いらっしゃいませ!
名前変更所
泣きすぎて、目が痛い。
今日がお休みで良かったと、胸を撫で下ろしながら顔を洗った。
ウォーゲームには、3日に1日休みがある。
それが今日、というわけだ。
すっかり腫れてしまった目をタオルで冷やし、私は昨日のことを思い出す。
「・・・・はぁ」
次の勝負にも出なくちゃいけないのに。
ドロシーにあんなこと言われたせいで、もの凄く気まずくなった。
でも、そんなことで戦いを抜けれる状況でも無い。
とりあえず今は、休みの日を利用して気分転換するのが先決だ。
そう思っていた私の目の前に、突如、黒い渦が現れる。
「へ?」
自分の部屋に渦。
謎の状況に私は戸惑い、その渦が膨らむのを無言で見ていた。
しばらくすると、黒い渦の中から一つの影が現れる。
見覚えのある影の形に頭が痛くなるのを感じ、深いため息を吐いた。
「・・・ファントム・・・」
そう、黒い影の正体はコイツ。
人の休みに現れるなんて、休みが潰れるフラグとしか思えない。
「・・・何の用?」
「あからさまに嫌そうな顔をしないで欲しいなぁ・・・」
「人の部屋にワープゾーンつなげたりするからでしょ?びっくりしたじゃない!」
「あはは、ごめん。でも少し、ナイトクラスは集合してほしいんだ」
「えー!」
「君はもう決まってるんだけどね・・・。他のナイトクラスは誰が4thに出るか、話し合いしなくちゃ」
「そういうことか・・・分かった、行くよ」
ファントムの手を取り、再度出現したワープゾーンに足を踏み入れる。
するとそこは見覚えのある玉座の間へと変化し、私以外のナイトメンバーも姿を現した。
話し合いっていうわりには、話し合いの雰囲気じゃないのがチェスの特徴。
キャンディスはファントムにハートを飛ばし、キメラやアッシュは話を聞こうともしていない。
そして私も同じく、話を聞く気などまったくなかった。
どうせ私に、選択肢など存在しないのは分かっていることだから。
「ふぁぁう・・・」
「眠そうだな、ラング」
「まだ寝たかったなぁ・・・」
「お前らしいじゃねぇか・・・ヒュヒュヒュッ・・・」
ハロウィンの横に並び、適当に腰かける。
「それじゃあ、次の4thバトルの事なんだけど・・・」
「次こそ私が出るっていってんだよォ!ギャハハハハハ!!」
ファントムの言葉を遮る、大きなダミ声。
ナイトクラスの一人、ラプンツェルのものだ。
すっかり居眠りモードに入ろうとしていた私は、その声に不快感だけを覚えて舌打ちをする。
正直、感じられる魔力はナイトクラスの誰よりも低い。
ファントムも困り果てたように苦笑するが、ラプンツェルはその口を閉ざそうとしなかった。
「殺したくて殺したくてウズくんだよォ!ファントムゥ・・・許しを頂戴!頂戴よぉ!!」
「うーん・・・でも、他に出たいって人もいてね・・・」
「知ったこっちゃないんだよォ!!なんなら邪魔する奴、全員ぶっ殺してやるよォ!ギャハハハハ!」
なら今すぐ、殺してあげようか?
なんて言ってあげたかったけど、絡まれるのがめんどくさくて我慢する。
大体、全員殺すってなんだ。
味方まで殺そうとする精神は、私の一番嫌いな性格の一つ。
イライラが隠せずに殺気立ち始めた私を、ハロウィンが笑いながら止めた。
「お前らしくねぇ表情すんなよ、ラング!ヒュヒュ・・・なんなら、俺がお前の相手になってやろうか?ラプンツェル」
睨み合うハロウィンとラプンツェルの間に、アッシュが呆れながら割り込む。
「まぁまぁ、仲間内でもめても仕方がない・・・」
「言ったら聞かぬやつじゃ。彼女の好きにさせようかのォ・・・・」
ウィザールの爺ちゃんまでああ言うんだから、本当に手に負えない奴みたいだ。
許可を貰えたラプンツェルはコートを脱ぎ、その喜びを露わにする。
ああもう、うるさい。本当にうるさい。
「4thバトルは私のものさ!!ギャハハハハ!絶頂しちゃうよォーっ!!!!」
コートの中から現れた、金髪のドリル頭。
鋭い爪。牙の様に伸びた歯。
SM女王を思わせる、露出多めの赤い服。
その全てが気に食わない私は、力の限り拳を握りしめた。
隣に居たハロウィンが、そんな私を笑い、囁く。
「良い性格になったなぁ、お前も」
「・・・それ、褒めてる?」
「あぁ、もちろんな・・・ヒュヒュ・・・」
「絶対馬鹿にして・・・ん?」
ファントムの方に目を向けると、何故かその後ろに居たペタと目が合った。
しばらくボーッとペタを見続ける私に対し、ペタが面白そうに瞳を細める。
その間、私が思っていたことは本当にくだらないことで。
良く見るとイケメンだとか、吸血鬼っぽいとか。
まぁ実際、吸血鬼みたいなもんだけどね。
コイツの使うアーム・・・ブラッド・スィリンジは。
「どうした?ラング。私に何か言いたいことでも?」
笑みを浮かべるペタに、今考えていたことを答える。
「ううん。別に・・・。なんかペタって吸血鬼っぽいなぁって思っただけ?」
「・・・話し合い中に、そんなことを考えていたのか?貴様」
「え、あ、いや、その・・・」
さすがファントムに忠実なしもべだ。
ファントムの話を聞いてないと分かった瞬間、ペタの殺気が一気に私へと向けられる。
私は慌てて首を振り、今放った言葉への弁解を述べた。
このままじゃ、私があの吸血アームの餌食になってしまう。
「ち、違うよペタ!今ふと思いついたっていうか・・・!ほんと!話し合いはちゃんと参加してたわよ?」
「・・・・」
「うわぁああああ無言でアームこっち向けないで!まだ死にたくないって!」
ペタの得意アーム、ブラッド・スィリンジ。
相手の血、というか魔力と生命力を吸う、吸血鬼のようなアームだ。
あれにだけはやられたくない。
相当痛いという噂だから。
「駄目だよペタ。ラングをいじめすぎちゃ」
本気で私にアームを掛けようとしているペタを、見かねたファントムが止める。
「・・・すみません、ファントム」
「~~~~っ!もう!私明日もあるから、休ませてもらうわ。キメラ、行こう!」
「・・・・」
その場に立っていたキメラを引っ張り、私はさっさとファントムの部屋から出た。
もう、なんなのアイツら!
私を何歳だと思ってんのよ?
子供みたいにからかうなんて・・・!
「キメラ、せっかくの休日だし・・・ちょっと付き合ってくれない?」
「・・・好きにしろ」
キメラは文句を言う事も、私に着いてくることもせず、ただただ私の腕に引っ張られている。
前の大戦には居なかった、ナイトの一人。
いつもはゴツイ仮面をかぶっているが、その中身は女性。
残忍な性格、ではあるんだけど。
でもどこか優しいところもあるから、私は良くキメラに甘えていた。
「今日はどこへ連れて行くつもりだ?」
「ん?私の部屋よ!」
「・・・・」
「うわ、そんな雰囲気で嫌そうにしないでよ!ほら、美味しい紅茶出すから、ね?」
「・・・・はぁ」
ナイトに居る女性は、キメラ以外、癖が強いのが多すぎる。
キャンディスはファントム以外見えておらず、ラプンツェルは論外。
私が静かに紅茶を注ぐと、それを見ていたキメラが渋々仮面を外した。
ゴーストアームに犯された、毒々しい身体。
ギョロリとむき出しになった瞳が、髪の下から私を見ている。
「今日はポプラの実の紅茶だよ!」
私のその言葉に、無表情だったキメラが呆れた表情を浮かべた。
「・・・お前は飽きもせず、いつも色々持ってくるな」
「え、嫌?」
「嫌だったらお前を虫にしてでも帰ってるさ」
「・・・・い、嫌じゃなくて良かったです・・・」
それは冗談なのか、それとも。
聞いてもし、「本気だ」と言われたら怖いので、聞かないでおいた。
置いた紅茶を手に取り、砂糖を数個投げ込む。
ドロリと溶けた砂糖を見て、私は無意識にため息を吐いた。
「お前」
「ん?」
「最近ため息ばかり吐いているな。・・・鬱陶しい」
「え、ひど・・・!?」
「何より、お前らしくない」
え、それってもしかして。
「え、心配してくれるの?」
「さわぐな、うるさい」
「ありがとう!」
調子に乗って抱き着いた瞬間、キメラのアームが掲げられる。
恐ろしい得体のしれない形をしたそのアームに、身体中の血が一気に引いていくのを感じた。
そしてトドメは、低く放たれた一言。
「虫にするぞ」
「すみませんでした!!」
まだ、まだ人間として生きたいです。
わりと本気で謝りに入っている私を見て、無表情だったキメラがクスリと笑った。
こうやって見ると、普通の女性だ。
ゴーストアームに犯されている、ということ以外を除けば。
「キメラ・・・」
「・・・なんだ?」
どうして、ゴーストアームの使い手になったの?
聞きたかった。
でも私は寸前で口を閉ざし、誤魔化す。
「な、なんでもないよ」
聞いちゃいけないと、本能が告げた。
踏み込んではいけない領域だ、と。
「・・・お前は」
キメラが急に、私の肩を掴む。
その瞳はいつもより悲しげで、私は思わず息を呑んだ。
「お前は・・・」
「・・・キメラ?」
「お前は、私が・・・気持ち悪くないのか?」
「んえ?気持ち悪くないよ?」
ゴーストアームで変化する腕。
そのアーム達の影響で変化した、ボロボロの顔。
だけど私は、キメラの瞳が好きだった。
綺麗な瞳。
どこか悲しげな瞳。
「・・・お前はやっぱり変な奴だよ」
「え?」
「紅茶、美味しかった。今日はもう帰る」
「あ、う、うん・・・?」
「明日の勝負で負けるなよ、マヌケ顔」
キメラは最後に私を馬鹿にすると、仮面を着け直して帰って行った。
ってあれ、今、美味しかったって言ってたよね?
いつもは無言で帰って行くのに、美味しかったって言ってくれた。
しかも、負けるなよって言ってくれたし。
・・・何だか、頑張れそうな気がしてきた。
「よおおおし!明日も頑張るわよー!」
単純なのかもしれないけど、元気が出たのには変わりない。
私は明日の戦いに向けて準備するため、持っているアームを机の上に並べた。
さぁ、明日も頑張ろう。
私は私の目的を、果たすために。
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