いらっしゃいませ!
名前変更所
今日は珍しく、午後から何も仕事がなかった。
基本的に仕事は自動的に動くものが多く、極道としてのシノギも普段の仕事が補っているためたまにこういった隙間時間が出る。
こういうときは基本的にトレーニングをするのだが。
事務所に設置している自主トレーニング用の部屋に向かうと、既に先客がいる音がして足を止めた。
ここの使用許可を出しているのは一人しかいない。
そのため特に戸惑うことなく扉を開ければ、部屋を使っていた主も俺に構うこと無くトレーニングを続けたまま俺の方に向かって挨拶をした。
「っおう!使ってるぜ、峯」
「・・・・・」
広いスペースでサンドバックに向かって華麗な足技をぶつけていたあけの姿は、いつものものではなく運動に適したものになっていた。
スポーツウェアというやつだ。普段のあけにはない体のラインが見える格好にこういう画面で考えることではないと分かっていながらも心が揺れる。
薄っすらと筋肉がついたお腹のライン。くびれ。
意外と出ている胸に、短パンから覗く足。
彼女のことだ。その格好が何ら誰かを煽るものになりかねないことすら頭にないはずだ。
もしくはそんなことを考えてしまう俺が、もうイカれちまってるのかもしれない。
正直その自信はあった。
最近じゃひどくなってきている。こんなにも女に夢中になるなんて、過去の俺が知れば笑っているかもしれない。
「何ぼーっとしてるんだ?もしかして、こっち使う?」
「いえ・・・相変わらずいい動きをすると思っただけですよ」
「なんか、峯に動きを褒められるとかなり嬉しいな」
「・・・・そうですか?」
「あぁ、だって峯、すげー強いだろ」
この世界に入る前後でボクシングをやっていたため、確かにある程度は動ける自信はある。
それこそ桐生さんと戦ったあの戦いは、今の俺には良い刺激と自信になった。
「何なら勝負する?」
「フッ・・・やめたほうが良いですよ。申し訳ないですが俺は桐生さんのように、女子供に手を出さないなんて綺麗事は言いません」
過去、桐生さんが大切にする娘のような存在に手を上げたことがある。
多少の罪悪感はあれど、俺はそんなに紳士的じゃない。
もちろん大切にすべき存在というのは理解しているが、俺にとって性別は関係しないというだけだ。つまりは大切な存在に手を出すことはしないがそれ以外は関係がないという薄情な感情が優先されている。
俺の言わんとすることに気づいたのか、あけは少し淋しげな表情を浮かべた。
「まぁ、全員がそうである必要はないとは思うぜ。信念があるならそれに従えばいいし、もし間違ってるって思ったら私がぶん殴ってやっから」
「・・・・優しいですね、あけは」
「間違わない人間なんていねぇからな」
さらりとそういうことが言えるあけは、本当に人間が出来ているのだと思い知らされる。
「貴方は・・・・俺がやったことを、許すんですか?」
俺は桐生さんにだけでなく、あけにも酷いことをした。
あさがおへの襲撃を考えているときにあけにバレ、それを止めにかかったあけを怪我させて押しのけたのだ。
あのときはお互いに本気で殴り合った。俺も、あけほどの戦闘慣れした女性に手加減できるほど器用でもなかった。
それでもあけは、必死に最後まで止めてくれた。
今思えばあれが完全に間違いだったことが分かる。俺が、どんなにしてはいけないことをしたかも分かる。あの時にふるった拳が、どれだけあけを傷つけたかも。
苦しげに歪んだ顔。
流れる、血。
許されないはずなのに。
「許すよ。・・・・今はもう、間違ってたって分かってんだろ?」
「・・・・えぇ」
「ならいいじゃん」
「それでも俺は、貴方に怪我をさせた。本気で殴った上に、貴方を一時的に監禁までしたんですよ」
「でもお前が私を事務所に閉じ込めてくれなきゃ、部下をシバいてお前が桐生と殴り合う場所を聞き出すことも出来なかった。お前を助けることも出来なかった。結果、良かったと思ってるぜ」
凄腕の情報屋ということもあり、俺はあさがおの襲撃の前にあけと戦った際、あけをそのまま部下に監視させて事務所に閉じ込めるという手段に出た。
でなければ桐生さんとの勝負を邪魔されると、そう思ったからだ。
それは予想通りだった。
彼女はあの怪我の中で部下を全員殴り倒し、その一人から俺が桐生さんと決着をつけようとしている場所を聞き出して俺を止めに来たのだ。
そして、飛び降りる直前の俺を救ってくれた。
「・・・・本当に、優しいんですね」
「峯限定だよ」
「そうなんですか?俺から見れば誰にでも優しいと思いますが」
これは、心からの感想だった。
彼女は自分を優しくないと言うが、十分に誰にでも優しい。
人によって態度を大きく変えることなく、自分の態度で接する。
本人いわくそれは「適当」だからだと言っているが、そんな自然体で人と関われるというのも一つの才能だと感じている。
俺には無理なことだ。
必ず疑ってしまう。自分に近づくものを全て。
そして利用価値によって態度を変えてしまう。
「そこまで買いかぶられてもな・・・・」
「無意識なところが厄介ですね」
「厄介ってなんだよ・・・」
「誰もがその魅力に惹きつけられてしまう」
「おいおい、気のせいだろ」
あけは馬鹿にしたように笑うが、本当のことだ。
俺には分かる。ある程度あけという存在を知ってしまった男は、その真っ直ぐさと心地よさに引き込まれていってしまうことを。
「まぁでも、峯にそう思われてるなら嬉しいな」
「?そうですか?」
「あぁ。だって好きな人に褒められるのは嬉しいだろ?」
照れくさそうに笑ったあけは、少しバランスを崩したのかその場に座り込んだ。
顔が見たくなって座り込んだあけに近づけば、突然あけが立ち上がって俺に飛びかかる。
「ッ!?」
「隙ありぃ!」
咄嗟に反応して突き出された拳を受け流す。
だが、それに伴って隙を生んだ足元は、いとも簡単にあけの足払いによって崩れ落ちた。
下がマットであったことを感謝する勢いで仰向けに倒れ込んだ俺の上に、あけが体重を掛けてのしかかる。
「いきなり何を・・・・」
「辛気臭い顔してるからだよ。・・・・難しいこと考えないで、今こうやって生きて、私と一緒にいる。それでいいだろ?」
難しいこと、か。
なんでそんなに簡単に済ませられるんだ。
「俺は・・・・貴方を傷つけたのに、何故貴方のほうがそんな簡単に済ませてしまうんですか・・・」
「別に痕に残ってないし、いいだろ」
「・・・・」
「まぁでもこういうのって、罰を受けたほうが楽になるっていうよな?ってことで、峯には罰を受けてもらおうと思う」
「罰・・・?」
「あぁ。私の言葉を無視して突っ走ったのと、私を本気で殴りやがった罰」
あけはニヤリと笑うと、近くに置いてあったスマホを手にとって操作し始めた。
しばらくしてなにかのページを表示したあけがスマホの画面を俺のほうにずいと向ける。
「これ」
そこにあったのはとある高級ホテルのページだった。
東京にある中のホテルでもかなり高い方のホテルで、貸し切りでプールや温泉などもついているタイプのものだ。
意図が掴めずページとにらめっこしていると、あけが楽しそうにスマホのケースからチケットを取り出した。
「ここに、このホテルの特別チケットがある。とある仕事で報酬にもらったんだけど・・・・ここに一緒にいくってのはどう?」
「・・・・はい?」
「ホテルのチケットはあるっていったって、こういうところは良いレストランも行きたいし、周りのいい店も行きたいよな?そのへんはお前のおごりってことで」
「・・・・ははっ、ハハハ・・・!そんなことで、本当に罰になると思ってるんですか?」
そんなこと、今までに何度やってきたことか。
でも確かに言われればあけにはそういうことをしたことが殆どなかった。デートはするものの彼女に合わせた庶民的なデートが多く、俺もそれに不満を持っていなかったので特に問題になったことがなかった。
「罰だよ。何買わせるかわかんねぇんだぞ?」
「そんなもの・・・・貴方が望むならいくらでもあげますよ」
「んだよ、もう少し嫌そうな顔しろよな」
「できるわけ無いでしょう。貴方とのデートに過ぎないじゃないですか」
「何いってんだよ。時間も、金も、このホテルに泊まるときは全部私にやれっていってんだよ?」
「そんなの、お安い御用ですよ」
「おいおい、このホテルの周りの店がどんだけ高いと思って・・・・」
「フッ・・・俺の組がいくら本部に納めてるか、知っているでしょう?」
「それもそうだけど、もう少しためらいを・・・・ったく」
「俺はあけ相手にならどれだけの金も惜しみませんよ」
「そんなこと言われたら意味ねぇ!・・・・なら、そうだな」
渋い顔をしたあけが再び、悪い顔で笑う。
「じゃあ今から、私の言いなりになって」
珍しい声色だった。
ゾクリとさせる色気のある声が、俺を釘付けにする。
「あけ・・・?」
「目、瞑れ」
命令的な口調に思わず従ってしまう。
目を閉じるとしばらくして俺の唇に暖かいものが触れた。
思わず反応しようとすれば、それを咎めるようにあけの手が俺の両手をマットに縫い付けた。
「っ・・・」
まるで、襲われている。
ぎこちないながらも確実に求める動きに変わる口づけを受けて、俺は軽く唇を緩めた。
「ん、ぅ」
苦しそうな声が漏れるのが聞こえてうっすらと目を開ける。
すると意外にもあけと目が合った。目を瞑って必死に口づけているとばかり予想していた俺は思わず目を逸した。
「私の言うとおりにしろよ、峯」
これは、罰だから。
その囁きは何か、違うものを呼び起こす。
「私がいいっていうまで、私の好きにされろよ。もちろん私に手を出すのは禁止」
――――あぁ、確かにこれは罰だ。
彼女はとても魅力的な表情で俺を誘惑していった。
唇から首元へ、普段の彼女なら考えられないような大胆さで唇を滑らせていく。
甘い吐息。
不慣れな動き。
それでいて必死に俺を求める瞳。
今すぐ押し倒してメチャクチャにしたかったが、これが罰と言われればさすがに出来ない。
「峯」
その声は、震えていた。
「何度も言ってるけど、間違いなんて誰だってあるんだ。私だって、そう。それを踏まえて私はお前が好きだ。だから・・・・一人で、悩まないでくれ」
「・・・・・っ」
「たまに怖くなるんだ。お前がそうやって一人で思いつめてるときに、どこかにいっちまうんじゃないかって。それだけはやめてくれ。私はもう・・・・お前から離れたくない」
あけと出会って2年ほど。恋人になってからは半年。
ここまで強く気持ちを叫ばれたのは初めてだった。
「これが罰。・・・これでお前を許すから、だから」
汗か、涙か、分からない雫が俺の首筋に零れる。
「もう、気にすんなよ」
あけはゆっくりと俺の両手を離した。
俺は自由になった腕であけを抱き寄せた。
あけは何も言わない。何も、怒らない。
「・・・・愛してる」
それは普段言っているようで、滅多に言わない直接的な言葉だった。
腕の中のあけが驚いたようにぴくりと反応するのが分かる。
「愛してるんだ。・・・本当に」
彼女だけだ。
俺のことを、本当の俺だけを見てくれるのは。
極道としての俺もビジネスとしての俺も、私生活も、過去も。
全て知っているのは彼女だけだ。
そして、その全てを知っても態度を変えないのも彼女だけだった。
「あけ・・・・」
「・・・・・・・・・・・おい、ちょっと離せ」
いい雰囲気だったというのに、何かを察知したあけが腕の中で暴れ始めた。
「・・・?どうしたんです?」
「わざとか?」
「・・・・仕方ないでしょう。こんなに熱烈なことをされて昂ぶっているのに、体は反応するなというのは酷な話ですね」
「さらっというなよ!」
俺の上にまたがっているあけは、俺の熱が反応していることに気づいたのだろう。
仕方がない。あけからこんなに可愛らしいアピールを受けて、それを腕の中に抱えて。
こんな状態で我慢できるわけもない。
「ッ、離せ」
「無理です」
「っ~~~!せめてシャワー浴びさせてくれ」
「フッ・・・・」
行為自体を否定しない彼女に、元々ほとんど意味を成していなかった理性の糸が切れる。
「無理です」
「おい!?」
「いいでしょう?好きなんですよ、貴方のことが」
「いやっ・・・それとこれとは!」
「好きなんです」
「わ、分かったから・・・・!」
「だから、いいでしょう?」
暴れるあけを押さえ、笑顔を一つ。
「今すぐ、貴方が欲しい」
そう言いながら手を離せば、逃げれるようになったというのにあけは動かなかった。
体を持ち上げて俺に跨ったまま俺を見下ろしている。
少し潤んだ瞳と、汗でじっとりとした肌が、全てまとめて愛おしい。
「・・・・」
「・・・逃げないんですか?」
「逃げても、無駄だろ」
「そんなことないですよ?手は離しているじゃありませんか」
わざとらしく言う俺に、あけが悔しそうな表情をする。
あぁ、本当に愛おしい。
こう言いながらもあけは逃げられないんだ、俺から。
それを目の前の恥ずかしそうな表情のあけが教えてくれる。
自惚れてもいいだろ?
「あけ」
「・・・・せめて、部屋がいい」
「何故です?」
「ッ・・・ここでしたら、思い出すことになるだろっ」
一瞬何のことか分からず戸惑うが、真っ赤になっていくあけを見て思わず笑ってしまった。
「貴方もそんなことを気にするんですね」
「お前私を何だと思ってんだ?」
「そんな余韻なんてすぐ忘れる方かと思ってました」
「そんなにすぐ忘れれたら、こんなこと言わねぇよ」
あけの言葉を聞きながら、脱がせやすいスウェットをずらしていく。
俺の上に乗っているあけは抵抗しようと思えば出来るはずなのに、その手を止めることはしない。
「っ・・・なぁ」
「どうしました?」
「じゃあせめて、鍵かけてくれ・・・」
「心配ありません。ここの使用許可は貴方以外に出していませんから」
「え、そ、そうなのか?片瀬も・・・?」
「あぁ」
「そっか・・・」
ちょっと嬉しそうに笑うあけに愛しさがこみ上げる。
「フッ・・・意外といじらしい反応をするんですね」
「・・・・・っ」
「否定しないところもまた可愛らしい」
「うるせー」
「あけ」
「・・・・ん」
強く引き寄せて口づければ、あけの震える手が俺に触れた。我慢できなくなってそのまま貪り続ける。あぁ、ほんと、なんで今まで俺は気づかなかったんだ。こんな大事なことに。
「愛してる」
愛おしさから思わず零した言葉は、止まらない。
「どうしようもなく好きなんですよ、貴方のことが。だから、いいですよね?」
断る隙を与えず、俺はゆっくりとあけの体を抱きかかえて立ち上がった。
「え、な、み、峯!?」
「ここじゃ嫌なんでしょう?それとも、ここで襲ってもいいんですか?」
「そ、それは、こまる・・・・」
「それならそんなに煽るような顔をしないでください」
「はぁ!?んな顔してねぇ!」
「そうですか?・・・・今すぐここで欲しかったという顔をしてますが」
「っ・・・・」
抱きかかえたあけが涙目で俺を睨みあげる。そして仕返しとばかりに両手がふさがった俺の頬を両手で挟み込み、思いっきり口づけてきた。柔らかい感触とあけの香りにぷつんと何かが切れる音がする。これが無意識というものなのかと呆れつつ、俺は部屋を出ようとしていた足を止め、再度トレーニング室の方へ引き返した。
「・・・・・・やっぱり、ここでしましょう」
「え」
「煽ったほうが悪いでしょう?」
「そ、そんなつもりじゃ、おい、こら、待っ・・・・!」
騒ぎ始めたあけを押さえ込んで、俺は欲望のままに彼女を貪ることに決めた。好きを免罪符に暴走する俺を、なんだかんだ受け入れてくれる彼女は本当に愛おしい。もうずっと、離すことはないだろう。頼まれても、逃げ出しても、俺は二度とあけを離したりしない。
好きだからこそ、二度と。
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