いらっしゃいませ!
名前変更所
二人の話は、ほぼ一方的なものだった。
喋らない桐生に対し、次々と情報を明かしていく龍司。
関西の龍という言葉に怒った理由。
堂島の龍を殺すという、荒々しい野望。
そして今日の12時に神室町を襲う、ド派手な花火のこと。
話を聞きながら時計を見ると、時計の針は既に11時57分を指していた。
「っと・・・喋りすぎましたわ」
こいつ、何を企んでるんだ?
わざわざ情報を喋って、何になる?
不信感が拭いきれない私は、帰ろうとする龍司を目線だけで追った。
桐生が「堂島の龍ではない」と言ったとはいえ、桐生一馬と名乗ったのだ。
警戒していないはずがない。
いやむしろ、本人だと気づいているだろう。
それならやっぱり・・・わざと?
悩む私の前で立ち去ってしまった龍司を、私は静かに追いかける。
「(こうなったら、とことん調べてやる・・・)」
絶対何か企んでるはずだ。
じゃなきゃ、あんなにベラベラと情報を喋るわけがない。
企んでるなら、それを見抜くまで。
龍司を尾行することにした私は、ドレス姿のままでお店の外に出た。
「(明日の盃を邪魔されたんじゃ、シャレになんねぇからな・・・)」
通行人に紛れ、ドレスを翻し、あたかも仕事場に向かう女性を演じる。
あー、怖い。緊張感がやばい。死ぬ。
そんな私の緊張感を知ってか、龍司は裏路地へと入って行った。
「うぇえ・・・」
見つかる危険性の、1番高い場所。
一瞬追いかけるのを躊躇しかけたが、それでも私は進む方を選んだ。
ここで引き下がるなんて、鷹の情報屋の名が廃っちまうだろ。
進むと決めたら進む。何かを掴むまで絶対に。
「(気づいてねぇ、みたいだな)」
この先がどこに繋がってるのか、どこまで続いているのか。
神室町と違って全然知らない町の裏を、ただ追う事だけに集中して歩く。
「・・・・」
「っ・・・!?」
しばらく歩いていると、前を歩いていた龍司が急に走り出した。
釣られて走り出しそうになった自分を止め、静かに呼吸を整える。
ここで走ったらダメだ。
相手の作戦の可能性もあるしな。
とりあえず、見失うことを覚悟でゆっくり後を追えば問題は―――
――――トン。
「っな・・・」
何かに、ぶつかった。
嫌な予感しかしない、何かに。
「しまっ・・・!?」
「どうしたんや?アンタ・・・こんなところまで」
「・・・・!」
壁に手を押さえつけられ、私は動くことすら出来なかった。
ギリギリと腕を押さえつける力が、龍司という存在の強さを刻み付ける。
クソ、やっぱりバレてたか。
さすがは郷龍会会長だ。
「あ・・・の・・・・」
「何でワシに着いて来たんや?」
「ち、違います。私もこの先に用があって・・・・」
「・・・そか。でも、おかしいなぁ・・・・」
龍司の目に映る、曲がり角の先。
その方向を静かに見つめた私は、今の言葉を後悔した。
何も、ない。
視線の先にあったのは行き止まり。
言い訳出来なくなった状況に、私は思わず唇を噛む。
「気づいとったで?あのキャバレーから出た後、ずっとアンタがワシのこと着けてきてたんはな・・・」
「・・・じゃあ、わざとこの裏路地に・・・」
「そうや。ここならアンタと、二人っきりになれる」
「っ・・・・」
「ワシから逃げようなんて、アンタには無理や。観念せぇ」
そんなの、とっくに分かってることだ。
桐生と同等の力を持つ男から、逃げられるわけがない。
だったらもう、逃げねぇよ。
私は龍司から逃げるのを止め、ニヤリと妖しい女の笑みを浮かべた。
作った甘い声で、誘惑するように、見つめて。
「だって・・・貴方の事が、気になっちゃったんです」
視線を逸らすことも、逃げ出そうとすることも止めた。
尾行がダメなら、逃げ出すことがダメなら、いつも通りの演技をするだけ。
騙せば良い。女としてこの男を。
甘い声で囁くように、偽りの言葉を紡ぐ。
「貴方の事が気になって、凄く、惹かれちゃって・・・・だから私・・・」
「・・・・」
「貴方とのきっかけが欲しくて、着いてきちゃったんです・・・」
「・・・・・嘘、吐くなや」
「嘘じゃありません!私・・・・っ」
「いや、嘘や。そんなんでワシを騙せると思うんやないで」
ぎりぎりと、腕を掴んでいる力が強まった。
その痛さに思わず睨み付ければ、龍司が楽しそうに笑う。
「その目」
「・・・え・・・?」
「そないな目するやつが、ただのキャバ嬢なわけないやろ・・・なぁ?」
「ッ・・・!あ・・・っ!?」
腕を掴んでいた手が急に離れ、私の頭を思いっきり掴んだ。
もちろん、そんな衝撃を受けて外れないわけがない。
慌てて押さえようとした私の努力も虚しく、着けていたウィッグが地面に落ちる。
「フッ・・・思った通りやわ」
キャバ嬢という切り札さえも失ってしまった瞬間。
晒された顔を咄嗟に隠そうとするが、それも上手く行かず。
再び腕を押さえつけられた私は、暴れながら龍司を睨み付けた。
「くっそ・・・!離せ!」
「それがアンタの、ホンマの顔っちゅうわけやな」
「うるせぇ!いいから・・・離しやがれっ!」
甘えた声を元に戻し、いつも通りの自分の声で龍司に罵声を浴びせる。
その声を聴いた龍司は表情を変え、眉を顰めた。
「アンタ、何者や?」
有無を言わさない、威圧感と声。
それに力も加わって、私の額から冷や汗が流れ落ちた。
逃げられないと分かっていても、口を開くわけにはいかない。
唇を強く噛みしめ、龍司を映していた瞳を細める。
「・・・もう一度だけ聞くで。アンタ、何者や?」
冷たい瞳だ。
戦いに飢えた、血の気に満ちた目をしている。
だけど、悪い目じゃない。
どこか人を惹きつけるような、強い瞳をしてる。
それこそ、どこか桐生と似ているような・・・・。
って違う違う。そんなこと考えてる場合じゃねぇ。
「・・・・ええなぁ・・・・ええわ、ほんまに」
ふと意識を龍司に戻すと、龍司が楽しそうに笑っていた。
さっきとは違う、脅すような笑みではなく、本当に楽しそうな笑みで。
「気に入った!今日はアンタといい、桐生一馬といい・・・・面白い事ばかりやなぁ・・・」
「・・・・アンタの事なんて知らねェよ」
「知らんでええ。アンタのその目を、ワシが気に入っただけの話や」
「・・・・」
「名前ぐらい教えてもろえんやろか?そしたら、見逃してやってもええ」
ちなつ、と言ったところで怒られるのが目に見えている。
適当な偽名で誤魔化すか悩んだ挙句、私は正直に言うことにした。
何か知らないけど、気に入られたみたいだし。
名前を言ったところで、私の事を知ってる可能性も少ない。
「あけだ」
「・・・あけ、か。良い名前やな」
「・・・・・」
「なぁ、アンタ・・・・ワシの女にならへんか?」
「はっ!?」
突然すぎる言葉に、思わず大声を上げた。
ワシの女?こいつ出会って数分しか経ってない女に何を!?
きっと凄い顔をしているであろう私を、龍司は表情一つ変えずに見つめる。
「アンタほどの女、この極道の世界を探しても、そうおらんはずや」
「私を選ぶぐらいなら、トップキャバ嬢でも選べ!」
「・・・・見た目は関係あらへん。ワシは、アンタ自身に言うとるんや」
「意味分かんねぇよ!良いから離せ!絶対お前の女にはならねぇ!」
「・・・・そうか。まぁ、ええわ」
兄さんといい、桐生といい、こいつといい。
嬉しくないわけじゃ無いけど、どうして私みたいなのが良いのかって思ってしまう。
真っ直ぐ?純粋?強い?
そんなの全部、勘違いだ。
本当の私は汚くて弱い、ただの情報屋。
でも私は、こんな自分自身を桐生に認めてもらった。
愛してもらった。
桐生に愛されている限り、桐生の女であり続ける。
だから絶対に、他の人の物にはならない。
それは限りなく忠誠に近い、桐生だけに見せる、私なりの“女として”の愛の形。
「もう一度言うぜ。私は、絶対にお前の物にはならねぇ」
はっきりとした声でそう告げると、ふと龍司から笑みが消えたような気がした。
そして次の瞬間、首筋にチクリと走った小さな痛み。
「っだ・・・!?」
「おっと・・・」
「・・・はな、せっ!」
走った痛みに恐怖を覚え、私は龍司を力いっぱい突き飛ばした。
先ほどまでの力が加わっていなかったおかげか、意外と簡単に龍司は手を離す。
よろけた龍司に、チャンスは今しかないと走り出した。
決して後ろを振り向かず、無我夢中で走り続ける。
「フッ・・・逃がすと思うなや・・・・」
そんな怪しげな言葉を、呟かれていることも知らずに。
手に入った情報。引き替えた恐怖。
(ホテルについた頃には、すっかり夜が明けかけていた)
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