Erdbeere ~苺~ マーキングに首輪はいかが? 忍者ブログ
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2022年05月23日 (Mon)
剣豪/甘々/男女問わず人間たらしなヒロインに嫉妬する話


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どうしてこうも、コイツの周りには人が集まるんだ?

船の中では一番でかい賞金首である義賊くろねこは、ログ収集のために訪れた島でのんびりと買い物をしていた。別々の目的で町に降りたゾロがその姿を見かけた時、彼女は町の人々に囲まれて笑っていた。

くろねこは賞金首だ。

だが、義賊でもある。

悪いやつから金を盗み、善人にはそれを配る。
もちろんそれを汚い金だと嫌う人間もいるが、この世の中では海賊よりは好かれている部類だろう。

―――――にしても、だ。


「・・・・人、集まりすぎだろ」




マーキングに首輪はいかが?







賑やかな町。

そして、農業が盛んな町。

物価も安く、人も優しい素敵な所だ。
ログを貯めるまで数日泊まるには最高の環境だった。

ロロノア・ゾロであることを認識しながらも、町の人々は優しく道を教えてくれる。この町の人間は情報や先入観に囚われた判断をしないらしい。穏やかな田舎町といったところだろうか。


「ん?・・・何だ、ありゃ」


あらかた用事も終わり、町をふらついていたゾロの目に飛び込んできたのは、商店が集まる通りに出来た不自然な人集りだった。

ゆっくりと近づいてその中心を見れば、くろねことその両手を掴んで楽しそうに笑う子どもたちの姿が飛び込んでくる。特に用はないのだが、あまりにも楽しそうに笑っているため、気になったゾロはその集団に近づいていった。


「お姉ちゃん、さっきはありがとう!」
「ん?・・・あぁ、さっき薬草買ってた子?ちゃんと親に届けられた?」
「うん!ばっちりだった!・・・・まさか、お使い途中に、お金取られちゃうなんて・・・・」
「あ、それだけど・・・・はい。取り返してきた分」
「え!?」


一人の少女がくろねこに向かって頭を下げる中、くろねこは優しい笑みを浮かべて布袋を取り出した。会話の流れから察するに、お使い途中の子供が取られたお金だろう。

子供はそれを受け取ると、一瞬ぽかんとした後に急いで布袋を開いてお金を取り出そうとした。


「そ、それなら、代わりに買ってもらった分のお金・・・!」
「いいよ。それはお姉さんのおごり。・・・・親御さん、早く元気になるといいね」
「本当にありがとうねくろねこさん!さっきは荷物運びまで手伝って貰っちゃって・・・」
「ここに買い物にくるついでだったから気にしないで」


くろねこを囲む人たちが、次々とお礼を口にしている。

善人的活動。
彼女はそれをどの町でもやっている。

それは町の人に気に入られて情報を得るために仕方なくと言っていたような記憶があるが、見ている限りそうでもないのだろう。ごく自然に困った人を見かけては手を差し伸べているところを何度も見ている。

普通は賞金首に優しくされれば裏を疑うのだろうが、くろねこにはそれを感じさせない自然さがある。海賊ではなく、義賊というところもあるのだろうが。


くろねこさんって、手配書通り綺麗でかっこいいねぇ」
「あらあら、お上手!そんなこと言われたらお兄さんのお店から買うしかないじゃん?」
くろねこさん、俺のところでも買ってってよ!」
「駄目よ。私のところで買うのよ~!?」


お店の男がくろねこに手を伸ばし、わざとらしくその手に触れるのを見て、ゾロは無意識に刀に手を伸ばした。


「なぁくろねこさん、今夜予定は?もしよかったら俺と・・・」
「ごめんね、私仲間と合流しないといけないから」
「えー!じゃあ私のお店でおしゃれしていかない?」
「うーん、私あんまり洋服詳しくなくて・・・・」
「じゃあ私がコーディネートしてあげるから!ね!?」
「え、あ、ちょっと!?」


今すぐくろねこを回収してしまおうか悩んでいる間に、くろねこが洋服屋に連れ込まれていった。仕方なく刀から手を離し、くろねこが出てくるのをコソコソと建物の陰で待つ。

しばらくして出てきたくろねこは、いつもの黒コートとは違い、可愛らしい花がらのワンピースを纏っていた。腰に下がる物々しい刀さえなければ、街人の一人として溶け込んでいただろう。


・・・・それにしても、新鮮な姿だ。


戦闘重視でふわふわとした服を着ないくろねこの、貴重なワンピース姿。

素直に、可愛いと思えた。

そして同時に、それを真っ先に自分よりも近くで見ている町の男たちに殺意が湧いた。やっぱり今すぐ回収してやろうと足を一歩踏み出したところで、後ろから聞き慣れた声が投げかけられる。


「あら、剣士さん。観察?」
「ッ・・・・!」


ロビンの声に悲鳴を上げそうになって、何とか踏みとどまった。
楽しそうにゾロとその視線の先を交互に見つめるロビンは、くすくすと余裕の笑みを浮かべている。その視線に居心地の悪さを感じたゾロは、チッと舌打ちしながら視線を逸した。


「相変わらずモテモテね、貴方の彼女さんは」
「・・・・そうみてぇだな」
「あら、何だか可愛い服を着てるわね」
「・・・・」
「ふふっ。そんなに不機嫌にならなくても、彼女は貴方にぞっこんよ?」
「あァ?」


再びくろねこの方に視線を向けると、たくさんの荷物を抱えたくろねこが一つのお店の前で真剣な表情を浮かべていた。


「あれは・・・酒か?」


くろねこは酒には強いが、あまり飲むことはしない。
そのくろねこが足を止めて真剣に睨みつけている酒は、どちらかというとくろねこではなくゾロが好みそうな殺風景な瓶だった。


「ね、これ味見させて」
「いいけど・・・これ、結構度も強いし、辛めの酒だよ。酒好きが好む感じだけど大丈夫かい?」
「それがいいの。プレゼントだから」
「へぇ・・・・なんだい、くろねこちゃん。やっぱり男いんのか?」
「やっぱりって素敵な褒め言葉してくれるね。お礼に何本か買って帰ろうかな?」


店員と楽しそうに話しながら、注がれた酒を一口含む。


「んー・・・ゾロにはちょっと甘いかも。もう少し辛いのある?高くても大丈夫、お金はあるから」
「太っ腹だねぇ。それじゃあ・・・こいつはどうだい?」


くろねこの言葉に店員が奥の棚から高級そうなガラス瓶を取り出した。
遠目で見ていても分かるほど美しい輝きを放つ瓶に、ロビンも感心の声を上げる。


「あら、とても良い工芸品ね。あの中に入れられているなんて、さぞお高いお酒でしょうね」


わざとらしいロビンの言い回しにゾロの眉間のシワが深まった。

そんな二人の会話に気づいていないくろねこは、美しいガラス瓶から注がれたお酒の香りをかいで目を輝かせていた。小さなコップに注がれたそれを一口飲んだ瞬間、これ!と嬉しそうにはしゃぎだす。


「これこれ!これ絶対ゾロ大好きだー!ねね、このタイプのお酒他にまだある?」
「あるにはあるけど・・・・くろねこちゃん、一応これ、1本10万ぐらいする・・・・」
「ある分だけちょーだい!長旅には贅沢も必要だからさ!」


懐からずっしりと重たい袋を取り出したくろねこは、嫌味なくそのお金を全部店員の男に手渡した。


「・・・・こんなにかい?だいぶ余っちまうよ。待ってな、いまお釣りを・・・・」
「あ、いらないよ。看板品買い占めちゃうお詫びで受け取っといて」
「こりゃ気前のいい義賊さんだな。・・・・噂通りってことかい」
「悪者のお金は美味しく使わないとね?・・・大丈夫、安心して。絶対足はつかないから」


くすりと悪戯に笑ってウインクするくろねこを見て、店員の男が頬を染める。

自分のためにお酒を吟味し、買っている姿は嬉しいものがあった。
そのはずなのに、今はそんなくろねこを目の前に頬を染めている男が気に食わない感情のほうが勝っている。

苛立ちに勝てなかったゾロは、からかうように笑ったままのロビンを一瞥した後、わざとらしく大きな足音を立てながらくろねこに近づいた。足音に気づいたくろねこが綺麗な瓶が入った袋を抱えながらゾロを見つけて微笑む。


「あ!ちょうどいいところに!ゾロ~!見てみて!ゾロが好きそうなお酒、いっぱい買ったよ!」
「・・・・あぁ。俺のために選んでくれたのか?わりぃな」


わざとらしく、“自分のため“であることを強調する物言いに、見届けていたロビンが笑ったことは言うまでもなかった。

店員も牽制されていることに気づいたのだろう。
文句を言いたくとも、ゾロの気迫に押された店員は何も言わずお客さん向けの笑みを貼り付けたまま。そこにさらに追い打ちをかけるように、くろねこを自然な流れで抱き寄せたゾロは、そのまま瓶の入った荷物を奪った。


「持ってやるよ」
「え、いいのに。ゾロもまだ買い物するんじゃないの?」
「良いんだよ。オラ、さっさと帰るぞ」
「うん?・・・・お兄さん、ありがとねー!!またいつか会うときに感想教えるー!!」


完全な敗北を喫した店員は、無邪気な笑みを浮かべて手を振るくろねこの笑みを、甘い一つの思い出として心の中にしまった。




◆◆◆





船舶させた近くにある丘の上で、ゾロは月夜に輝く美しいガラス瓶を揺らしながら、舌を滑らかに通り過ぎる美味しい酒の味に酔いしれていた。

高級な酒とはよく言ったものだ。
確かに鼻を抜ける香りも、喉に来る酒の強さも、普段飲んでいる酒とはまったく違う。

その酒を買った張本人は酒も飲まずにゾロの隣で楽しそうに海を見つめていた。海に反射する月夜に見惚れる彼女の横顔をつまみに、もう一度酒を口に含む。


「飲まねぇのか?」
「私は甘いお酒が好きなのー」
「買ってくれば良かったじゃねぇか」
「・・・・私はゾロが美味しそうに飲んでるのを見るだけで満足!」


照れくさそうに誤魔化し笑いを浮かべるくろねこは、まだあのときのワンピースを着ていた。そのせいか少し、いつもより仕草が女性らしい。

傷は多くとも、見える首筋は色っぽい。
しっかり筋肉のついた腕は剣士としての努力の賜物だろう。
そしてゆるい胸元から見える程よい胸元。

伸びた足。
無邪気に緩む頬。

酒が、進まない訳がない。


「・・・・・」
「?ど、どうしたの?そんな私ばっか見てないで月見ようよ。月見酒だよ?」


呆れた顔で首を傾げるくろねこは、本当に呑気だ。
人の気も知らないでと怒りを込めて無理やり抱き寄せる。


「っわ」
「今日も随分と色んな奴らに囲まれてたな」
「え、見てたの?お陰様で、色んな情報ゲット出来たよ。義賊の役得だねぇ」
「あ?」
「え?」


義賊の役得。

その言葉に酒を飲む手を止めたゾロに、くろねこが本気で不思議そうな顔をする。


「え・・・?なんか変なこと言った?」
「お前、本当に義賊ってだけで皆が優しくしてくれてると思ってんのか?」
「海賊よりは優しくしやすいでしょ。黙ってれば悪者からの金を流してくれるんだから」
「そりゃそうだがな・・・・はぁ、無自覚かよ。たちわりぃ」


酒が入って緩んだ理性がゾロの行動に拍車をかけた。

ゾロは戸惑うくろねこを抱え込むように胡座の上に乗せると、月夜に晒された首筋に思いっきり噛みついた。痛みに悲鳴を上げるその声すら、理性を揺らがす材料にしかならない。

しばらく甘噛みを続けた後、その痕を労るように舌を這わせる。
悲鳴が甘みを帯びた吐息に変わるのを感じながら、見える首筋を埋めるように痕をつけていく。


「っ、ぁ、ちょっと」
「逃げんな」
「い、いきなりこんなことされたら逃げるでしょ普通!」
「うるせぇ。目を離せば色んな奴らに好かれやがって。気に食わねェ」
「あうっ」
「お前は俺のモンだろうが」


横暴オブ横暴とはまさにこのこと。
乱暴な物言いに乱暴な噛みつきを受け、くろねこは腕の中で騒ぐことしか出来ない。


「う~・・・あんまりやると、痕消えないってばぁ・・・」
「良いんだよ消えなくて。それとも俺のモンだって分かる首輪でもつけてやろうか?」
「・・・・ゾロってそんな独占欲強かったっけ」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど」
「ならいいだろうが」
「無茶苦茶だなぁ・・・」


甘噛みに慣れてきたくろねこは、噛みつかれながら月夜を見上げる。

こんな綺麗な月の下で、私は何をされているんだろうか。
後ろから漂う強いお酒の香りが、飲んでもいないくろねこさえも酔わせる。

そう、全てはお酒のせいだ。この美味しすぎるお酒のせい。珍しいゾロもきっと、酒に酔ったからこんなことをしているのだろう。

そしてそれは、きっと本心。
そしてそれに喜んでしまっている自分がいるのも、隠し通せない本心。


「首輪、つけてあげてもいーよ」


ゾロの顔を見るために首を上げると、ゾロの驚いた顔が目に入った。


「・・・・つけろって言った本人がなんでその顔してんの?」
「本当につけるって言い始めるとは思わねぇだろ」
「じゃあ前言撤回。もうつけない」


冗談だと囁いたゾロが拗ねて顔を逸したくろねこの首元を擦り、何かを取り出して首元に回す。何かが着く感触にくろねこは刀を抜いてその刃に自分の首元を反射させた。


「これ、首飾り?」
「首輪より良いだろ?」
「確かに」


エメラルド色の、まるでゾロを思わせるような色合いの宝石がついた首飾り。
首元で揺れる独特な重みに思わず微笑む。


「ありがとね」
「外すなよ。マーキングだからな」
「・・・・戦いの時も?」
「ったりめーだろ。そのために短めのやつ選んだんだ」
「・・・・そっか」


ぶっきらぼうで強引な言い草だが、用はプレゼントということだ。

ゾロからのプレゼントはかなり珍しい。
この旅の都合上、お互いに何かをあげるという機会は中々ないからだ。

それに、これはゾロがくろねこのためを思って選んだ首飾り。
嬉しくないわけがない。
ゾロの言う通り、独特な重みはあれど長さはなく、戦いにおいても邪魔にならないようになっていた。ゾロが慎重に選んでくれたからこそだろう。


「死ぬまで外さないから、安心して」
「――――ハッ。死ぬまで外させねぇから安心しろ」


月夜の明かりに隠せない赤色の頬を逸らすくろねこを、ゾロはそっと抱きしめた。相変わらずな強引な物言いも、首飾りという名の首輪に詰め込んで。そう、お前は、全部俺のモンだ。




マーキングに首輪はいかが?
(首輪じゃさすがに見た目がわりぃから、勘弁してやっただけだ)

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