いらっしゃいませ!
名前変更所
オニが居なくなり、玉依姫も解放されたこの平和な世界。
姫様は宿命から解放された反動か、日に日にやんちゃになっていった。
「花を見ているのか?」
「空疎様」
「風邪を引くぞ?これでも羽織ると良い」
「ありがとうございます。でも、もう少しこれが見ていたくて・・・」
先代の玉依姫から姫さんを見守っていただけに、私はそれが嬉しかった。
そしてそれを静かに見守る、鴉の旦那。
季封村の復興を手助けするために村に残った私は、毎日のようにその光景を見ていた。
だが、平和になったとはいえ、全てが平和になったわけじゃない。
今まで通り事件は起こるし、悪い妖が出ることもある。
「お、落ち着いてください胡土前様!!」
「落ち着くわけねぇだろうが。止まれ!」
「ほ、本当に何でもございません!」
「嘘つくんじゃねぇよ!」
そして今私は、旦那である胡土前に追いかけられていた。
平和になったばかりの屋敷を、駆け抜ける私と胡土前。
何故追いかけられているかって?
その理由は、私の右肩にあった。
右肩に刻まれた深い傷跡―――これが、胡土前が怒っている理由。
オニとの最終決戦の時、胡土前を庇って負ってしまった傷。
心配かけたくなくて隠していたのだが、つい先ほど、治療中に胡土前が部屋に来てしまい・・・。
「姫様!!お助けくださいっ!!!」
「姫さん!そいつを捕まえてくれ!!」
「猫、蛇、騒がしいぞ」
「い、一体どうし・・・」
花を見ていた姫様と鴉の間に飛び込み、必死になって胡土前から身を隠した。
胡土前はこれ以上に無い殺気を放ちながら、私に対して手を伸ばす。
普段から胡土前はあまり怒らない性格の持ち主だ。
良い意味での大雑把さがあるのだが、今日はまったく違う。
姫様はそんな胡土前に戸惑い、とりあえず私を背中に隠してくれた。
「姫さん、そいつを渡してくれ」
「できません。とにかく、理由をおっしゃってください」
「・・・血の匂いがするな。怪我をしていたのか、猫」
「え?怪我?」
よ、余計なことを!
咄嗟に鴉を睨むがもう遅く、姫様の視線が私に鋭く突き刺さった。
そして向かうは、私の傷がある右肩。
それに気づいて手を引こうにも、姫様の手が私の手を掴んで離してくれなかった。
「うっ・・・!」
「・・・!!こ、こんな酷い怪我・・・一体どこで?」
「あ、いやー、まぁ・・・・」
「水猫様?」
「・・・え、えっと・・・ですね」
「水猫様」
誤魔化せない空気が漂い、私はボソッと呟いた。
「・・・オニと、戦った・・・時です」
オニと戦ったのは1週間前ほど。
それでも治らない傷は、傷がどれだけ深かったのかを露わにしている。
でも、あの時はしょうがなかった。
私が庇っていなければ、胡土前がこの傷を負うことになったのだ。
それだけはどうしても嫌だったから。
その気持ちを分かってくれたのか、姫様は私の腕を離した。
「水猫様」
「姫様・・・ありが・・・」
瞬時に入れ替わる視界。
気付けば私は姫様では無く、胡土前の腕の中に居た。
あ、あれ?どういうこと?
姫様の方を見ると、鴉と一緒にニヤニヤと笑っている。
「え、や、あの」
「胡土前様。水猫様にしっかりと説教してあげてくださいね」
「あぁ、ありがとな」
「そ、そんな・・・!」
「無茶をするのは駄目だと申したはずです。ですよね、空疎様?」
「・・・あぁ。猫は少し無茶しすぎるところがある。たまには仕置きを受けたほうが大人しくなるのではないか?」
「う・・・」
鴉も姫様も、私の無茶ぶりを昔から知っていた。
だけど私にとってそれは普通であり、カミである以上、そんな簡単に死んだりしない。
前まではあまり怒られなかったのに。
姫様も鴉も、良い意味で丸くなったのだろう。
平和は、愛は、人を変えると、そういうことなのだろうか。
「胡土前様、あ、あの、おちつ、落ち着いてくださいっ!」
「うるせぇよ。こっち来い」
「いだだだだっ!痛いです!」
二人に見捨てられ、私はズルズルと屋敷の中に引きずり込まれた。
向かうは一直線。胡土前の部屋。
「胡土前様!」
「あんまり騒ぐと、この場で黙らせるぜ?」
「・・・わ、分かりました・・・」
今の胡土前は本気だ。
廊下で変なことをされたら堪らないので、大人しく引きずられることにした。
しばらく歩いたのち、胡土前の部屋にバンッと放り込まれる。
心配されていた私には乱暴に投げ捨てられ、受身を取れないまま地面に転がった。
見上げた先の胡土前がもの凄い顔をしていて、思わずヒクッと顔が引きつる。
「さぁーて?お前、俺との約束覚えてるか?」
「お、覚えています・・・」
「だったら話は早ぇ。・・・ま。まずは傷の手当をしねぇとな。ほら、手出せ」
「はい」
右腕を差し出すと、ゆっくり胡土前の手が私の傷を撫でた。
生温い暖かさが私の身体を支配し、傷を少しずつ塞いでいく。
胡土前の霊力が、私の身体に流れ込んできているのだ。
妙な感覚に目を瞑っていると、急に腕を引かれたのを感じて悲鳴を上げた。
「ひゃ!?」
「次は、消毒だ」
「え、待ってくださ・・・んっ!」
塞がり始めた傷痕を、胡土前の舌が味わうように辿る。
霊力が流れ込んでくる感覚とは違うものを感じ、私は思わず身体をくねらせた。
舐められたところが、急激に熱くなる。
甘噛みされればビクッと身体が震え、抑えきれない声が溢れた。
「んぁっ・・・」
「やっと大人しくなったな」
「あ、胡土前様・・・っ」
「愛してる、水猫。・・・だから俺に隠し事をするんじゃねぇ。特にこういうのは・・・」
また、傷痕を舌が這う。
胡土前の表情がヤケに真剣で、私はごくりと息を呑んだ。
「お前が傷つくのは見てられねぇからな・・・」
「あっ、や・・・!」
「おいおい。逃げようとするな。・・・まだお仕置きは終わってねぇんだぞ?」
「っ・・・!ま、待ってくださっ・・・!」
肩を傷つけないよう押し倒された。
優しい手つきにドキッとするも、襲われている事実は変わりなく。
真昼間だというのに私の服に手を掛ける胡土前を、必死に止めに掛かる。
「おかしいです!まだ、まだお昼ですからっ・・・!」
「ん?じゃあ、夜なら良いのか?」
「そんなわけないでしょう!」
「だったらどっちでも一緒だろ」
「違いますー!!」
「あー・・・めんどくせぇなぁ・・・」
「何を・・・んっぐ!?」
貪るような口付けに、私は抵抗する力を弱めた。
その隙を狙って、胡土前の大きな手が服の中に滑り込んでくる。
こうなってしまったら、もう抵抗出来る術は無い。
肌を厭らしく撫で上げる手が、胡土前の熱い吐息が、私の思考を壊していく。
「っは・・・ぁ、胡土前、さま・・・っ」
「お前に否定権はねぇよ。・・・これは、罰なんだからな」
「んっ、や、だって、胡土前、さまが・・・傷つくのは、見たく・・・あぁっ」
「・・・俺も同じだ。お前が傷つくのは、見たくねぇんだ」
強引なのに、優しい。
胡土前の口付けを必死に受け止め、やられっぱなしは気に食わないと私もその口付けに応えた。
まさか私がやり返すとは思わなかったのか、絡んだ舌に胡土前がニヤリと笑う。
「なんだ?・・・意外とやる気あるじゃねぇか」
「え、や、そういうことじゃなくて・・・・っ!」
・・・どうやら、逆効果だったようだ。
目が獣のような光を帯びているのに気づき、私は自分の今の行動が、どんなにいけないことだったかを知った。
「愛してる・・・水猫」
そう言った彼の目は、私だけを真っ直ぐ見ていた。
(あなたに想われ、幸せです・・・胡土前様)
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