いらっしゃいませ!
名前変更所
あの後犬を助けた私たちは、遥から様々な話を聞いた。
遥が私と同じ、ひまわり出身だったこと。
遥にお母さんの手紙などを持ってきてくれていたのが、由美だったこと。
それから、美月のお店<アレス>がある場所。
アレスというお店は、ミレニアムタワーの中にあるらしい。
遥からある程度の話を聞き終わった後、すぐに私たちは遥を連れてそのお店を目指すことにした。
「ミレニアムタワー?」
「あー・・・お前はしらねぇよな」
「大丈夫だよ、おじさん!私が案内する!」
10年前とだいぶ変わってしまってるし、桐生は分からないことだらけだろう。
私は遥と一緒に手を繋ぐと、ゆっくりミレニアムタワーの方へ向かった。
こんな夜の街を、この子はお母さんを探すために歩き回ったのだろうか。
見た目以上に良い子で、そして強い子だ。
無意識に遥の手を強く握っていた私は、目の前に立ちはだかる警官の姿を見つけて変な声を上げる。
「うげっ・・・」
「・・・?君、ちょっと止まりなさい」
「(うわー!やっぱりぃぃ!)」
見つかったら厄介だという勘は見事に当たり、私たちは警官に呼び止められた。
小さな子供と黒スーツの私。そして明らかに普通じゃない桐生。
こんなんじゃ、呼び止められるのが当たり前だ。
呼び止められた桐生の顔には、珍しく焦りの表情が表れていた。
それもそうだ。ここで掴まったら桐生は身分証明書を見せられない。
そうなると、解決できるのは私か遥だけ。
どうやって切り抜けようかと悩む私に、遥が何か思いついたような表情で私の腕を引っ張った。
「おまわりさん!」
どうやら、遥に話を合わせろという合図らしい。
私は遥に話を合わせられるよう、顔を下に伏せた。
桐生みたいに表情で焦りがばれたら、話を合わせるどころじゃなくなる。
それに私は、情報屋としていつも「演技」で情報を盗んでるんだ。
こんなの状況が切り抜けられないでどうする!と意気込んでいた私に、遥が突き付けた話は予想以上のものだった。
「お巡りさん、お父さんとお母さんをいじめないで・・・?」
「おかっ・・・!?」
「あ、君たち夫婦だったのかい?」
「え・・・いや、あの・・・」
夫婦!?私と、桐生が!?
動揺しないなんて言葉はどこへやら。
無意識のうちに顔を真っ赤に染め、あたふたする私を、警官が不思議そうに見ている。
どうしろと言うんだ。この状況で。
この時だけ遥が悪魔のように見えたのは、きっと気のせいじゃないはずだ。
私は腹を括り、“身分証明書を出せ”と言われる前に行動に出た。
「そうなの。今から記念日のディナーに行こうと思ってるのよ。ね?あなた」
「そうだったのか・・・」
精一杯の女としての演技。
相変わらず固まったままの桐生に身体をぴったりつけ、いかにも夫婦といった感じの雰囲気を出す。
桐生も何となく理解したのか、私の頭を無言で撫でた。
その雰囲気から、警官は夫婦だと思ってくれたらしい。
特に深いことを聞かれることなく、私たちは解放してもらうことが出来た。
「仲が良くて羨ましいねぇ。楽しんでくるんだよ」
「ええ。お巡りさんも頑張ってくださいね」
我ながら良くやったと思う。
私は遥の機転に、複雑な気持ちで感謝を述べた。
まさか夫婦にされるとは、桐生も予想してなかっただろう。
桐生の少し照れくさそうな表情が、恥ずかしさを擽る。
「やめろ!そんな顔するな!」
「のりのりだったくせに、良く言うぜ」
「っせぇ!演技だ演技!さっさと行くぞ!」
やっぱりこいつには勝てる気がしない。
さっきまでの照れくさそうな表情はどこへやら。今は私の方を見て意地悪く笑っている。
私は軽く桐生を睨むと、見えてきたミレニアムタワーへと急いだ。
こんなことしてたらまた捕まっちゃうかもしれないしな。
桐生にとっては初めてのミレニアムタワーを、ゆっくり見る暇も与えずに中へ入る。
「私もあんまり遊んだことねぇんだよなー・・・ここ」
「エレベーターはあっちだよ、お姉ちゃん」
「あぁ。さんきゅ」
タワーに入って少ししたところに、エレベーターがあった。
階段を上っていくわけにもいかないので、早速使うことにする。
が、しかし。
アレスがあると言っていた60階のボタンを押しても、エレベーターは動く気配を見せない。
苛立った桐生がボタンを連打する中、遥だけが冷静に下にあったボタンのようなものを押している。
「・・・何をしてるんだ?」
「おじさん。60階押して?」
遥の指示に従った桐生は、先ほどまで動かなかったエレベーターが動き始めたのを見て驚きの表情を浮かべた。
これには私も驚いた。まさか、暗証番号式とは。
エレベーター特有の浮遊感が嫌いな私は、顔を顰めながら60階のボタンが光るのを待つ。
チーン。
到着音と共に、扉がゆっくりと開く。
私は1番乗りでエレベーターから飛び出し、お店の様子をぐるりと見て回った。
「へぇ・・・」
中々立派なお店だ。
高級バーって言うよりも、家の中にあるバーって感じがする。
遥のことは桐生に任せておこう。
私は今ここで、出来ることをしておきたい。
「(これが、美月か・・・綺麗なやつだな)」
美月の名前が書いてある写真を、持っていた携帯のカメラで撮った。
これも立派な情報だ。きっと何かの役に立つ時が来る。
そうやって情報をかき集めていた私の耳に、微かだが足音が聞こえてきた。
足音の方向は、二人が居る場所とは明らかに違う方向から聞こえてくる。
不審に思った私は急いで二人の場所へ戻り、遥を守るようにして立った。
「来るぞ。気をつけろ、桐生」
「何・・・?」
私の予想・・・というより、耳は正しかったらしい。
私が桐生に注意するのとほぼ同じタイミングで、見慣れたバッジを付けた男たちがゾロゾロとやってきた。
また、あの近江連合のバッジだ。
遥が居る時にまで桐生を狙うなんて。
「あんた、桐生さんでっか?・・・元、堂島組の」
「・・・」
「お初にお目にかかります」
「近江連合本部、林・・・か」
「・・・!?」
本人が名乗るよりも先に、私はリーダーだと思われる男の名前を口にした。
こういう裏社会に関係している人たちの情報は、たとえ近江連合といえどある程度は用意している。
情報がばれてて慌てる様子を見るのが、悪趣味だと分かっていても楽しい。
「・・・誰や」
「名乗る必要はねぇよ。私も名乗って貰ったわけじゃねぇしな?」
「あぁ?女やからって手加減すると思うたら大間違・・・・」
ピルルルル。
一触即発の空気が流れ始めたとき、急に桐生の携帯が鳴り響いた。
林と私は睨み合ったまま、桐生に携帯に出るよう勧める。
どうやら電話の相手は伊達さんらしい。
微かだが、電話の向こう側の会話が聞こえてくる。
100奥のホシが由美だとか何だかとか。
まぁ、今はそれよりもこの状況を何とかしないといけないんだけど。
電話を切った桐生は、静かに携帯を下して林たちを睨み付ける。
「そうか・・・お前らも、俺じゃなくて由美と美月を狙って・・・」
「いや。ワシ等が追っとんのはそこのお嬢さんですわ」
「え・・・?」
その言葉に、遥が怯えて私の後ろに隠れた。
私は遥を守るように拳を構える。
「・・・なんでこいつを」
「それは言えまへん。ワシも近江連合のもんですさかい」
「・・・・」
「大人しゅう、その子渡したってえな」
どうせ、断っても奪うつもりのくせに。
私と桐生の答えは、もう既に決まっていた。
危ない奴らに、渡すわけがない。
幼い子供を巻き込むなんて、絶対に許さねぇ。
「渡すと思うか?」
「渡すわけねーだろ」
重なる私たちの答え。
林はめんどくさそうにため息を吐いた。
「ほなぶっちゃけ言いますわ。ワレ程の男を、こんなところで殺したくないんですわ」
その言葉に、笑ったのは私だけじゃなかった。
桐生も同様に笑みを浮かべ、、林をイラつかせる。
私に人を見る目がある、とは言わない。
でもコイツは―――――桐生だけは別だ。
林とは比べ物にならないぐらい、別格の何かを持っている。
「あんた、随分気が早ぇなあ」
桐生はグイッと肩を上げ、挑発するように口を開いた。
挑発に乗った林が、あぁ!?と声を上げて睨み返す。
これはもう、戦いを避けられそうにない。
いや、分かってたんだけどね。こうなることは。
あんまり遥に戦いを見せたくない私は、遥を壁側の方に向かせた。
「俺はこんなところで殺されるほど、ヤワじゃねぇよ」
「・・・さすがは桐生さんでんなぁ」
しょうがない、と。
笑う林の顔は先ほどと変わって楽しそうだ。
「おい、殺やれや!・・・ぶち殺したれや!!」
今週に入って、何度目の喧嘩だろう。
桐生と会ってから確実に多くなった喧嘩の数を、数える気にはなれなかった。
一気に飛ぶ、意識。聞こえたのは名前を呼ぶ彼の声。
(油断していた桐生の背中に襲い来る拳を、私は咄嗟に身体で受け止めていた)
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