いらっしゃいませ!
名前変更所
東城会のことや錦山さんのこと。
ここ10年間で起こったことの全てを聞いていた所に、1発の銃声が鳴り響いた。
話が長くてウトウトしていた私も、その銃声には驚いて目を覚ます。
「おやっさん!!」
「おじい、ちゃん・・・?」
おじいちゃんの肩から流れ出す、真っ赤な血。
私は驚きで目の前が見えなくなるのを感じた。
必死で肩の傷口を塞ぎ、泣き叫ぶ。
嫌だ、目の前で大事なものが消えるのは、見たくない。
冷静に状況を判断しようとする桐生とは裏腹に、私の冷静さは削られていく。
どうすればいい?どうすればいいんだ?
手が生ぬるい血で止まっていくのを、止める術は無い。
「おじいちゃんっ!おじいちゃんっ・・・!」
「くそっ・・・」
桐生の視線の先には、割れた窓ガラスが散らばっている。
くそっ。窓から誰かに撃たれたのか?一体誰が!
混乱と怒りに乱されていく私を、更に追い詰めていくように扉が開く。
「か、風間の叔父貴・・・!」
「おう、桐生!お前、堂島の兄ィの次は風間か!何考えとんのじゃあ!」
なんて、タイミングが悪いんだ。
いや、違う。タイミングが良すぎるんだ。
見計らったように入ってきた嶋野が、桐生を犯人扱いして声を上げる。
「おう、お前ら!絶対に生きて帰すんやないで!!」
話なんて、聞くつもりは無いらしい。
問答無用で取り押さえに掛かってくる構成員を、私はどうにか説得しようとする。
このままここで戦ってしまうと、不利になるのは私たちの方だ。
窓ガラスのこともあるし、話せばきっと分かってもらえるはず。
話を聞いてくれれば、の話だが。
「おい!ちょっと、話を聞け!」
「問答無用だ!」
「てんめぇ・・・!」
一人の男が、トンファーのようなものを持って私に襲い掛かってきた。
見切っていた私は素早く避けようとして、ぐいっと腕を引かれる。
「ほぅわっ!?」
突然の衝撃に、私はそのまま地面に転がった。
私は引っ張ったやつの背中を、イライラしながら睨み付ける。
かっこよく避けようとしてたのに、何するんだこいつは!
「お前も敵か!あぶねぇだろ!」
「あぶねぇのはお前だ!下がってろ!」
「お、お前・・・」
桐生は私を庇うようにして戦い始めた。
もしかして、私、戦えないと思われてる?
守られるのは、大嫌いだ。
驚く桐生を尻目に、私は桐生の背中から敵の方へ飛び出した。
そのまま襲い掛かってきた男の頭を掴み、首元に踵落としを食わらせる。
「がぁぁぁっ!」
「お前・・・戦えたのか」
「当たり前だっての!腕が無くて、情報屋やってると思ってるのか?」
鋭い音を響かせながら、足技で次々と構成員を踏みつぶした。
桐生とは違う体術で、敵を翻弄していく。
力が無い分、技と速度で補う。それが独学で得た私の体術だ。
「はぁっ!」
「案外やるな・・・」
「お前に言われたくねぇよ」
「足手まといにはなるなよ」
最後の一人を蹴り飛ばし、お互いに挑発しあう。
そして桐生がおじいちゃんを見ている間に、増援が来るのを見て唇を噛みしめた。
「一馬・・・あけ、逃げろ・・・!」
話の途中で襲ってくる無粋なやつを、一人窓から蹴落とす。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
「一馬・・・由美を、100億を頼む・・・」
「おやっさん・・・!」
傷を押さえながらも、喋るおじいちゃんを見て少し安心した。
もちろん、まだ安心できる状況じゃないのは分かっているんだけど。
次々と増える構成員達にどうするか悩んでいた私は、おじいちゃんが私の方に手を伸ばすのを感じて振り返った。
「あけ・・・」
「おじいちゃん?」
「一馬を、頼んだ・・・ついて行ってやってくれ」
「・・・言われなくても」
おじいちゃんを安心させるように笑い、そしてすぐに桐生と目を合わせる。
やることは、一つ。まずはここから逃げるのが先決だ。
アイコンタクトと同時に、割れた窓から一斉に身を投げ出す。
「うぎゃぁぁあぁ!」
かっこよく飛び出したのは良いが、思った以上に高くてバランスを崩した。
桐生はかっこよく着地してる。やっぱりアイツ、人間じゃねぇ!
「ひっ!」
「お前・・・飛べねぇなら最初からそう言え」
「いや、あのノリだと飛ぶ感じだっただろ・・・?」
地面と衝突ギリギリのところで、桐生が私を抱きかかえてくれた。
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、怒りのパンチが私の頭を襲う。
そしてそのまま、私を引き摺るようにして走り出した。
足が追い付かない私は、桐生の手を握って走るのが精いっぱいだ。
途中襲ってくる奴らを軽く蹴飛ばしながら、何とか出口を目指す。
「ったく、クソ数多いな!」
「あっちだ・・・急ぐぞ!」
「おう!」
体勢を立て直し、見えてきた出口に向かって一気に――――――
「待てぃ!」
聞き覚えのある声が、出口に向かう私たちを止める。
やっぱり、簡単には帰れないってわけか。
入口を塞ぐ嶋野の姿を見て、私と桐生は逃げることなく拳を構えた。
「時間がねぇんだ・・・悪いが」
「力づくでも通らせてもらうぜ!」
戦っていたら追い付かれる。
でも逃げられない。なら前に進むのみ。
私は桐生より先に嶋野へ攻撃を仕掛け、先に桐生を逃がす作戦に出た。
言葉で言わなくても、私の視線でその作戦に気付くあたり、桐生は本当にセンスがあると思う。
「くそっ・・・ここからは逃がさな・・・」
「悪いな。こっちも本気だから・・・」
桐生が出口の方へたどり着いたのを見てから、私は一気に嶋野の腕に蹴りを入れた。
思わぬ攻撃に、嶋野の体勢がガクッと崩れる。
その勢いを利用して足払いを掛け、逃げ出すチャンスを作った。
「あけ!」
「おう、桐生!」
心配そうに待っていた・・・というより、出口で敵に囲まれて立ち往生していた桐生と合流する。
せっかく親を足止めしてきたのに、こんな人数が居たら意味がない。
「(チッ・・・どうする・・・)」
逃げなきゃ、ならないんだ。
焦りからその場の敵を全員倒そうとまで考える。
しかしそれを行動に移す前に、桐生に止められ構えを解いた。
確かに、この人数じゃ戦ってもどうにもならない。
ならないからって、どうすれば・・・・。
誰か、誰か、助けてください
(その願いを叶えるかのように、見慣れぬ車が1台突っ込んできた)
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