いらっしゃいませ!
名前変更所
本部に着いた私たちは、すんなりと近江連合の会長と会うことが出来た。
でも私は部屋の外。何故なら東城会の直接的関係者ではないから。
まぁ、それはただの表向きの理由。
本当の理由は、長い話が苦手なのと、あの男が気になったからというこの二つ。
郷田龍司。郷田会長の息子。
戦争を望んでいるような動きを見せていた彼が、この盃の話を喜ぶとは思えない。
郷田会長は思ったより、人の良い人だった。
盃の話も、聞いてる限りではうまくいきそうな感じがする。
外から話を聞いていた私は、緊張で強張っていた表情を少し緩めた。
「ふぅ・・・・」
話を聞いてる限りだと、近江連合も内部統制が色々と大変らしい。
暴れ者の幹部。礼儀を考えない人間。
まとめ切れない団体も結構あるみたいだ。
直系団体を治めるのは、近江も東城も関係なく難しいってことか。
だからこそ。
「この盃はチャンスってこ・・・ん?・・・何だ・・・?」
―――――トントントントン。
微かに聞こえ始めた、足音のような重たい音。
足音みたいっていうか・・・足音だろうな、これ。
「・・・なんだよ・・・・」
突如聞こえてきた足音に、私は眉をひそめた。
足音が聞こえる方向は、本部の入口方向。
その足音は段々と数を増やし、こちらに近づいてくる。
やっぱり、アイツが来たのか?
郷田龍司。アイツ、が。
「止まれ!」
突然現れた足音の主に声を上げると、主は素直に足を止めた。
見覚えのあるその顔が、私を捉えてニヤリと笑う。
郷田龍司。間違いなく、アイツだ。
警戒心から拳を固める私に、龍司は両手を上げて降参のポーズを取った。
「そないに警戒せんでもええやろ」
「・・・・悪いけど、ここはお前の来る場所じゃねぇよ」
「何言うとんのや。ここは近江連合・・・ワシらの場所や」
「少なくとも今は、お前が通るような場所じゃねぇっていってんだよ」
今日は正々堂々とやり合える。
昨日みたいに隙をつかれて捕まることも無いし、な。
とにかく、今コイツを部屋の中に通すわけにはいかない。
通したら何をするかなんて、大体想像出来る。
郷田龍司が持つ刀、そして大量の組員に目を向けた私は、近くにあった花瓶を手に取って構えた。
「ここを通るってなら、相手するぜ?」
「なんや・・・昨日とは偉い違いやな」
「昨日はあんまり目立ちたくなかったからな。でも今は・・・そんなの気にする必要はねぇ」
「このアマァ!親父にそないなもん向けんなや!」
龍司の後ろに居た男が、私に対して拳を振り上げる。
まぁ、普通の反応だ。ただの女が自分の親父に向かって花瓶を突きつけてるのだから。
でもその行動自体、私にとっては痛くも痒くもないものだった。
真っ直ぐ殴りかかってきた男の腹部を蹴り上げ、怯んだ隙に壁に突き飛ばす。
そしてトドメとばかりに頭を掴み、もう1発膝蹴りを叩きこんでやった。
「ぐ、あぁああぁあっ!?」
「ナメんじゃねぇよ、ばーか」
悶え苦しむ男を見下し、威嚇するように龍司を睨み付ける。
それでも表情一つ変えない龍司は、さすがだというべきか。
とりあえず、ここは話が終わるまで止めるしかない。
花瓶を叩きつけて割り、とがった部分を龍司に突きつけた。
だが、龍司はそれにも動じない。
それどころか、対抗するように刀を抜いたのを見て、私は咄嗟に身を引いた。
「ッ・・・!」
ヒュッ、と。風を切る音が響く。
ひらりと首元が涼しくなったのを感じ、慌てて首元を押さえた。
下を見れば、刀で切られたらしいスカーフが地面に落ちている。
「・・・・てめぇ・・・」
「そういうことやったんか。ただの女やないとは思っとったがな」
「・・・・」
「アンタ、あの堂島の龍の女っちゅうことか」
「・・・だったらなんだよ」
無数に付けられた、独占欲の証。
隠しきれないそれを見られて、私は気まずさに目を逸らした。
だから嫌だったのに。
誰かに見られるかもしれないこの場所に、痕を付けるのは。
そのことを知っていてワザと付けた桐生に対し、微かな殺意を覚えながら拳を握りしめた。
どこか楽しそうに笑っている龍司の表情が、更に殺意を煽っていく。
「っ・・・・笑うなよ・・・。何が楽しいんだよ!」
「そない怒るなや。さすが堂島の龍は、女を見る目があるなぁ・・・と思ってただけやわ」
「お前、勘違いしすぎだぜ」
「勘違い?」
「あぁ。私はそんな・・・良い女じゃない。そんなの、この世界に居るってだけで分かることだろ・・・・」
良い目をしている?
それだけで、私が良い女だと決まるわけじゃない。
馬鹿にされているように感じた私は、わしゃわしゃと頭を掻き毟った。
良い女だったら、こんな苦労しないんだよ。
桐生に満足させてあげられるか、なんて。不安にならなくても。
「ワシはアンタをそないな女やと思えん」
「それは見た目だけだからだろ。お前が私の何を知ってるんだ」
会ったのは昨日。
そんな口説き文句のような言葉に、泳がされるほど甘くない。
私はただ拳を構え、彼に敵意を示す行動を続けた。
龍司はそんな私を見て、やれやれと呆れたように首を振る。
「駄目やな。桐生っちゅうやっちゃ」
「・・・なんだと?」
突然吐き出された、桐生の悪口。
もちろん、私が黙っているわけもなく。
「ワシならアンタを不安にさせたりもせえへん。ワシの女になれや」
「断る。何度も言ってるだろ・・・お前に私の何が分かる」
「ワシかてそれなりにこの世界を見てきた男や。自分の目に狂いはあらへん」
「・・・黙れ!」
「そや。そうやってアンタが牙を剥くのも私の思った通りの行動や・・・それでええ」
「・・・どういう、ことだよ」
何でこんな男に気に入られたのか、全然分からない。
牙を剥き続ける私の、何処が良いんだ?
普通、気に食わないだけだろう?
そんな私の疑問に答えるかのように、龍司が一歩踏み出した。
「アンタは誰にも屈しない強い女や。純粋で、真っ直ぐな目を持っとる・・・。だからワシに最後まで抵抗してくれへんと困るんや」
桐生も言ってたっけ。そんなこと。
私が純粋だって、どうして皆そんなことが言えるんだ。
自分自身が純粋じゃないと思ってるのに、どうして。
疑問に心を奪われていた私は、龍司が目の前に立っていることに気づけず、反応が遅れた。
気づいたときにはもう、咄嗟に身体が動いていた。
このまま立っていたら、やられてしまうと。本能がそう告げた。
「ッ・・・!?」
ギリギリ避けた私の頬に、鋭い痛みが走る。
龍司が繰り出した拳が、私の元居た場所で止まっていた。
ニヤリ、と。龍司は拳を構えたまま笑う。
私が避けたことさえも、楽しそうに。
「すまんが、今はここを通してもらうで」
「やっぱり・・・盃か」
「あぁ、そうや。今アンタの所と盃を交わされたら困るんや」
「だったら、条件は分かってるよな?」
「・・・・あぁ、アンタを倒していけって言うんやろな」
「その通りだよ。・・・・きやがれ!!」
ここを通すわけにはいかない。
今ここで、盃の話を壊されるわけにはいかない。
桐生がこれ以上巻き込まれないように。
東城会が、立ちなおるように。
全ての願いを背負って拳を構えた私は、龍司に向って真っ直ぐ突っ込んで行った。
心のどこかでは分かっていた。負ける、ということが。
(それでも私は、彼らのために立ち止まらずに突き進む道を選んだ)
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