いらっしゃいませ!
名前変更所
約束のニ年が経つまで後少し。
時がくればくろねこやゾロはルフィと合流するためにこの島を出る。
それは、二年前から決まっていたこと。
「やっほー、ミホーク」
その時を目の前に、くろねこはミホークを城から離れた森に呼び出していた。
砕けた口調にしては真剣な眼差しを向けてくるくろねこに、ミホークはあえて口を開かない。岩に腰掛け、次の一言を待つ。その見透かしたような態度にくろねこは思わず苦笑してしまう。
「何だか、全部分かってるって感じだね」
「余計な言葉はいらん」
「そうだね・・・・それじゃあ、ミホーク」
私と、本気で戦ってください。
5.問答無用の強奪劇
別に、いつもが不真面目なわけではない。
だけど本気で剣を交えれば殺し合いになる。
お互いの実力をわかっているからこその一線。
このニ年それを超えなかったくろねこからの提案に、ミホークは無言で黒刀を抜いた。
「いいのか?出発は二週間後だろう」
「ここで二週間後出発できなくなるぐらい重症になるなら、私はまだまだ弱いってだけだよ」
「・・・・お前らしい」
「それよりも、やっぱり・・・どれだけ大剣豪に近づいたか、知りたい」
するりと刀を抜くくろねこから淡い覇気が放たれ始める。
彼女の持つ刀は覇気を強制的に食い続ける妖刀だ。
その力に身を任せれば、常人ならあっという間に覇気を使い尽くし、命を落とすだろう。
だが、くろねこは違う。
―――――白桜。
名前の通り、美しい白の覇気を漂わせる妖刀。
「・・・・行くぞ」
「よろしくお願いします」
刀と刀がぶつかり合う。
たったそれだけで二人の立っていた場所の周りが全て砕け散った。
誰もがただ事ではないと目を向けるであろう轟音。
迸る光。弾け飛ぶ木々。
城にいたゾロやペローナも例外ではなく、その音に導かれるようにして城を飛び出した。
その間にも音と光は続いており、えぐれていく森からその発生源を突き止めることは方向音痴のゾロでも容易なことだった。
「あれは・・・・・」
轟音の発生源にたどり着いたゾロは、その場所を丘から見下ろす。
とばっちりを食らわない距離から見下ろしているとはいえ、殺気や覇気はびりびりと伝わってきていた。その中心にいるくろねこの表情を見て、ゾロは思わず息を呑む。
―――――あんな真剣なくろねこ、初めて見る。
戦闘中もどこか楽しそうにしていたり、真面目になりきれないのがくろねこのイメージだった。
それでいて、根は真面目だということは誰もが知っている。
だから誰も何も言わなかったのだが、そのくろねこがここまで冷たい瞳をしているのを見て、ゾロはこの戦いが本気の殺し合いであることを感じ取っていた。
「ッ・・・・」
居合の構えから踏み込んだ高速の斬撃を、ミホークは最低限の動きで受け止める。
しかし、そこから反撃にいたるほど余裕でもなかったようだ。
体勢を整えるために距離を置く選択肢を取ったミホークをすかさず追いかけるくろねこの動きは、今のゾロですら追えないほど素早い。
懐に飛び込み、長刀である夜が使いづらい間合いを保つ。
もちろんそれを許し続けるほど、ミホークも甘くない。
「次は俺の間合いに付き合ってもらおうか」
「させない・・・・ッ!!!!」
間合いを離すために緑色の斬撃を放つのを見て、くろねこはそれを受け止めるのではなく避ける方に動いた。受け止めればその威力によって間合いを離されるのは目に見えているからだ。
だが、それが簡単に行く相手なら、大剣豪と呼ばれるほどにはなっていない。
「ッ、ぅ、あ!?」
くろねこの動きを読むように振りかざされた剣に、くろねこは仕方なく距離を取った。
ものの見事に間合いを離されたくろねこは、ミホークの有利な間合いに付き合わされることになる。刀身が細く、短い刀では、ミホークの攻撃を受け続ければ体力が消耗していくのはゾロの目から見ても明白だった。
ここから、どうするか。
舞うように刀を振るう二人は、まるで踊っているようだ。
何も知らない人が見ればこれを美しいと表現する人もいるのかもしれない。
刀がぶつかる音。
桜のように瞬く覇気の色。
吹き飛んでいく森と、逃げ出す鳥たち。
拮抗する戦いは想像以上に動き出さない。
「っ・・・・・」
「フッ・・・そろそろ、本気か?」
「・・・・そうだね」
まるで今が本気でないと言っているようなミホークの挑発にくろねこが笑みを浮かべる。
「本気で、行くよ・・・・!!!」
今でも異常なほど放出されている覇気の色が色濃く変わった。
見ているだけでも気に当てられそうなその覇気に、ゾロはこの戦いを見逃さないようにと真剣に目を見開く。
「ッ・・・・」
ミホークの表情が、歪む。
それもそのはず。
今までの攻撃よりも遥かに速度を上げた斬撃の数々は、速度だけでなく攻撃力も増していた。あのミホークすらも押し込む攻撃力。
これが、くろねこの本気。
―――――だが。
「長くは続かねぇだろ、あれは・・・・」
大量に放出され続ける覇気は確実にくろねこの体力を削り取っている。
今までも普通の人からは考えられないほどの覇気を纏っていたというのに、それ以上を放出して維持し続けるなんて、無理な話だ。
「あぁああぁッ!!!」
「っ・・・・!?」
全力の叫び。
ミホークが突き出した剣を自らの刀で滑らせて弾いたくろねこが、ミホークの名前を叫びながら踏み込む。
「ミホークッ!!!!」
地面に突き刺さる、黒刀。
落ちる血。
立ち上る砂埃の中、ミホークは微動だにせず立ち尽くしていた。
視線だけを微かに動かし、自分の頬に走った一線の傷を手で拭う。
確実にミホークを捉えたように思えた刀は、ミホークの頬の横で止まっていた。
苦しげに汗を流しながら目を細めるくろねこが、悔しげに呟く。
「あはは・・・・時間切れ」
くろねこの体から、覇気が消える。
一気に崩れ落ちたその体をミホークが優しく受け止めた。
「・・・・もし覇気が残っていれば、俺は確実に斬られていた」
「よく言うよ、私が覇気を使い切るの分かってて動かなかったくせに」
悔しげなつぶやきに、ミホークの手がくろねこの頭に伸びる。
「・・・・・」
その光景にはゾロも驚きを隠せなかった。
ミホークが、くろねこの頭を撫でている。
まるで娘を褒めるように。
でもその表情は娘を見るというよりも、もっと愛しいものを見るような目で。
「一つ、聞く」
「・・・・うん」
「何故復讐を選ばなかった。お前のその力なら容易なことだろう」
ミホークの質問に、くろねこが笑う。
「そんなの決まってる。面白くないからだよ」
震える手から、刀が落ちる。
「私のこの力は、そんなもののために得たものじゃない。この力は両親が、ミホークが・・・・私に、人生を楽しむためにくれたもの。・・・・復讐なんてそんなものに無駄に使うなんて、怒られちゃう。それに――――」
「・・・・?」
「ただ殺すなんて生ぬるい。あいつらは一生、いつ私に殺されるか、盗まれるか・・・・怯えながら暮せばいい。そのために私は、世界一の義賊になる」
この世界は、汚い。
海軍や天竜人だからといって善人に位置するわけではない。
むしろ権力を持つからこそ、正義を偽って好き勝手している人間がいるのだ。
そんな人間さえも狙う義賊。
くろねこが力をつければつけるほど、正義の中にいる悪人は震えて眠ることになる。
それこそが最高の復讐じゃない?と笑うくろねこは、心の底から楽しそうだ。
「ミホークを倒せたら、もっと義賊として名が売れたのになぁ」
「・・・・そうか」
眠そうなくろねこが、うとうとと目を閉じていく。
「・・・ありがと、ミホーク」
拾って、くれて。
呟いて意識を手放したくろねこを、ミホークは自分の胸元に抱き寄せた。
静かに頭を撫で、それからくろねこの顔を真っ直ぐ見つめる。
「・・・・お前を拾えて良かった」
その瞬間、ゾロは咄嗟に地面を蹴ってミホークの目の前に飛び出していた。
ミホークが何をするのか、なんとなく分かったのだ。
それは剣士の勘じゃない。
男としての、勘だ。
「ッ、くろねこは、俺のだ」
今までにないほど慌てた表情でミホークの腕からくろねこを引っ張ったゾロは、それでも表情を崩さないミホークを睨みつける。
「・・・・前言撤回だ、ロロノア」
「あ?」
「次会う時、俺はお前に言った言葉を忘れているだろう」
何、とは言わない。
だがその言葉が何を指しているのか、ゾロは嫌でも分かってしまった。
―――――俺はくろねこに特別な感情はない。
それは、この城に住み始めて初期に言われた言葉。
彼が撤回したのは、きっとその言葉。
「・・・・させるかよ」
「俺も海賊だ。・・・・欲しいものは近づくでも手に入れる、かもしれんな」
何が、かもしれないだ。
確実に’そうする’と宣言しているとしか思えないミホークの気迫に、ゾロは殺気だった瞳で睨みつけた。もちろん、そんな気迫が彼に通用するはずもないことは知っている。
それでもゾロは、ミホークが背を向けて立ち去るまでずっとその視線を彼に送り続けた。
「・・・・ぜってぇ、渡さねぇ」
強くなる理由が増えた重みをその腕に抱きながら、ゾロはこの島を早く出ることを決めた。
◆◆◆
「あのー・・・ゾロさん?」
「あ?」
「なんでそんなに不機嫌マックスなん・・・・です?」
戦いの後から記憶のないくろねこは、目を開けたら不機嫌なゾロにベッドで抱きしめられており、身動きがとれない状態になっていた。
何が起こったのかは分からないが、後ろのゾロが不機嫌なことだけは分かる。
軽くもがいてみてもお腹に回る腕が解かれることはなかった。
背中に感じるゾロの不機嫌と熱を受け止めながら、くろねこはうーんと首を傾げる。
まったくもって、身に覚えがない。
記憶にあるのは全力でミホークを斬るつもりで戦ったこと。
そしてギリギリで力尽きたこと。
「えっと・・・ゾロ・・・・?」
居心地の悪さに再度ゾロの名前を呼ぶと、ゾロが耳元でとんでもない事を口にした。
「・・・・早めにここを出る。出発は明日だ」
「へ!?明日!!?に、ニ週間あるんじゃなかった!?」
「あのゴースト女に案内は任せてある」
「え、いや、そういう問題じゃ・・・?」
予定の日程よりも明らかに早い旅立ち。
そんなに早く行ったところで、まだ皆いないのでは?という疑問を飲み込んで、理由を尋ねる。
「な、なんでそんな早く?なんかあったの?」
「あった」
「さ・・・・差し支えなければ聞きたいなぁ?」
「・・・・・・・」
言葉の代わりに腹部に回るゾロの腕が強まった。
表情は見えない。
言葉も、ない。
でもとことん不機嫌だってことだけは分かる。
ペローナと喧嘩したなら、案内をペローナが引き受けることはないだろう。
と、すると、考えられる理由は一つ。
「ミホークと、何かあった?」
その名前にゾロが分かりやすく不機嫌になり、首筋にチクリとした痛みが走った。
「っ・・・・」
「その名前、二度と俺の前で口にすんな」
「そ、そこまで・・・!?」
なんたってそこまで!?
確かに修行期間はもう終わりだ。
あとはニ週間、体を休めたり基本の鍛錬をして皆と合流をするつもりではあった。
元々師匠や弟子の関係として尊敬し合う仲ではなかったとはいえ――――ここまでピリつくのは絶対に普通じゃない。
何か合ったのは間違いなさそうだが、その理由を話してくれないゾロに、くろねこはお腹に回るゾロの手を撫でることしかできなかった。
「ゾロ、どうしちゃったのさ?」
「・・・・・」
「じゃ、じゃあ出発は明日?」
「あぁ」
「・・・・分かった。今日は疲れてるし、このまま寝ちゃおう・・・・」
「あ?それは駄目だろ」
納得して目を瞑ろうとしたくろねこに、ゾロが覆いかぶさる。
「は?いやちょっとまって」
「待たねぇ」
「明日出発なら今日は休む必要がっ・・・・!」
「・・・・船に戻ったらこういうことしづらくなるだろうが」
ゾロの言い分はよく分かる。
よく分かるが、人間体力の限界というものがあるのも知っておいて貰わなければならない。
「わ、わかるんだけどね、ちょっと覇気を使いすぎてその・・・・」
「・・・どこか怪我してんのか?」
「しては・・・ないけど」
「ならいいだろ。お前の体力がそんなもんで尽きるわけねぇんだ」
ぎらつく魔獣の目がくろねこの言い訳を遮る。
その目から逃げられた例がない。仕方なく両手をあげて降参したくろねこは、ゾロの不器用なわがままを受け入れることにした。
「手加減するなら許したげよう」
「・・・・するわけねぇだろ」
まだ、苛ついた声。
お前は俺のものだろとばかりに強引に伸ばされる手を、くろねこは避けない。
口では何だかんだ言っていても、大人しく組み敷かれているのはYESの証拠。
それを知っているゾロは嬉しそうに、そして愛おしそうにくろねこを見つめてぺろりと舌なめずりをした。
問答無用の強奪劇
(何度も囁かれる独占の言葉に、くろねこは明日に不安を感じながら目を閉じた)
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サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
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★海賊 ハート泥棒
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