いらっしゃいませ!
名前変更所
1.俺についてくればいい
主に従い、任務だけを全うする。
私はいつからこんな世界に居たのだろうか。
思い出すことすら、めんどくさくて出来ない。
手に持っていた刀を思いっきり振り下ろし、息絶えた男の死体を川に流した。
飛び散った血が、また私を気怠くさせる。
「・・・・チッ」
生きているのがつまらない。
私は物心ついたときから親に売られ、この世界―――忍びの世界を生きてきた。
人を手に掛ける仕事は当たり前。
女としての心も捨て、私はたった一つの居場所に縋りつくため、この世界に生き続けた。
そう、私は忍び。
任務のためだけに生き、失敗すればそれまでの命。
「・・・はぁ」
さぁ、今日もまだ仕事は続く。
次の依頼書を広げ、血を拭き取った刀をしまった。
私は殺すだけ。
依頼書に書かれていた場所と名前を確認し、静かに懐へとしまう。
場所は祇園。対象は桐生という男。それだけで十分だ。
何をしたか、どうして殺すか、などという理由は見なくても良い。
私はただ、この世界に生きる人形のようなものなのだから。
「ちゃっちゃと終わらせるか」
それにしても、祇園か。
ここから近い場所とはいえ、あまり気が進む場所では無かった。
あそこは女が売られる場所。
男が女を買い、遊ぶ。色漂う街だ。
女を捨てた私にとって、そこは地獄のような場所。
何が、女だ。
まぁ、やらなくちゃいけないからにはやるが。
「・・・桐生、一馬之介か」
対象は大門の近くに店を持っている掛廻らしい。
忍びとして動いている以上、情報には詳しいと思っていたんだが・・・このお店は聞いたことが無かった。
最近開いたばっかりのお店なのだろうか?
しかも桐生という男も、聞いたことない。
「(まぁ、なんだっていいか)」
どうせ、今から殺すんだ。
何を知ったって、私は対象者を殺す。
大門の門番の死角になる場所から近づき、縄を投げて上から侵入することにした。
門番がいてもこの時間。暗闇に溶け込んで何も見えはしないはずだ。
「よっと」
夜だと言うのに、祇園の町は華やかな色に染まっていた。
煌びやかな恰好に身を包んだ女性が、男性と一緒に歩いているのが目に入る。
・・・本当に、バカバカしい。
私はそれらを目にしながら、姿を闇に隠し、龍屋の屋根の上に飛び乗った。
家に必ずある脆い部分を突き、屋根を開けて屋根裏部屋へと身を忍ばせる。
「・・・はー・・・」
屋根裏部屋に入ると、桐生と思われる男のため息が聞こえた。
やはりこの男、噂にも情報にも見たことのない男だ。
板の部分を少し開け、中を覗き込む。
そこにいた男は明らかに普通の男とは違う、不思議な雰囲気を持っていた。
祇園の男というのは、誰もがお金と色に染まっている。
そう思っていたが、この男はどこか違った。
「(元侍・・・か?)」
気迫溢れる顔。
普通の掛廻にも居ないであろう、大きな体格。
そして何かを失う前のような、暗い瞳。
最近祇園に来たばっかりの人間なんだろう。
過去を忘れて生きるため、この町に来るやつも多い。
こいつもその一人なのかもな。
とりあえず、さっさと殺してしまおう。
腰に携えていた小太刀を抜き、息を潜ませて男の頭上まで移動する。
「(・・・いける)」
息を整え、一気に屋根の部分を足で蹴り破った。
そのまま抜いていた小太刀を振りかざす。
が、しかし。
「趣味わりぃなぁ・・・屋根裏からきやがるとは」
「っ・・・!」
小太刀は桐生に届く事無く、桐生の腕によって掴まれていた。
柄の部分を掴まれているせいで、上手くその場から逃げることが出来ない。
桐生の上に覆いかぶさったまま、次の一手を考える。
大丈夫。失敗したわけじゃない。ここで殺してしまえばいいんだ。
「お前、何者だ?」
聞かれても答えない。
無言で桐生を睨み、もう一度小太刀を持っていた腕に力を入れる。
「離せよ。お前はここで死ぬ運命だ」
「それはやってみなくちゃ分からねぇだろ?」
「・・・ならやってやるよ」
小太刀を右手で持ちながら、素早く左手を右腕の袖の中に突っ込んだ。
その中にあるのは私のもう一つの武器、忍術の種。
忍術など、本当に存在するわけがない。
存在するのは忍術の種となる道具と、小細工。
小さな火薬と粉を合わせた袋を取り出し、思いっきり桐生に投げつける。
「っ・・・!?」
投げつけた袋はすぐに音を立て、煙を上げながら爆発した。
でもこれ自体に、殺傷能力はない。
いわゆる、煙幕っていうやつだ。
だけどこれで十分、殺しの役に立つ。
視界が白く染まる中、小太刀から手を放し、相手の傍から気配を消す。
そして相手が私を見失ったところで、一気に―――。
「(次こそ!!)」
相手の真後ろに回り込み、隠し持っていた短刀を構えた。
仕留め損ねないよう、腕にありったけの力を込める。
だが、それはまた無残にも阻まれた。
掲げた短刀は桐生の心臓を狙う前で止められ、ビクともしない。
「っ・・・!お前、一体・・・!」
「お前も素性を教えてねぇんだ。俺が教える必要もないだろう」
「・・・はっ。そうだな。どちらにせよ、お前が死ぬか、私が死ぬかしか運命にはないんだ」
「・・・何だと?」
私の言葉に嘘はない。事実だ。
任務に失敗して殺し損ねれば私が死ぬ、それだけのこと。
だが、どうやら私にも“死にたくない”という感情があるらしい。
どうにかしてこいつを殺さなければと、少しだけ焦りを感じていた。
生にあまりしがみ付いていないつもりだったのに、こういう時は本能が働いてしまうのだろう。
「・・・・」
「悪いが、話を聞かせてくれる状態じゃないみたいだしな・・・容赦、しないぜ」
「・・・好きにし・・・な・・・!?」
・・・・一瞬だった。
桐生は私の手を手刀で叩くと、一瞬で短刀を奪い取り、私の首元に突きつけた。
動きがまったく追えなかった。そんな、そんなことがありえるわけ。
「大人しくしろ」
「ぐっ・・・!!離せ!!」
「暴れるな」
そのまま両手を後ろに回されてしまい、私の抵抗の術は失われた。
突きつけられる短刀の感覚が、苛立ちと焦りを募らせる。
失敗は死。
途端に死への恐怖が渦巻き、どうにかしてこの男を殺すことばかりを考える。
そのせいか、桐生に対しての警戒が薄れ、私はいとも簡単に頭に被っていた布を取られてしまった。
「あ・・・・!」
「お前・・・女、か?」
「見る・・・な」
顔を見られないよう抵抗すると、桐生が無理やり私の顎を掴んだ。
前を向かされた私は、せめてもの抵抗に視線を逸らす。
「お前、なんでこんなことをしてるんだ?」
「・・・祇園に住んでるなら少しは想像着くんじゃねぇのか?女が辿り着く場所なんて、売られた先次第ってことをな」
祇園の女は、遊郭に売られて遊女になる。
私はその売られる場所が、忍びの世界だったというだけだ。
所詮、親の道具。
所詮、道具としての命。
桐生は私をじっと見つめたまま、しばらく何かを考えているようだった。
そして私の両手を紐で縛ったのち、静かに短刀を首から離す。
「・・・なんの、つもりだ」
「嫌々ながらその世界にいるやつを、殺せるわけねぇだろ」
「・・・・どうせこのまま帰れば殺されるだけなんだぜ。さっさと殺せよ」
「うるせぇな・・・どうするかは俺の自由だろうが」
「じゃあどうするつもりだ?このまま置けば私はお前を殺す。殺せなくて戻っても、私はどうせ死ぬ。なら今殺しても問題ねぇだろうが」
「・・・・逃げるっていう選択肢はねぇのか?」
「ないね。私はあそこにしか居場所がねぇんだ。だから・・・ないね、そんなもの」
覗きこまれる瞳。
桐生に顔を近づけられた私は、何も出来ずにその瞳を見つめ続けた。
なんて強い瞳なんだろう。
何かを失っているような瞳をしているのに、その奥に秘められた何かが、この男が只者じゃないということを私に教えていた。
だからって、何なんだ。
私には死ぬか、殺すかしかないんだ。
「・・・だからさっさと、殺・・・・」
トンッ。
軽く、一発。
首筋に手刀が入り、私は意識が飛びかけるのを感じた。
でもここで、意識を飛ばすわけにはいかない。
必死に意識を繋ぎ止めようとする私に、桐生が意味深な笑みを浮かべた。
「決めた」
「・・・っなに、が・・・」
「俺を殺さない限り、帰れないんだろ?」
「・・・だからなんだ」
「でも俺は、お前に殺されるつもりはない」
「じゃあ、私を殺・・・「だがお前を殺すつもりもない」
何なんだ、こいつ!
馬鹿にしてるのかと声を荒げれば、もう一発、首筋に手刀が打ちこまれた。
「あぐっ・・・!」
「今日から俺がお前の主だ」
「なん、だ・・・って・・・?」
「だからお前の命令も、命の選択も、俺が決める。お前は俺についてくればいい」
「ふざけ、んな!!そんなこと言っても私は従わない・・・!!いつか、殺して、やるっ・・・!!」
私にあるのは任務だけ。
それ以外の事は考えない。それ以外のことを知ろうとも思わない。
そう、これが私の人生。
売られた私の、運命。
逆らう気もしないぐらい、私は自分自身のことに興味が無かった。
なのに、何なんだこいつ?
いきなり会った、しかも殺しにきた私を、何のつもりで助けるんだ。
感情が、かき乱される感覚。
任務以外を考えないで生きてきた私を、桐生はいとも簡単に狂わせようとする。
「ぜっ、たい・・・」
「・・・・」
「殺して、や・・・る・・・・」
視界が暗くなってきた。
見えるのは桐生の表情と、地面に転がった私の刀。
あれを手に取って、殺せ。殺すんだ。
そう思う感情とは裏腹に、私の意識は暗闇に深く沈んだ。
なんて悲しい目をしてやがるんだ、お前は。
(そう呟いた桐生の声は、私の耳には届かなかった)
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