いらっしゃいませ!
名前変更所
バロックワークスに潜入していたお転婆王女ビビを加え、彼女を必ずアバラスタへ送り届けると約束した麦わらの一味は、リトルガーデンと呼ばれる何もかもがでかい島に上陸していた。
図鑑でも見たこと無い植物の数々。
絶対、聞こえてはいけないような鳴き声。
上陸したくないと騒ぐナミを押し切る勢いで目を輝かせた船長は、あっという間に島の中に消えてしまった。
とはいえ、こんなところで船の中に居続けるのも暇だ。
散歩してくると島に降りたゾロの背中に、サンジが声を掛ける。
「おいゾロ、島降りるなら食料取ってきてくれ。食えそうな獣とかでいい」
「おう。てめーには到底狩ってこれそうにない獲物とってくる」
「・・・・あァ?待てよ。てめーが俺よりでけぇ獲物とってくるってかァ?」
「当然だろ」
二人の間から、飛び散る火花。
ゾロが迷子にならないようついていこうとしていたくろねこは、相変わらずな二人を見て苦笑する。
「狩り勝負だ!」
「望むところだ」
「じゃあ私も混ざろー!誰が一番肉大量にとってこれるか勝負ね!」
「んん~~!!くろねこちゃんは待っててくれてもいいんだよぉ~~~?」
体をくねくねさせながら言うサンジに、暇だからと告げたくろねこを見て、サンジはそっと手を差し出した。
「ではレディ、いくら貴方が強いといえど、こんな得体のしれない場所での独り歩きは危険だ。俺と一緒に・・・・」
「え、でもゾロ一人にしたら戻ってこないかもよ?」
「お前俺のこと馬鹿にしてんのか?」
「するよ!ローグタウンで北と南理解してなかったもん!!」
確かにゾロは、方向音痴の気質がある。
それは誰しもが気づいていた。
色んな島に降りるたび、方角を理解していない様子を見せるゾロに、不安要素を抱えるメンバーも多い。
そんな経緯もあってくろねこのゾロ同行を強く止めれなかったサンジは、涙を流しながらゾロと別方向の林へと消えていった。
「ってことで、行こうゾロ」
「あァ。でかい獣が取れそうな気配がするぜ」
周りでぷんぷん香る、獣の香り。
ゾロと一緒に木々をかき分けて島を進むくろねこは、鼻をならしながら周りを見渡した。
普通の動物とは違う獣臭さ。
そして近づいてくる―――――重たい足音。
どうやら、匂いに敏感なのは向こうも同じらしい。
「あー、そっか。私達も御飯だもんね・・・・」
三本の角を生やした見たこともない動物がこちらを睨んでいることに気づき、くろねこが呟く。
「食うか食われるかってやつか?」
「うん。ほら、あいつ三刀流だよ。戦ってきたら?」
「おー、三刀流勝負か」
やる気満々で睨んでくる三本角の恐竜に対し、ここまで気の抜けた表情を取るのも彼らぐらいのものだろう。
刀を構え、突進してこようとする恐竜を目の前に見据える。
彼からすれば恐竜なんてものは敵にすらならない。ただの獲物だ。
まるで捌くように刀を通したかと思うと、一瞬で恐竜が地面に体を横たわらせた。
「おー!でかい!」
「中々うまそうじゃねェか」
「持って帰るの大変そう」
「てめーも手伝え」
「えぇ!?私も狩るんだよ!!」
角を持って恐竜を引きずり始めるゾロの言葉に、くろねこは唇を尖らせる。
「この勝負、私も参加してんだからね!」
「へいへい。精々頑張れよ。勝つのは俺だ」
「んだとぉ?」
勝負ごとになると火がつくのは剣士だからか。
目を輝かせたくろねこは、もう一つ大きな足音がすることに気づいてその方角の木々を刀でなぎ倒した。
ドミノ倒しのように崩れていく木の先に居たのは、ゾロの獲物よりも数倍大きな恐竜。
なぎ倒された木に頭をぶつけたのか、その恐竜は刃の餌食になることなく地面に横たわった。
一気に開けた視界に、別の方角で獲物を狩っていたサンジまでが二人を見つける。
「お、おいおい、いきなり何かと思えば・・・・」
「見てみて!私の獲物でっかいでしょ!」
倒れた恐竜に飛び乗り、ね?と首を傾げるくろねこにサンジが目をハートに変えた。
「さすがくろねこちゅわぁん!!このクソ剣士のよりも大きくてうまそうな肉!こりゃあくろねこちゃんが一位だな!ビリはクソ剣士だ」
「あァ!?んなわけあるか!!てめェがビリだろうが!!!」
「ハァ!?ふざけんな、オラ、よく見ろ!!」
開けた空間にゾロとサンジが恐竜を並べ始める。
二人が捕まえた恐竜はどちらも大きかったが、長さでいえばサンジの恐竜のほうがほんの少しだけ大きかった。
「ほれ見ろ!俺のやつのほうがでかいだろ!!」
「んな細身のやつが食えるか!俺のを見ろ、ガタイは俺のやつのほうが数倍良いだろうが!」
「どっちも私のに負けてるんだからいいじゃん」
「よかねぇ!!」
「確かにそうだねくろねこちゅわぁん!」
「・・・・あァ?良いわけねぇだろうが」
「良いに決まってんだろ。レディが俺たちよりでかいの取ってきてんだぞ?あぁ?」
意見の食い違いにまた火花が散る。
どうやらこの二人は喧嘩をする星の元に生まれてきているらしい。
呆れ顔を浮かべようとして、自分もゾロと言い合ってる時はこんなもんなのかと客観的に考えたくろねこが、照れくさそうに頬をかく。
「フッざけんな!もう一勝負だコラ!!」
「あァ?いいぜ、二位決定戦といこうじゃねぇか」
「馬鹿言え。くろねこもやり直しだ」
「えぇー!?私の絶対一位なのにっ!!」
巻き添えをくらったくろねこが抗議の声を上げるが、ゾロは聞いてはいなかった。
一通りサンジと睨み合ったかと思うと、取った獲物すら置いて木々の中に消えていく。
よほど勝負に負けたことが―――――いや、一位が取れなかったのが悔しかったのだろう。
「えぇー?せめて獲物ちゃんと持ってこうよ、貴重な食料なのに・・・・」
「ったく、しょうがねぇなぁ・・・・」
「一旦一緒に持って帰ろうか、サンジ」
「はぁい!喜んでぇ!!」
たった数分。
そう、ほんの数分。
それだけならゾロに追いつけると思っていたくろねこは、このときの自分の判断を強く恨むことになるとは思いもしないまま獲物を引きずって船へと戻った。
◆◆◆
くろねこが真顔でゾロの足元にしゃがむ。
ゾロはどこか気まずそうにしながらくろねこの頭を見下ろしていた。
くろねこと分かれてたった数分でものの見事に厄介事に巻き込まれたゾロは、Mr.3との戦闘で足を切り離すために大怪我を負っていた。何とかギリギリのところでくろねことウソップが助けにはいり、全員が蝋燭になることは避けられたのだが、くろねこは皆が怪我を負ったことに対して責任を感じていた。
確かに、くろねこがいれば戦局は全てひっくり返っただろう。
だが、相手も馬鹿ではない。
それを分かっていてくろねこが離れた隙を狙ったのだ。
「な、なぁ」
「黙って」
「だがよ、さすがにそれは勿体ねぇんじゃ・・・・」
「うるさい」
ぴりぴりとした殺気はゾロ以外ですら感じられるほど。
そのせいで誰もくろねことゾロの邪魔をしようとはしなかった。
くろねこは真剣な表情で自分のコートの裾を刀で引き裂き、ゾロの足の止血を進めていく。
「・・・・勿体ねぇって、くろねこ」
「諦めなさい、ゾロ」
「大人しく治療を受けたほうが賢明だと思うわ、Mr.ブシドー」
ビビとナミの声に顔を上げると、二人は既に治療済みだったらしく、くろねこの服の裾だと思われる布を所々に巻きつけて苦笑していた。
その言葉にもう一度くろねこの姿を確認すれば、既に服はボロボロだった。
震える手が血に汚れるのも気にせず、丁寧に泥を拭き取り、傷口を洗い流していく。
それからしっかりと布を巻き、残りの消毒用アルコールをつけた布で血が止まるまで押さえつける。
「くろねこ、そこからは自分で・・・・」
ゾロの言葉は続かなかった。
顔を上げたくろねこの顔が、あまりにも―――――。
「(なんつー顔してやがんだ・・・)」
悔しげに噛み締められた唇。
悲しげに歪んだ表情。
「別に、てめーのせいじゃねぇだろ。俺の実力不足だ」
あの蝋燭を、どんな体勢からでも斬れる力があればこうはならなかった。
体勢が整ってたとはいえ、助けにきたくろねこはあのカチカチの蝋燭を一瞬でみじん切りに斬り裂いた。実力の違いを目の前で見せつけられた瞬間だ。
「知ってる。あの状態で斬れればこんなことしなくて済んだでしょ」
「・・・・あァ」
「私と対等に戦えるようになるまで、死ぬのは許さないから」
「はァ?ふざけんな、大剣豪になるまで死んでたまるかよ」
「・・・・なら、良かった」
調子が、狂う。
「もー、くろねこも素直に心配だったって言いなさいよね」
「ち、違うよ。こんなのゾロが悪いじゃん」
「そんな顔してどこが違うのよ・・・・」
ナミに指摘され、くろねこが顔を逸らす。
それでも手を止めないのはさすがというべきか。
血が止まったことを確認したくろねこは、しっかりと布を傷口に結んで立ち上がった。
「よし、いいかな」
「助かったぜ・・・にしても、勿体ねぇな」
立ち上がったくろねこのコートはすっかりぼろぼろになっていた。
三人の治療に容赦なく使えば当たり前のことだが、良い生地のコートだっただけにボロボロ度合いが目立つ。
「勿体ないって・・・・こんなのまた買い直せばいいよ」
そう言いながらコートを脱ぎ捨てたくろねこは、刀を構えて容赦なくそのコートを斬り捨てた。
「おい!?」
斬り捨てられたコートがただの布となり、巻きやすい長さと形になって地面に落ちる。
「え、どうせこんなにボロボロなら、今後の治療のための布にしたほうがいいでしょ」
「だからってお前な・・・・」
コートを脱いだくろねこは、黒のボディスーツに身を包んでおり、スタイルがしっかりと見える服装になっていた。
ナミ達よりも筋肉質な腕や足。
うっすらと割れた腹筋。
全体的にスタイルがいいというより、無駄なく引き締まっている体。
思わずマジマジと見てしまったゾロはナミ達からの視線に気づき、慌てて顔を逸らす。
「くろねこ、アンタ思ってた以上に筋肉ついてるわね~?」
「え?そう?・・・あはは!ちょっと!くすぐったいよ・・・!」
ナミの腕が、ゆっくりとくろねこのお腹に回る。
悪戯な視線に気づいたゾロは、やっぱり地獄に落ちるぞこの女・・・と呟きながら舌打ちした。
割れた腹筋をなぞり、腰のくびれに手を回し、引き締まった二の腕を握る。
女同士なら何も問題ない行動にゾロはなるべくそれを見ないようにするが、トドメとばかりにナミがとった行動に響いた悲鳴には、思わず反応するしかなかった。
「・・・・これ、スーツで押しつぶしてるだけで結構あるわよね?」
「にぎゃーーーーーー!?」
容赦なく降ろされた胸元のファスナー。
露になる、ナミほどではないがふくよかな谷間。
体を圧迫するタイプのボディスーツは戦闘において抵抗を少なくするためのもの。
そのため、女性の胸もある程度押さえつけるようになっているのだが、それに気づいたナミがそのファスナーを容赦なく下げたのだ。
「なななななななにすんのぉ!!???」
涙目で叫びながら急いでファスナーを上げるくろねこは、鼻血を流しながら倒れているサンジを冷たい目で見下ろした。
「変態・・・・!」
走り去っていくくろねこの背中を見ながら、ナミが舌を出して笑う。
「だってよ、ゾロ」
「はァ!?俺は見てねぇだろうが!??」
「見たかったくせにぃ」
「このクソアマッ・・・・!!!」
ナミの言葉が頭の中でこだまする。
見たかった?
んなわけがない。
そんなことに現を抜かす時間はない。
――――その、はず。
「ッ・・・・」
一瞬だけ見てしまった。
外から見たよりも大きな胸元。
傷だらけの肌。
真っ赤になった顔。今までにないほど慌てた表情。
「(もっと、見たかったと思っちまった)」
そしてできれば、誰も知らない表情を――――。
「ッ!!!!」
「うわ!びっくりした!!何!?」
「・・・・なんでもねぇ」
妙な気分になってしまったゾロは、勢いよく立ち上がると感情を振り切るように歩き出した。
今自分がどんな顔をしているかも、知らないまま。
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