いらっしゃいませ!
名前変更所
何だか、とてつもなく身体がだるい。
身体を労わりながら目を覚ました私は、自分の腕が上手く動かないことに気づく。
「っ・・・な、なにこれ・・・・」
私の腕に絡んだ、手錠のようなアーム。
魔力を込めても壊れないし、どうやら捕縛用のアームみたいだ。
ってことは、やっぱり連れてこられちゃったんだね、私。
あまり見覚えの無い部屋を見回しながら、私は深いため息を吐いた。
アルヴィスのこと、助けてあげたい。
皆をこれ以上、苦しませたくない。
だから頑張ってチェスに居たのに。
どうにかしてチェスに戻りたいけど、この状況だと戻れるか分からない。
「(まぁでも、負けたから戻ったとしても・・・)」
自分の居場所は無くなっているはずだ。
戦線離脱をしなくちゃいけないという、ファントムの玩具としては最低なことをしたのだから。
それでも、戻らなくちゃいけない。
あの吊るされた餌(情報)だけは、絶対に。
「お。起きたみてぇだな」
「ッ・・・ア、アラン・・・」
しばらく逃げ出そうともがいていると、急に扉が開いてアランが入ってきた。
ベッドに横たわった私を見て、分かっていたとばかりに手錠アームを指差す。
「その手錠は我慢しろよ。お前が勝手にチェスの方に戻らねぇように着けたんだからな」
「う・・・・」
・・・悔しい。
アランは昔からそうだった。
私がやろうとすること、やりたいと思うこと。全部先読みしてさ。
そんなに私って分かりやすいかな?
真剣に悩み始めそうになっていた所に、他のメルメンバーが集まってくる。
「ラング、身体大丈夫か?」
「大丈夫よ、ギンタ。私はあんなのでくたばるヤワな人間じゃないもの」
「ラングさん・・・」
ギンタと話す私を、アルヴィスが辛そうに呼んだ。
すぐさまメルメンバーの皆に取り囲まれ、尋問が始まる。
何を聞かれるかは、大体分かっていた。
口を閉ざすのが許される状態じゃないってことも。
「まぁ、とりあえず聞かせてもらおうか?なんでお前はチェス側に入ったんだ?」
「・・・」
一応、最後の抵抗として目を伏せる。
するとアランが勢い良く私の顎を掴み、キスぎりぎりの位置まで顔を近づけた。
突然のことに心臓が飛び跳ね、思考が働くなる。
何するんだ!?と叫ぼうにも、上手く口が開かない。
「あ・・・、ア、ラン・・・?」
「ラング」
「ッ・・・・」
昔もこんなこと、あったっけ。
怪我して帰ってきた私を問い詰めるために、アランがこうやって顔を近づけて。
悔しいけど、こうなったら逆らえない。
私は静かにため息を吐くと、諦めたように目を閉じた。
「・・・理由は大体、ドロシーのであってるよ」
ドロシーが言った、アランを助けるためという理由。
まさにその通りだ。私は呪いを解くホーリーアームを得るためにチェスに入った。
でもまだ、理由は2つ残ってる。
どうせ隠しててもばれるのだから、今の内に白状してしまうことにした。
「あとはまぁ・・・アルヴィスの呪いの秘密、解き方を知るためと・・・ファントムを完全に倒す方法を知るため、かな」
「それでラングちゃんはチェス側にいたっちゅうわけか。無茶するなぁ」
「そうよ。しかもあと少しでアルヴィスの呪いの秘密を少しだけ知ることが出来そうだったの・・・だけどそれがファントムにばれちゃって・・・ゲームに狩りだされちゃって・・・・」
チラつかされた餌。
餌という名の情報。
ファントムは私で遊ぶため、それを目の前に差し出した。
「私は・・・っ、あと、少しで・・・」
見事に、遊ばれたんだ。
玩具という立場から、あがくことも出来ずに。
私はアランの手から何とか逃げ出すと、皆を見回してから頭を下げた。
「お願いよ。もう少しで、もう少しで何かが得られるかもしれないの!私を、私をチェスに戻っ・・・」
パンッ!!
言い終わる前に走った、頬への強い痛み。
殴ったのが誰かなんて、確認する前に分かっていた。
何度かこんな風に、殴られたことがあるから。
無茶したり大怪我負ったときの説教は、必ずこんな風にビンタから始まった覚えがある。
「何するのよ、アラ「ふざけんじゃねぇぞ!!」
ビンタに抗議しようとした瞬間、アランの鋭い声が飛んだ。
アランの本気の怒声に、メルメンバーすら止めに入ろうとしない。
「てめぇ、何もかも一人で突っ走りやがって・・・!誰がそんなこと許可したってンだ!?あぁ!?」
「わ・・・私を何歳だと思ってるの!?なんで私がすることに許可がいるのよ!」
「あたりめぇだろ!お前は、俺様のもんだ。俺の許可なしに俺と交わした約束を破るのは許さねぇ」
「っ・・・・それ、は・・・」
「大体お前な・・・それでもしファントムが倒せたとして、お前が傷ついていたら・・・アルヴィスが、俺が、喜ぶとおもってンのか?」
たとえそうだったとしても、私は皆を、アランを、アルヴィスを、救いたかった。
でも私の目の前には、私を本気で心配してくれる人達が居る。
悲しませたくなかった人達が、悲しみの表情を浮かべ、私を見ている。
「アランさんの言う通りですよ、ラングさん。どうして俺達に言ってくれなかったんですか?」
「だって、それは・・・・」
「俺達が仲間だってこと、忘れたわけじゃないですよね?ラングさん。ラングさん一人が無茶するなんて、俺は許しません」
「アルヴィス・・・・」
「そうだぜラング!アルヴィスの呪いを解く方法も、ファントムを倒す方法も、俺達で見つけちゃえばいいんだ!」
―――馬鹿だね、私。
こんなにも優しい仲間が居たのに、気づかないで。
ずっと一人で突っ走って。
私、目の前しか見えてなかった。
アランを助けたい。アルヴィスを助けたいって。それだけしか見えてなかった。
残された人のことを考えろって良く聞くけど・・・このことなんだね。
自分一人で解決することばっかり考えて、アランとの約束も全部破った。
ほんと、馬鹿。
「アラン・・・アルヴィス・・・皆・・・ごめんなさい」
謝りながら頭を下げると、私を縛っていた手錠が消えた。
そして頭の上に大きな手が置かれ、ぐしゃぐしゃと撫でつけられる。
暖かい。
懐かしい、この感覚。
「あり・・・がと」
「おい、ギンタ。こいつも今からメルの一員として迎える。文句はねぇな?」
「あぁ!おっさんの幼馴染だもんな!全然おっけーだぜ!」
「・・・あははっ。ほんと、ギンタはダンナとそっくりの雰囲気ね。ありがとう」
ダンナさんと似ていると言われたのが嬉しかったのか、ギンタの表情が明るくなった。
そういえば、ダンナさんもこんな感じの金髪だった気がする。
異世界の住人という共通点。
表情。雰囲気。言葉。
どれをとっても似すぎていることに疑問を抱いた私は、小さな声でアランに尋ねる。
「ねね、アラン。ギンタってダンナさんと・・・」
「あぁ。こいつはダンナの息子だ」
「え・・・?ほんと・・・?」
「あぁ!」
ダンナさんの息子であるギンタ。
扱っているアームは、ダンナさんを殺した相手であるファントムのアームだったバッボ。
ほんと、運命って変な巡り合わせをさせるのね。
無邪気に笑うギンタにつられて、私もクスリと笑みを浮かべた。
「さてと、もうお話はお終いかしら?だったらちょっと、アンタに聞きたいことあるんだけど」
話がまとまりかけていた時に、ドロシーがひょこっと顔を出す。
「ん?どうしたの?」
「アンタ・・・ディアナって女・・・知らない?」
ディアナ。その名前には聞き覚えがあった。
そうそれは、私が恐れていたクイーンの名前。
「知ってるわ」
「!・・・やっぱり・・・!」
「でも知ってるのはその人がクイーンってことだけ。あと、何かとんでもない力を持ってるってことだけ、かな」
私が見たアームも、書物も、全部やばい物ばかりだったのを覚えている。
あんなものを持っている時点で、クイーンは絶対只者じゃない。
私が知っていることを話すと、ドロシーが悲しそうな表情を浮かべた。
お礼を言う時は笑っていたけど・・・クイーンと何かあったのだろうか。
「もういいんスか?ドロシー姐さん?」
「ええ。詳しい事は、明日のカルデアで話すわ」
「カル・・・デア?」
「アンタもメルの一員になったんだから、明日来てもらうわよ」
「カルデアに?・・・まぁ、アランが行くって言うなら・・・」
他の国と一切交流を持たない、謎の国。
その国にわざわざ私達と連れて行くというのだ。
きっと大事な用事があるのだろう。
行かない理由は無いし、とりあえず頷いておく。
そして立ち上がろうとした瞬間、足が痺れて体勢が崩れた。
ベッドの上だったため、こけた先はもちろん地面。
「ひょおわ!?」
「っ・・・あぶねぇ!」
地面と顔面衝突する直前、アランの腕が私を抱きかかえた。
そのままお姫様抱っこをされ、皆の視線が一斉に突き刺さる。
「ちょ、アラ・・・っ!」
「話は終わったんだろ?おめぇら。あとは俺に時間をもらうぜ」
有無を言わさず私を抱きかかえるアランに、皆からのからかいの声が飛んだ。
「やるやないか~!おっさん!」
「久しぶりに会ったんだもんな!後は二人でゆっくりしてくれ」
「アランさんも、男なんスねぇ・・・」
「アランさん、ラングさんにしっかり説教の続きお願いしますよ」
「明日はカルデアに行くんだから、あんまり無茶させんじゃないわよ、オヤジ」
「ええっと・・・ラングさん、これからよろしくね!」
「うるせぇうるせぇ!さっさと出て行きやがれこの餓鬼共が!」
アランの怒声が響き渡り、メルメンバーが逃げるようにして部屋から飛び出していった。
あんな風に追い出さなくても良いのに、と。笑いかけた口が塞がれる。
手では無く、唇で。
容赦なく入り込んできた舌が、私の舌を追いかけ、我が物顔で味わう。
「ん、んんんっ・・・!」
苦しいと胸と叩いても、アランは少し唇を離しただけだった。
少し息が吸えたかと思うと、またすぐに唇を塞がれる。
何度も、何度も。
ベッドに下されてからも、覆いかぶさるようにしてアランが私の逃げ道を塞いだ。
「は、ぁっ・・・アラ、ン・・・!」
「うるせぇ・・・お前のせいだ・・・」
「ちょ、ちょっと、待っ・・・・!」
また、塞がれる。
何もかもを吸い尽くされるんじゃないかってぐらい。
深くて深くて―――甘いキス。
勝手に身体が震え、アランの腕を掴む力が強くなっていく。
「っは・・・!」
「・・・やべぇな」
「どうしたの・・・・?」
「まだ、足りねぇ」
「ちょ、ちょっと!さすがに息出来なくて死んじゃうって!」
慌ててアランを止めると、不満そうに私を強く抱きしめた。
分厚い胸板が、私の心を安心させる。
「・・・あったかい」
「ラング」
「・・・大好きよ、アラン」
「・・・あぁ、俺もだ」
差し込む夕日が私たちを照らし、重なる影を映し出した。
それを見て少し恥ずかしくなった私は、力を込めてアランから離れようとする。
だが、相手はあのアラン。
頑張ってもがいていたにも関わらず、逃げるどころか両腕をアランに縫い付けられた。
ベッドの上で、恋人同士が二人。
アランの瞳に宿る何かを見てしまったような気がして、私はサッと血の気が引いていくのを感じる。
・・・やばい。
絶対やばい。
「あ、いや、ちょ、アラン・・・・?目が据わってるわよ?」
「我慢できるほど、俺は大人じゃねぇよ」
「待った待った!ドロシーに言われたこと覚えてる!?」
あんまり無茶させるんじゃないわよ、オヤジ。
その言葉は、絶対このことに対して向けられていたはずだ。
同じ部屋の中で、触れたいのに触れられなかった恋人が二人。
ドロシーはきっと、こういうことになると予想してたのだろう。
「駄目だって!カルデアに行くんでしょう?今から始めたらアンタッ・・・!」
どうにかしてこの状況を逃げ出そうとする私に、アランが獣のような瞳でトドメを刺した。
「出来るだけ手加減はするつもりだ・・・ラング」
“――――大人しく、俺に食われろ”
「アラ・・・んぅっ・・・!」
ごめんなさい、ドロシー。
貴方の約束は、守れそうにありません。
心の中でドロシーに謝った私は、大人しくアランの腕に身を委ねた。
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