いらっしゃいませ!
名前変更所
囲んでいた人たちを車で蹴散らし、助けてくれた人は刑事さんだった。
桐生の知り合いらしいが、私は知らないので自己紹介しておく。
「助けてくれてありがとな。私はあけだ」
「桐生が女連れてるとはな・・・出所2日目にしては派手にやってんな」
「伊達さん・・・」
刑事が乱闘から助けてくれたってのも意外だったけど、こいつらが知り合いだっていうのにも驚いた。
10年間ムショに居た割には、顔が広すぎる。
「とりあえず、1杯やろうぜ・・・桐生」
私達は伊達さんに連れられ、そのままとあるバーへと向かった。
バーに着くなりお店を閉じさせ、貸切り状態で酒を酌み交わす。
まぁ、話の内容的にもその方が良いのかもしれない。
私は端っこで二人の話を聞きながら、適当にお酒を味わう。
刑事が首を突っ込む場所ではない、と思うべき場所にも伊達さんは首を突っ込んでいた。
風間のおじいちゃんの話。100億についての話。
「それで、お前・・・これからアテはあるのか?」
伊達さんの質問に、桐生は少し渋い表情を浮かべた。
おじいちゃん以外に深い事情を知る者は、あまり居ないだろう。
私もただの情報屋だ。内部事情までは詳しくない。
内部情報に関する、小さな項目を調べろって言われたら出来るが。
今の所、情報として調べられそうなのが、「由美」って人のことぐらいだし。
「どーすんだよ、桐生」
「・・・とりあえず、昔の馴染みに会ってみる」
「へぇ・・・昔の馴染みか。今は小さな情報でも重要だしな」
出されたカクテルを一気に飲み干し、桐生の幼馴染とやらに会いにいく準備をする。
伊達さんはまだここで飲むらしく、立ち上がった私たちを見て、思い出したように“何か”を投げた。
「・・・・?」
桐生の手に収まる、小さな電話。
携帯電話と呼ばれるもので、それは私も良く使っているから知っていた。
しかし、桐生の表情は変なものを見る表情のまま。
ああ、そうか。10年間ムショだったから携帯自体を知らないんだ。
それに気づいた私は、歩きながら携帯の説明をしてあげることにした。
「じゃ、ありがとなー!」
「気を付けろよ、桐生にあけ」
「あぁ。伊達さんもな」
伊達さんと別れを告げ、夜の神室町にくりだす。
私は馴染みが居るという「セレナ」というお店に着くまで、ゆっくり携帯のことを桐生に教えた。
電話の仕方と、メールの仕方。
とりあえずこれだけ分かれば良いと、私の番号を登録してから返した。
「ほい、これ。まぁ大体行動一緒にするだろうけど、離れてた時に何かあったら連絡しろよ」
「あぁ、分かった」
見慣れた通りを抜け、セレナのあるビルに入る。
エレベーター開いた先にあったお店は、思っていたよりも小奇麗なお店だった。
ここがセレナか?と聞く暇も無く、桐生はさっさとお店の中へ入っていく。
幼馴染との再会なんだ。私がいても邪魔だろう。
でも外で待っておくのも虚しいので、静かにお店の隅っこで待たせてもらうことにした。
私は桐生のことを手伝う情報屋。そう、手伝うだけだ。
麗奈と呼ばれた女性にお酒を貰い、本日2杯目のカクテルを味わう。
「はー・・・うめぇ」
聞き耳を立ててるようで気分は悪いが、首を突っ込みすぎて桐生に嫌な顔をされるのもゴメンだ。
私は桐生達が由美の話や、由美の妹の話をするのを、ぼーっとしながら聞いていた。
由美に、妹の美月。
私の方でも何か調べてみようと、手帳に書き込む。
「美月ちゃんね、由美ちゃんに良く似てた。一目見れば分かると思う」
「そうか・・・」
「そういえば、ここに刺青入れてたわ。花模様の」
「・・・由美の妹らしくない」
由美って人にそっくりで、その美月って人の胸元には花模様の刺青・・・っと。
どんなに小さな情報でも逃してはならない。
だってそれが、大きな情報に繋がることもあるから。
「邪魔したなぁ」
ソファで寛ぎながら手帳を書いていた私を、立ち上がった桐生が不機嫌そうに見つめる。
私はその瞳に怯えることなく、帰るぞという合図として受け取った。
帰ろうとする桐生に、少し寂しそうな麗奈さんが口を開く。
「錦山君のこと、聞かないんだ・・・」
「・・・あぁ」
「もう、誰かから?」
その時、桐生が見せた表情に、私は一瞬ドキッとした。
顔を真面目に見ることが出来なくて、思わずそっぽを向いてしまう。
寂しげな表情の中に見えた、決意ある強い瞳。
捕らわれてしまったかのように、身体が動かなくなる。
「・・・自分の眼で確かめるさ」
情報屋として、色仕掛け商売はかなりこなしてきた。
だから男を見るのには、慣れている方だと思っていたのに。
跳ねる心臓の音が、すごくうるさい。
あんな表情。卑怯すぎるんだ。
落ち着きを取り戻そうとする私の背中に、容赦なく桐生の声がかかる。
「おい、行くぞ」
「ひゃあ!」
「・・・」
しまった。全然話を聞いてなかったよ。
これからどこに行くのかも分からず、無言で後に続くことにする。
店を出ると、桐生の携帯に1本の電話が掛かってきた。
「今すぐ行く」と言って電話を切った桐生が、私の方を振り返る。
私は咄嗟に顔を逸らし、何とか目を合わせないようにした。
め、めっちゃ怪しそうに見られてるけど気にしない!
心臓の高鳴りを抑えながら、静かに桐生の言葉を待つ。
「お前、ここで待ってろ」
「え?なんで?」
「・・・・」
今すぐ行くっていう返事と、今この状況からして何となく内容を理解する。
なるほど。そういう系のお店に誘われたわけだ。
思わずニヤニヤしてしまう私を、桐生が不気味そうに睨み付けてきた。
「なんだお前。ニヤニヤ笑うな気持ち悪い」
「き・・・!?気持ち悪い言うな!お前もやっぱりそういう店が好きなんだな~って思って笑ってただけだっての」
「・・・とにかく、お前は待ってろ。いいな」
私の返事を聞かないまま、桐生は背を向けて歩き出す。
返事を聞いてくれないことにイラッとした私は、お店なんか関係なしに後をついて行った。
「おい」
「ん?」
「なんでついて来てんだ」
「やー、ほら、一応あぶねぇだろ?護衛ってことだよ」
どうせ、店の外で待っているつもりだった。
そんな店、働くことはあっても見ることには興味からな。
ピンク通りのショーパブ前に来ると、電話の相手だと思われるユウヤが桐生を待っていた。
私は店の前で待っていることを告げ、二人の背中を見送る。
ショーパブか。キャバとはまた違って煌びやかな店だ。
べつに私は、こういう店が嫌いなわけじゃない。
むしろ便利な商売道具だ。情報屋の私としては。
大きな組の頭も、こういう所には気を緩めて遊びにくる。
そこを狙って、情報をいただくのが私の仕事。
この世界にはあまり居ない、女としての姿を使った技だ。
「ふー・・・」
店の中から、ちょっとセクシーな音楽が聞こえてくる。
通行人からジロジロ見られるのも気にせず、私はぼけーっとその場で待ち続けた。
あんまり好きじゃないけど、久しぶりに煙草でも吸おうか。
ズボンのポケットから慣れない手つきで煙草とライターを取りだし、火をつける。
すぅっと吸い込んだ煙が思ったよりも煙たくて、私は思わず咳き込んだ。
「けほっ・・・!うへぇ。久しぶりに吸うとくるなー」
ため息交じりに吐いた息が、煙になって空へ上がっていく。
それをぼけーっと見ていた私の耳に、突然乾いた音が響いた。
慌てて店の壁から背中を離し、大混乱に陥っている店の中へと入る。
パァン――――――
本物の、銃声だ。
「桐生ッ!大丈夫かっ!」
「・・・あけ!来るな!」
部屋に入ると、おじいちゃんが血を流して倒れていた。
血の匂いに眉を顰め、敵の姿を確認する。
敵は一人。女装した男だ。
ショットガンをぶっ放されたら危ないので、流れ弾が当たらないよう私の方へ気を向けることにした。
「おらっ!」
「・・・!なんだてめぇ!!」
作戦はあっさり成功する。
投げた瓶に当たった男が、私の方をギラリと睨む。
ショットガンを突き付けられても、私は動きを止めようとはしなかった。
後ろで桐生が怒鳴ってるのなんて気にしない。
1回発砲された弾が右肩を掠める。
痛いけど、このぐらいなら大丈夫だ。
「はぁあぁあぁッ!!」
「ぐっ!?」
一気に距離を詰め、ショットガンを持っている手を蹴り飛ばす。
そのまま男の腹部を一回蹴り、宙に浮いたところにもう1回、トドメに転がった男の後頭部を踏み付ける。
苦しそうにもがいてるけど、正直気持ち悪い。
いやその、この男・・・女装だからスカートだし。
あんまりジタバタしないで欲しい。目の毒だ。
「てんめっ・・・!」
「女装の兄さん。誰に雇われたんだ?」
「へっ・・・それは、アイツの胸に聞くんだなぁ」
女装の男は、震える手で桐生を指差した。
桐生は親殺しの犯罪を犯したやつだ。狙われてもしょうがないだろうけど。
でも、何故か私はそれが気に食わなかった。
ほんの数日の間に、桐生と仲良くなれたからかもしれない。
桐生の優しさも強さも、私はよく知っている。
知った気になっている、だけだとしても。
あざ笑うような表情を浮かべる男を、私は全体重を掛けて壁に蹴りつけた。
嫌な音が響き、壁にべっとりと血が染み付く。
「つ、つえぇぇ・・・」
「大丈夫か?桐生、ユウヤ」
「あ、はい・・・」
「あけ、ちょっとこっちに来い」
低い声で名前を呼ばれ、思わず肩がはねた。
何かと思って桐生に近づけば、千切れるんじゃないかというほど頬を引っ張られる。
「いぎゃぁあぁあ!?」
「危ないって言うのが、聞こえなかったのか」
「いひゃ、きほえまひたへど、かりゃだがかっひぇに・・・」
(いや、聞こえましたけど、身体が勝手に・・・!)
馬鹿力、とはまさにこのことだ。
桐生は軽くしかつまんでなかったのかもしれないが、放された頬っぺたは真っ赤に腫れ上がっていた。
「桐生が危なさそうだったから、咄嗟に動いちまったんだよ!」
涙目で訴える私に、桐生は少し表情を緩める。
そして桐生が何か言おうと口を開いた瞬間、ステージの方からユウヤとミユの悲鳴が上がり、響き渡った。
面倒事は、連鎖するように続く
(ユウヤとミユを攫った人たちが、悲鳴を上げるまでもう少し)
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