いらっしゃいませ!
名前変更所
10月31日。
俗にいう、ハロウィンの日。
ハロウィンという日にウォーゲーム中の人々も浮かれ、仮装に身を包んでいた。
ウォーゲームが休みだったというのも、また重なったのだろう。
でもハロウィンという単語は、楽しいようで、微妙な言葉。
特に今のアランにとっては微妙な単語だと言える。
案の定、不機嫌顔で酒を飲んでいたアランを見つけ、私はそーっと気配を消して駆け寄った。
「ったく、どいつもこいつも浮かれやがってよ・・・」
次々と飲み干されていくお酒に、私はため息を吐く。
アリスで呪いから解放されたとはいえ、ハロウィンには6年前の貸しがあるのだ。
ハロウィンというイベントと同じ名前の、アイツにやられた貸しが。
飲み呆けているせいなのか、アランはそっと近づく私の気配に気づく事無く飲み続ける。
・・・いや、違う。
「気づいてるでしょ、馬鹿アラン」
「お前が気配隠してるみてぇだったからな」
気づいてたのに、気づいてないフリしてただけだ。
それに気づいた私は気配を隠すのを止め、アランの背中に身体を預けた。
心地よい暖かさ。
全体重をかけて身体を預ければ、お酒を飲んでいたアランの手が止まる。
「・・・お前はアイツらと遊んでこなくていいのか?」
「私がそんな、遊ぶ歳に見える?」
「ハッ。この前の仮装パーティで大騒ぎしてたやつが良く言うぜ」
「う・・・。でもほら、今日はアランと一緒がいいなぁ・・・なんて」
本当はイベントに混ざりたかった。
でも、この言葉は本当。アランと一緒の方が、私は楽しい。
こんな楽しいイベントの日だけど、アランはきっと心のどこかで思いつめてると思ったから。
まぁ、もちろん。そんなこと口に出さないけど。
「お前がそんな風に言うなんて、気持ちわりィな」
「んな!?」
「・・・ありがとよ」
どうやら、口に出さなくても分かっていたようだ。
アランから滅多に聞けないお礼を聞いた私は、お返しとばかりに肩を抱えてみせる。
「気持ちわるっ!」
「・・・あァ!?」
「いだだだだ!ちょ、頭潰れるって!」
ぎゅううっと頭を撫でられ、その勢いでアランの胸に引き寄せられた。
立派な胸板と腕の筋肉が私を包み、一気に体温が上がる。
恥ずかしい。
あと、お酒のせいか、アランの体温が少し熱い。
「・・・大丈夫だよ。今度のアランは、絶対勝てる」
「うっせェ。言われなくても勝ってやるよ」
「そのわりには、浮かない顔しちゃって。こんなところで一人でお酒飲んでたの?」
・・・無言。
無言は全てにおいての肯定と受け取って、話を進めた。
「絶対、アランは勝つよ」
「・・・」
「私が応援してるんだもん!アランは絶対に・・・」
「おい」
「う?・・・んんっ!?」
話を遮り、アランの唇が私の唇を塞ぐ。
容赦なく舌が私の舌を奪い、身体の自由さえも利かなくなる。
甘い―――甘くて、熱くて。
「ん、ぁ!はっ・・・」
逃れ、られない。
どれだけ力があっても、アランには敵わない。
惚れた弱み?
それもあるけど、こいつ馬鹿力だし。
気に食わないけど、私の弱点も全て分かってるから。
「ぷはっ・・・!」
「どうした?もうギブアップか?」
「・・・っさいこの変態」
慰めに来たはずなのに、もうこれだ。
むかついて軽く頭突きを食らわそうとしたが、先を読まれてアランの腕に止められる。
「うぐ~!!」
「やっぱりお前は、そのぐらいうるせぇ方がお前らしいぜ」
「なにそれ。褒めてるの?」
「あぁ、もちろん」
「・・・ば、馬鹿にされてる気がするんだけど・・・!このオッサンめ」
ギンタ達が言っている、オッサンという言葉。
初めて口にしてみたところ、以外にもダメージがあったらしい。
というより、怒らせたといった方が正しいか。
引き攣った表情で私を睨み付けるアランに対し、私もヒクヒクと頬を引き攣らせた。
「おっさん、だと・・・?お前も対して変わらねぇだろうが!」
「はぁー!?私はまだもう少し若いし!」
「もうこの歳じゃ、そんな差関係ねェよ」
「ちょっと!女に対してそれはっ・・・」
「ラング」
不意に名前を呼ばれ、ピクリと肩が跳ねた。
何だろう?と首を傾げれば、今まで以上に意地悪い笑みを浮かべたアランが、私に手を差し出す。
「トリックオアトリート、って言うんだっけか?」
「え?」
「お菓子か、悪戯か。ほら、さっさとしろ」
「さ、さっさとしろって言われても・・・。私、お菓子もってない・・・よ?」
「ほーう」
良い事聞いたとばかりに、アランの笑みが深くなったような気がした。
あ、あれ。もしかして私、すっごく余計な事言ったような・・・。
「お菓子、持ってないんだな?」
「・・・う、うん・・・?」
後ずさろうとして、すぐにアランに引き戻される。
「お菓子が貰えねェんだったら、悪戯するしかねぇよなぁ・・・?」
「え、ちょ、たんまっ!?」
「うるせーよ」
「ひゃぁっ!?」
首筋に生暖かい感触が走り、身体がぴくりと反応した。
どれだけ逃げようとしても、私の身体はしっかりとアランに抱きしめられて動けないまま。
逃げられないことを良い事に、アランはしばらく私の身体を弄び続けた。
首筋を舐められ、チクリと歯を立てられ。
声が出そうになるのを、食いしばって止める事しか出来ない。
「ン、くっ・・・」
「相変わらず、ギブアップが早ぇな」
「調子に、のんな・・・ぁっ!」
「声を抑えんじゃねぇ」
「抑えるんじゃねぇって、ここ、どこだと思って・・・っ!」
「外、だなぁ?」
「アンタッ・・・!」
この、このオヤジ!
分かってて言ってるんだ。声を出せば恥ずかしいってことが、分かってて。
「ッ、ん・・・っ」
「普段クロスガードとして可憐に戦ってるお前が、こんな表情を浮かべてるなんて、誰も思わねぇだろうな」
「う、るさ・・・っ」
「・・・」
せめてもの抵抗で腕に爪を立てると、アランが無言で私の身体を離した。
怒ったのかと思って咄嗟に構えた私を、アランはそのまま何も無かったかのように抱きかかえる。
いわゆるお姫様抱っこ。
向かう先がまったく迷いないことに気づき、瞬時に青ざめる。
「え、ちょ、まって!明日ウォーゲームなの分かってるよね!?」
「あぁ?どうせお前は昨日戦ったんだ。他のメンツが出るだろ」
「そ、そういう、そういう問題じゃなくて・・・っ!」
「おいおい。まさか」
耳元で、低く。
「これで悪戯が終わりだとおもってンのか?これからに決まってんだろ」
ウォーゲーム中にごめんなさい。
心の中でそう呟くことしか出来ない私は、結局そのまま悪戯を受けることになるのだった。
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