いらっしゃいませ!
名前変更所
「あけ、おはよう」
「あ、あぁ、おはよ」
最近、あけの様子がおかしい。
前までは元気よく挨拶をしてくれて、目を真っ直ぐ見て話してくれていたのに最近はやたら目を逸らされるし夜の飲みにも付き合ってくれない。
ここ最近でなにかしてしまったかと考えるが、特に何も思い当たらない。
ただいつもどおり仕事をして、たまに飲みに行って。
だが男として惚れさせてみろと言われている中だ。それなりのアプローチはかなり仕掛けてきた。だがどれも空を掴む感じで、特に好感触なものがあったわけではない。逆にいえば嫌われるようなことをした覚えもない。無理やり襲ったこともないし、触れてもいないからだ。
そこでふとした不安が浮かんだ。
最近あけは余裕がでて東城会本部にも行き来するようになっていた。まさかそこでなにかあったのか?誰かと親しくなって、まさかそいつと――――?
見えないライバルに苛立ちを感じて思わずペンを折る。
ぴしりと聞き慣れない音が響き、あけが大慌てで俺の方に駆け寄ってきた。
「おおおおい!?考え事してるからってペン折るなよ馬鹿力!!」
「あ、あぁ・・・すみません」
「まだ体調悪いの戻ってないのか?」
「いえ、そんなことは・・・・」
椅子から立ち上がり、あけの方に近づく。
すると今まで普通に話していたはずなのにまたすぐ俺から視線を逸らして距離をとってしまう。
「(・・・・・これは、もしかして)」
最悪のパターンから一転。
俺はその様子から見えないライバルではなく別の可能性に切り替えた。
金の力とはいえ、それなりに女との付き合いはあった。そのおかげで悪意のある好意や純粋に自分を気になって近づいてくれる女の好意に気づくことは出来る。そして俺がもう一つの可能性として考えたのは、今までの俺の努力が実り始めたという可能性だった。
「どうしたんです?」
「え?いや、なんでもねぇよ」
「・・・・少し、顔が赤いようだが」
「えっ!?い、いや、化粧だろ、チークしてるし・・・・」
「そうなんですか?珍しいですね、貴方はいつもあまり朱色のチークは使わな・・・・」
「っ~~~~!!!!」
そう言って顔を覗き込もうとした瞬間、あけは謎の叫び声をあげて部屋から飛び出していった。
・・・これは、困った。
近づけなくなるのもまた経験にない。
こんなにウブな反応はそれこそ小説や漫画で見るような話だろう。
見たことのない反応を楽しみつつも、逃げる相手をどうやって捕まえるか悩んでいると開かれたままの扉から大吾さんが入ってきた。突然の訪問に取り乱した俺は慌てて服に乱れがないかなどを確認して大吾さんの前に頭を下げる。
「こ、これは、お迎えもなしに・・・・大変申し訳ございません」
「いや、あけとお前の様子見にきたんだが・・・ちょっと、いいか?」
そういう大吾さんはなにかに気づいたようにニヤニヤとしていた。そんな楽しそうで無邪気な大吾さんの表情を初めてみた俺は、扉をしめて大吾さんを椅子に座らせ話を促す。
「それで、どういたしました?」
「・・・お前、あけとなにかあったのか?」
「・・・・それは」
「いやほら、俺は昔からあけと付き合いがあるんだ。だからわかるんだよ、その・・・あー、間違っていたらすまないが、もしかして峯・・・あけと付き合ってたりするのか?」
「いえ、付き合っているわけでは・・・・」
「なるほどな、その様子だとお前があけを好きなのか」
すばりと言い当てる大吾さんは本当にあけや俺を良く見てくれていたのだろう。
否定する必要もないため、俺は静かにうなずく。
「なるほどなぁ・・・へぇ、それで・・・」
「ど、どうされましたか?」
「いや、あけは最近東城会の本部にも顔を出してるんだが、峯の話をするとやたら落ち着かなくなっててな・・・もしかしたらって思って覗きにきたんだよ」
いたずらが成功したような表情で笑う大吾さんに、いろんな意味でため息が出る。
「さっきすごい顔で飛び出していったしな」
「逃げられてしまいまして」
「あいつはそういう経験ないだろうからな。ま、経験豊富なお前からすれば大変かもな」
「豊富なわけでは・・・」
「冗談だ。それで、本題はここからだ」
声色が変わった。
突然真剣な声色を見せた大吾さんに思わず息をのむ。
「お前も、あけから過去は聞いたんだろう?」
「・・・・はい」
「あけを幸せにしてやってくれよ。・・・・・わかるだろ、あいつがどれだけ真っ直ぐで、馬鹿で、危ないやつか」
「えぇ・・・それは、身を持って、知っています」
下手すれば自分も死ぬかもしれない中、俺の手を引いて彼女は俺の命を救った。
それだけじゃない。危険の中、本部に出入りを続けて俺の復帰を手伝ってくれた。復帰する場所を作ってくれ、俺の護衛まで全てやってくれた。その間にいくら自分が傷つこうとも、何も言わず。
俺は知っている。きっとそれが俺じゃなくても、彼女はそうしたはずだ。
それでも嬉しかった。その真っ直ぐな心の中に俺が入れていることに。
そして、だからこそ惚れたのだ。誰にでもその純粋さを向けれる彼女に。
「あけを幸せにして、お前も幸せになれ。それを約束すれば良いことを教えてやる」
「・・・必ず、幸せにします」
「お前も幸せになるんだ」
「・・・・・・」
「峯」
「・・・わかり、ました」
「あぁ、それでいい。ならいいこと教えてやる!」
真剣な声から一転、どこか楽しそうに言い放った大吾さんの言葉を聞いて、俺はすぐに行動へと移すことになった。
神室町から少し離れた場所にある、小さなカフェのその裏側。
誰も来ないような小さな公園のベンチに座って、あけはずっと地面を見つめていた。
遠くからそれを見かけた時にはどうしようかと考えたが、俺は音を立てず逃げられないように公園の入り口にたった。
そこは、大吾さんに教えてもらったあけの逃げ場。
喧嘩したりなにか考え込むときは必ずこの場所に逃げ込むのだと、大吾さんに教えてもらった。
「・・・・どうしたら、いいんだ」
「何がです?」
「ッ!?」
飛び上がるような反応と共に無意識にでも拳を構える彼女はさすがというべきか。
だが今回は好都合だった。反射的に放たれた拳を受け止めた俺はそのまま彼女の腕を力強く掴んだ。
「これで、逃げられませんね」
さすがに彼女の力に負けるほど俺の力は弱くない。それもあけは十分わかっているのだろう。早々に抵抗するのを諦めたあけは、俺をちらりと見てすぐに目を逸らした。
「あけ、どうして私の方を見てくれないのですか?」
「いや・・・その、なんか・・・・」
「あけ」
ずるいとは思ったが促すように空いている方の手で顎を優しく掴んだ。
無理やり俺の方を向かせ、逃げ場をなくせば無理にでも目を泳がせようとするあけの必死さに思わず吹き出してしまう。
「ふっ・・・そこまで必死にならなくてもいいでしょう」
「い、いやだって、その、なんか・・・」
「なんです?」
「・・・・苦しいんだ、最近。お前と、いると・・・その、むず痒くて」
「その言葉は、うぬぼれても良いと?」
「っ・・・・たぶん」
戸惑いが残るその反応に俺は今すぐにでも彼女を食ってしまいたくなった。
そんな衝動をどうにか押さえ、冷静にあけの頬を撫でる。
「あけ」
「・・・・」
「好きですよ」
「っ、あ、あぁ」
「返事を」
「・・・・っ」
「・・・・あけ」
「わ、わたしも、好きだ」
本当にズルい人だ。
こういうときだけ、真っ直ぐ俺の方を向くなんて。
「・・・・あの」
「う、うん?」
「我慢できそうにないので、一応聞いておきます。キスしてもいいですか?」
「え?あ・・・い、いや、待って、私そういうのしたことない・・・・!」
「・・・・キスも、ないんですか?」
「悪いかよっ!?」
「いえ、全然。むしろ貴方の最初で最後になれることを最高に思いますよ」
俺の余裕が気に食わないのか、その発言を聞いたあけは拗ねたように俺から顔をそらそうとした。もちろん、そんなことは許さない。もう待つこともできそうになかった。
声を上げるあけを無視して、抗議の言葉すら全て飲み込んで。
触れるだけの口づけを送った私は少し離してあけを見つめた。そしてもう一度、次は深く、遠慮なく貪るように口づけた。
甘い。――――口づけとは、こんなに気持ちのいいものだったか?
そういえば今までの女との関係で口づけをしたことはほとんどない気がした。求める必要もあまり感じたことがなかったのだ。欲を発散するだけの恋愛であれば、体の関係だけで口づけなんてそんな甘ったらしいものなどいらない。煩わしいだけだ。
それがどうだ。
俺は自分の理性が一瞬で切れそうになるのを感じて思わず口づけを止めた。
甘い香り。あけの聞いたことのない声。表情。
あぁ、こんなにも、恋とは気持ちがいいものなのか。
「な、なんだよ」
「いえ・・・さすがに外で止まらなくなるのはまずいでしょう?」
「ッ~~~そういうこと平気で言うなよな!」
「そんなに怒らないでください。あけが悪いんですよ、ここまで焦らすんですから」
「・・・ごめん、だって、なんて言ったらいいか分からなかったんだ。私もお前が好きだって気づいて、でも、やっぱりお前には・・・その、もっといい女がいると思ったから・・・」
「私は、貴方が良いんですよ」
どんなにキレイな女性よりも、貴方が。
「・・・へんなやつ」
「それは、お互い様でしょう」
「んだよ・・・峯はモテるから別にお互い様じゃないだろ」
「嫉妬ですか?」
「・・・・そうだっていったら?」
やられっぱなしが気に食わなかったのか、本心なのか、拗ねた表情のままあけが俺を見上げてそう言い放つ。まったく、この人は・・・本当に最高だ。
「心配ならGPSでも何でも持たせても構いません。私の全てを管理していただいて問題ありませんよ」
「そっ、そこまでしねーよばか!!」
「そうですか?貴方の信頼を得れるなら何でもしますが」
「ばか、そうじゃない。・・・・過去に、嫉妬してんだよ」
「ッ、貴方は・・・・」
そんなに可愛らしいことを言われて、我慢など出来るはずがない。
優しくするはずだったのにと呟いて俺は理性を切れる音を聞きながら彼女に再度口づけを落とした。彼女が泣いても暴れてもやめないぐらいに、深く。
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