いらっしゃいませ!
名前変更所
全ての刀剣は黒刀に成り得る。
それを体得するまで禁酒を命じられたゾロは、日々強敵ヒヒを相手に剣を振るっていた。
体得するには戦いに身を置くのが一番手っ取り早い。
同じ修行をつけられた記憶があるくろねこは、そのスパルタぶりにミホークらしさを感じて納得していた。彼は手取り足取り教えるような丁寧な師匠じゃない。
ついてこれないならそれまで、と思えるような人間。
根は真面目なくせに。
彼は分かっている。
ロロノア・ゾロが本当の強き者になる剣士だと。
「相手になってやれ」
「はいはい」
3.禁酒のストレス
お互いが振りかざす脆い剣。
なまくらとも言えるその刀で打ち合って数分、ゾロが持つ剣が音を立てて砕け散った。
純粋な力比べであれば、くろねこよりゾロのほうが勝っている。
そのはずなのにくろねこの剣は刃こぼれ一つしていない。
ミホークの言葉を思い出し、未だ体得できない覇気に砕けたなまくらを投げ捨てる。
「ッくそ・・・!」
「十五分、いいかんじだね!」
「あァ??」
「褒めて伸ばそうと思ったのに、ゾロくんこわーい!」
「いらねぇ。さっさと次だ」
最初の頃から比べると、ゾロの刀もだいぶ保つようになってきていた。
最初は一振りで砕けていたのが、今では数分の戦いでも保つようになってきている。
無意識ではあるが段々とその力を物にしてきているのだろう。
くろねこは自身が持つなまくらから覇気を解くと、後ろにあったカゴの刀をどさどさと乱暴に地面に落とした。その数、ざっと百本。
「やっぱり人間、追い詰められると強くなるっていうじゃない?」
にんまり。
くろねこの意味ありげな深い笑みに、ゾロが目を細める。
「あ?」
くろねこは自身の服を指さしながら、更に笑みを深めた。
「これのお礼もしてあげないとって思ってたし・・・・」
くろねこがいま着ている服。
それは首元までレースがついた、いわゆるゴスロリ服だった。
この服を着るハメになった理由はゾロがよく知っている。禁酒のストレスでくろねこを抱き潰したゾロが、やめろと言ったにも関わらずくろねこが持つ服では見える位置にキスマークをつけたからだった。
仕方なくペローナに言って服を貸してもらったのは良いものの、勘の良いミホーク相手にそれを誤魔化せるものでもなく、真顔で「似合うぞ」とからかわれたのは今朝のこと。
「どんだけ恥ずかしかったか、分かる?」
「・・・・しょうがねぇだろ」
「開き直んなよ!!」
「っせぇ!大体、一緒に寝といて何もすんなってのが無理だろ!!」
「そ、そういう問題じゃない!つけんなって言ってんの!!」
「・・・・・するのはいいんだな?」
「っさいな!!!」
「は?おい、待っ・・・・!」
再び覇気を纏い、一閃。
くろねこの瞳が赤く光ったかと思うと、次の瞬間には慌てて構えたゾロのなまくらを粉々に砕く斬撃が撃ち出された。
今までの打ち合いとは確実に違う雰囲気。
殺気に満ち溢れたくろねこの瞳が、ゾロを睨みつける。
「殺す気でいくから、その刀が全部なくなるまでに体得してね」
「ッ・・・ハッ、なるほどな?手っ取り早い方法じゃねぇか」
「これ以上禁酒のストレスにつきあわされたんじゃ、私が死ぬッ!!」
ミホークはこうなることすら予測していたのだろうか。
そんなことを思いながら、くろねこは本気の斬撃をゾロに向かって撃ち出していった。
そのどれもが先程の剣を打ち合う戦いとはレベルが違う。本気で殺しにきているというのが分かるものばかりで、ゾロは必死になって刀を拾い、次々と刀を砕いていった。
「そんなんじゃ、すぐに百本なくなるよ!?」
「っぐあ・・・!?」
刀が砕け、よろけたところに峰打ちの斬撃。
峰打ちとは言え相当な威力を含んだ斬撃は、ゾロを容赦なくジメジメとした地面に叩きつけた。
そこに間髪を入れず追撃の体勢に入るくろねこを見て、さすがのゾロも手ぬぐいを頭に巻いて表情を変える。
「ッ・・・・!」
同じ刀とは思えない威力。
「三刀流――――牛針!」
激しく突き出される突きを、くろねこはたった一本の刀でいなしていく。
攻撃しているだけだというのに刃こぼれを起こし始める刀を見て、ゾロは思わず手を緩めた。
「なっ・・・・!」
だからといって、相手の攻撃が緩むわけではない。
ゾロは急いで元の場所に戻ると、落ちていた刀を三本拾い上げた。
このままでは、何本あっても同じことだ。
攻撃を受けても、攻撃をしても刀が壊れていく。
ゾロを追いかけて走ってきたくろねこは力強く刀を引き、次の斬撃の構えを取っていた。
「次は、峰打ちなんてしないよ」
また、一閃。
次の斬撃はゾロの剣を粉々に打ち砕いた後、ゾロの真横の地面を切り裂いた。
ぞくりとした寒気が走る。
ミホークに感じたあの殺気と同じ。
本気で、殺すつもりの攻撃。
細められた目が戦闘を楽しむ剣士の色に染まる。
「一刀流、飛龍火焔ッ!!!」
赤く、瞬いて、ほんの一瞬。
両手で構えた一刀で切り込んできたゾロの刀を、くろねこが片手で受け止める。
このまま打ち合えばゾロの刀のほうが先に折れる。そう予想して受け止め続けたくろねこは、ふと違和感を覚えて大きく後ろに飛び退った。
「・・・・・ったぁ~~!」
「油断、してんじゃねぇぞ・・・!」
手を痺れさせるほどの衝撃。
このたった数分で、ゾロの動きが変わった。
「さすが」
彼を見ていると、ゾクゾクする。
強い剣士を求める気持ちはくろねこも同じだ。
根っこにあるのは剣士としての戦闘本能。
強いやつと戦いたい。
剣を磨きたい。
強くなりたい。
「随分と楽しそうじゃねぇか」
「うん、ちょっと今・・・・最高にドキドキしてる」
何かきっかけがあれば、ゾロは一瞬で強くなる。
弱いやつを一方的に甚振ったところで何も面白くはない。戦いというのは拮抗しているからこそ面白いものがある。そう考えたくろねこは、ふと良いことを思いついたと手を叩いた。
「そうだ、ゾロ」
「あ?」
「もしこの残りの刀で、覇気を体得出来たら・・・・」
―――――なんでも、してあげる。
わざとらしい妖艶な笑み。
へぇ?と不敵に笑うゾロは、その賭けに乗ったとばかりに刀を構え直した。
後悔させてやろう。そういう賭けを餌にして人を弄ぶとどうなるのか。
ギラリと光る魔獣の目がくろねこを捉える。
くろねこはゾロの予想以上のスイッチの入りように慌てて真剣に刀を構えた。
◆◆◆
刀が、黒く染まる。
打ち付けた刀が吹き飛んでいくのを見たくろねこは、自分の首元に突きつけられた刀の色を見てごくりと喉を鳴らした。
やはり彼は、成る男だ。
近しいところまではいくのではと考えていたが、まさか本当に体得してしまうなんて。
油断して手を抜いて戦っていた、なんて言い訳は出来ない。
「予想外、だったか?」
「・・・・正直、びっくりした。さっきまで全然扱えない感じだったのに・・・・」
残りの刀はあと三本。
この勝負がどこまで白熱していたか分かる本数だ。
「これが、武装色の覇気・・・・」
黒く染まった刀を見つめながら呆然とした様子で呟くゾロに、くろねこは祝福を送った。
ただのなまくらさえも、武装色で覆ってしまえば強き刀となる。
これは、大きな成長の第一歩。
「応用すれば体の一部を硬化することだって出来るよ」
そう言いながら腕を武装色の覇気で覆うくろねこを見て、ゾロも見よう見まねで右手を黒く染めた。
ただのまぐれで発動したわけではないらしい。
感覚を掴んだら一瞬の彼は、自分の成長を感じたのか楽しそうに笑う。
「なるほどな、これなら確かに・・・・」
「ッおわ!!」
音を立てて勢いよく打ち付けられる拳。
慌てて刀を構えたくろねこの刀を粉々に打ち砕き、くろねこの耳元を通り過ぎる。
「あ、あぶ・・・・!」
「・・・・・」
光悦とした表情。
「これでようやく、一歩進めたってわけか・・・・!」
嬉しそうに自分の拳を握りしめるゾロは、刀を砕いたというのに傷一つついていない自分の腕をまじまじと見つめた。
ゾロの成長が楽しみなのはゾロ自身だけではない。
ミホークですら楽しみにしているだろう。彼が強き者として自分に再び刃を向ける日を。くろねことの勝負すらいつだって好戦的に受ける彼だ。
根っこにあるのは剣士としての戦闘本能。
そう、三人は似た者同士。
「で、だ」
「ん?」
「なんでもしてくれるんだよな?」
「そりゃ約束したから女に二言はないけど・・・まずはこれじゃない?」
じゃーん!と言いながら盛大にくろねこが取り出したのは酒だった。
波々と樽型のコップに注がれているワインを見て、ゾロが目を輝かせる。
「分かってるじゃねぇか」
「乾杯!」
コップをぶつけ合って、一気に酒を喉に通す。
久しぶりの酒は水よりもゾロの体に強く滲みた。
波々と注いであったそれを一気に飲み干すまで口を離さないゾロを見て、くろねこは苦笑する。
「っはーーー!うめぇ!」
「良かった良かった。ミホークもよく飲むから、城にもいっぱい用意してあるよ。夜ご飯はワインに合うやつにしようか?」
「気が利くじゃねぇか」
「もっと褒めてくれていいよ」
冗談を言い合いながら城へ戻ろうとするくろねこを、ゾロの腕が止める。
「待てよ」
「うん?」
「なんでもしてくれるんだろ?」
「・・・・今?何が望み?」
てっきりまた夜、部屋で強請られるとばかり思っていたくろねこは、足を止めてゾロを見上げた。
「何・・・すればいい?」
意地悪く笑うゾロが、良くないことを考えているのは聞かなくても分かることだ。
それでも剣士として約束は守る。男らしく――――いや、女らしく真正面にゾロを捉えてどんとこい!と構えたくろねこに、ゾロは自分の首筋を指さした。
「俺にもつけろよ」
「・・・・は?」
「お前のと同じやつだよ、分かるだろ?」
首元のフリルに隠れる、大量のキスマーク。
それを指さして笑うゾロは、それを自分にもつけろとくろねこが届きやすい位置までしゃがんだ。まったく意味が分からず首を傾げていたくろねこも、段々と色んな思考を得たのか、顔を引きつらせた。
「・・・・つ、つけるのはいいけど、隠れる場所でいいんだよね?」
「あ?駄目だろ。ここだここ」
「そこだと、み、見えるんだけど?」
「別に良いだろ」
「良くないんだけどッ!?」
ゾロの目的を理解したくろねこは、顔を真っ赤に染めて叫んだ。
こいつ、見せつけるつもりだ。
ゾロの服に首元が隠れるようなものはない。
むしろ首元や胸元は開けているものが多い。
そんな状態でキスマークなんてつければ、誰がつけたかなんて一瞬で分かる。
ゾロのことだ。そのままでミホークの前をうろうろするに決まってる。
―――――なんでつけてもつけられても、私が辱めを受けなきゃいけないんだ!?
そんなくろねこの心の叫びを知ってか知らずか、ゾロが笑みを深める。
「ま、俺をなめてあんな賭けしたてめぇが悪い」
「・・・・ぐ、なめてたわけじゃないよ。何かきっかけがあったらすぐ超えるんじゃないかなと思って景気づけに・・・・」
「・・・・・」
くろねこの言葉に、ゾロが無言で頭を撫でた。
知っている。
彼女は人の努力をからかうような人間じゃない。
冗談めいたあの言葉も、本気の応援よりも自然な言葉だったから選んだものだろう。勝負ごととなれば単純な応援よりも燃えるものがある。火をつけるにしてはベストなものだ。
「ま、でもそれはそれ、これはこれだよな」
だからといって、この状況を止めてやるつもりもない。
賭けは賭けだ。
そう言いたげな瞳に見下されたくろねこは、頬を膨らませながらゾロに近づいた。
「・・・せ、せめて、見えない場所じゃだめ・・・?」
「それじゃあ意味ねぇだろ」
「意味ないって・・・・」
やはり、見せつけるためのものか。
こんな意地悪い男に賭けなんて言うんじゃなかったと後悔してももう遅い。
逃げられないことを分かっているくろねこは、ゾロが晒す首筋にゆっくりと口づけた。
歯を当てながら力強く吸い付けば、ぴくりと跳ねるゾロの肩。
「っ・・・それじゃ、ちゃんとつかねぇよ」
「えー・・・い、痛く、ない?」
「大丈夫だ。・・・・お前もいつも大丈夫だろ?」
たしかにそうだけど、とも言えずに無言でもう一度吸い付く。
「んん」
「・・・・もう少し、強くていい」
「ん・・・・」
「ッ、つ」
「!ご、ごめ、痛かった!?」
ゾロの体がびくりと震えたのを見て、くろねこは慌てて口を離した。
首筋には何度か吸い付いた痕も含めてくっきりと赤い虫刺されのような痕がついている。
「ばっちりだな」
「~~~っ、ね、そのまま戻るの!?ふ、服で隠してよ・・・」
「生地がねぇんだから諦めろ」
「・・・・これ貸そうか?」
「それ貸したらお前が丸見えだぜ?」
「うぐぐ・・・・!」
回避策が、ない。
「諦めろ」
それはもう楽しそうに笑うゾロの顔を見て、くろねこは諦めのため息を吐いた。
禁酒のストレス
(彼がご機嫌な理由が、酒だけではないことをミホークは気づいている)
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