いらっしゃいませ!
名前変更所
そっとキスをする。
それだけで胸が壊れそうなのに、秋山は容赦なく舌を絡め取った。
暗闇が支配する部屋で、二人きり。
甘い時間が流れ、私達から現実という時間を奪い去る。
忘れたい、何もかも。
そう言っている秋山の心が、手に取るように感じ取れた。
彼がこうやって私に縋っているのは、靖子さんが死んだから。
秋山は靖子さんが好きだった。
だからこうやって私に縋りつくのだ。
「あけ・・・」
「ん、ぅ」
いい迷惑だって、言えばいいのに。
今の私に、それを言うことは出来なかった。
彼の心の傷を癒してあげたい。
私が思っているのは、それだけ。
「・・・あき、やま・・・」
「名前で呼んでよ」
「駿・・・」
何故自分自身が、こんなに女々しくなったのかは分からない。
きっと私は、彼に一目惚れでもしていたんだろう。
落ち込んでいる彼を見て、放っておけなかった。
こうやって利用されることを望んでいたんだ。私は。
こんな女にはお似合いな結末だ、なんて。
自分自身をあざ笑うことしか今の私には出来ない。
「駿、泣くなよ」
「・・・あけ」
「ん・・・」
降ってくるキス。
決して、私のことを想っているわけじゃ無い、口付け。
良いんだ。良いんだよこれで。
名前を呼んでもらえるだけで、私は幸せなんだ。
ああ、狂ってる?
そうだな。狂ってるのは私だ。
可笑しいのも、私。
「駿、もっと」
今の彼になら、私は漬け込むことが出来る。
なんて歪んだ発想。利用してるのは、むしろ私の方だ。
弱っている彼を誘いこんで、惑わせて。
こんなことしても、秋山の本当の心は手に入らないのに。
虚ろな目に映る私の表情が、今にも泣きだしそうな顔をしていて苦しくなった。
「・・・もっと、キスして」
手の届かない存在。
その存在が今、私の手の中に居る。
忘れたい。
時の流れを。
このままずっと、この時間が続けば。
叶わない願いでも、私はそれを願うしかなかった。
いつか必ず、秋山は私の元から離れていく。
だからその前に彼を、手に入れて、壊して、私のものにしたい。
「・・・・あけ、こっち向いて?」
優しく呼ばれた名前に、私は涙を流した。
駄目、だ。やっぱり私にはそんなこと出来ない。
腐っても、情報屋。
裏世界の、人間。
無理やり手に入れるなんて発想は、許されない考え。
私はポケットに手に入れると、震える手で小さな瓶を取り出した。
「駿」
「・・・・?あけ?」
「・・・好き、だったよ。駿」
私特製の“睡眠薬”。
それを無理やり秋山に飲ませた私は、悔し紛れに瓶を割った。
散らばっていた服をまとめ、足早に部屋から去る準備をする。
これで。これで良いんだ。これが、1番の解決策。
眠りゆく秋山に、泣きながらキスを降らす。
「ばーか」
私はお前が大嫌いだ。
そうメモ書きを残し、私はその部屋を去った。
自分の感情に素直になってはいけない世界。
そんなの、いつものことだっただろうに。
なんでこんなにも苦しいのか、私には分からないまま。
「・・・・くそ」
私は女になれない。
私は、もう、女じゃない。
雨が降り注ぐ神室町に飛び出した私は、そのまま秋山の前から姿を消した。
ありがとう、秋山。
最初で最後の夢を、私にくれて。
もう二度と、会わないだろうけど
(遠くから願ってるよ、お前がもう一度、運命の人と会えることを)
PR
この記事にコメントする
サイト紹介
※転載禁止
公式とは無関係
晒し迷惑行為等あり次第閉鎖
検索避け済
◆管理人 きつつき ◆サイト傾向 ギャグ甘 裏系グロ系は注意書放置 ◆取り扱い 夢小説 ・龍如(桐生・峯・オール) ・海賊(ゾロ) ・DB(ベジータ・ピッコロ) ・テイルズ ・気まぐれ ◆Thanks! 見に来てくださってありがとうございます。拍手、コメント読ませていただいております。現在お熱なジャンルに関しては、リクエスト等あれば優先的に反映することが多いのでよろしければ拍手コメント等いただけるとやる気出ます。(龍如/オール・海賊/剣豪)
簡易ページリンク
【サイト内リンクリスト】 ★TOPページ 【如く】 ★龍如 2ページ目 維新
★龍如(峯短編集)
★龍如(連載/桐生落ち逆ハー)
【海賊】 ★海賊 さよならは言わない
★海賊 ハート泥棒
【DB】 ★DB 永遠の忠誠(原作・アニメ沿い連載) ★DB 愛知らぬが故に(原作・アニメ沿い連載) ★DB プラスマイナスゼロ(短編繋ぎ形式の中編) ★DB(短編)