐としての役目も落ち着き、私は自分の仕事に戻り始めていた。本来の仕事は情報屋。あまり離れると情報は流れるように消え去ってしまう。流行りの情報も逃してしまえばただのゴミになってしまうのだ。
本職においてそれはさすがにまずい状況だ。
いくら金に困らない生活とはいえ私はこの仕事が好きでやっている。
自らこの世界から離れるつもりはない。ただ・・・少し、不安もある。あまり峯がいい顔をしないのだ。特に私がキャバ嬢として情報を抜き取るのを嫌がる。
「嫉妬するんですよ、当たり前でしょう?」と怒られたが、やらないわけにもいかない。
花屋に対抗出来る情報の質はそういう世界で生み出されたものばかりだから。誰もが女性の前で酒を飲み、話に花が咲いて御立てられれば口が軽くなる。私の絶好の狩場。
「ちなつさん、よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします!」
偽名のちなつという名前を使い、今日は東城会の直系幹部が集まるらしいキャバクラへと潜入させてもらった。潜入方法はもちろん賄賂や情報による脅し。まぁ、私が儲けた分はちゃんと店に渡すって言ってあるから大体のオーナーが私を見たらすんなりと1日キャバ嬢をさせてくれる。
今回の目的は、大吾があまり管理出来ていない直系幹部達の詮索。東城会は大きくいろんな組が溢れている。だからといってその管理を怠ればいつ牙を向かれるかもわからない。それを先に察知して優位に立てるようにするのが今回の私の仕事だ。
潜入したキャバクラはコスプレデーだったため、これ幸いと私はいつもの髪を隠す黒髪の長いストレートに加えてミニスカのセーラー服という王道純粋系コスチュームに着替えた。このために化粧も合わせれば、もう「あけ」という存在はここにはいない。
「ちなつです!よろしくおねがいします!」
「りえでーす!私達もおじゃましま~す!」
「おお~!!なんやえらいべっぴんさん来たな~~!!」
「いらっしゃい!ほら早速酒頼んじゃいな!俺たちいーっぱい奢ってやるから!」
酒が入っている彼らは予想通り順調に情報と金を落としてくれた。
話を聞いて、少し体を近づけて、褒めて、そう―――それだけ。
でもこれが意外と難しい。わざとらしければ白けさせるし、タイミングや気遣いが悪いと怒る人も多いからだ。
「あ、組長さん、灰皿変えますよ。ついでにお冷とかどうですか?なんだか、顔が赤くて心配しちゃいます」
「や~~もう、ちなつちゃんほんっと健気で気が利く~~!!お水はいらん!お酒追加しちゃうぞ~~!!」
「え?ほんとですか?でも体に無理がかかるといけないですから、少ないのにしません?」
「何言ってんのもー!みんなで飲むんだからいいでしょ!ボトルだボトル!」
ここまできたらあとは流し作業。話の一つ一つに怪しい会話や情報がないかを確認しつつ、次もこのキャバクラに入りやすくなるようお金を取れるだけ取る。
貢献すればするほど、無理も聞いてくれやすくなるってもんだ。
黒服を呼んで灰皿交換と注文をお願いしようとしたが、コスプレデーなのもあってお店は混雑している。時間がかかりそうだと読んだ私はこの場に留まることより休憩も含めて自ら取りに行って好感度を取りに行く作戦に切り替えた。
「黒服さん忙しいみたいなので、私いってきますね!」
「え~~!寂しい~~!!」
「すぐ戻りますって、ね?」
ずっと演技し続けるのも、きつい。
「(ふー、ようやく休憩だ・・・・)」
席を離れて数分。私は裏の部屋でボトルと灰皿を準備しながら気分を入れ替えた。
よし、私はちなつ。キャバ嬢だ。あと少しで業務も終わる、あと少し。
数分の休憩のちすぐに自分のキャラクターをキャバ嬢へ入れ替えた私は、表情筋が釣りそうになってきた顔でにっこりと笑顔を作った。
「おまたせしましたー!」
「あ、おかえりちなつちゃん!そうそう、あいつさっき来たばっかりだからあいつにもこのボトルの酒入れてやってくれよ」
「はー・・・・・・い!?」
思わず、変な声が出た。
組の男にそう言われて空いていた正面のテーブルを見ると、そこには今日このメンバーの中には来るはずのない・・・峯がいた。峯は無理やり連れてこられたのか、少し不機嫌そうながらも紳士的な部分を残して微笑もうと努力をしている。
「お気遣いなく」
「とはいえもう俺たち飲みまくっちゃったしな。な?頼んだよ、ちなつちゃん」
「は、はい」
ここで断って峯を一人にするのもキャバ嬢としてはおかしなことだ。
動揺してはいけない。それに今の私はすっかり別人だ。誰がどう見ても分からない。声すらも演技で変えているのだから。自信を、持て。
「失礼します。ちなつと申します。よろしくおねがいします!」
「よろしくおねがいします」
「あちらの方がボトルをということだったので、えっと・・・私と一緒に、乾杯しませんか?」
「えぇ・・・なんだか悪いですね。少し様子を見るだけだったのですが・・・・」
「気になさらないでください。残りの時間、一緒に楽しみましょう?」
ちなつとしての私は峯の隣に座り、何ら違和感のないキャバ嬢としての動作でお酒を注いで一緒に乾杯をした。それから少し話していくと、意外にも峯も口が軽くなった。今日どうしてこの場に来たのかなど特に隠すことなく教えてくれた。
峯が言うには今日、直系団体に戻れたお祝いとして少しぐらい顔を出せと無理やり呼び出されたらしい。たしかに最近白峯会は以前同様の規模と地位に戻り、拠点もまた港区に戻した。他の組長たちも話を聞いている限りだと純粋に今後どうやってしのぎをするかなどといった会話で特に危険性もなく、今日はただただ賑わいたかっただけのようだ。
「えぇ、じゃあ峯さんもお偉い人なんですね!」
「いえ・・・そんなこと、ありませんよ」
あとはもう、この場を無事に切り抜けれればそれで終わり。
峯の前でボロを出さないように努めながら、一応向こう側のテーブルにも気を配る。
気にすることはまぁ、本当に峯をお祝いする気があるのかってところだ。
どうせ彼らは峯を呼んで峯に会計させるつもりなんだろ?知ってるよ。
峯もそれを知っていて来たのだろう。どうせこんな奴らばっかりだと冷たい目が向かい側のテーブルに刺さっているのに私は気づいている。
まぁそれでも今は、彼らにも利用価値がある。まだ今は。
それは神田のときと同じようなものだろう。
「・・・ちなつさん」
「は、はい」
「このあと、アフターどうですか?」
「えっ?」
情報屋としての考えが一瞬で吹き飛んだ。
え、何?アフター?
どういうことだ、こいつそういう店に行くことはあっても関係はもたないっていってなかったか?私には嫉妬するだのなんだの言っておきながら、アフター?
「え、あ、あの、いきなりのアフターは・・・・」
「そうですか。港区の美味しいレストランはいかがかなと、思ったんですが」
普通のキャバ嬢なら、どうする?こんなに確実に金があると分かってるような男を逃すか?でも時間が長引けば長引くほど私がしんどい。しんどいけど、気になる―――本当に峯が関係を持つところまではいかないのか。純粋なお食事とやらで、おわるのか。
だって私にはあれだけ言ってるんだぜ!?キャバ嬢で男に近づくなだの、仕事は安全なものだけやれだの、それだけ言っておいて自分は女と遊ぶなんて許せるわけがないだろ。
「・・・わ、わかりました。行きましょう!」
「良かった。嬉しいです。・・・では早速行きましょうか?どうやら彼らも満足したようですし」
「え!?あれ、皆さんは・・・?」
「どうせこれが目的だったんでしょう。これぐらいで足りますか?」
「あ、じゅ、十分です」
「おつりは貴方のポケットにでも入れてください。それでは、外で待ってます」
仕事としての私ではなく、峯の彼女としての私としてアフターの謎に迫ることにした私は、やはり峯に会計を押し付けて帰った向かい側の組長たち分の会計等も済ませて峯と合流した。
その間、10分。コスプレデーだったのもあって普段のドレスもない私は慌てて予備の私服ぽい洋服を借りてうまくちなつを演じている。
「おまたせしました!」
「おや、着替えてきたんですか?・・・先程の制服も可愛らしかったが、その服も可愛らしいですね」
「そ、そうですか?照れちゃいますね」
黒いチェックのミニスカートに、白のブラウス。黒髪ロングのウィッグはつけたままなのもあって少し重たい女性に見えないか心配だったが、褒めてもらえたので良いのだろう。
そのまま私は峯の車に乗って港区まで連れてこられた。峯は飲んでいたので運転は組員がしていたが、組員は峯に「あけ」という女がいることを知っているので少し戸惑った様子で私を迎えた。
普通に食事をして、夜景を見て。
普段することのないデートプラン。今の私がキャバ嬢だからこそ出来た、純粋なデートコース。
そして峯は食事が終わると私の手を取って鍵を乗せた。
「ここの最上階のホテルをとってあります」
「っ・・・・・」
「行きましょう」
「え、ちょっと・・・!?」
そこからは強引だった。逃げる間も断る間もなく私はエレベーターに連れ込まれ、最上階のスウィートルームまで運ばれた。
「あ、あの、峯さん・・・・!?」
「どうでしたか?今日のデートは」
「あ・・・えっと、楽しかった、です」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
なんだよ、結局お前は他の女を食うんじゃないか。私にはあれだけ言いながら。
嫉妬で泣きそうになるのをなんとか堪え、夜景を見るふりをして表情を誤魔化す。
「いつもは味わえないデートでしょう?」
「そう、ですね」
「えぇ。貴方はいつも居酒屋や小さなバーにしか行きませんからね」
「それ・・・は・・・・・・・・・えっと」
そこまで聞いて、振り返る。
自然と冷や汗が流れた。
その言い方だとまるで、私が私だと、分かっているかのようだ。
どう反応するか悩んだ後、一応バレていないと信じて口を開いた。
「あの、峯さん?」
「なんですか、あけ」
あ、やっぱり。そういうこと。
彼は元から分かっていたのだ、私があけであることを。見抜いていたからこそあえて煽って私をアフターに連れ出して散々楽しんだと。
むかつく。むかつくけどそれ以上に目の前にいる峯の目が気になる。
これは―――――ちょっと、怒ってるときの目だ。
「あー、えっと・・・」
「貴方なら俺のアフターにのるんじゃないかと思ってました。俺が他の女をどう口説くのか・・・知りたかったんでしょう?」
「いや、まぁ・・・そりゃ・・・」
「残念ですね、俺はお約束どおり貴方にしか興味がないもので」
「残念というか、まぁ、嬉しいんだけど・・・その、いつから気づいて・・・?」
「最初からですよ」
「えぇ・・・?」
窓ガラス越しに映る私は絶対にいつもの私ではない。
声だって、作った声はいつものものではない。念には念を入れて喋り方すら変えていたのに。
なんだか少し、自信をなくす。そして理由が知りたくなって尋ねた。
「なんで分かった・・・?」
「香りです」
「か、香り?でも香水はまったく別物に・・・」
「いえ、香水ではなく・・・貴方独自の香りです」
「え・・・・・・えっと」
「フッ・・・そんなあからさまな顔をしなくても臭いとかではありません。貴方は感じたことありませんか?その人独自の、雰囲気を感じるような香りを。俺も別に他の人のものまで分かるわけではないのですが、好きになった相手の香りは覚えてしまうようで」
そう言われてみれば、なんとなく分かる気がする。
峯の家に初めて入った時に峯の香りを感じた。そういうのと同じなのだろうか。
気になって峯に近づいて胸元に顔を埋めてみた。いい香りがする。香水とは違う、峯としての香り。嗅いてるだけで少し――――くらくら、する。
「・・・・なんとなく分かるかも。峯の香りがする・・・」
「貴方は恐ろしいほど無意識に煽りますね」
「え?っわ!?」
力強く抱きかかえられ、そのままベッドに投げ捨てられる。
すぐに逃げようとしても覆いかぶさられれば逃げ場はない。
「み、みね、ちょっと・・・・」
「さて。俺に黙ってそういう仕事をしたことは、お仕置きするとして・・・・」
「う・・・」
「まずはそのウィッグを外しましょう。・・・俺は貴方を、抱きたい。あまりにも見た目が違うと・・・あまりよくないな」
「あ、そ、それは、ごめん」
襲われようとしているのに素直に謝って乱暴にウィッグを外した。
汗でベタついた髪がいつもの髪をぼさぼさに仕立て上げる。気になって他にも何か外したほうがいいか?とアクセサリーを外していけば、峯の視線が私の足元に移った。
「ミニスカート、いいですね」
「え?あ、ちょっと、くすぐったい・・・!」
「今度から着てください、もちろん俺の前だけで」
「っ・・・なに、そういうの好きなの・・・・」
「好きですよ?脚が見えますしね」
「っ!?」
峯が私の脚を持ち上げ、太ももに口づける。
衝撃的な光景を見た私は叫び声を上げる暇もなく、その直後に走った痛みに目を見開いた。
「あ!?ば、ばか!!」
「ふっ・・・これで外では着れませんね」
「あ~~・・・!痕がっ・・・・」
こんな変態じみた発言と行動をしているのに、私を捉える瞳はすごく独占欲と征服欲に塗れた男そのもので。
「さて、覚悟はいいですか?」
「・・・・どうせ逃してくれないくせに・・・」
「えぇ・・・もちろんです」
あぁもう。
それすらもかっこいいと思うのは、もう引き返せない証拠だなと。乱暴な口づけに答えながら苦笑するしかなかった。
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