いらっしゃいませ!
名前変更所
騎士の勘とはよく働くものだ。
女性が先に温泉に入っている中、嫌に気配を消したシュヴァーン隊長が宿の外に出るのを感じて僕は後を追った。
外に来てみれば周りの様子を異常なほど気にする隊長が立っている。
挙動不審。まぁ、見ているだけで次に何をやらかそうとしているかは分かった。
「シュヴァーン隊長」
「おうわ!!??」
女性の温泉は外から回り込めば塀が下がっているところがあり見えてしまう。
それは一度、貸し切りのときに女性の温泉に入って気がついた。
注意はしておいたが、風景を楽しむというものもあることからそう簡単に塀を上げたり出来ないらしい。もちろん、隊長にとっては対策されるほうが困るのだろうが、こうも注意をしなければならないのも困ってしまう。
そして隊長は、見事に僕が注意していた塀の低い方向へ足を進めようとしていた。それならば僕がやるべきことは一つ。
「シュヴァーン隊長」
「い、いやぁ、ほら、あの」
一度覗いたことがあるであろうその手際の良さにため息を吐きつつ剣に手をかける。
「二度目、ですよ」
「ぐっ・・・・」
デジャヴな光景に睨み合えば、前とは違い諦める様子のない隊長がため息を吐く。
「ちょっと~、許してよ~。ほら、また社会勉強しに行こうよおっさんと」
「覗きのどこが社会勉強なんですか」
「え~!ジュディスちゃんのぼいんが見れるわよ?」
「・・・・一度見たんですね」
「あ、いや・・・・」
邪な考えが浮かばないわけではないが、その言葉に釣られるわけにはいかない。
動揺を見せないよう、手をかけた剣をすらりと抜けば、慌てた隊長が更に言葉を重ねた。
「いいいいやほらほら、あれよ?アメリィちゃんのも見れるのよ!?」
「ぶっ」
「あら、反応した。やっぱり気になるのねん?まぁそうよね~、恋人の裸だもんね~」
「い、いや、ち、違います」
反応してしまった。いや、しょうがないだろう。誰だって恋人の裸には興味が出てしまうものだ。特に旅の途中というのもあって色々我慢している部分もある。それが隊長の言葉によって反応として出てしまっただけで。
「ささ、いくわよ」
「え、ちょ!?」
心のなかで言い訳を繰り返していた僕を隊長の力強い手が引っ張る。
しまった、この人・・・・まさか。
「おっと、ここで声出したら共犯になるわよ?もう聞こえる位置だからね」
「ぐっ・・・」
湯気のじっとりした感じと、ふわりとくすぐる石鹸の香り。
聞こえてくるリタの声が女湯が近いことを知らせて声のトーンを下げさせる。
何故だ、こんなはずじゃ。僕はただシュヴァーン隊長の犯罪を止めようと。なのに何故僕は今、隊長に釣れられて共犯にされているのか。
「んー・・・・お湯に入っちゃってて見えないわねー・・・あろ?アメリィちゃんがいない」
なるべく後ろを見ないよう、女湯に背を向けつつ隊長の肩を叩く。
「レ、レイヴンさん、今のうちに帰りましょう」
「えー?だってアメリィちゃんみたいでしょ?」
「見・・・・た、いや、ダメです・・・・」
「はーん?見たいんだねぇ?」
嘘がつけない自分に悔しくなった。心はダメだと言ってるのに、目の前にぶら下げられた駄目な欲望に自分の体が動かない。自分だけでも帰らなければならないはずなのにそれすらも叶わず僕は何故かそこに居続けた。
ニヤニヤと笑う隊長が憎い。いや、そもそも、彼女の裸を他の人に見られるのはどうなんだ?それは困る。やはり僕だけではなく隊長にも帰ってもらわないと。
「レイヴンさん、帰りますよ」
「あとちょっと」
「だ、だめです、レイヴンさ・・・・」
ガラガラ、と。耳元に近い場所で扉を開ける音が聞こえた。
同時に勢いよく入ってきた誰かに隊長が嬉しそうな声を上げる。
「うっひょ~、ほらほら来たわよ?どれどれ・・・」
「駄目ですって・・・!」
止めつつ見ないように背を向けるが、女湯から聞こえてくる声を塞ぐことは出来ない。
「お待たせー!いやー!さっきまでフレンと戦ってたから汗だく!」
「出た出た戦闘バカ」
「あらアメリィ。やっぱり一番引き締まってるわね。胸もあるのに」
「ジュディスにそれ言われると悲しくなるからやめてよ・・・」
見ないように、見ないように。でも見える場所にそれがあると人間はどうしても目を向けてしまうものだ。本能に逆らえず少し女湯の方を見てしまった僕は、それをすぐに後悔することになった。
「アメリィは本当に綺麗な体ですね、羨ましいです」
「エステルとかリタのほうが綺麗じゃん・・・パティとかピチピチだし・・・」
「ピチピチなのじゃ~!それ、アメリィ姉も触らせるのじゃ~~」
「あ、ちょっと!?ひゃ!くすぐったい~!!」
健康的な肌色。すらりとした足。ほどよくついた筋肉、くびれた腰。
傷だらけなのは今までの彼女の強さを示しているのだろう。でもその体はとても美しく、湯気の中でもはっきりと分かるほど。そしてパティが揉んでいるその胸は意外と大きかった。
「ね、ちょ、ちょっと、やめ・・・・!」
「あら、いいわねぇ。私も混ぜてもらおうかしら?フレンだけに楽しませるのも勿体ないしね」
「は!?フレン!?なんで!?」
「恋人なら揉ませるでしょう?」
「へっ・・・・平気でそんな事言うなーーー!!」
水の音が激しく聞こえる。お風呂の中でアメリィが暴れているのだろう。
僕はといえば今の会話と視界からの情報で全てがパンクし、その場で立ち尽くしていた。
鼻から何か熱いものを感じる。慌ててふけばしゃがんでいた隊長がジト目で僕を見てきた。
「鼻血出てるわよ」
「・・・・・・」
もう、何も言い訳できない。
隊長に肩を抱かれながら、僕はゆっくり女湯から離れた。
罪悪感と、見てしまったという焦りと、隠せない熱。
頭から離れない。彼女の、体が。
僕の考えを見抜いているのか、肩を抱いている隊長が楽しそうに笑う。
「いやー、ウブねぇ」
「・・・・・・」
「そ、そんな殺気立たないでよ~。黙っておくからさ?男と男の約束よ~?」
「・・・べ、別に、僕は見たくて見たわけじゃ・・・じ、事故で・・・・」
「へぇ?結構ガン見してたけどねぇ?」
どういう流れとはいえ、僕も共犯になってしまった。その時点で僕は隊長を怒れる資格を失ってしまっていた。もう何も言えず、ただ急いで鼻血を止めて皆の元へ合流する。
「ちょっとー?フレンもレイヴンもどこいってたの?僕たちの番だよ!」
「いや、ちょっと気分悪かったみたいでね~」
「気分悪いって・・・フレンがか?大丈夫かよ?」
「あ、あぁ、ユーリ・・・心配かけてすまない。大丈夫だ」
今までの出来事は夢だ。きっと、そうだ。自分のしてしまったことと見てしまったものに押し潰されそうに、そして抑えきれそうにない自分の熱を流すためにお風呂に向かう。そんな僕の後ろから、熱の元凶が声をかけてくる。あろうことか僕は、その声に振り返ってしまった。
「あれ、フレン達今からお風呂ー?いってらっしゃーい!・・・・ってえ!?ちょ、フレン!?鼻血!!どうしたのー!!??」
「あら・・・・」
目の前で笑うアメリィの姿に、僕は全ての限界を血として流して意識を飛ばした。
なんだか、体がひんやりする。
心地いい。優しい何かが僕の頭を撫でている。その撫でられる感覚に無意識に甘えながら目を開けると、優しい表情で僕を撫でるアメリィと目があった。
「アメリィ・・・」
「おろ、起きた。おはよう~!もー?レイヴンからきいたよー?まさかあのフレンが覗きするなんてー!」
「・・・・・・・・」
男と男の約束はどこへ行ったのか。いや、まずは誤解をとくべきか。だがそもそも誤解であろうと見てしまったのは真実で、ニヤニヤと楽しそうに笑う彼女に何を言っても聞いてもらえなさそうだった。頭の中で自分自身と問答している間に、アメリィが僕の体を起こす。
「ふふふー、フレンも男だねー」
「い、いや・・・これは・・・」
「ま、どうせレイヴンに上手く連れてかれたんでしょ」
「・・・・・さすがアメリィだね」
「で?どうだった、ジュディスのぼいんぼいんは」
「ぶっ」
ニヤニヤがニマニマに。悪い顔をして笑うアメリィに僕はため息を吐いた。
「べ、べつに、ジュディスのは見ていないよ」
「え、じゃあ誰のに鼻血だしたの・・・あ、エステル?」
「・・・・・」
「・・・・え、まさか私?いやまぁ、そんなことはないか」
その自信の無さはどこから来るのか。むしろ恋人同士なのだからそういうことを考えたり望んだりするとは考えないのか。僕のそんな考えが表情から伝わったのか、僕のベッドに腰掛けていたアメリィが僕の方に顔を近づける。
「なんだよー、その呆れ顔は」
「っ・・・・・」
近づかれて、また熱が上がる。
目の前にあるのは胸元のあいたお風呂上がりのアメリィ姿。その姿と、先程見た彼女の裸が重なって言いようのない熱が僕を支配する。
想像しなかったわけではない。触れたいと思わなかったわけでもない。だがいざそれが目の前にくると、自分が思った以上に欲が深いことを感じて戸惑ってしまう。
呆れられただろうか。それとも、軽蔑されただろうか。
明らかに動揺する僕を見て固まったアメリィの反応が怖くて何も言わずにいれば、体がベッドに沈んだ。
「え・・・・」
押し倒されたと気づいた目の前には、真剣な表情のアメリィと僕を乱す胸元。
「私を見て鼻血を出してくれたのかい、変態フレン殿~」
「・・・・っ」
「否定しないってことはそうなのか。嬉しいな~!嬉しいけど、覗きは犯罪だよね?」
「ぐっ・・・そ、そうだね・・・・」
「じゃあ、変態なフレンさんには罰が必要だよねぇ?」
あぁ、この子はいつもそうだった。子供のときからイタズラ好きで、負けず嫌いの僕はよくやられたらやり返すでやりあってたっけ。その時のイタズラ顔が目の前にある。大人びても変わらないそのニヤリとした悪い顔に、僕は逆らえず頷く。
「んじゃ、私にもフレンの体見せて」
「は!?」
「え、いいじゃん。はい脱いで脱いで~!」
「君は何を考えているんだい!?な、なんで僕なんかの裸を・・・!」
「鍛え抜かれたフレンの体を見てやろうかなーって!よいしょ」
押し倒されている僕の抵抗は間に合わず、ラフな格好だったこともあって僕の上半身はすぐにずりずりとたくし上げられた。まじまじと見つめる彼女の瞳に、恥ずかしくはないがこそばゆさを感じて目を逸らした。
「おー!めっちゃ良い筋肉!さっすがフレン、鍛えてるね」
「あ、ありがとう・・・・ってちょっと!?何抱きついてるんだ!」
「えー?筋肉を堪能してやろうと思って・・・・覗きの罰なんだから静かにしててよ」
「そ、そんなメチャクチャな・・・!」
慌てている僕を楽しんでいるのだろう。アメリィは僕の言葉も聞かずむき出しになった腹筋に頬を擦り付けている。この光景も、色々と危ない。邪な考えがまだ残っている僕の体は、その光景に正直な反応を示してしまう。・・・・危険、だ。かなり。
「っ、ちょ、ちょっと、アメリィ・・・・」
「んー?」
「その・・・す、少しは、察してくれないか・・・・」
反応してしまっている体のことを素直に告げるわけにもいかず、曖昧な言い方になる。
それを分かっていてわざとなのか、そのままちゅっと音を立てて僕の体に口づけを始めた。絶対にわざとだ。でなければこんな大胆なこと、普段の彼女ならしてこない。
からかい続けるアメリィにどう怒るか悩んだまま。
お腹から胸元へ、口づけが僕の顔の方へ迫ってくる。そろそろ本格的に押しのけようかと考えはじめたところで、アメリィが不満げに顔を上げた。
「もー・・・・」
「・・・・?」
「・・・・フレンこそ、察してよ」
いたずらっ子の表情は消えて、真っ赤な可愛らしい顔がそこにはあった。
やられたらやり返さないと気がすまない奥底の感情と、ぷちりと音を立てて切れた理性がアメリィを押し倒す。
「止めるなら今のうちだよ」
子供だった彼女はもう大人で、イタズラはいつの間にか大人の”挑発”に変わっていた。
それを察した僕は止められないことを分かっていてアメリィに聞く。最後の、決断を。
優しさのように見せた、僕なりの仕返し。
もちろんアメリィはそれに気づいていて、不満げに口を尖らせた。
「・・・・そういうとこ、意地悪いよねフレン」
「なんのことだい?」
「全部分かってから、最後に聞くの」
「分かってないかもしれないだろう?」
「・・・・・」
さぁ、早く。
急かすようにわざと体を引けば、名残惜しそうにアメリィが手を伸ばして――――それから。
「フレン」
「ん?」
「・・・・好きにして、いいよ」
その言葉を合図に僕は口づける。まだ不満げな彼女を慰めるように、深く。
誰だって、むっつりなんです。
(素直にほしいっていえば良いじゃないか)
(なっ・・・!それはフレンだって一緒でしょ!!ばか!!)
(まだ元気なら、もう少し・・・してもいいかな)
(っ・・・・ほら、素直にほしいって、言わないじゃん・・・)
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