Erdbeere ~苺~ 刀と酒に埋もれて 忍者ブログ
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2022年05月24日 (Tue)
剣豪/甘々/男装要素あり/ワノ国出身者のヒロインと里帰り

全般的にワノ国編のネタバレあり。

アニメ追いかけ話みたいな感じです。


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先にワノ国に潜入したゾロ達は、まずは住民に馴染むことから始めていた。

各それぞれの担当持ち回りを決めてその場所に合う役を得て、全員の集合を待つ。なるべく騒ぎは起こさず、住民との関わりも必要以上は持たない。それが彼らに与えられた任務。

ゾロとくろねこの担当場所は花の都。
故郷であるワノ国に久しぶりに足を踏み入れたくろねこは、複雑な表情を浮かべていた。

それも、そのはず。
彼女は幼い頃にこの国で妖刀の管理者の家系として生まれ、その家系が故に悪人に目をつけられ、海軍に売り飛ばされた。

懐かしくも、悲しい過去。
寂しくも、思い出のある土地。


「ただいま、ワノ国」


彼女の声は、ワノ国の美しい景色と共に儚く消えた。



刀と酒に埋もれて





「・・・・なぁ」
「あぁ?」
「なんで・・・お前、その・・・格好なんだ?」


ゾロの役目は、ゾロ十郎として花の都で浪人となること。

その役目の付き添いとして同じ仕事をこなすくろねこは、ゾロと同じ着物の色違いを身にまとっていた。つまりは、男のふりをして彼女もまた浪人となっていたのだ。


「・・・・男のほうが都合がいいんだよ」
「そうなのか?」
「女侍を演じても良いんだけど、それだとちょっと目立つからね。気づいたろ?町の女が刀を持つことなんてほとんどない。浪人の傍にいて、刀持ってて目立たないっつったら、こっちのほうがいいんだ」


役割に徹するくろねこは元から中性的な顔立ちなこともあり、口調を変え、髪型を変え、服も変えれば完璧な男に見える。とはいえ、だいぶ小柄ではあるが。


「・・・・不満そうだな」
「そりゃそうだろ。自分の女が男になってんだぞ。やりづれぇもんがあるだろ」


共に男として仕事をしていれば、色んな揉め事に関わることになる。
雑多な仕事を引き受ける浪人としては当たり前のことだ。
同じ男として、男の仕事を受けることに問題は感じていない。むしろ自分より強い女剣豪がそんなことで根を上げるわけもないだろう。

なら何故、苛立っているのか。

ゾロの苛立ちの大きな原因。
それは普段のくろねこの“人間タラシ“が、男となったことで更に遺憾なく発揮されてしまうことにあった。


くろねこさん、おはようございます!」
「あぁ、銀襴さん。おはようございます」
「よぉ、くろねこ!今夜もそちらのお兄さんと一緒にうちで一杯どうだい?」
「そうだなぁ・・・つまみ、ちょっと盛ってくれるなら考えよっかな?」
「またまた、うまいねぇ!」


女性には紳士的に、男性には壁を感じさせない距離感のスキンシップ。

普段からどこか人間に好かれる立ち回りを無意識にしているくろねこは、それをこのワノ国でも存分に発揮していた。おかげで町に馴染むのも、仕事を得るのも簡単だったのは感謝すべきところなのだろうが。


くろねこ様~!!!」


特に男の状態では、それは女性を引き付ける魅力へと変貌を遂げ、別な意味で目立つ存在になってしまっている。仕事を受けに来ただけだというのにお店の看板娘に黄色い声で名前を呼ばれたくろねこは、自然な笑みを浮かべてその娘に手を振った。

サンジとはまた違った部類の女タラシの完成を隣で見せられているゾロは、チッと大きく舌打ちする。


「蓮蘭ちゃん、おはよう」
「きゃー!!名前覚えててくださったんですねー!!!」
「当たり前だよ。君には昨日、素敵な笑顔で挨拶してもらったからね」
「す、素敵な笑顔だなんて・・・そんな・・・・」
「おい・・・クソコックみてぇにナンパじみたことしてねぇでさっさと行くぞ」
「いだだだだだ!」


そういうところだ、そういうところ!

怒りを込めてくろねこの首根っこを掴んだゾロは、ずるずるとくろねこを引っ張っていった。

くろねこの瞳に、町の華々しさが飛び込んでくる。
華やかで、闇の見えない花の都。
その裏を、ちょうどワノ国が崩壊しだしたときの話を知っているくろねこは、引きずられながらも少し寂しげな瞳で美しい街並みを見送った。


「で、今日の仕事は?」
「札配り」
「またかよ」
「そんなもんだよ。どうせ仕事もやってるふりだし」


要は、町に馴染めれば良いのだ。


「にしても暇だなァ・・・なんか近くに暇つぶしはねぇのか?」
「実家ならあるけど」
「・・・・実家?」


くろねこの言葉にゾロは引きずる手を止める。


「まだ、残ってんのか?」
「さぁ・・・どうだろうね」


くろねこがこの町を離れたのは十年以上前だ。

両親も殺されたと聞いていたため、実家を管理している人間はもういないと想像することが出来る。思い出の場所ではあるのだろうが、そこに行くことがくろねこにとってどんな感情を引き起こすのか想像出来なかったゾロは、無言でくろねこを見守った。


「ま、もういいや。行っても面白くないし」
「・・・・そうか」
「そんな顔しないでよゾロ。私は・・・・問題ない」


それはこっちの台詞だと、ゆっくりと伸ばした手をくろねこの頭に置く。
ゾロの優しさが伝わってくる大きな手に、くろねこは誤魔化すように笑った。


「私にはゾロがいるから、問題ないんだよ」


小さく呟かれたくろねこの言葉に、今すぐ口づけたい気持ちを我慢して咳払いする。

落ち着け、今二人は男同士なのだ。
ここで変な行動を起こせば今後そういう目で見られる。

今は、今は―――――我慢だ。

そう言い聞かせながらくろねこの頭をぐしゃぐしゃと強めに頭を撫で終えたゾロは、気持ちを押さえるように早歩きで足を進めだした。


「どこいくの?」
「暇なら飲むしかねぇだろ?」
「昼間っから?」
「文句あんのか?」
「ない。一緒に飲もうぜ」


お酒の香りにつられてふらふらと。

暖簾をくぐった先に上等なお酒の瓶を見つけたゾロは、舌なめずりをしながら早速そのお酒を注文した。気が早いったらありゃしないと呆れながら、くろねこも同じものとツマミをお願いしてゾロの隣の席に座る。


「酒もうまい、飯もうまい。悪いところじゃねぇな、ここは」
「・・・・ここは、ね」


花の都は、ワノ国の中でも綺羅びやかで美しいところだけを抜いたような場所だ。

その他の町は酷いなんてものじゃない。
貧しく、次の日の御飯や水に困るような町ばかり。
ゴミみたいな世界だ。


「故郷を悪くは言いたくないけど、正直・・・今まで色んな国を見てきて、ワノ国は・・・一番酷い有様かもしれない」
「・・・・・・」
「ま、それでも私達は私達のすべきことをするだけだ」


届いたお酒を乱暴に飲み干すくろねこに、ゾロは口を閉ざす。

外野がとやかく言うことはでない。
だが、もしくろねこが気になるなら、麦わらの一味は彼女に手を貸すだろう。
あくまでくろねこが要求すればの話だ。

人の過去や気持ちは、誰にも分からない。

強引に手を貸して悪い方向に転がることもある。
だから、頼られるまでは。彼女が声を漏らすまでは。


「何かあったら、すぐに言えよ」
「・・・うん。ありがと」


今までで一番儚い笑みを浮かべたくろねこの手を、机の下で引き寄せる。
見えないように指を絡めて繋いだ手は、お酒のせいか熱く、そして大きい。


「お前は無茶するからな」
「それはゾロ十郎もだろ」
「お前よっかマシだ」


くろねこの余計な言葉に、絡められた手がお仕置きだとばかりに強められる。


「ッ、おい、ゾロ十郎、いた・・・!」
「・・・・俺は良いんだよ。な?お前は駄目だ」
「まーた無茶言う」
「分かったな?」
「いだだだだっ・・・・!分かった、分かったって!」


ぎりぎりと握り込まれ、手を砕かれかねないと感じたくろねこは慌てて頷いた。

お互いに無茶をやらかす者同士、お互いの無茶は許せないという矛盾。
この言い合いにおいて、くろねこが勝てたことは一度もない。

そして今回も――――いや、特に今回は本気だということを感じたくろねこは、大人しくゾロに従うことにした。力が緩んだ手に再度指を絡め直し、酒を飲み干す。


「・・・・美味しい」
「あぁ」


潜伏中とはいえ、平和に二人の時間を過ごし、酒を飲む日々。

ここからどんな戦いが起きるのかは想像出来ない。
目標が目標だ。今まで以上の波乱が巻き起こることは容易に想像できる。

もしその時、過去を揺るがすようなことが起こったら。
その時私はどうするのだろうかと、くろねこは自問自答する。
過去を払えたとはいえ、あくまで“つもり“だ。自分の感情は自分でも分からない。何をきっかけに自分が苦しむことになるかも、分からない。


「・・・・ゾロ」


不安になる。

自分が信用できなくなる。

繋がりがある土地というだけで、こんなにも不安になるものなのだろうか。
それとも、何かの予感を感じ取っているのだろうか。


「・・・・どうした」
「宿、戻りたい」
「あ?まだ昼・・・・」
「・・・・頼む」


くろねこの潤んだ瞳に、ぞわりとしたものを感じたゾロが静かに頷く。


「やれば出来るじゃねぇか」
「・・・・悪い。急に、不安になったんだ」
「あァ。それでいい。そうやって俺に頼りゃいいんだ」


満足気に囁いたゾロが乱暴にお金を置き、残りの酒瓶ごと買い取って店を出た。

繋いだ手がそのままであることすら気にしなかった二人が、そのお店で少し噂になったのはまた別の話。そんなことになってるとは知らず、引きずるようにくろねこを宿に押し込んだゾロは、弱々しく笑うくろねこを抱きしめた。


「俺がいる」
「うん」
「・・・・はっ、そんな顔してっと襲うぞ」
「いいよ」


変装を解いたくろねこが、女として誘う声を聞いたゾロは、遠慮なくその体を布団に押し倒した。





◆◆◆





想像通り、ワノ国での平和な日々はすぐに終わりを告げ、くろねこ達は戦いのまっ定中にいた。

皆がカイドウに向けてそれぞれ準備をする中、くろねこは一心不乱に刀を振り続けるゾロの背中を見つめている。


名刀、閻魔。

それは名前を出すことすら許されなかった妖刀、くろねこが持つ白桜の兄弟刀。
白桜はあまりにも恐ろしい力を持ちすぎたが故に代償も大きく、危険とされたため妖刀扱いとなり、封印された刀。

それとは違い、カイドウに傷をつけた刀として名刀とされる閻魔。

ここで兄弟刀がゾロの手に渡るのも何かの縁だったのだろうと、背中を見つめ続けるくろねこの瞳は、どこか晴れない。


「・・・・なんだよ」
「なんでも?」
「んな目で見るな、集中できねぇだろ」
「普通の目ですけどぉ?」
「嘘つけ。・・・・まだ怒ってんのか?日和とのこと」


ゾロの言葉にくろねこの頬がぴくっと動いた。

彼が口にした日和とのことというのは、日和とゾロが添い寝していたときの話だ。

ひょんなことから日和を助けることになった際、彼女の隠れ家にお世話になったのだが、その際にゾロと日和が何故か添い寝していたのだ。薪を取りに行って帰ってきたらそうなっていたため、その時のくろねこの不機嫌度合いといったら今までの比にならないものがあった。

その時のことをほじくり返されたくろねこは、目を瞑って怒りに拳を震わせる。


「っさいな・・・!あれはもう許したッ!!」
「ほんとかぁ?」
「ホントだってば・・・・」
「へいへい、信じてやるとするか。・・・にしてもまさかお前があそこまで取り乱すとは思わなかったなァ」
「そりゃあんな美人と寝てたら嫉妬するでしょ!?」


普段、嫉妬することが多いのはゾロのほうだ。

そのため嫉妬という感情で取り乱すくろねこを見るのは、正直心地が良かった。からかいすぎていると知りながらも、涙目で睨みあげるくろねこが可愛らしく、つい意地悪を口にする。


「まぁ、たしかに美人だよなぁ」
「っ~~~~~!!!!」
「冗談だ。・・・・てめぇがそんな顔すんのが悪い」


岩に腰掛けていたくろねこの傍まで寄ったゾロは、ふくれっ面をするくろねこの頭を撫でた。

本気で気に食わなかったのか、くろねこの表情は戻らない。
それがまたゾロを煽っているとは知らないのだろう。
いじらしいくろねこの反応に満足したゾロがしゃがみ込み、くろねこと視線を合わせる。


「からかいすぎたな」
「・・・・っ」
「・・・・分かってんだろ?」
「分かってても、むかつく」
「機嫌戻せよ、な?」


皆から見えないようにくろねこに覆いかぶさり、ぎゅっと不機嫌に閉じられた唇を舐め上げた。

特に驚きもせず、そうすることを分かっていたと言わんばかりのくろねこの瞳に、押さえようとしていた意地悪い言葉が自然と口をついて出る。


「続きは後でな」
「っ~~~うるさいな!!さっきからかいすぎたって謝ったばっかだろ!?反省しろ反省をッ!!!」
「うお!!??」


たまりかねたくろねこが素早く刀を抜き、ゾロに斬りかかった。
慌てて閻魔を取り出して攻撃を受け止める一瞬の攻防を見て、天狗山が感嘆を漏らす。


「まさか、伝説の兄弟刀が剣を交えるとはな・・・・」


扱えるものがいないと言われた問題児、白桜。

ワノ国伝説の名刀、閻魔。

白き桜のような美しさを持つ刀身と真逆に、怪しく禍々しいオーラを放つ刀は、兄弟とは思えないほど長さもその雰囲気も全て違う。


「からかってくれた“お礼“に、閻魔を扱える手助けしてあげるよ」
「へぇ?真剣でやりあってくれんのか?・・・久しぶりだな」
「手加減はしてあげるけど、気を抜いたら決戦前でも怪我させるから気をつけてね」


次に意地悪い言葉を吐くのは、くろねこの番だった。

挑発的な笑み。
視線に乗る戦士の殺意。


「あァ?今のは俺に言ったのか?」
「そりゃそうだよ。・・・もしかして手加減なしで戦ってもらえると思ってる?」
「よし、てめぇ・・・・ぶった斬る!!!」


さっきまで甘い痴話喧嘩をしていた二人の、本気の切り合いが始まる。

二人のメチャクチャな様子を当たり前と言わんばかりの様子で見ていた麦わらの一味と、激しい切り合いが行われるその場を交互に見つめた天狗山は、やれやれと仮面の下に呆れ顔を隠しながら肩をすくめた。




刀と酒に埋もれて
(これが、運命というやつらしい)

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