いらっしゃいませ!
名前変更所
第一メルヘヴン大戦から6年。
あれから、6年も経ったんだ。
私の耳には今、チェスの駒の証であるイヤリングが着いている。
クロスガードだった私が、この証を付けている意味。
――――それはもちろん、裏切り。
階級は「ナイト」
ファントムから直々に与えられた階級だから、誰も文句は言わなかった。
私は誰にも言わず、ここへ来た。
理由?そんなの、簡単。
アルヴィスの呪いの秘密を暴くため、そして。
アランの呪いを解くための強力なホーリーアームを、見つけるため。
「おい、ラング。ファントムの指令聞いてたかァ?」
「うっさいよハロウィン。私は命令には従わないって言ってあるでしょ」
「ヒャハハハハ!相変わらずだなァ・・・!」
私はあれからペタに頼み、チェスに入った。
ペタはもちろんのこと、皆が私を疑っていた。
だからいっそのこと “裏切りを前提に加入” することを、私は高らかに宣言した。
チェスには入るけど、クロスガードは裏切らない。
でもチェスに入るからには、チェスのことも裏切らない。
つまり、どちらにも味方しない存在になる、と。
もちろんいつか、クロスガードの元へ戻ることも告げた。
≪―――面白そうだね、いいんじゃない?≫
瀕死の状態から目覚めたファントムは、そう言って私にナイトの証を渡した。
回復して同士が集まった時、またチェスは戦争を起こす。
その時に「楽しませてくれる存在」になってくれるなら、敵・味方のどちらでも構わないと、ファントムは笑っていた。
「・・・ほんとに、戦争を起こすつもりなんだね・・・」
目の前の映像に映る、炎に焼かれた町並み。
私は強く唇を噛みしめ、後ろに立っているハロウィンを睨み付けた。
「いつまで見てるのさ。あんたは指令があるんでしょ!」
「ヒュッヒュッヒュ・・・そうだなぁ。じゃあ、行ってくるぜ」
「・・・」
宿敵を目の前にしても、今の私には手出しすることが出来ない。
アランをあんな風にした敵が、目の前に居るのに。
私はもう一度唇を噛みしめると、ディメンションアームのアンダータを使って城から抜け出した。
今チェスの駒は、レスターヴァを乗っ取って戦争の準備を進めている。
そのために街が燃やされ、人々が殺されるのは言うまでもないこと。
その魔の手から救う手だては無いが、限られた人数だけでもと、私は襲われている街を渡って歩いた。
「うわぁあぁああん!痛いよぉ・・・痛いよぉ・・・!」
「大丈夫?」
「ひっ・・・!?」
「大丈夫。私は敵じゃないよ」
チェスの駒であることがバレないよう、持ってきたコートで身体を覆い隠す。
燃える街で泣いていた子供は、それでも私が怖いらしく、声を上げて泣き続けた。
ごめんなさい、皆。
きっとクロスガードの人達が私を見たら、幻滅するだろう。
それでも私は、やることをやらなくちゃいけない。
私は泣き続ける子供を強く抱きしめ、アンダータで燃える町並みを後にした。
あれから、3か所以上回っただろうか。
街から生き残りを回収した私は、最終的にアンダータでパヅリカ島へと飛んだ。
小さな、田舎の島・・・パヅリカ。
大きな街と違って、あまりチェスの駒の人数が割かれることはない。
ここなら少しは安全だと、私はアンダータで飛ばした生き残りの子供達を街の人に預けた。
「おねえ、ちゃん・・・?」
「もう、行っちゃうの・・・っ?」
「私は長く居られないの。ごめんね?」
こんな戦いに巻き込んで、ごめんね?
泣きそうになりながら謝った私を、子供達は優しく撫でてくれた。
私にはまだ、やることがある。
何からやればいいのか分からないほど、たくさん。
「とりあえず、ちょっとだけ回り見てこよっと」
私はパヅリカの街を後にすると、町外れに向かって足を進めた。
魔力の気配は感じないが、一応見まわっておかないと後が怖い。
助けたばかりの子供を、殺されたくはないから。
この町の人達も、優しい人たちばかりなのを私は知っている。
見回りがてら歩く森の景色は、戦争が起ころうとしているのが嘘のようだった。
「ほんと、この島は自然が綺麗だなぁ・・・」
6年前に来た時から変わらないこの景色。
私はこの景色を、街の人を、全ての人を、アランを守りたいと思って強くなった。
なのに今は、これ。
深く被ったコートの中で揺れるピアスに触れ、私は深いため息を吐いた。
戦争をおっぱじめれば、少なくともガイラさんやアランは必ず来る。
いつか再会してしまうことになるだろう。
会いたいけど、会いたくない人に。
「・・・それまでになんとか、アルヴィスの呪いを解く方法を・・・ファントムを倒す方法を・・・」
ブツブツと呟きながら歩いていた私は、ふと人の気配を感じて足を止めた。
なんだ?こんな森の奥深くに、人?
嫌な予感がして、咄嗟に魔力と気配を隠す。
「(街外れに人なんて、嫌な予感当たっちゃったかなぁ・・・。)」
これがチェスの駒だったら、凄く面倒なことになる。
なんて言って街から遠ざけよう?街の殲滅は任せろ?それとも、何?
良い言い訳が見つからないまま目的の人影を見つけた私は、ごくりと息を呑んだ。
木々の隙間から、チラッと姿が見えただけだった・・・けど。
その姿を見た瞬間、私の身体は動くことを止めた。
考える事さえも出来なくなり、呼吸が段々と苦しくなっていく。
「ッ・・・」
長い髪。
抑えてはいるが、小さく感じる懐かしい魔力。
整った男らしい表情。
香る葉巻の匂い。
手にハマっているあのアームは、間違いない。
見覚えがあるなんてレベルじゃないそのアームに、思わず声が出る。
「ディメンションアーム・・・エアハンマー・・・・」
その持ち主は、一人しかいない。
そう、あのアランだ。
今の今まで、会いたくないと思っていた存在が、今目の前に居る。
どうすれば良いのか分からず、私はその場に立ち竦んだ。
アランと対峙するように立っている男は、どうやらチェスの駒の一人らしい。
「(誰だっけ、アイツ)」
細い目に、どこか見たことのある雰囲気の男。
ポーン兵を連れたその男を見て、私はこの状況がアランにとって危険な状況であることをいち早く察知した。
アランの後ろに発動されている、修練の門。
そして笑いながらアームを操っているチェスの男。
男が笑いながら「ギンタどこだい?」と口にしているが、その名前の子がこの門の中に居るのだろうか?
アランが葉巻に火を灯し、そのギンタという存在の場所を口にしない所を見ると、よっぽど大事な人なんだろう。
「・・・・」
「犬のオジサン?早くギンタの場所を教えてよー」
「そんなに知りてェなら、動けねェ俺を倒してみやがれ!!」
「言うねぇ・・・」
ああ、懐かしい声だ。
あの心地よい声。確かにアランの声。
状況を簡単に整理すると、アランが修練の門に誰かを入れていて、その中の人をあのチェスの男が狙っている・・・・といった感じだろうか。
アランの修練の門の仕組みは知っている。
発動していればそれだけ魔力を取られるし、中ではガイド役のガーディアンも発動させているから動けない。
動けない上に、魔力も吸われっぱなし。
その状態で狙われれば、さすがのアランでも太刀打ち出来ないはずだ。
案の定、私の目の前で戦っているアランは、手も足も出ない状態で攻撃を受け続けている。
「カハッ・・・!」
魔力の消費具合からすると、門の発動時間もかなり長いようだ。
「とりあえず、アランを助けないと・・・」
だからといって、堂々とアランの前に出て攻撃を防ぐことは出来ない。
今の私はチェスの駒。
しかも生き残りを助けて街に置いて来たのだ。
目立ってしまっては、意味がない。
「・・・・」
目立てばアランに気づかれる可能性も高くなる。
でも、どうすればいい?
目の前のアランはどんどん体力を削られ、傷を増やしていく。
せめて魔力さえ、あれば。
――――そうか。
「魔力さえあれば、防御ぐらいは出来るようになるよね・・・!」
私はそっとコートの中を漁り、怪しく光る十字架のネックレスを取り出した。
赤色の十字架。
ホーリーアーム「ドゥネティーラ」
これは発動すると注射器のような形になる、魔力移行用のホーリーアームだ。
魔力をこの注射器で吸い取って与えたい人に打てば、魔力が回復するという単純な仕組み。
私はすぐさま自分の魔力をそれで吸い取ると、チェスの男から見えないギリギリの位置まで近づいた。
「(・・・いけ!)」
手のひらサイズの注射器が宙を舞い、アランの背中にプスリと突き刺さる。
気づいたアランが咄嗟に注射器を払おうとするが、それを無視して注射器が私の魔力をアランに注ぎ込んだ。
「っ・・・!?な、なんだ・・・!?」
強さを取り戻し始めた自分の魔力に気づいたのか、アランは戸惑いながらも反撃のエアハンマーを発動し始める。
それでいい。それで。
深く考えようとしなければそれで、私は気づかれなくて済む。
私は静かに息を顰め、それから二人がどうなるかを見守ることにした。
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