いらっしゃいませ!
名前変更所
「ね、ねぇ、ナミ、大丈夫だって」
「駄目!!顔も傷ついてるのよ!?」
「だから私はすぐ治る体質で・・・いだだだだっ!!」
空島への行き方を探るためジャヤという島に立ち寄ったくろねこ達は、情報収集で立ち寄った酒場で人の夢を笑う海賊達に喧嘩を売られ、一方的に殴られて傷を負っていた。
好きで一方的に殴られたわけではない。
船長命令で喧嘩を買うなと言われたから。
いや―――――違う。そもそも買う必要性を感じなかった。
あいつらは人の夢を笑った。
つまりは、買うにも値する海賊じゃなかったのだ。
色んな理由があるとしても、ゾロと一緒に剣を構えてしまっていたくろねこは、ナミと違い一方的に殴られる対象の一人となってしまっていた。
男たちよりは手を抜かれていたため、ナミと一緒にゾロとルフィを引きずって船に戻ってきたのだが、それでも相当な傷を負っていたことには違いなかった。
「よくこれでゾロは我慢したわね・・・・」
普段、くろねこを傷つけられるだけで相手を殺す勢いで睨みつけるゾロが、今回は船長命令を優先して手を出さなかった。
それと今回の喧嘩は何が違うのよ?と。
三人の考えがまったく理解できないナミは、大きくため息を吐きながらくろねこの治療を進める。
「アンタもよ。普段あんなに強いんだから、やっちゃえばよかったのに・・・・」
「・・・・あんなクソ野郎と同列になって喧嘩してやる義理はないね」
「・・・・ゾロと似たようなこと言うのね」
くろねこの目は、ゾロ達と同じ目をしていた。
怒りでも、悔しさでもない。
興味がないといった、無の感情を孕んだ瞳。
「ナミのこと笑ったやつらと同列なんて、死んだほうがマシ」
その言葉に、ナミは苦笑する。
「・・・・ほんと、分かんないわ」
「まぁ、意地みたいなやつ?ごめんね、痛いところ見せちゃって」
「くろねこ」
「ん?」
「あんまり、無理しないで」
海賊だから、剣士だから。
傷つかないのは無理だと分かっている。
それでもくろねこはゾロと同じようにタフで、男と同列に前に立つからこそ、誰よりも傷を背負い、誰よりも痛みを受け止める。
それが悪いこととは言わない。
でも、やっぱり、“女“なのだから。
馬鹿にする意味はない。
ゾロとそういう仲になったからこそ、大事にして欲しいと願ってしまう。
「ナミ、そんな顔しないで」
「・・・・・だって」
「私は強いからへーきへーき!」
「そーゆーことじゃないのよっ!アンタねぇ!?」
「あだだだだっ!!!」
「お、おい、ナミ、お前自分でくろねこにトドメ刺すなよ・・・?」
メリー号修理のための板を運んでいたゾロが、治療中のナミ達を見てそう言葉を溢す。
「ほんっと!くろねこまでやられてるのになんでやり返さないのよッ!」
「くろねこも俺たちの意思を汲んで手を出さないでくれたってのに、あそこでやり返したらそれこそ意味のねぇ喧嘩だろ」
「あーーーー!もう!!本当に分かんないッ!!」
ナミの優しさが嬉しかったくろねこは、ナミの怒りを受け止めながらただ黙って治療を受けることにした。
へらへらと笑うくろねこに納得していない様子のナミが、乱暴にくろねこの顔の治療を進めていく。
殴られて赤くなった頬。
蹴飛ばされて頭をぶつけた時の切り傷。
丁寧に血を落として、チョッパーに教えられた通りに消毒する。
「ありがと、ナミ」
「・・・・お礼を言うのは、私の方」
「?なんかしたっけ?」
「・・・・だって。私が笑われたのを怒らなかったら、くろねこは殴られなかったわ」
最初に喧嘩になりかけた時、まだくろねこは剣を抜いていなかった。
ゾロとルフィが喧嘩しそうになったところで、ナミが空島の話を店主に聞き、そこで笑いが起きて―――――喧嘩を買う価値がないと判断したルフィが喧嘩を止めた。
でもその時、くろねこは店内に響く声で彼らに言葉の刃を放っていた。
「人の夢を笑う奴らは、そのへんのゴミと変わらない」と。
敵意を向けてなかったくろねこは、その言葉さえなければあの一方的な嬲りから逃れることができただろう。それなのにくろねこはあえて口にした。
「この船に乗る皆には、何かしら夢や目標がある。それを馬鹿にされて黙ってられるほど、私はいい女じゃない。もし船長命令がなかったら、一瞬で粉微塵にしてたかも」
「・・・・よく、我慢してくれたわね・・・うん・・・・」
粉微塵という言葉にナミがげっそりとした表情を浮かべる。
人間が粉微塵にされるところを想像したのだろうか。先程とはうって変わって、よく我慢したと褒めながら最後の傷の手当を終えた。
「よし、できた!」
「ありがと!ごめんね、気遣わせちゃって」
「いいの。むしろ頼りなさい、ゾロよりも」
「何でだよ!?」
次の板を運んできていたゾロが、ナミの言葉にツッコミを入れる。
そんな言葉を無視してくろねこの頭を乱暴に撫でたナミが、ゾロの方を冷たく見つめながら言葉を続けた。
「あんな脳筋じゃ気付け無いことたくさんあるんだから。その時は私が受け止めてあげるわ!」
「ナミってば優しいなぁ。それじゃあナミも、ちゃんと私に頼ってね!」
「もちろんよ!」
「じゃあ、私は板運びを手伝いに・・・・」
「駄目よ!あんなの野郎どもに任せなさい!」
ナミの言葉にゾロの表情が呆れ顔へと変わっていく。
そんな表情を見届けていたくろねこは、ナミを諌めながら立ち上がった。
「ゾロー、私も手伝う」
「あァ?もう終わるぞ」
「じゃあとっとと終わらせよー!」
ゾロの方に走り、残りの板と思われるものを全部抱えて船へと運ぶ。
「・・・・・怪我、大丈夫か」
「ん?うん」
「わりぃな、巻き込んじまって」
「私は海賊じゃないから、正直ぶっ飛ばしたくてしょうがなかったよ」
笑いながらウソップの傍に板を落としたくろねこの瞳の奥は、笑っていなかった。
くろねこは義賊だ。
船に乗っているのだから海賊でもあるのだが、彼女の本質は“立場はなんであれ悪党を踏み潰し、善人に施す“というもの。
悪人と分かりきった彼らに手を上げられ、好き勝手に嬲られるというのは、ゾロ達以上に気分の悪いものだっただろう。くろねこほどの力の持ち主であれば、尚更。
「・・・・ゾロとルフィがああやって耐えてるのに、私が殴るわけにはいかないじゃん」
「・・・・わりぃ」
「ゾロのせいじゃないよ。それに殴られるのを選んだのは私の方」
あの時黙ってれば、くろねこもナミと同じように見逃されただろう。
それでも。
「ま、私はすぐ治るから。ゾロは大丈夫?」
「・・・・あんな雑魚の攻撃、意味なんかねぇよ」
「だろうね。・・・でも心配した。結構出血してたし」
くろねこの手が、ゾロの額に伸ばされる。
その手をつかんで抱き寄せたゾロが、くろねこの頬の傷に口づけを落とした。
「そりゃこっちの台詞だ」
「っ・・・ばか、こんなところで・・・!」
慌てて離れたくろねこが後ろを見れば、板を打ち付けていたウソップとチョッパーと目が合う。
目が合った二人は口笛を拭きながら船の方に向き直ると、言い訳しながら作業に戻った。
「あ、い、いや、おれ、みてないぞ!!」
「さーチョッパー!!板!!!」
「はい!!」
「・・・・・ったく、ゾロ!」
それでも再び伸ばされたゾロの手に、くろねこは首を傾げる。
「ゾロ?」
「・・・・・」
耳元で鳴る、リップ音。
それから無言でくろねこを離したゾロは、一人船の中に戻っていった。
「・・・・なんだったんだろ?」
本気で心配してくれてたのかな?
それなら最初から殴らせるなと、ナミが聞けば怒りそうだなと思いながらくろねこはウソップの手伝いに混ざることにした。早く船を直して、夢を探しにいくために。
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