Erdbeere ~苺~ 運命の輪舞曲 忍者ブログ
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2012年07月24日 (Tue)
桐生/切甘/※別ヒロイン視点

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どちらかが生きる限り、どちからは生きられない。
そんな物語が、本や漫画では良く存在する。

自分がもしそんな立場になったら、どうするだろうか?
そしてその相手がもし、愛する人だったら。

大体の人がこう答えるだろう。

そんなの、なってみなきゃ分からない、と。


「・・・」


ぐしゃりと依頼の書かれた紙を潰し、私は目の前を虚ろに見つめた。
私が住む世界は殺し屋の世界。いわゆるヒットマン。
孤児として捨てられていた所をヒットマンに拾われた私は、選択の余地なく「道具」として育て上げられていた。

そんな私に、失敗という文字は存在しない。

失敗すれば捨てられ、生きる場所を失ってしまうから。

だからこそ、私には重い依頼が来ることが多かった。
そして今回来た依頼内容は、これまで以上に、私を苦しめる依頼だった。


「(桐生一馬を、殺せ)」
「・・・おい?どうした、あけ。飲まねぇのか?」
「珍しいなぁ・・・あけが飲まねぇなんてよ」


目の前に居る、伝説の極道を殺せという依頼。
殺さなければ私の生きる道は無くなるのに、私は彼を殺せないでいた。

当たり前だ。彼は私にとっての悪友なのだから。
お酒を飲まずにぼーっと考え事をしていた私を、伊達さんと桐生が心配したように覗き込んでくる。

しばらくしてそれに気づいた私は、急いでお酒を口に含んだ。

怪しまれてはいけない。殺すにしても、殺さないにしても。


「だ、大丈夫だよ!ちょっと酔っちゃっただけ!」
「お前、そんなに弱かったか?」
「んー、たまには弱い日もある、みたいな?」
「相変わらず変なこと言うな、お前は」
「なっ!?相変わらずってどういう意味!?」


聞き捨てならないことを言われ、私はビシッと桐生を指差した。
桐生は私の方を見てニヤリと笑い、言葉の通りだと馬鹿にする。

この雰囲気が、私は大好きだ。
馬鹿言い合って、喧嘩する。こんな時間と雰囲気を無くしたくない。

無くすなんて、考えられないのに。


「・・・・」
「おい、やっぱりお前・・・変だぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
「あ・・・・」


私を心配してくれた桐生が、ぐいっと私に顔を近づけた。
どきどきと、感じたことがないほど心が揺れる。

私はこの人を殺せるの?
こんなにも、ドキドキしてるのに?
無理だ。私にこの人を殺すことなんて出来ない。

じゃあ、私が死ぬの?

・・・それも、怖くて出来ない。


「・・・・っ」
「熱はねぇみてぇだな・・・何かあったのか?悩むのはお前らしくない」
「む・・・別に悩んでは、ないよ・・・」
「はは!確かにお前さんがそこまで静かなのは珍しいな!桐生に言ったら、解決するかもしれねぇぞ?」
「本当に、なんでもないって!気のせいだよ?ほら、私はいつも通り!」


カラ元気で立ち上がった瞬間、がしゃんと音を立ててコップが床に落ちた。
割れたコップにサッと血の気が引き、そろーりと伊達さんの方に目を向ける。

伊達さんは少し顔を引き攣らせながらも、私の心配をしながらガラスを集めてくれた。
急に恥ずかしくなって俯けば、やっとお前らしくなったと桐生に頭を撫でられる。

温かい、手。恥ずかしいけど嬉しい。


「うー、ごめんなさい・・・」
「気にするな。俺はタオルを取ってくるぜ、伊達さん」
「あぁ。俺はとりあえず、怪我しねぇように捨ててくるか」
「ありがと・・・」


私のせいで誰も居なくなった部屋を見回し、ため息を吐く。
静まり返った空間は、私にまたあの考えを呼び起こさせた。

桐生を殺すか。

私が、死ぬか。

桐生を殺したら、私は心を殺すことになる。
悪友を越えた好きという感情も、全て。
伊達さん達とも会えなくなって、私は本当に殺し屋として生きていくことになるだろう。


「(じゃあ、私が死ねば)」


私が死ねば、少なくとも悲しむ人は少ない。
ほら、桐生には遥が居るから。

桐生が死んじゃったら、遥は一人になる。
そんなこと、私には出来ない。


「(でも、怖い。死ぬのが、怖い)」


そっと後ろを振り返ると、そこには遥が可愛い表情を浮かべて寝ていた。
私よりもこの子は、幸せな未来を持っている。

それを壊すことは出来ないという感情と共に、私はイケナイ事を思いついて遥を抱き上げた。


「(そうだ、死ねないのなら)」


口元に笑みを浮かべ、その場にメモを残す。
そして未だぐっすりと寝ている遥を連れ、私はニューセレナを後にした。

私は一人じゃ死ねない、臆病者。
だからせめて、最後は。


「(好きな人に、殺されたい)」






















誰も居ない、冷たい廃墟ビル。
そこで桐生を待っていた私は、手元に居る遥を見てニヤリと笑った。

そう、もう私は悪役の女。
悪友だった私は、もうどこにも居ない。
居るのは「悪友」と偽って近づいた、ただの殺し屋。

私は元から殺し屋だったんだ。
私は元から桐生を騙すつもりだったんだ。

言い聞かせるように心でそう唱えていた私を、聞きなれた声が引き止めた。


あけ。居るんだろ?・・・・出てこいよ」


来てしまった。
ううん、来るとは分かっていた。

だって私が遥を、連れ去ったんだから。

遥をダシにして桐生を呼び出す。
そして私は悪役を演じきって、桐生達の恨みを買う。

そして私は、悪役のまま、死ぬ。殺される。

それでいい。それでなら彼らに未練も残らないだろう。


「遅いよー?まったく!危うく遥ちゃんを殺しちゃうところだったじゃん!」
「誰に雇われたんだ」
「やっだなー。殺し屋は情報は漏らさないの!誰に雇われたなんて良いでしょ?」
「じゃあ質問を変えるぜ。・・・・誰に脅されてるんだ」
「・・・どういう意味よ?」


口を塞いだ遥に、鋭いナイフを突きつける。
桐生はそれにピクリと反応を見せるが、冷静に私を見つめ続けた。


「そのままの意味だ。お前はこんなことをする奴じゃない」
「だから言ってるじゃない。元からだますつもりだったんだって」
「・・・俺が100億事件に関わってから、今まで全部か?」
「・・・うん、そうだよ?ほら、だって信頼してくれないと遥ちゃん連れ出せないし?」


遥を無理矢理引っ張り、ナイフを首元に近づける。
そんなことをしても、桐生はおろか、遥すら抵抗の色を見せなかった。

思った以上に遥が落ち着いていて、逆に私の心が乱される。
どうして?怖くないの?ナイフを突きつけているのに。

もっと泣き叫んでくれないと、桐生は最後まで甘さを見せてしまう。

私は意を決してナイフを下し、遥の服に一筋の切り傷を加えた。


「ふふっ」
「・・・お前の目的はなんだ?」
「分かるでしょ?アンタに死んでもらうことだよ」
「俺は何をすればいい?」
「遥ちゃんと引き換えに、私の方に来てくれればいい」


手が、震える。
死ぬのが怖いんじゃなくて、これ以上自分の思い通りに行かない事に恐怖を抱いていた。

早く、早くこっちに来て。
隙を見せれば、きっと桐生は私を殺してくれる。

大好きだから、最後はあなたに殺されたい。


「ほら、早く歩いてよ。早くしないと本当に殺しちゃうよ?」
「っ・・・やめろ。分かった。そっちに行けば良いんだな」
「うん。分かってるじゃん」


1歩、1歩。
桐生が近づいてくるのを見て、私は覚悟を決めた。

桐生が来た瞬間、私はわざとここに銃を落として遥を襲う。
そうすれば反射神経の良い桐生の事。
私を止めるために撃ち殺してくれるはずだ。


「・・・・来たぞ」
「じゃあ、遥ちゃんを離してあげなくちゃね」
「あぁ。早くしろ」
「ふふっ」


さぁ、準備は整った。これで全てが終わる。

目の前に来た桐生に笑みを零した私は、素早く遥を押し倒した。

驚く遥の目の前に、ナイフを振り上げて微笑んで見せる。
後ろでは私のポケットから落ちた銃の音が響き、私の死が近いことを知らせた。

あと、少し。

あと少しでこの悩みから、苦しみから解放される。

どうか・・・遥と、幸せに。


「(桐生、大好きだよ・・・ずっと、ね)」


ナイフを振り上げたまま目を瞑った私を、遥の声が目覚めさせた。
痛みは来ない。銃声も響かない。

その代わり、響いたのは遥の震えた声。


「やめて!おじさん、駄目!」
「っ・・・!」


私の読み通り、反射的に銃を構えた桐生を、遥が止めた。
桐生は我に返ったかのように銃を下し、私の手からナイフを奪い取る。


「あっ・・・!?」
「大人しくしろ」
「ぐっ!?」


そのまま、抱きしめられるような形で桐生に捕まった。
抜け出すためにシタバタと暴れるが、桐生の腕から逃げることは叶わない。

やがて疲れて逃げるのをやめた私に、遥からの強烈なビンタが襲った。
バチーンと良い音が響き、ぐらぐらと視界が揺れる。
これには桐生も驚いたのか、何も言わずに遥の行動を見守っていた。


「お姉ちゃんの馬鹿!」
「え・・・」
「お姉ちゃん、嘘吐くの下手すぎるよ!本当は私のこと、傷付けようなんて思ってなかったくせに!」
「あ、そ、んな、こと・・・・」
「嘘だよ!だってお姉ちゃん私の事、すっごく優しい目で見てくれてたもん・・・」
「それは、だから、嘘・・・・」
「えい!」


もう1発。
手形がつきそうなほど勢いよく殴られ、思わず声が上がる。


「えいって!いだ、いだい!?ちょっと!」
「お姉ちゃんの馬鹿!馬鹿!」
「遥。もう許してやれ。・・・俺も、気づいてたことだ」
「え・・・・?」
「お前に遥を傷つける気が無いのは分かっていた。あの時は反射的に銃を構えたが・・・お前が、俺の傷つくようなことを出来るわけがないしな」
「なにそれ!自意識過剰なんじゃないの!」
「そうか?残念だな。本気で愛した女だったのに」
「そんな言葉に騙さ・・・・はっ?な、んて・・・?」


本気で愛した、女?
なにそれ、私のことだっていうの?

疑問で頭をいっぱいにする私に、桐生は容赦なく口付けた。
壊れそうなほど貪られて、遥も近くにいるということが作用し、私は顔を真っ赤に染める。


「んっ、んんんん!ぷはっ・・・お、お前、今、何・・・っ!」
「なんだ?もしかして、初めてか?」
「うううううるさいな!悪いかっ!」
「フッ・・・やっぱりお前はそのままの方が良い。なぁ、遥」
「うん!お姉ちゃんは優しいお姉ちゃんのままがいいな、私」


純粋に嬉しかった。
本当に大好きだった彼が、私のことを好きでいてくれたということが。

でもこれは、解決じゃないことを私は知っていた。

だって私が生きていたら、彼らに迷惑を掛けるから。
失敗した殺し屋は命を狙われる。狙われ続け、いずれは周りが被害に合う。

だから私は、やっぱり、彼らのためにも生きてはいけない存在なんだ。


「ね、桐生」
「どうした?」
「私ね、殺し屋なんだ」
「・・・・あぁ、花屋から聞いていた」
「・・・え?」
「お前が殺し屋に拾われて、命令に逆らえないことも知ってる」
「・・・じゃあ、なんで、私を殺さなかったの・・・・?」


そこまで知っていたなら、逆に私を殺さなかったことが不思議だった。
たとえ好きだとしても、今までの付き合いがあったにしても、殺し屋は殺し屋。

下手をすれば遥を本当に殺したかもしれないのに。
その疑問に桐生は私を強く抱きしめ、囁いた。


「お前が本当に好きなんだ」
「そんなの、理由にならないよ。私が本当に遥を殺すつもりだったらどうしたの?」
「お前はそんなことしない」
「それは答えに「俺が好きになった女だ。そんなことはしねぇよ」
「・・・ほんと、自意識過剰だよ、ばか」
「でも、間違いじゃなかっただろう?」


自信たっぷりな言い方に、怒りよりも悲しみが強くなる。

でも、死ななくちゃいけないのには変わりないんだよ。
気持ちが分かった今だからこそ、死ななくちゃいけない。

私はこっそりと落ちた銃を拾い、自分自身の胸元に近づけた。
気づかれないよう、桐生に抱きしめられたままそっと。

でもそれはすぐに阻止された。またもや、遥の手によって。


「駄目だよ、お姉ちゃん」
「あ・・・!」


そっとすべり込ませていた銃を遥に奪われ、桐生に渡された。
桐生が深いため息を吐き、遠くにその銃を投げ飛ばす。


「どうして死にたがる」
「知ってるでしょ!殺し屋は失敗したら命を狙われる側になるの!」
「・・・だったらなんだ」
「このまま桐生達の傍に居たら、桐生達まで狙われてしまう・・・!そんなの嫌!桐生や遥・・・他の人まで巻き込むなんて、私は・・・!」
「俺が殺し屋なんかに、やられると思ってるのか?」
「・・・ただの殺し屋になんてやられないって分かってる。でも、危険な身になってしまうのは変わりな・・・!」


そこまで言って、口付けられた。
言葉を飲み込むような深い口付けは、私の身体から力という力を奪い取っていく。

やがて解放された私はぐったりと俯き、辛うじて“睨み付ける”という抵抗を見せた。
桐生はそれさえも楽しそうに、意地悪い笑みを浮かべて私を抱きかかえる。


「俺が守ってやる。だから心配するな」
「で、でも・・・」
「お前に拒否権は無いぞ」
「え、だ、だから・・・」
「うるせぇ。つべこべ言わずに俺の女になれ。それだけだ」
「・・・桐生って時々、めんどくさがるところあるよね」
「お前のせいだ」
「えー!」
「あんまりうるさいと、また口塞ぐぞ」
「・・・し、静かにしてまーす」


もし、愛する人と自分、どちらしか生きれないという選択肢を迫られたら。
選択肢を新たに作ってしまえ。それが答え。

私はぐったりと桐生に身を預けると、これからの未来に不安と希望を感じて、クスッと笑みを浮かべた。

















































迫られた選択肢。選ばれたのは、3番目
(遥のビンタの痕を撫で、私はゆっくりと目を閉じた)
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