Erdbeere ~苺~ 3話 懐かしいあなたと 忍者ブログ
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2012年11月04日 (Sun)
3話/ヒロイン視点

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ウォーゲーム、3thバトル。
場所は火山フィールド。

最悪なフィールドだ。
私は水と氷使い。熱い場所や火との相性は最悪。

そのこともあって、場所の下見をしたかった私は、遅刻したロランを放置して先に火山フィールドに来ていた。

メルメンバーはもちろんのこと、遅刻者なしで全員そろっている。


「・・・」


今日のバトルは6対6。
メンバーの中には、犬から目覚めたらしいアランが混ざっているのが見えた。

出来れば会いたくなかったなぁ。
これでもう、私は逃げられなくなってしまう。

たとえ戦う事は避けられても、顔を合わせることは避けられない。

私は戦いを決めたファントムを恨みつつ、岩陰からそっとメルメンバーを観察し続けた。


「アラン・・・確実に前より魔力が上がってる様な・・・」


ヴン。

上から鈍い音が聞こえたかと思うと、何かが迫ってくるのが見えた。
それは紛れもなく、今回のメンバーのロランで。

え?ロラン?


「うわあああ!退いてください!ラングさぁああああん!」
「はっ!?」


何この馬鹿。
馬鹿ロラン。

どうして私の上に降ってきて・・・!


「ごめんなさいいいいい!」
「んぎゃあああっ!!」


観察を続けていた私を襲った、上からの衝撃。
私の悲鳴に気づいたメルメンバーの視線が、一気に私とロランに移る。


「・・・何してんだ、アイツら」


呆れたようなギンタの声も、今の私には聞こえない。
私は降ってきたロランの首根っこを掴むと、ブンッと音が聞こえそうな勢いで投げ飛ばした。

投げ飛ばされたロランは、笑いながらもきちんと受身を取って立ち上がる。

あの顔でナイト実力者なんだから、油断できないったらありゃしない。


「酷いですよー!少し間違ってしまっただけじゃないですかぁ・・・」
「人の上に降ってくるアンダータなんて迷惑すぎるわ!」
「緊張してうまく制御できなくて・・・あははは」
「あははは・・・じゃないって!」


喧嘩する私たちを無視して、アランが一歩、チェスの方へ踏み出した。
その瞬間、一気に場の空気が緊張で凍る。

伝説の男、アラン。
ダンナさんが居ない今、メルでは最強の男といえるであろう存在。

メンバーの一人であるパノがげっそりした顔で私を見るが、私だってアイツの相手はごめんだ。

まだ、まだ、チェスに居なきゃいけない。
見せつけられた餌に、噛み付くまでは。

ファントムに1回ぐらい、ぎゃふんって言わせてやるんだから。


「おい・・・出てこねェのか?・・・・ラングよぉ」
「ッ・・・」


アランから発せられた、ラングという自分の名前。
懐かしいその名前に、アルヴィスが目を見開く。


「アランさん!?どういうことですか!」
「アルヴィスはまだ子供だったからな・・・あれだけじゃ分からなかっただろうが・・・。たとえわずかな魔力でも、俺を誤魔化すことはできねェ」
「・・・」
「レギンレイヴ城で会った時から、お前と会えるのを楽しみにしてたんだぜ・・・ラング


震える声。
ひしひしと打ち付ける魔力。

そこから感じ取れるのは、アランが静かに怒っているということだけ。


「・・・久しぶりだね、アラン。アルヴィス」
「そん、な・・・。どうして・・・!」


私はもう逃げられないと、覚悟を決めてコートを脱いだ。
悲しみに染まっていくアルヴィスの表情が、私の心を締め付ける。

6年前の私たちは味方だったのだから、当たり前の反応だ。
ガイラさんとの修行に明け暮れるアルヴィスを、よく慰めに行ったりした。

無理しちゃだめだよって、毎回声を掛けたっけ。


「どうしてなんですか!ラングさん!!」
「っ・・・アルヴィス・・・」
「何か理由があるんでしょう・・・!?」


何も、言えない。

何も、言わない。

無言を貫き通せば、アルヴィスが諦めたようにぐったりと膝から崩れ落ちた。
ギンタがそんなアルヴィスを見ながら、アランに私のことを尋ねる。


「なぁ、おっさん!あのコートの奴、おっさんの知り合いだったのか?」
「あぁ・・・」
「あの人は、エドの大切な人だって聞いたよ。6年前の大戦で、ずっとエドの背中を守ってくれてたんだって・・・」
「本当か、スノウ!?な、ならなんで、そんな人がチェスにいるんだ・・・!?」
「分からねェ・・・6年前に勝手に消えやがったからな。アイツは」


やっぱり怒ってるんだね、アラン。

チェスに入ったことを怒ってるの?
6年前、勝手に居なくなったことを怒ってるの?

・・・・いや、聞くまでもないよね。
全部に対して怒ってるんだ。アランは。


「なんでチェスなんかに入りやがった」


静かな怒りが込められた質問に、私はアランから目を逸らして答えた。


「・・・楽しい事させてくれるって言ったから。楽しい事、好きなんだもん」


アルヴィスの瞳が、また、絶望の色に染まる。
きっと城に居るガイラさんも、私を知っている昔の人達も、皆同じ表情をしているだろう。

だけどこれも、覚悟していたことの一つ。

どれだけ罵られようと、私は平気だ。


「楽しい事がしたいから、か?」
「うん!そう。アーム集めたり、色んなところ行ったり・・・」
「ハッ・・・」


鼻で笑われ、さすがの私もムッとした表情でアランを睨む。
だが、睨んだ先のアランは何故か嬉しそうに・・・・昔と同じ笑みを私に向けていた。


「左手首」


な、何?
左手首?なんでいきなり?

戸惑う私と皆を置いて、アランは得意げに言葉を続ける。


「そうやって、左手首を右手で掴むんだよな・・・お前は」
「は・・・?な、何言って・・・?」
「嘘吐くときの癖だ」
「な・・・!」


気づかされた時には、もう遅い。


「何十年てめェと一緒に居たと思ってやがる?ナメんなよ」
「っ・・・・」
「お前がそんな理由でチェスに入るような人間じゃねェことも、分かってる」
「う、うるさい・・・っ」
「俺を騙せると思うなよ、アホ野郎」


動揺が広がり、私から落ち着きを奪い取る。

私の知っているアランは、正義感が強い喧嘩馬鹿な男。
きっと今の私を見たら、真っ先に敵意を向けてくるとばかり思っていた。


なのに。

―――なのに。


アランは何かを見透かしたように笑みを浮かべ、私を追い詰める。


「何してやがったんだ?6年間」
「・・・・」
「チェスに入った本当の理由・・・あるんだろ」
「・・・・」
「言わねェならそれでもいい。ただ・・・」


“吐かせてやるから、覚悟しておけよ・・・ラング


「っ・・・!ア、アリババ!私の代わりに行ってよ!」
「ハァ!?なんだよお前、ビビってんのか?」
「良いから行ってよ!」


本気だった。
アランの瞳が、本気で私を捉えていた。

今の私じゃ、負けてしまう。


「ハッ・・・クズナイトだな、お前も。いいぜ!俺があんなポンコツ野郎、すぐにやっつけてやるからよ!」


アランに迷いはない。
私を無理矢理にでも連れ戻すつもりだ。

そんなの、駄目。

誰も巻き込みたくない。
私が悪役を演じることで平和への近道が作れるなら、それでいい。

でも、

正直、アランの言葉が・・・・嬉しかった。


「(私もまだまだ、甘いな・・・。)」


アリババ対アランの対決。
結果が丸分かりなその勝負を見ながら、私は大きく息を吸い込んだ。

勝とう。
皆のためにも、私はまだチェスに居る必要がある。


「やめてくれっ・・・!やめ・・・っ、うわぁあああああああ!!」


覚悟を決め、落ち着きを取り戻した私の耳に、アリババの悲鳴が響き渡った。


「勝者、アラン!」
「・・・あれ、アリババどこいったの?」
「ア、アンタ、見てなかったの・・・?」


すっとぼけた質問をする私を、パノがジト目で睨み付ける。

い、いや、見てたんだけどさ。
考え事してて集中してませんでした。とは言えず、私は無言でアランを見つめた。


「・・・アラン・・・・」


アラン、髪長くなったなぁ。
短い時より色気があって、好きかもしれない。

昔のアランのイメージは、単細胞馬鹿なイメージだったから。

といってもあの様子じゃ、今も喧嘩っぱやいのは変わってないみたいだけど。
むしろ前より、少しヤンチャになったんじゃないかな?


「・・・・ふふっ」


お互い、すっかり歳とっちゃったね。
私ももう、オバサンって言われる歳だもん。

まだアランは、私のことを好きでいてくれてるの?

だからそのフレイマリィを、リングを、つけているの?

6年間も、連絡を取らずに消えた私を。
アランは・・・・。





















「・・・と!ちょっと!」
「は、はいっ!どうしたの?パノ」
「あとはアンタだけよ?もう、ちゃんと見なさいよ!」
「え?あれ?ロランも戦ったの?」
「ええ。僕はなんとか勝ちました!」


あ、やばい。
感傷に浸っていたら、いつの間にか私の番まで回ってきていた。

ロランはどうやらアルヴィスと戦ったらしい。

となると、私の相手はあの魔女ということになる。


「じゃあ、ギンタン!行ってくるね!」
「気を付けろよ、ドロシー!」


ドロシー、か。
2thバトルで、容赦ない戦いを見せた魔女なのは覚えている。

そして私がホーリーアームを渡した時、警戒してみせたメンバーの一人。

強いのは分かる。
でも私だって負けられないんだ。


「よろしくね、ドロシー」


挨拶を交わして、ポズンの戦闘開始の合図を聞く。
“試合開始!”と言われても、私たちはお互いに動かなかった。


「アンタがラングねぇ・・・。アンタ、本当におっさんと幼馴染なの?」
「・・・?なんで?」
「あ、いや、ねぇ。だって、結構若く見えるから・・・かな?」
「ありがとう。でも私、39近いわ」
「なっ!?」

「「「「えええええーーーーー!?」」」」


一斉に叫ばれ、思わずビクッと肩が跳ねる。
バトルが始まったというのに、その場に緊張感なんてものは存在していない。

驚いた顔をしていないのは、私とアランとアルヴィスだけ。


「無茶苦茶可愛いっス・・・本当に39・・・なんスかね・・・」
「あぁ、そうだぜ。アイツは俺とそんなに変わらねぇ」
「なんか・・・その・・・全然そうは見えないよね・・・」


皆の視線が、痛い。
とりあえず、その、うん。戦おう。

視線から逃れるために選んだ手段。
それは、本来の目的であるバトルを始める事。


「い、行くよ!」
「やる気満々ね?あのオヤジの幼馴染とはいえ、手加減はしないわよ」
「構わないよ。・・・・手加減してる余裕なんて、無くなると思うから」


まずは手始めに、ウェポンアームを発動させて斬りかかる。

発動させたのは「フランベルジュ」という、衝撃波を出す力を持つレイピアだ。
それを手加減なしに振り回すが、さすがはドロシー。一切当たらない。

苛立ちまぎれに放った衝撃波も、ドロシーの風によって粉砕される。


「やるわね」
「そっちこそ!さってと・・・ドンドン行くよ!」
「っ!」


このフィールドは私の敵。
長期戦に持ち込まれれば、水と氷使いである私の体力は減り、圧倒的不利状況に持ち込まれる。

私はすぐにフランベルジュをしまうと、次のアームとしてネイチャーアーム「ウォルジェ」を取り出した。

一つの手がダメなら、留まらずに次々と次の手を出す。
長い時間戦うことが出来ない私の、単純で最大の作戦。


「ネイチャーアーム、ウォルジェ!」
「っ!きゃあっ!?」
「ドロシー!!」


ネイチャーアーム、ウォルジュ。
水の刃を無数に飛ばして攻撃する、単純な水属性のアームだ。

視界が埋まるほどの刃を生み出し、一気にドロシーへと向かわせる。
悲鳴を上げていたドロシーだったが、そのほとんどがゼピュロスブルームに相殺されていた。

やっぱり、強い。

でもまだまだ、私はやれる。


「水使いなのね。だったらこの環境・・・アンタにはきついんじゃない?」
「そうだね・・・。だから、すぐに終わらせてあげる!」


勝たなくちゃいけない。
その使命感から、身体に鞭を打つ。


「ガーディアンアーム、ペシュ!ネリィ!キャン!」
「・・・・え?」


発動させたのは3つのガーディアンアーム。
全て、別々に意思を持つガーディアンだ。

それを見たドロシーは目を見開き、他のメンバーも口をあんぐりと開けて呆けている。


「ガーディアンを3つも・・・!?アンタ、化け物!?」
「化け物?そんなに強くないよ・・・ほら、ペシュ、ネリィ、アリィ、準備はいい?」


犬耳の少年ペシュ。
オオカミ型の兄弟ガーディアン、ネリィとアリィ。

3人とも私を見るなり、嬉しそうに飛びついてきた。
まさか自分自身に飛びつかれると思っていなかったため、油断して思いっきり背中を打ち付ける。


「いだぁあぁあぁあ!」
「わんっ!マスターマスター!」
「久しぶりじゃねぇかマスター」
「呼び出すのがおせぇんだよー」
「わかっ・・・・分かった!分かったから退いてー!!」


3人を呼び出してるだけでも魔力の消費がやばいのに、こんなところで体力を使ってられない。
気を取り直して立ち上がった私は、3人に向かって命令を飛ばした。


「悪いけど、この環境辛いんだ・・・。あの技で終わらせてくれる?」
「「「りょーかい!!!」」」
「くっ・・・何するつもりよ・・・!でてきな、ブリキン!!」


警戒心丸出しのドロシーが、動けない私に向かってブリキンを発動させる。
もちろん、反撃してくることも想定済みだ。


「ペシュ!」
「任せるわんっ!」


ペシュに合図を送ると、凄い音を立ててブリキンが水に打ち上げられた。

そう、このガーディアン達は、全員水属性のガーディアン。
さすがのドロシーもこれには驚いたのか、一時的にその動きが止まる。

そんなドロシーを見逃すことなく、3人はドロシーの周りを取り囲んだ。
ドロシーが慌ててトトを発動させようとするのが見えたが、もう遅い。

この3人の技の前では、どんなガーディアンアームも無駄だから。


「行くよ!・・・セイレーンの抱擁!」
「わんわんっ!」
「「おうよ!!」」


技を発動させた瞬間、火口の火が消え、そこから水が噴き出した。
一気にドロシーの周りが海のような水域と化し、ドロシーを飲み込んでいく。

これが私の技、セイレーンの抱擁。
3人のガーディアンが使う水の技を一気に発動させ、敵を溺死状態に追い込む技。


「っ・・・!」


水の中でドロシーがもがいている。

ごめんね、ドロシー。
今はこうするしかないの。

こうすることでしか、私はチェスの駒に居場所を作れない。
謝りながらドロシーを水の中に追い込んだ私は、しばらくしてから水を消滅させた。

水を飲みこんでしまったらしいドロシーが、まったく受身を取ることなく地面に落ちる。


「けほっ・・・!けほっ!こ・・・の、化け、物・・・!」
「そんなこと言わないでよ。これで死なないドロシーも、十分強いよ」
「うぐ・・・けほっ!けほっ・・・!」


“勝者、チェスの駒・ラング!”


「よかっ・・・た・・・」


ポズンのコールが聞こえるのとほぼ同時に、私は膝から崩れ落ちた。
魔力の使い過ぎより、負けてはいけないという緊張から逃れることが出来たのが大きい。

座り込んでしまった私を心配したのか、3人が慌てて私の方に戻ってくる。


「マスター大丈夫!?回復するわん!」
「大丈夫・・・今は皆も疲れてるでしょ?休んで?」
「無理をするんじゃねぇぞ、マスター」
「無茶したら噛み付くぞ、馬鹿マスター」


優しい言葉から、手厳しい言葉まで。
様々な言葉を浴びながら3人をガーディアンに戻し、私はポズンのアンダータでレギンレイヴ城へと戻った。



















レギンレイヴ城に戻ると、ファントムが楽しそうに笑っていた。
民衆達の前で堂々と君臨する姿は、本当の魔王のように見える。


「ロラン。ラング
「「はい」」
「よくやったね・・・褒めてあげるよ。両者チームドローになっちゃったけど、今回はこの二人を相手に死人が出なかったってことを讃えて、メルチームの勝ちにしてあげる」
「光栄です、ファントム」
「・・・・」


そのまま帰れると思ってたのに止められたのは、これが理由だったのか。

ファントムが皆の前に姿を現す。
その意味は一つ。

ゾディアックナイトの“参戦宣言”。

皆を恐怖に陥れるであろうこの瞬間を、ファントムは楽しんでいるのだ。
私にとっては真逆の意味で、恐怖の瞬間だというのに。


「なんでラングさんが・・・っ」
ラングさん・・・!どうして・・・!」


観衆の中から聞こえてくる、私の名前を呼ぶ声。
悲しみに暮れ、嘆き泣き叫ぶ人達。

皆の冷たい瞳。
罵声。怒鳴り声。
裏切り者と言う言葉。

覚悟していたとはいえ、思わず手に力が入る。


「おめでとう、ギンタ。そしてメルの皆。よくここまでたどり着いたね」


ファントムの後ろに現れる、私とロラン以外のゾディアックメンバー。
皆それぞれ、けた違いに魔力が高い人たちばかり。

それを見て恐怖する者、罵声を浴びせる者、人それぞれの反応が見える。
私は興味ないとばかりに奥へ引っ込むと、皆から見えない場所に姿を隠した。


「ゾディアックの皆が、興味を持ち始めたようだ・・・これからも楽しませてくれよ、ギンタ」


ほんと、楽しそう。
時々人間らしい表情を見せることもあるけど、こういう時のファントムは本当に人間離れした雰囲気を出すから怖い。

挨拶を済ませたファントムは、隠れていた私を見てもう一度微笑んだ。
そして通り過ぎる際に私の肩を抱き寄せ、耳元で囁いた。


「勝ったご褒美だよ。・・・メルの人達とお話してきなよ」
「ッ・・・・」
「あぁ、あと君は、4thバトルにも出てもらうからね」


ご褒美?
いや、違う。

私を面白くするための、味付け。
メルとチェスの間に居るというのを自覚させて、心の戸惑いを忘れないようにさせるための行動。

何がご褒美よ。あの鬼畜野郎。

心の中で毒づきながら、私は静かにメルメンバーが居る場所へとワープした。


「・・・お疲れ様」
「何がお疲れさまよ!このドロシーちゃん相手にあんな技・・・っ」
「ごめん、ね。どうしても勝ちたかったの」


ポケットからホーリーアームを取り出し、ドロシーとアルヴィスに発動させる。
見る見るうちに治っていく二人の怪我を見て、私は再び口を開いた。


「私は、勝つためなら容赦しない」


観衆から聞こえてくる、裏切り者という声の数々。
6年前は応援してくれていた人たちが、今は私の敵となって声を浴びせている。

居心地は最悪だ。
回復はすませたし、さっさと帰って休・・・

グイッ。


「うえっ!?ギ、ギンタ?」
「俺、ラングのこと信じてる!」
「・・・・はぁ?」
「だっておっさんの幼馴染だったんだろ!?俺、皆がなんと言おうと、ラングのこと信じてるぜ!」


“――――俺はお前の力を信じてるよ、ラング

ギンタの声が、ダンナさんの声と重なった。
アランが信じようとするのも分かるぐらい、こいつはダンナさんにソックリだ。

生粋の、馬鹿。

でも誰よりも純粋で、優しい人。
真っ直ぐ前だけを見つめる瞳に惹かれ、私は思わずギンタの頭に手を伸ばした。


「・・・ありがとう、ギンタ」


後ろでドロシーが怒っているが、気にせず撫で続ける。
すると急にギンタが声を上げ、休もうとしていたアランとアルヴィスを止めた。


「待てよおっさん!アルヴィス!試したいことがあるんだ!」
「・・・試したいこと?」
「あぁ。今からアリスの力で・・・お前たちの呪いを解く!」


アリス?
呪いを、解く?

突然のことで話についていけない私を、メルメンバーは平然と置いてけぼりにして話を進める。


「よぉし!手番ですよー?バッボちゃぁん!」
「フハハハハ!またワシをあの恥ずかしい恰好にするっていうのかー!?」
「人助けに姿形も関係ないっスよ!」
「ぐっ・・・一理、あるな・・・」


バッボが渋々頷いた瞬間、私の目の前で、バッボの姿が可憐な女性の姿に変わった。


「こ、これ・・・は・・・」


私が求めていた、ガーディアンタイプのホーリーアーム。
どれだけ探し回っても見つからなかったものが、今、目の前に居る。

・・・・そうか。

これが、ギンタとバッボの力。

バッボを使って自分の自由に創造し、造り出す。
私が何年かかっても手に入れられなかった力を、こんな易々と。


「お・・・!おおおっ・・・・!」
「あ・・・ああ・・・っ!」


6年前、ダークネスアーム・イグニールで一緒にされた一人と一匹。
そんな二人が今、ホーリーアームの力で本来の姿を取り戻した。

アランは人間として。
エドは犬として。

二人は離れることが出来たのを確認すると、喜び合い、戻ったアランはエドを殴り飛ばした。


「やったなー!犬っコローーーーー!!!!」
「ぶはっ!わ、私も、嬉しいですぞ・・・!」


チェスに入ることになった目的の一つが今、達成した。
私の力じゃなかったけど、そんなの関係ない。


「アラ、ン・・・」


私は皆にバレないよう顔を隠し、喜びに表情を歪ませた。

涙が溢れる。
泣いちゃ、いけないのに。


「何隠してるのよ、アンタ」
「ッ・・・!」


泣いていたのがドロシーに見つかり、無理やり顔から手を引きはがされた。

抑えきれなかった涙が地面に落ち、消える。


「・・・・アンタ・・・」
「は、はなし、て・・・」
「はっはーん?まさか・・・」
「・・・・?」


嫌な予感がした。
ドロシーの楽しそうな笑みを見て、私の本能が危険を告げる。

だが、手はドロシーに掴まれてしまっていて逃げられない。
そして嫌な予感は見事に的中し、ドロシーが放った一言に、私は心臓を掴まれるほどの衝撃を覚えた。


「アンタもしかして・・・このオッサンの呪いを解くためにチェスに入ったんじゃないの?」


ドクン。

半分正解の答え。
いやでも、違う。
私の目的はそれだけじゃないんだ。

だから、動揺しちゃいけない。


「な、何を根拠に・・・」
「まず一つ、アンタは普通の人なら手に入れられないようなアームを持っていたわ。しかも・・・ホーリーアームだけ。それだけ収集してるって考えるのが普通よね。ホーリーアームなんて普通そんなに集めないし」
「・・・・!」
「そして二つ目。まだこのオヤジがエドの中に居た時に、エドがアンタに変なアームを使われたって言ってたわ。その特徴を聞く限りでは、たぶんそれもホーリーアームね」
「・・・・っ」
「そして三つ目」


ドロシーの手が、頬を撫でる。


「敵であるはずのアンタが、嬉しそうにしてるってことよ。ラング


―――どう?当たっているでしょう?

そう笑うドロシーの表情は、優しくとも、私に恐怖を抱かせた。

何もかもを、見透かされてしまう。
そんな根拠のない恐怖が、私の思考を停止させる。


「・・・・違う」
「ふぅん、そう?」
「誰がこんなオッサンのために、チェスに入るのよ!違うわ!私は、ただ、楽しむためだけに入ったんだから!!」
「なっ・・・・」
「アンダータッ!!!」


戸惑う周りの人々。
眉を顰めるアラン。

何もかもが怖くなって、私はその場からアンダータで逃げ出した。


「(これで、これで良いんだ・・・これで・・・)」


私は皆の敵で良い。
こんなに心をかき乱されるぐらいなら。

こんなに簡単に、決心を崩されてしまうぐらいなら。

私は誰にも会わないように祈りながら自分の部屋へ戻り、抑えこんでいた涙を一気に流した。
静かに、誰にもバレないように。

そして明日にはきっと、いつもの自分に戻れることを信じて、私は―――


「ごめ、ん・・・なさい・・・!!!」


――――泣き続けた。




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 ・テイルズ
 ・気まぐれ

◆Thanks!
見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。
現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。
(龍如/オール・海賊/剣豪)